麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第85話 ルフィ

 

 唯一記憶喪失じゃないロビンが知っている冒険の話はどれもワクワクするもので、それを私たちが経験しているなら絶対忘れないと思う。ただ肝心のロビンは仲間になったのが最後らしく、みんなそれぞれが仲間になったきっかけまでは知らないんだって。

 

 だから船を離れていったナミやゾロを説得しようにも、深い溝はあるまま。

 

 私やルフィ、サンジとウソップとチョッパーは結局何も思い出せないまま、食後に長い休息をとっていた。それにしてもさっきのご飯もこのコーヒーもめちゃくちゃ美味しい。

 

 『毎日食べたいくらい』と言っていて、ルフィの胃袋を掴まれていると思うとなんだかモヤモヤした。そのうち私も料理の練習をしようかな。

 

「今度はあなたたちの最も新しい記憶を教えてちょうだい」

 

「俺はバラティエの自室で眠っただけだが」

「俺も帰ってから城で眠ったはずだ」

「同じく自分の家だな」

 

「俺は大渦に飲まれてウタと一緒に樽へ入ったぞ」

 

「私は…… お留守番でフーシャ村に住んでいたはず」

 

 1番新しい記憶って言われると、どのタイミングから忘れているのかが分からない。

 

 思い出そうとすると霧がかかる感じ。

 夢心地で不思議と安らぐ。

 

 ルフィたちは頑張って思い出そうとして『ぐぬぬ』って表情なのに、私はそうでもないんだよね。

 

「ああ、そうだ。確か笛の音だ」

 

「「「あっ!」」」

 

 ヤカンがピューって鳴ると、ルフィたちは同時に思い出したみたい。

 眠っている間に笛の音と、大きな笛を持った少年の姿を見た気がするって。

 

「つまり、あいつに記憶は奪われたってわけか」

 

「悪魔の実の能力かは分からないけど。最悪の場合、自分が誰かすら忘れていたかもしれないわね」

 

「「「「ギャ~~!?」」」」

 

 サンジやロビンが怖いことを言うから、みんなで悲鳴を上げる。

 ルフィやマキノやシャンクスたちのことを忘れてしまうなんて、そんなのイヤだ。

 

 考えれば考えるほど、次に眠くなるのが怖くなってくる。

 

「よしっ、あの笛のやつをぶっ飛ばして、記憶を取り戻そう」

 

「あのねルフィ、そんな簡単に言うけどさ。存在するかどうかも分からないやつを見つけるなんて難しいでしょ」

 

 私がそう現実を突きつけても。

 それでも『見つける!』ってルフィは席から立ち上がった。

 

「どれだけ記憶を失っても夢は消えねぇけど、俺が仲間との時間を忘れたままってのはイヤだ」

 

 夢か。

 新時代を作るってルフィとは約束したよね。

 

「なーに、俺たちが力を合わせれば何とかなるさ」

 

「たとえ記憶を失っても変わらないわね」

「ずいぶんと前向きなやつだ」

「すっげー、これが海賊か」

「だ、だがよ、具体的にどうするんだ?」

 

『……1日で食べきれない程の極上のデザートを今夜も我慢できるのかしら?』

 

 あれ、私さっき何か言った気がした。

 ししし ってルフィはこっちを見て頷いた。

 

「よーしお前ら! あいつが今夜も来た時に捕まえるぞ!」

 

「俺たちの記憶を、極上なデザートにたとえたわけか」

「そうね。歌姫さん以外は1年分も記憶を奪われていないわ」

 

「「「ヒィ~~!」」」

 

 私やウソップやチョッパーはガクガクと震える。

 海賊だけど、今まで誰かと戦った記憶がないもん。

 

 

 

 その後は1日緊張して船室で過ごしていたけど、いつの間にか夕方頃に限界で眠っちゃっていたみたい。もし夜にロビンが起こしてくれなかったら、私たち全員また記憶を奪われていたと思う。

 

 本当にタツノオトシゴっぽい笛を持った少年が船に来たんだ。

 すぐさまルフィが攻撃したから逃げていったけど、結果的にはルフィだけが記憶を完全に取り戻すことができた。

 

 そして朝になってからゾロとナミを探そうってことになって、私たちは上陸してから村を目指す。早速見つかったナミは逃げようとしても、簡単にルフィに追いつかれている。

 

「最悪…… さすがはグランドラインにいるような海賊ってわけか……」

 

「そういやお前って海賊専門の泥棒とか言ったな。出会ってすぐ俺たちの航海士になったからすっかり忘れていたぞ」

 

 ねぇルフィ、ちょっと距離が近くないかな??

