海軍の鉄壁要塞ナバロンへ、空島から落ちちゃった私たち。
高い崖に囲まれた海上にあるメリー号で逃げるには、出入口はたった1つしかない。1000人なんてたくさんの人がこの要塞で暮らしていて、私たち8人は潜入して脱出の方法を探りつつ、黄金を取り返すことを目的としていた。
「外が騒がしくなってきた!」
「よーし! 俺たちも乗り込むぞ!」
海軍要塞の長い廊下に声が響き渡るくらい、海兵さんたちは慌ただしい。特に外へ向かっているから、ロビンたちは上手く引き付けてくれているみたい。ナミやサンジと合流して、同時に出航の準備もしてくれる。
私とルフィで黄金を取り返して、他のみんなが準備してくれたメリー号へ乗り込んで、すぐに脱出するつもり。ここの人たちをあまり傷つけたくないし、それぞれの潜入場所で満足した私たちはそろそろ出たくなったし。
「美味そうな匂いがしてきた!」
「本当に食堂の中に司令室があるんだ?」
こっち! って私はルフィの首根っこを掴んで、窓を開けてから外へ出る。サーチライトであちこち照らされていて、海兵さんたちのあっちこっち走っているから、ゾロたちのほうも無事に済むといいけど。
風の歌でふわりと浮かんでから、1番大きなバルコニーへ、トンと靴音を鳴らして降り立つ。やっぱりこの覇気の強さって、本気で喧嘩すれば、お互いに死力を出すことになっちゃう。
そんな余裕もないし、空中から逃げられる手段を持っている私とルフィだけで来てよかった。
「「じ~」」
なんていうか、ダンディーなお部屋。
部屋の隅には大きめの布をかけられた黄金があって、やっぱりここにあったんだ。机の横に立てかけられた釣り竿は年季が入っていて、黄金を釣り餌にしたつもりだろうけど、かかった魚は大暴れしてやるもん。
整えた茶髪に、イカしたお髭のおじさんが、勲章をつけた海軍のコートをきちんと着て座っている。堅苦しそうな格好なのに、口元を三日月の形にしてニヤリと笑いかけてくる姿は、なんだか親しみやすさを感じる。
「オッサン、邪魔するぞ~」
「めっちゃ友達感覚!?」
ルフィはバルコニーの窓をガチャリと開けて入室していくけど、会うの2度目のはずなのにルフィが気に入っててビックリしちゃった。
「これはこれは、コック見習い……いや麦わらのルフィじゃないか」
司令官のおじさんは座ったまま、両肘を机に立てて、組んだ手の上には顎を乗せている。そのポーズちょっとカッコイイし、その髪の毛の色もあって、見るからに策士な狸おじさんじゃん。
「麦わらのお嬢さんは初見だね。ようこそ」
「へぇ、歓迎してくれるんだ」
内心ヒヤリと汗をかくくらい、手のひらで転がしてきそうなタイプだね。
「私はジョナサン、ここの司令官だ」
「私はウタ、世界の歌姫になる女よ」
ルフィがガサゴソと黄金をまとめて布で結ぶ音をBGMに、私は瞬きを忘れちゃうくらいに、狸おじさんを警戒する。
対して、彼も私を観察するような視線を向けてくる。
「ポートガス・D・ウタ……、いやまさかと思ったが、これほど綺麗な紅白の髪をしていたとはな。なかなか手配書はよく描けているじゃないか。あれより、ちと幼いがな」
「ありがと。でもそういう名字ではないし、私的には
「それエースの名字だろ?」
私たちの言葉に、ピクリと眉が動いた。
