同時刻、要塞外部では月明かりが静かに森を照らす。
「ロマンティックな夜の海で、ナミさんと2人っきりなんて、ドラマティックだぜ」
「はいはい、よく分からないから、静かにしてて」
ルフィやウタたちとは別行動で、ナミとサンジもウェイバーの回収に動いていた。空島の特産品であるダイアルを使ったその小型の水上バイクは、今回の潜入に用いられたように、非常に有用性がある。
現状はナミにしか乗りこなせないし、今後も彼女が安全圏まで逃げることに使われそうだが。
「あった!」
2人にとって隠密行動は手慣れたもので、サーチライトや海兵たちに見つからず、穏便にウェイバーの隠し場所までやってこれた。
「予定通りなら、ルフィたちもさっきのドックに帰ってる頃合いか」
「ええ。少しずつ騒がしくなってきているわ」
そんなことを話しつつも、2人はガサガサと音を立てながら、草むらをかき分ける。背の高さほどの草に囲まれ、ナミが巧妙に隠したウェイバーは海兵に見つかっていなかったことで安心もしていた。
「それじゃ、先に戻っておくかい?」
「そうね。持ち運ぶのも手間ね」
サンジなら快く運んでくれるだろうが、早めに船へ戻っておかなければ、ルフィたちに何かあったとき、フォローができない。ロビンがいるとはいえ どこか天然であるし、残りのメンバーを考えればトラブルを起こさないはずはない。
万が一のことがあればサンジ君が戦ってくれるし。
意を決してウェイバーのダイアルを作動させると、ブゥンと大きなエンジン音が立つ。
「よしっ。サンジ君、後ろに乗って」
「なんだって!? 生きててよかった~」
この際、海兵に見つかるだとか、そんなリスクはどうでもいい。
今この一瞬、ウェイバーに2人乗りをして、そのくびれのある腰へ抱き着き、その艶やかなオレンジの髪から漂う香りを堪能することができる。サンジは目をハートにして、神へ感謝した。
最近、ルフィとウタがイチャイチャする姿が羨ましいと思っていたくらいに、ナミとのスキンシップを夢に見ていた。
「はぁ、相変わらずね。肩までよ」
「あいあいさ~!」
ダラリと頬は伸びきっていて、鼻息をふんすふんすとしている姿に、かなり引きながらも、サンジが後ろへ乗り込み、その大きな手のひらが両肩にそっと触れるのを感じた。
ガラスでも触れるかのように、あまり体重をかけてこない、そんな紳士なところもポイントが高い。
「最高に、幸せな気分だ」
サンジは、制御しきれないほどクソな鼻息がかからないように、月を見上げてフーフーとする。
男を手玉に取るくらい慣れている、ナミはそう自分に思い聞かせつつ、ギュッとハンドルを握り込んで、微動だにしないようにする。
どうしてこんな時、あの雪山のことを思い出してしまうのか。女子部屋でロビンへ惚気話を聞かせるために、物語のヒロインのようにキャーキャーしながらウタが話していたせいだ。
初めて味わう感情を理性で抑えて、やれやれとナミは笑みを浮かべる。もう少し、この距離感を楽しんでいたいから。
「行くわよ。しっかり捕まってて」
「は~~い!」
男に肌を触れさせるなんて、もし以前の自分が聞けば、呆れて大笑いしていただろう。
トクトクと心地いい音を立てる心臓の音をかき消すくらいに、ブオオンとエンジン音を高鳴らせた。
~~~~
私たちは追っ手を振り切り、相変わらず要塞内部にいる。黄金の場所も分からない状態で、今は聞き慣れた声を見つけたのでその部屋へ匿ってもらっていた。
コバト先生と、そのお父さんのメカオさんが過ごしている寮だ。薄紫色の髪をしているコバト先生と違って、老人にも見えるくらい真っ白な髪だけど、快活にお酒を飲む姿は若々しい表情を浮かべている。
「お父さん、あまり飲みすぎないでよ」
「そう固いこと言うな、コバト」
コバト先生にはメリー号の場所まで案内をしてもらって、メリー号を直してくれたのはメカオさんで、2人に助けてもらって、この家族と不思議な縁ができたみたい。
なんだか、私も早くお父さんに会いたくなってきた。
「それにしても、せっかくワシが助けたのに、のこのこ戻ってきおったか」
「そりゃ黄金を取り戻すためだ!」
私たちの中で元々交流があったらしいウソップが張り合う。
「黄金だぁ? どうやらピースメインだろうが、あえて危険な道を進むほど資金難なのか?」
「「「あ~ ……」」」
「そりゃおっさん、へそくりが欲しいからな」
