海軍の軍艦のハリボテを着ているようなメリー号に乗り込んだ。サンジとナミも無事にウェイバーを回収できていて、ゾロたちもケガすることなく逃げきれたみたい。
とても頼りになる仲間だよね。
私とルフィは、しししって笑い合う。
ここからはナミに任せればいいけど、海門付近に向かって軍艦が集まっていることが気になる。サーチライトだって、船が向かう先を照らしていた。あの司令官のおじさんにしては、単純な策だからむしろ何か怪しく思えるね。
「おい、そろそろハリボテのほうが限界だぞ?」
「あ~ 穏やかとはいえ、さすがに突貫工事だものな~」
ゾロとウソップの言う通り、ギシギシと音が鳴っているね。どうしよっかってキョロキョロすると、ナミとロビンとサンジは海面を見て何かを考えこんでいた。
私とルフィとチョッパーもお団子のように顔を並べて、バシャバシャしている海水を見つめてみる。えーと、ルフィの横顔ってかわいいね、うん。
「まずい。どんどん水位が下がっている。みんな! ハリボテを壊して!」
「「あいあいさー!」」
ナミにそう言われたから。
五線譜でハンマーを作りながら私も、パシンと拳を合わせたルフィと一緒に声を出す。チョッパーも協力してくれて、ハリボテの繋ぎ目をガンガンと破壊すると、服を脱いだように後方へ剥がれていく。
麦わら帽子を被った海賊マークが笑うように、さっきより風を受けて帆はしっかりと張る。慌てたようにサーチライトがこちらを向くけど、するりするりと軍艦の間を抜けていく。
「いけー! メリー!」
「おいおい、大丈夫なのか?」
「な、なんで撃ってこないんだ?」
「タイミングばっちりだね!」
軍艦の側面に並んだ巨大な砲門は、確かに威圧感がすごい。でもここで撃つようなら、お互いの船に大砲が当たっちゃうかもしれないからね。
「よーし! 全速前進だ!」
「やっぱりここ怖いって!?」
ルフィに腕を引っ張られて、羊さんな船首の上へ一緒に座ったけど、向かい風を受けながら流れる海面ってのは怖くなってくる。能力者として海に落ちない海賊になる予定だった気がするのに、何度おぼれかけたことか。
ギュッて、背中からルフィの腕の中に抱えられるのは、ドキドキして恥ずかしいし。もうルフィったら。
「こいつは……」
「これを分かっていやがったな」
「万事休すね」
「あーもう、最悪よ!」
「「「「んあー?」」」」
あれ、ナミたちが見ている後方へ振り返ってみると、軍艦が追ってくる気配がない。それに、砲撃だって来ない。あと、ルフィの顔が近くて、うぅ~。
ポニーテールに結んでいる髪が、パタパタ動いちゃう。
「ごめんなさい。判断を誤ったわ」
「ここまで、クソ急激なものとはな」
「引き返していたとしても、海の藻屑ね」
「んなもん、朝まで戦えばいい」
「ギャアアア!?」
「わわっ!」
「ふ、船が~!?」
「海水が入ってきてるぞ!?」
満潮だったか、干潮だったか、これってどっちかだよね!?
ガリガリと船底を削る音がしたと思ったら、どんどん揺れが大きくなる。ぐわんぐわんって身体は揺らされて、肘を当てるように慌ててルフィに抱きついたけど。
浮遊感があって。
あっ、海に落ちそう。
「へぶっ!?」
「きゃっ!?」
ドサリって、地面を叩くような音がした。
「お……」
「お?」
私はゴムゴムのクッションのおかげで、ほとんど痛みは来なかった。でもルフィは目を閉じたまま、起き上がる様子がなくて。もしかして、ルフィでも痛かったのかな。
「おぼれりゅ~」
「ここ海じゃないよ!?」
まあ、紙一重だったかもね。
でも座礁っていうのかな。メリー号は今、完全に海水のない陸の上にあった。大きな穴からはゾロたちがひょっこり顔を出していて、ナミたちは傾いたデッキで深刻な表情を見せている。
「船が沈むことはないけれど、朝まで身動きがとれないわね」
「どっちにしろ、朝まで耐えないといけなかったってわけか」
司令官のおじさんの狙いはこれだったんだ。だから積極的には追わなかった。といっても、能力者が半数を占める私たちにとって、陸地で戦えるというのはまだマシと言えるかも。