「ほほう。ではお嬢さん、どんなお名前かな?」
「ごめんね。お父さんから聞いたことないの」
「ウタはウタだな!」
ふむ、とカッコイイポーズをやめて席を立ったから、見上げるくらい背が大きい。
ギュッと拳を握り込んで身震いを止める。
隙を見せたらダメだ。
「フッ、賢いお嬢さんだ。さぞ、聡明な親父さんなのだろう」
シャンクスが聡明って、まさかまさか。
「でっしょ~~! 大海賊の船長をやってて! 世界一の大剣豪でもあって! いや~、でも無精ひげで『飲んだくれ』だし、だらしないとこもいっぱいあって、娘としては恥ずかしいとこもあるかな~?」
って、やばいやばい。
思わず喜んでペラペラ話しちゃった。
はっはっはって大口を開けて、ルフィとおじさんの2人に笑われたし、顔がかーって熱くなるくらい恥ずかしいや。
「ウタのやつ、顔真っ赤だな!」
「親父さん想いの娘さんじゃないか」
うぅー、それもこれも、このおじさんの話術のせいだもん。
「これほど愉快な海賊というのは珍しい。勘も良く、度胸もあり、仲間思いでもある。ピースメインの海賊と見た」
優しい表情を浮かべていたおじさんは1度、目を閉じた。
そして。
「それにしては高い懸賞金だな。」
低い声で、そう見下ろしてくる。
キュっと、ルフィは黄金が詰まった袋を結んで閉じてから、私の隣へ並んでくれる。それだけで勇気はどんどん湧いてくるし、もし1人で勝てなかったとしても、私たちで一緒ならなんとかなるって思える。
「たとえピースメインであっても、君たちが懸賞金をかけられている以上、こちらにも
「くるぞ!」「わかってる!」
ダダダダ……って、地面を叩く音……?
「消えた!?」
「えっ、後ろ!?」
私たちは慌てて振り向けば、コートの背中に大きく書かれた、正義の文字が目に入る。
ほんの一瞬だった。
瞬きをしたタイミングで目の前から消えていたんだ。ゴロゴロの実の能力者で雷人間のエネルみたいに、能力を発動する様子はなかった。考えられるとすれば、以前戦ったクロや、ルフィのギア2のように、身体能力だけで高速移動したと思う。
「うちへの入園料はこの黄金にしようか。妻にプレゼントを贈りたくてな」
よっこらせ、って黄金の詰まった袋に手をかけようとしていて、その誘いに乗ってでも隙をつくしかない。
「ゴムゴムのぉ~」
「ウタウタのぉ~」
「武装色 『硬化』」
「「
クロスした腕は黒く染まっている。
ルフィの拳も、私の音符も、効いてない。
「ギア3……ぶへぇ!?」
「来るよルフィ!……えぇ!?」
指を噛んで空気を入れるのを中断させられる。
それに、もうゲンコツを受けているなんて。
ギア3の威力はとても高いけど、隙も反動も大きい弱点はある。
それを補うつもりだったのに、見聞色の覇気で攻撃を察知しても、私が行動を起こせる前に終わってしまっている。たとえ音の速さの銃《ピストル》を持っていても、撃つ練度が私は低いんだ。
それに比べて、ナバロン司令官のおじさんは予備動作が少ないし、ルフィがギア3を発動する余裕はなさそうかな。
「うがーっ! 爺ちゃんみたいなことしやがって! ギア2!」
「ほう。ゴムの性質をそう活用するか」
部屋の中をぴゅんぴゅん高速移動するおじさんを、身体能力を上げたルフィが
あーもう、2人が速すぎて、音で追うのがやっとだっての!
