待っている間に私たちはリンゴを取ってくると、テントは数年分の空気を入れ替えるように換気をしていた。
ルフィはチーズは全部食べちゃっていて、今はトンジットさんと、干し肉や乾パンをポリポリと食べている。
私やチョッパーやウソップも手に取ってクンクンしてみるけど、これが10年前の物とはどうにも思えなかった。
今は置いておいて、私たちも混ぜてもらい、簡単な食事会をした。宴をするには、まだトンジットさんがしんみりと、身体も心も休めている段階だからね。
時折り、玄関から見える風景をボーっと見ながら、感傷に浸っているから。
「……村も、家畜も、いなくなってしまったな」
「村?」「家畜?」
「まだ10年なんだろ?」
「それで跡形もなく村がなくなるのか?」
私たちが住んでいた故郷も、お爺さんから子どもまで、たくさんの人が住んでいた。
周りには建物のガレキもないし、海賊に滅ぼされたってわけでもなさそうなのは、むしろ不思議に思う。このテント以外は、村が幻のように消えているから。
「移住を繰り返す遊牧民だからな。テントも家畜も、3年ごとに全部持って移動する」
この草原の先に、行っちゃったんだ。
それって、お引っ越しを繰り返すってことで、島を転々とする海賊みたいな暮らしだよね。
思いつくのはマキノで、もう10年以上もシャンクスたちの帰りを待っていて、私たちだって送り出してくれた。たぶん、待たされるほうって、とてもつらいことだと思うし。
「仕方ないさ……」
「ううん。とても悲しいことだよ……」
いつかみんなに出会えると思って生き続けたとしても、会いにきてくれなかったんだよ。クジラのラブーンもそうだったように。
今の私では想像ができないけど。
終わりのない苦痛と孤独を味わう。
「悲しいか……そうだな...竹馬に乗っていた頃、3年も経過すれば高いところには慣れた。だが、下の景色が見れなかったのは、何もない草原を見ることが怖かったからだったかもしれん……」
「うん……」
諦めたら、どんなに楽なんだろうね。
冒険もそう。楽しいことだけじゃないから。
ふと、『ねぇルフィは、私が大変なとき、夢とどっちを選ぶ?』 これから先、そんな選択をさせてしまいそうで、なんだか寒気を感じた。逆の立場なら、私はたぶんルフィを選ぶけど。
私の肩に手のひらが触れて、そっとルフィは抱き寄せてくれた。やっぱり、私はまだまだ弱いなって思えてくる。
「爺さん、追いかけるの手伝おうか?」
「……ここはロングリングロングアイランドの島、リング状の構造の島だ。普段は海によって10個の島に分かれており、3年ごとに潮が引くタイミングで移住するのさ」
「だがよ、それこそ船で行けないのか?」
ウソップの提案に、トンジットさんは重く首を振った。
「元々1つの島だからな。ログは同じさ。老い先は短いが、ここで20年待つことにするさ」
「難しいことは分からねぇけど、会いにいく理由にはならねぇだろ。」
ルフィは麦わら帽子に手を添えながら、彼へ鋭い視線を浴びせた。
「爺さんは仲間にただ置いていかれたって思ってるが、ならこのテントとメシはなんだ。もし爺さんが無事に帰ってきたときに、ここで待っていてほしいからだろ!」
ルフィは食事があった机を指差して、彼へ叫ぶ。
「夜に海岸でたき火するとか、手紙を鳥に持たせるとか、どんな方法だっていいから、ここにいるってことを知らせろよ」
そして、ルフィは二カッと明るい表情を見せる。
「爺さん自身が仲間との再会をあきらめるなよ。すぐに会いたいなら、俺たちも手伝うしさ!」
トンジットさんは、ルフィの目をしっかりと見た。
「ああ……そうだな……」
「うちには人探しが得意なこいつらとか、他にも最高の航海士、すげぇ物知りな学者、あと世界最強の剣士になるやつ、それに何よりコックだっているからな!」
「うん! 絶対協力する!」
「よーし! 爺さんを送っていくぞ!」
「うおー! 村を探すぞー!」
「はは……それならあんたらに甘えようとするか。息子や孫たちに、俺は会いたくなってきた!」
パンッと両膝を叩いて、元気よくトンジットさんは青空を見上げるように立ち上がった。
すごいね、ルフィは。
曇り空から、太陽の光が差したよう。
「さて、これだけの荷物だ。ウーーマでもいれば、運んでもらえるのだが」
「ウーーマ、ってウマのことか?」
