空島の宝探し、そして海軍要塞からの脱出、たくさんの冒険だったけど、今は久しぶりに穏やかな船旅が続いていた。
命の恩人なタコさんは海に元気よく潜っていったし、グランドラインだってのに最近は天気もいいし。他にも、船長のいない海賊船を見かけたり、サルが引き起こしたっていう大波を見かけたり。
そんなことより問題は。
「腹、減った……」
「釣れないねー」
「釣れないなー」
「島の1つ見えねぇなー」
私、ルフィ、チョッパー、ウソップは横一列に並んで、今日もぬぼーって釣りをしていた。
よく夜の見張り番をしてくれるゾロはお昼寝をしていて、ナミやロビンは見張りをしながら読書で、サンジはたぶん厨房で食糧問題に頭を悩ませていると思う。
「なあウタ~、おやつ作ってくれよ~」
「ひぅ!?」
わわ、ビックリした。
私の肩に、頭を乗せてくるんだもん。
結んでいる後ろ髪が、またウサミミみたいになっていると思う。この前はハートマークみたいになってたっぽいし、ウタウタの実の能力の恥ずかしいところだよ、これ。
「ウタ、また熱が出たのか?」
「これはなチョッパー、放っておいていい病だ。悪化してるがな」
まさかまさか。
恋の病だなんて、2歳も年上の私がこんな一方的にドキドキするわけないじゃん。頬が赤くなっているのは、太陽がまぶしいくらいにポカポカするせいなんだから。
「ウタ、何かあったらすぐ言えよ?」
「あ、あんたこそ、おなか壊さないでよ!」
一回倒れて命を救われた身としては、何を言ったって負け惜しみになるじゃん。でも我ながら、ルフィが食あたりしたことなんて見たことないから、こんなので誤魔化せるわけないじゃん。
「おう。俺も気をつける」
「も~~! ほら、釣りに集中!」
やり場のない気持ちっていうのかな。
釣り竿から一度手を離して、ルフィの太ももをぺちぺちするしかない。
「釣れねぇ理由、分かった気がする」
「これだけ大きな声出してたらな」
「わ、わー、魚釣れろー!」
「おーい! 魚釣れろー!」
ルフィ以外のメンバーにバレていて、しかも見られているって自覚したせいで、最近とっても恥ずかしいや。
「ねぇロビン! 何か見えない!?」
「あら? 島がずっと見えてるわよ?」
「「「っておい!?」」」
ほっ、運よく、ロビンの天然なところで助かった。
「もっと大きな声で報告してくれ!」
「こっちは島が楽しみなんだぞ!」
『ごめんなさい。気をつけるわ』って、お邪魔したかしらみたいな微笑みを私へ向けてくるの、大人の余裕って感じでずるい。
いつかリベンジしたいけど、ロビンが好きなタイプって……えーと、本みたいな人?
「どんな島なんだ、ロビン!」
「それが、霧が深くてよく見えないの」
「岩礁も山もあまりなさそうなのよ」
そそくさと釣り竿を片付けながら首を傾げて、また私とルフィはコツンってする。ロビンやナミが見ている方向にメリー号は追い風を受けて進んでいて、確かにまっ平な島って感じ。
「船大工と飯屋はあるかな?」
「あまり声は聴こえてこないね」
「ま、この際なんでも補給できればいい。釣果もなさそうだしな」
青いシャツの上にネクタイを結びながら、サンジも甲板へ出てきた。ゾロも大きな口を開けて身体を起こしたし、みんな新しい島には興奮は隠しきれてないね。
霧が晴れて、見えてきたのは。
「うひょー!」
「とっても草原!」
「何もねぇ!」
「平和な島だ!」
ぴょーんって私たちは、まだ錨を下ろしていないメリー号から陸地へ飛び出した。
「あんたら、気をつけなさいよ!」
「ウタちゃんが安全確認してるさ」
「俺にはそう見えないがな」
「フフッ 彼らに混じると子どもみたいね」
なんかいろいろ言われている気がするけど、今は新しい島に夢中だから。
「「「「たのしーっ!」」」」
ゴロゴロ~って草むらを転がって、きゃはははって私たちは笑い合う。
本当に建物1つも見えなくて、背の高い木がまばらに生えているくらい。太陽の下で干されたお布団みたいにふわふわした芝生で、ここでお昼寝したらとても気持ちよさそう。
「あれはクマか?」
「うん。モフモフだね」
「背が高いな!」
「巨人サイズじゃねーか!」
歩いているクマさんや鹿や鳥や犬も、目ざとくルフィが腕を伸ばして取ったリンゴも、とにかく細長い。腕を伸ばした状態のルフィがたくさんいるみたいだね。
取ってもらって、私たちも皮つきリンゴにかぶりつくと、ジュースくらいみずみずしくて、シャクシャクして美味しい。