「行くよ、ムジカちゃん! エンゼルフォール!」
「ぬぅ!? 」
「武装 ゴムゴムのJET スタンプ!」
空間の亀裂から呼び出した鍵盤の腕を指揮して、重力で押し留めさせれば、そこをルフィが槍のようなキックを打ち込んでくれた。硬化にはまだ至ってないけど、覇気を込めたギア2の攻撃ならダメージは通るみたい。
「「よしっ!」」
吹き飛んでいくおじさんは、空中でくるりと身を
1発は有効打を当てられたってだけで、まだ勝機は見えてくる。
「……ふぅー」
「ウタ、あんま無理はするなよ」
「ふむ。だいたいわかった」
そう呟きながら悠々と立ち上がったおじさんは、指1本をこっちへ伸ばして、腰だめの体勢になる。
そこから、その場で打ち込む。
覇気で判断できたけど。
「そう緊張していては、重要なことを見落としてしまう。決して、能力・覇気だけが全てではないよ」
「えっ、上に!?」
「網だ! 網が張り付いているぞ!?」
指1本で、まるでゾロの飛ぶ斬撃のような攻撃、それが向かっていったのは天井で、留め具が壊れると同時に網が落ちてきた。驚いた私とルフィは回避にまで思考が回らず。
バサリと、大きな網を頭から被せられる。
「きゃっ!?」
「ちくしょう、またこれか!」
さっきも海楼石の網があったし、能力者の私たちしかここにはいなくて。
「チェックメイトだ」
釣り餌にかかった私たちは、最初から罠にかけられていたんだ。
私たちの黄金や、おじさんに注目しすぎて、この部屋の天井に仕掛けられた網に気づかなかった。この場所へ誘導したのだってわざとなんだろう。しかも私たちが攻撃を当てられて喜んだことによる油断、そこを絡めとられたんだ。
「「ぐぬぬ……」」
でも諦めるもんか。
私たちは黄金を取り返してメリー号に戻って、また冒険を再会するんだ。こんなところで捕まって、自由を奪われるなんて、そんなのイヤ。
こんな網なんて。
網なんて……
そういえばなんで力が抜けない?
それに、鉄よりもずっと軽いし。
あれ、これって……
「「ただの網じゃん!!」」
「そうだが?」
うがー! って網を投げ捨ててから、私たちは両腕を上げて、とぼけているおじさんへ向かって激おこぷんぷんする。ちゃんと魚に使うための網に騙されるなんて。
「だってあれ高いんだもん。君たちと同じく、うちの予算もいつだってギリギリさ。部下に渡した、あの1つしかないものでなぁ」
「何がかわいく、だもん よ!」
「俺たちをなめやがってぇ!」
おちゃめに、てへって、髪をかいているけど。
おじさんがちょっとかわいく見えたのがまた、うがーってなってくる。
「そう カッカッするな」
でも、不思議ことにおじさんからもう戦意は感じられない。
こっちにやってくる人へ用があるのか、おじさんは扉の方向へ視線を向けたし。
「なんだい騒がしい……って何事?」
「おおジェシカ、まだ起きていたのか」
「おー、コックのボスじゃねぇか」
「コックさん?」
とても美人な金髪を結ったコックさんが部屋へ入ってきた。戦えるコックに馴染みが深いけど、この人は戦いはできなさそう。真っ白なコック服が似合っていて、スタイルもいいなぁ。
「麦わらのルフィ と、その仲間のようだけど」
「そうだな。麦わら帽子のペアルック、初々しいだろ?」
ルフィのことを知っているみたいで、私たちへ警戒する様子はまるでない。おじさんに至っては、背中の『正義』の文字を見せながら、私たちへ完全に背中を見せているし。
ていうかペアルックって、これはマキノから貰った大切なものだし、べ、別にルフィやシャンクスを意識して被ってないんだからね。
「お取込み中だったかい?」
「ん? 海賊の襲撃といえばそうだが……」
軽口を叩き合いながら2人で事情をあれこれ話していて、そんな仲良しな姿を見せられたら、攻撃できるわけないじゃん。もしかすると、私たちの仲が良い様子を見て、おじさんもそう思ってくれているのかな。
「あんなかわいらしい海賊もいるものなんだね」
「海賊に、かわいいもかわいくないもあるものなのだろうか。おっと、いかんいかん。非戦闘員を守っていたら、海賊を逃がしてしまいそうだ」
「「べぇ~ だ!!」」
ベロを出しながら負け惜しみをする私とルフィは、黄金を1つ落としちゃいながら、窓から飛び出して逃げる。
その1つだけで、お肉とお菓子、何個分になるか分からない入園料なんだからね。
「あんた、逃がしていいのかい?」
「なに、私の本来の持ち場はここだよ」
そう声が聴こえたけど。
確かにそれは食堂からは離れられないよね。宝物を守りながら戦う人って、とっても強いことを知っているから。
悔しいけど今は、勝ち目がないや。
でもいつか強くなって、リベンジするから。