「馬ならテントの裏にさっきいたぞ?」
ウソップの言葉にとても驚いて。
急いでトンジットさんが出口へ走っていくと、シェリーって細長い白馬が、長い首を曲げて彼を待っていた。
ヒヒーンって声、なんだか私にも『おかえりなさい』って聴こえた気がする。
「おぉ! シェリー、お前は待っていてくれたか!」
シェリーも10年、ここでトンジットさんを待っていたんだ。涙を流しながら頬をこすりつけ合う光景を見て私も目が潤んでくる。やっと、やっと、隣にいることができるよね、永遠に。
「よかった、本当によかったね」
「あの馬は爺さんを待っていたのか」
「ああ。いいやつだな」
「トンジットさんが大好きなんだな」
トンジットさんは、シェリーに乗って広い草原を駆け始める。細長い脚で力強く地面を蹴ると、今の気持ちを表して飛び跳ねているようにも見えた。今まで見たことのある馬の中でも、1番輝いているかも。
私たちは気を緩めて、草原へ座り込んだ。
そして彼の肩へ寄りかかる。
太陽が照らす青空で一緒に生きれる。
それは、とても幸せなことだから。
穏やかな幸せは続いてほしい。
でも。
...あんな風に悪意で。
「いけない!!」
バンッと銃声が響き渡った。
また間に合わなかったんだ...
拘束する網のようなものがシェリーの脚に絡みついていて、通常サイズの馬ならそれで包むことができていたと思う。
「なっ……!?」
「だ、大丈夫か!?」
走って向かったウソップやチョッパーはそれぞれ、網を取ってくれたり、落ちたトンジットさんを介抱してくれたり。
私やルフィは彼らを守るように、捕獲銃を持った人物を睨みつける。
「フェ~フェフェフェ!」
高級な毛皮のコートを羽織っていて、オーバーオールを着たおじさんだ。長い鼻で独特な笑い方をしながら、かわいくない悪ギツネのようなやつが歩いてくる。
「これで馬は、俺の物だ!」
「ゲットだぜ、ぷぷっ」
「そうよ! オヤビンのものよ!」
そんなことを勝手に言いながら、かわいくない大柄な悪ザルみたいな男と、かわいくないくらいに猫なで声の女を取り巻きに、こっちへおじさんは近づいてくる。
「お前ら! 誰だ! 爺さんも馬もお前らの物じゃねぇぞ!」
ルフィの激昂に対して。
「俺を知らないとは、残念だ……」
「爺さんなんていらないわよ!」
「ぷぷっ、無名な船長だな」
シュンとしたおじさんは2人に慰められる姿を見るとますますなんだか腹立たしくなってくる。
シェリーを不意打ちのように捕まえておいて、急に俺の物だなんて。あの街のやつらや、あの山賊たちのように、私が1番嫌いなタイプの人たちだ。
「ならば聞いて覚えておけ! 俺はフォクシー、欲しい物は全て手に入れる男だ!」
フェフェフェって笑いながら、立ち上がったおじさんは名を述べた。両腰に手を当てて高笑いする姿は、ムカムカしてくる。
「俺はモンキー・D...!?」
「待てぇい! 麦わらのルフィ!」
ゴムゴムのスタンプ、鋭い槍のようなキックの体勢に入っていた。でも、フォクシーが手のひらを向けてきた姿に、攻撃を中断した。
「なんで俺の名前を!」
「知ってるとも!」
「懸賞金1億ベリー モンキー・D・ルフィ、8600万 ポートガス・D・ウタ、6000万 ロロノア・ゾロ」
「ぷぷっ、2400万の船長の数倍だ」
名乗りを邪魔されて、ぶんぶんと空気をパンチしているルフィはかわいいけど。
私たちと違って。
こいつらは悪い海賊だね。
「我々フォクシー海賊団、麦わら海賊団に対して、デービーバックファイトを申し込む!」
「そんなの知るか! ここでぶっ飛ばす!」
「謝る気もなさそうだし、1発殴るからね!」
私とルフィは両腕をあげて、うがーって威嚇してやる。
「いや~ん、野蛮な人たち~」
「ぷぷっ、普通に戦えばボコボコだろうな」
見せられた3枚のコインとか、『でーびーばっくふぁいと』とか、聞いたこともない。そんなことより、私たちの友達のシェリーやトンジットさんにケガさせたんだから、もう喧嘩は売られているもん。
「やべ……受けるのか、受けないのか!?」
「知らねぇが、喧嘩なら受けてやる!」
ルフィの言葉に、フォクシーはニヤリと嗤う。
その表情にぞくりと悪寒を感じた。
「だめだルフィ! そのゲーム、仲間を失うぞ!?」
「え……どういうことだウソップ!?」
「な、なんで……失う……?」
また選択を間違えた?