「いくらでも食べれそうだ!」
「うん。美味しいね って!?」
リンゴのヘタはどうしようかって悩んでいたら、ルフィがひょいって私の指から取って、自分の口へ入れてバリバリと噛み始めた。さっきまで私が口をつけていたものだし。
うぅ、顔がめっちゃ熱い。
「おっ、あれは船大工か飯屋か?」
「この島のボスがいるかもしれねぇ!」
「そうなのか、ウソップ!?」
「大丈夫! 強い覇気は感じないよ!」
うきうきするルフィを先頭に、大きめの移動式テントがあるところへ私たちは走りる。
首が長い白馬と、竹馬で遊ぶ人がいるね。
ルフィたちは長い竹と勘違いしているけど。
「それにしても綺麗だね」
「名前はシェリーだって」
キリンみたいに大きな首を曲げて、私たちへ顔を近づけてくる。誰かが飼っている馬だと思うけど、まつ毛が長くてとってもかわいい。スリスリって私とチョッパーに顔を寄せてくれるくらい、人に懐いている。
ルフィたちはいつも通り騒がしくて、ウター! チョッパー! って呼びかけられた。
「竹を割ったら、爺さんが生まれた!」
「ああ。煙から爺さんが出てきた!」
「何言ってるの。竹馬のお爺さんだよ」
「怪我してるし、衰弱がひどいぞ!?」
「お前らか、竹馬から落としてくれたのは?」
その発言にルフィがバツが悪そうに顔を逸らすから、グイッて元の角度に戻す。やっぱり私が見てないところで、トラブルを起こすんだから。私とエースと、サボがどれだけ苦労したと思ってるの。
「ほらルフィ、ごめんなさいしよ?」
「なんかごめんなさい」
「いや、礼を言いたい」
あれ?
私たちは首を傾げてコツンってする。
お爺さんの話によると。
どれだけ高い竹馬に乗れるかチャレンジして、怖くて降りられなくなった。しかも10年間も竹馬に乗ったまま、あの細長いリンゴとかを食べて暮らしていたんだって。
「爺さん、なんかドンマイ」
「この辺り、人もいなさそうだもんね」
「あぁ、怖かったぁ~」
「木に乗り移ればよかっただろ!?」
「後悔した顔になったぞ!?」
チョッパーによる手当ても済んだみたいで、毛玉くらいフワフワな白い髭をさすりながら、どよーんって落ち込んじゃった。
「改めて礼を言おう。俺はトンジットだ」
「俺ルフィ、ウタに、ウソップとチョッパーだ」
ルフィに紹介されて、どうもって私たちもぺこりと頭を下げる。
「ほう、珍しくまん丸な鹿だ」
「俺はトナカイだ!?」
トンジットさんからすれば、周りにいる細長い動物はこの島では当たり前で、草原が広がっているために、のびのびと生活していたら、細長い生態系なんだって。
確かに、よく伸びるルフィも、のびのびと生活してるね!
「なるほどー!」「なんか納得した!」
「まじかよ」「俺わからなかったぞ」
「さて、久しぶりの我が家だ。この村では家畜から搾ったミルクで、客人をもてなす。準備するから少し休んでいけ」
そう言って案内されたテントは、民族っぽい家具でいっぱいだね。ベッドからお料理道具まで、まるで倉庫みたいだけど、それでいて綺麗に整頓されている。
このたくさんの瓶は、干し肉や乾パンみたいなものなのかな。
「さて、この……チーズは絶品だぞ」
「それ10年前のものだろ!」
「天然もののチーズだよねそれ!?」
「くっっっさ!!」
思わず顔を手のひらで守るように、うわってなるくらい、見ちゃダメな色をしていた。チョッパーに至っては、鼻を抑えて、涙を流しているし。
「まあ食べてみなさい……マズ!?」
「だろうな!」
「食あたり起こすだろ!」
「って、ちょっとルフィまさか!?」
これ美味いぞ、ってルフィは塊へどんどん手を伸ばしていく。
「ウタたちが食べないなら、全部食べちゃうぞ?」
「いや、なんだ、最近の若い者はすごいな?」
「「「同じにしないでください。」」」
ルフィが食べ終えてくれるまで、私たち3人はテントをそそくさと出て。
「「「すぅー はぁー」」」
綺麗な空気の中で、いっぱい深呼吸する。
「なぁ、昔からああなのか?」
「うん。カエルとかヘビとか……」
「俺より野生だったんじゃないか?」
拝啓ガープさん、私が出会う前から一体どんなサバイバルを経験させていたのでしょうか。
いやまあ、コルボ山の暮らしも長いから、私もカエルの丸焼きは結構好きなんだけどね。あんなに甘やかしてくれていたシャンクスたちが聞いたら、ビックリしてくれるかな。