私やウソップやチョッパーは声に出すし、ゾロとロビンもため息をつくし、うちは船長の食費で、資金の大半は消えている気がするよね。いやほんと、なんかごめんなさい。
「こらお父さん、海賊さんたちががんばって稼いだお金なのよ」
一応、海軍のお医者さんなのに、昼間の件もあって、海賊の私たちへの信頼が高すぎるや。まあ、コバト先生が誰にでも優しい人ってのもあると思う。
私たちはニコニコと笑顔を見せても、コバト先生はキョトンと首を傾げている。
「俺たちはメリー号の大修繕をするって決めたんだ。へそくりはそのために使うつもりだ」
「それは へそくりと言うのか?」
ウソップの発言に笑い、酒を飲む。
小さいが 確かにいい船だった、って。
「……まあ、いずれ金は必要になるじゃろうしな。ウォーターセブンもここから近いぞ」
「ウォーター?」
「セブン?」
すごく響きのいい名前に、私とルフィは首を傾げてコツンとする。それにしても、何かを考えて黙ったのは、私が最近感じている不安と関係していなければいいけど。
「あの島には船大工も多い。悔しいが、ワシ以上の腕だ。やつらなら何とかしてくれるかもしれん」
「へぇ、おっさんより凄いのか」
「なあ整備のおっさんたち、仲間にならねぇか。船医も多いほうが助かる」
唐突なルフィの仲間勧誘に、クスッと笑っちゃった。私もこの2人がいると、もっと航海が楽しくなりそうだから賛成だけど、気に入った人にはとことん仲良くなろうとするよね。
技術だとか、強さだとか、そんなことよりルフィが気に入るかどうかだもんね。
「えっ!? いや私、戦えませんから!?」
「はっはっはっ、まさかそんなふざけた話を、海賊から持ちかけられるとはな」
「こいつらの腕っぷしに任せればいいさ」
「ああ! 海賊は楽しいしな!」
「で、どうだ?」
メカオさんは口を開けて大笑いをしているけど、まんざらでもなさそうだよね。コバト先生もチョッパーのところで学べることも多いだろうから、う~って悩んでくれている。
「もう少し若ければ、考えてやってもよかったかもな」
「わ、私も申し訳ありません。お父さんが行かないなら」
「ん、そっか。ならいつか宴をしよう」
コバト先生も、お父さんのことがすごく大切なんだね。たぶん、この海上の海軍基地に来ているのだって、メカオさんが心配だからって理由もありそう。
「ああ……そりゃあ美味い酒が飲めそうだ。最高の つまみを持ってこいよ」
「おう! 俺は海賊王になるからな!」
どこか身体は悪そうだけど、こんな笑顔を見せるメカオさんはもっと長生きしそうだね。今までの冒険話も、これからのたくさんの冒険話も聞かせてあげたいね。
「そうだお前ら、黄金を探しているんだったな」
「ああ。それがよ、あんな厳重な金庫にだってなかったんだぞ」
「ナバロンに大事なものを隠す場所なんて、あそこ以外には?」
コバト先生も他に思いつかないみたいだし、こうなると、もうあの場所しかなさそうだね。私以上に見聞色の覇気を使えるのに、この場所へ来る気配がないのは、わざとなんだろう。
「ほう。開けることができたのか。あれは廃棄された金庫を、ジョナサンのやつが使っているだけだが。何があった?」
「あいつの金庫だったのか?」
「ゾウみたいな魚の魚拓があったな」
「他には海図があったわね。まさか?」
釣り好きなあいつらしい、とメカオさんは笑った。ジョナサンって司令官が趣味で使っている金庫に入っていないなら、もうジョナサンって人に問いただすしかないね。
「決まりだな、キャプテン?」
「おう。あいつの部屋に乗り込むぞ」
「あっ、ルフィは知ってるんだ」
「地図の……ここね」
それなら話が早いね。いつの間にか食堂に行きそうなルフィに案内してもらうってのも不安だったし、ロビンから場所を教えてもらったのも助かった。
そっちがその気なら、餌にかかって暴れてやるもん。
「整備のおっさんたち、ありがとな!」
「おっさん、いろいろ助かったぜ!」
「コバト、がんばれよ!」
「お父さんと仲良くね!」
「またいつか会いましょう」
「礼にいい酒を持ってくる」
私たちは扉から出て、再び廊下を走り始める。
幸い他に人はいなさそうで、コバト先生たちに何か罰があるってことにはならなそうでよかった。ルフィが話していた感じ、司令官は気の良い人っぽいけどね。
「おーう! 酔って、何か言ってしもうた!」
「はい! 海賊に襲われちゃいました!」
元気でね、2人とも。