最初から壊していれば、救えた?
「これは海賊が海賊を奪い合うゲームさ! 1勝負ごとに勝者は好きな船員を貰い受ける。それに、誇りである海賊旗を奪うことだってできるのさ! 深海の海賊 デービージョーンズに誓ってな!」
なにそれ。
家族のような仲間を賭けてやるゲームなんて、絶対におかしいよ。そんな価値観なんて、私は許さない。
ガタガタと震える身体を、ルフィは包むように抱き込んでくれるけど。
私の中で何かがフラッシュバックしている。心のずっと奥底で、もっと革新的に新時代をつくらないとって。その間にも血は流れていくって、うたっている。
「フェフェフェ 受けたよな、麦わらのルフィ?」
「おい! なんとかファイトする気はないぞ!!」
私のせいで、ルフィが嗤われている。
こんな臆病な私のせいで、恥をかく。
「ぷぷっ、とんだ腰抜け集団だな」
「その女って本当に8600万の器?」
「お前も1億の海賊なのか? 海賊の誇りってものを感じねぇぞ?」
「お前らの言う誇りなんて知るか! なら俺は海賊王になって、なんとかファイトってのを全部やめさせてやる!」
私のことは今はいい。
でもルフィは海賊王になるんだ。
私は、ドンッと地面を叩いて立ち上がった。
「……受ける。」
リボンのついた麦わら帽子を深めにかぶって、宣言してやる。ルフィが海賊王になるという夢を、馬鹿になんてさせないから。
そう思うと、どんどん力が溢れてくる。
「麦わらの一味の副船長 ウタが!
船長 ルフィに代わって、受ける!」
ついでに「あんたらごとき、船長が出るまでもないよ」って、挑戦的な笑顔で言ってやる。
「フェ…… よ、よしっ! なんでもいい!
「いいよ。どんなゲームだって、すべて叩きつぶしてやるから!」
身体を震わせていたフォクシーは慌てて、さっき使った捕獲銃を空へ向ける。
私は
バンッという、2つの銃声が重なって、それを合図に、静かな島を歓声が包んだ。
「かかってきなよ、フォクシー海賊団。」
「「「!?」」」
フォクシーたちは自分達にかかった網から出て、海の方角へ逃げていく。
一度こっちを振り向いて『準備はこちらでさせてもらう』なんて言い残していくから、どんな罠が待ち構えているのかな。
「規模だけは大きそうな海賊団っぽいね」
逃げていった先に、かなりの人数がいるみたい。
私は指先で、麦わら帽子をツンとつつくように上げて、明るい表情に戻してから、ルフィたちへクルリと振り向いた。
「お、おいルフィ、いいのか?」
「負けたら仲間を取られるんだぞ!?」
「船長の俺は、どっしり構えておくだけだ!」
一度振り向くと、ルフィは腕を組んで、ドーンと立っている。でも心配なのか、口はぷるぷるさせているところがかわいいや。
「俺たちの分まで、頑張ってくれ!」
トンジットさんや、シェリーもヒヒーンって応援してくれる。彼らのケガがひどくなくてよかった。
「うん! 大船に乗ったつもりで、私たちに任せておいて!」
麦わら帽子が似合うルフィの隣に立てるように、私も頑張るから。だからどうか、これからも側で見ててね。