私とルフィが並んで立ち上がると、たくさんのサーチライトで照らされた。ステージの上で、スポットライトを当てられて、1000人もの人たちから注目されている。
コバト先生や、メカオさんも見ているのかな。
『麦わらのルフィ、その一味に告ぐ。」
拡声機で響いて聞こえてくるのは、司令官のおじさんの声だ。
『このナバロン要塞で我々相手に、たった8人でよくぞここまで戦いきった。だがここでチェックメイトだ。」
見上げてみると、数えきれないほどの砲門が向けられている。今のところ、完全に手のひらの上で泳がされた魚で、万が一ここから逃げようとすればすぐに砲撃を受けることになるだろうね。
『我々は君たちの身柄を丁重に扱おう。大人しく投降してくるがいい。」
DEAD OR ALIVEのはずなのにね。
やっぱり優しいおじさんだ。
『麦わらのルフィ、麦わらのウタ、海賊狩りのゾロ、この3人は賞金首だから本部に一度引き渡さねばならんが、他の仲間たちの安全は保証しよう。」
一度、ね。
なんだかルフィたちと似たように、自然と仲間が集まる船長って感じの人だ。もうこのまま、要塞の暮らしに溶け込んでもいいんじゃないかっていう提案なんだろう。
『ただし、逃げようなんてしたら、怒っちゃうよん?」
ガープさんが私たち4人を海兵にしたがったのは、この海で比較的安全な場所だからなのかな。追われることもなく平和に、それに、私たちが望むような新時代を、世代交代しながらでもゆっくりと作っていけるかもしれないね。
でも。
ルフィは片手で、私は両手で、麦わら帽子をしっかりと被り直す。
私たちが憧れた大海賊が待ってくれているように、今この時代に賭けているから。たくさんの嵐を乗り越えてでも、私たちは夢を追い続ける。夢の果てはもう決まっているんだ。
私はヘッドホンをちょんと叩いて、マイクを伸ばす。
「ねぇルフィも、ちゃんと見ててね?」
「おう! しっかり見ておく!」
後ろ手を組んでその横顔を見上げながら、彼の前へステップを踏むように歩く。
こんな計算されたあざといポーズだって、この鈍感な幼馴染は『ほとんど』反応してくれないんだから、もっともっと良い女にならなきゃじゃん。
さてと。
観客は1000人と7人もいてくれる。
協力してね、ムジカちゃん。
『ほう、何を始める気かね?」
白と黒、ぞれぞれの翼を亀裂から広げて、メリー号と私たちをステージの上へ乗せる。これから始まるのは、私が最強の時間で、私がなんでも叶えられる世界だよ。
「みんなお待たせ! ウタだよ!」
声の調子を確かめる意味もあって、ムジカちゃんに拡声してもらった。岩場で囲まれた要塞の反響も、耳に心地よくて、ここってかなり良いライブ会場になりそう。
リズムよく指を振るって、あとはムジカちゃんに音源は任せる。
せーのっ
「BON VOYAGE! 眩しい光を目指して♪」
「僕らのキラメキは沈まない太陽
行こう ひとかけらの勇気 広げて
未来へのシッポ ちょっと見えたよ♪」
海軍の要塞の大砲からは、祝砲みたいにクラッカーを出させる。サーチライトはカラフルなスポットライトにして、この煌びやかなステージを照らしてもらう。浅くて暗い海も、噴水みたいに水を操って飾りつけにする。
「最初はみんな
バラバラに描いていた地平線
今なら一つの望遠鏡で覗ける♪」
司令官のおじさんを中心に、この要塞のみんなは『まとまり』がある。戦う海兵さんたちは訓練やパトロールをしっかりしているし、医務室は怪我をした人たちにとっての希望だし、厨房は1000人を満足させる料理だし、船の整備士はあんな大きな軍艦を元通りに修理するし。この要塞の近くにある海軍支部から来た人も優しく迎え入れてくれるような、まさに安息の地って感じだった。
「~♪」
たった1日過ごしただけでも伝わってくる。コビーが目指している夢のような、そしてガープさんが好きな海軍のカタチがここにあるように思えた。
だけど、今は、私たちも前に進むから。
捕まる気はないかな。
「~♪
BON VOYAGE! 激しい波を乗り越えて
僕らの約束は滲まない手紙
行こう
ひとかけらの勇気でいいんじゃない?
今この瞬間 Precious in my life
未来へのシッポちょっと見えたよ♪」
歌いきってふらりと横に倒れていく私の身体。
ルフィは抱きとめてくれて、メリー号へ向かって走ってくれる。ムジカちゃんの能力と併用しながら、ウタワールドへこれだけの人数を入れるのって、こんなにも疲れるんだ。1曲が限界だなんて、世界の歌姫になるには、もっと歌の練習しないといけないね。
まあ、あと3分くらいは、海兵さんたちをウタワールドに入れたまま、砲撃は防げそうかな。
「みんな、すぐに脱出するよ! 考えた?」
「そういわれてもだな」
「インパクトダイアルでどうにかならねぇかな」
「タコバルーンでもあれば飛べるのだけれど」
「フレイム、ブレスダイアルを使えば」
「膨らむんだが。あのタコどこだ?」
「ルフィが持ってたよな?」
ん、とお姫様抱っこしてくれているルフィが思い出したように呟いたけど。
「ズボンの中にいるぞ。ウタ、出してくれ」
「はぁ!? もう! 緊急事態だから仕方なくね!?」
そう言いつつも不思議と興奮しちゃう表情を抑えて、たぶん冷静な私は右手を、彼のズボンの中に入れる。
すぐに、ねちょってした感触があって、残念ながら通常サイズになったタコさんかな。
「なんでそんなところに……?」
「こいつ、まじかよ……」
「このクソゴムが!!」
「ニヤニヤが抑えられてねぇな」
「フフッ、行動が早かったわね」
「はいはい、さっさと準備するわよ」
右手がとても名残惜しいけど、タコだけ握って、彼のズボンから引き出した。
「さーて、誰がインパクトダイアルを撃つかだが……」
「よーし、サンジ! タコを頼む!」
「最悪な気分だが、仕方ねぇか」
「船長さんも両腕が塞がっていることだし」
「協力してやるから行くぞ、ウソップ」
「そうね。それあんたの物でしょ」
「さすがだぞ。尊敬しちゃうな!」
ウタウタの能力がそろそろ限界みたい。
ステージはまるで夢だったように消える。
砲門が動いている気配がしているし、急がないとね。
『先ほどは見事な歌だった。いやはや、思わず誰もが聴き
よし、準備はできたっぽい。
インパクトって声で、メリー号は浮かび上がる。
『やはり、飛んだか!』ってどこか嬉しそうな声は、もしかするとこの展開まで予想していたのかな。確かに陸からも海からも難攻不落だけど、空島から落ちてきた以上、船が飛ぶ方法がないわけじゃないって思ってたのかもしれないね。
ロビンが咲かせた腕は、タコの足を引っ張って、バルーンとして固定してくれた。
「サンジ君、始めるわよ!」
「火の扱いなら任せてくれ、ナミさん!」
「がんばれ、タコさん!」
ナミとサンジが、それぞれのダイアルから、風と炎を出し始める。小さなタコさんは空気を含んで、それこそルフィのギア3のようにどんどん膨らんでいった。
やがて、メリー号は海水部分に移動してから、ふわりと浮いた。
「長鼻君、今よ!」
「もう1発らしいぞ、ウソップ!」
「ちくしょう、インパクトォ!」
メリー号は、まるで熱気球のように空中へ飛んでいく。
「ウタ、すまねぇな」
「船長なら堂々と命令していいのに」
私をそっとデッキへ立たせたルフィは、肩を抱いて寄り添うように立ってくれる。ここから始まる集中砲撃を耐えるには、ムジカちゃんの能力が必要だもんね。今すぐにでも眠りたいけど、もう少し頑張るから。
ドガーンって。
遠くからの砲撃が当たったのは、岩場で。
どう考えても、誤射っぽいね。
私の歌を聴かないで、あの大砲バズーカの人がコソコソしていたのは気づいていたけど、なんだかこちらとしても向こうとしても運がよかったかも。近くに合った砲門が塞がって、そのうちに要塞の外へ出ることができたし。
あとさ、暗いからよくは見えないけど。
きっと、みんなが敬礼をしているよね。
メカオさんの『元気でなー!』って大声を隠すように、『待てー!』とか『逃げるなー!』とか、『また来いよー』とか、『最高の歌だったー!』とか、あちこちから聞こえ始めちゃっているし。
ほんと、賑やかなんだから。
「はっはっはっ! 脱出できたな!」
面白い人たちに出会えたってことだけじゃなくて。
ルフィがそんなに喜んでいるのは、これ以上 私が体力を使わないでいいってことも含んでいるといいな。
「撃ってこないのか?」
「あの要塞には、対空砲はないわね」
「あくまで海の要塞ってわけか」
「黄金も取り返したし、やったわ~!」
「俺はボロボロだ……」
「打撲くらいでよく済んだな……」
安心したのもあって、うつらうつらって揺れる私は、太陽のようにぽかぽかする身体に包まれた。軽々と おんぶされて、2歳も年下なのに本当に頼りになるよね。
「俺、寝てくる」
「へぇ、あいつが朝飯の前に寝るとは」
「女子部屋使っていいけど、特別よ?」
「私たちも ひと休みしましょうか」
「モーニングティーを淹れてこようか」
「一旦休んだらまた修理だなぁ」
「そうだな。俺も手伝うぞ」
だいぶ夜更かししちゃったけど、早朝から寝るってのは気持ちいいことだよね。
今日も、幸せな夢が見られそう。
あなたとみんなのおかげで。