 

 なんとなくこれまでもこれからもたくさんの女子からモテそうで心配になってきたよ。とてもモヤモヤしながら、白い髪のほうを指でクルクルやってた。

 

「すぐ? あり得ないわ」

 

「ウタのやつとは最初から仲が良くてな」

 

 『な?』ってルフィが微笑みかけてくる。

 まあ憶えてないけど直感的には。

 

「うん、海賊女子仲間だからね!」

「海賊でも仲間でもないわ」

 

 今は雰囲気がツンツンしてるけど、ナミは頼りになって優しそうな感じはするから。

 

「ああ。素敵なレディーと航海できるなんて♡」

「おい船医、こいつどうにかしろ」

「これは治さなくていい病だ」

 

 サンジってその誰彼構わず口説くのやめたらモテそうなのに、なんか残念な人だね。

 

「航海士さんなら、記憶を奪われたって考えられているんじゃない?」

 

「確かに新聞の日付と航海日誌の最後のページは…… でも記憶を奪われるなんて、噂の悪魔の実の能力じゃあるまいし」

 

「俺は能力者だぞ」

「俺もそうだ」

「私とロビンもね」

 

 なぜかナミは頭を抱えた。

 東の海じゃ珍しいんだっけ。

 

「俺がタツノオトシゴみたいな笛をぶん殴ったら、記憶を取り戻せたんだ!」

 

 ルフィが取り戻す瞬間を見たから、私たちも大きく頷いた。

 

「いいわ、一時的に手を組んであげる。でももし私があんたらの仲間じゃなかったら、この黄金は全て私が貰うから」

 

「フフッ、その黄金の使い道も話し合ったことがあるわ。思い出せるといいわね」

 

 ロビンはそう気になることを言うから、みんなで早く記憶を取り戻さないとね。

 

 私たちは森にいそうなゾロを探すついでに、ロビンが遺跡を調査したいらしいから付いていく。ところで考古学者って、シャンクスの船にもいなかったくらい凄い船員が乗っているんだね。

 

 こういう森へ入るには必ずシャンクスたちと一緒だけど、私の身体は自然と進む。

 

 とても静かでなぜか動物は見かけない。

 まるで何かに怯えているみたいに。

 

「おっ、ゾロじゃねぇか!」

 

 ルフィが走って向かっていく先からすごい気迫を感じた。緑髪の男子は手ぬぐいを頭に巻いているから、鋭い瞳で睨んでいる。

 

 腰には3本の刀があって、その1つに手を添えて。

 

「ん?」

「……へぇ」

 

 な、なんとか見えたけど。

 

「ルフィ大丈夫!?」

「か、海賊狩りだ~!?」

「こ、こえぇ~!?」

 

 その一太刀で、空気を斬り裂いた風圧がここまで感じるくらいだった。

 

「いきなり危ねぇな」

「てめぇは素手でいいのか、麦わら?」

 

 あれをルフィはジャンプして軽々と回避したらしいけど、一体どれだけ強くなってるのよ。

 

「どうやらやめろって言っても無駄みたいだな」

「海賊の首には興味ないが、てめぇが強いことは分かる」

 

 ピリピリと空気が揺れているみたい。

 でも命の取り合いってことでもなさそうで。

 

「こいつを全員で黙らせればいいのか?」

「いえコックさん、ここは彼に任せましょう」

 

「ああ。ゾロは一騎打ちが好きだからな」

「舐めていると大怪我じゃ済まないぜ」

 

「わ、私が2人の喧嘩を見ておくから、みんなは笛の子を探して」

「俺も誰かがケガをしたら手当てしないとならないから」

 

 私やチョッパーは震えながらここに残るべく、巻き込まれないよう倒れた大木の裏に避難する。ちょこんと顔だけ出せば、あのゾロって男子も他の誰も気にした様子はないみたい。

 

 その余裕がないほどに、ルフィは強いって分かるんだろう。

 

「確かに海賊狩りが見つかった以上、次にやるべきことはあいつを探すことか」

「歌姫さんと船医さんがいれば、簡単に合流できるでしょうね」

「そ、そうかそうか!」

「お言葉に甘えて行きましょ!」

 

 慌てたウソップやナミを追いかけるように、サンジやロビンも走り出した。

 

 肝心のルフィは拳を構えて。

 ゾロは刀を引き抜いて三刀流となる。

 

「結構楽しみだな」

 

「……鬼斬り!」

 

 両腕の刀を交差させたと思ったら、すぐに突進するように斬撃を繰り出したんだ。私はお口あんぐりなんだけど、あれだけ大木が綺麗にスパーンって切断されている。

 

「こっちだ! ゴムゴムの(ピストル)!」

 

 今度は回避して腕を伸ばしたルフィのパンチに対して、防御の体勢をとったゾロが受け切った。

 

「ゴムゴムの銃弾(ブレッド)!」

「ちぃ!!」

 

 間髪入れず、まるでバネのように今度はルフィが突進して追撃をしたけど。

 

 ゾロが回避した先にあった大木がドガーンって粉々に砕かれて、大きな音を立てたんだ。

 

「「ぎゃあ~~!?」」

 

 何が『パンチはピストルように強い』よ!

 今のルフィって大砲みたいなパンチじゃない!

 

 全くゾロは怯むことなく素早い剣戟を浴びせる。

 ルフィはするりするりと躱して、やがて腕を伸ばして大きく木の上へのぼっていった。

 

「むやみやたらに伸ばさないほうがいいな」

「なるほど。身体がゴムってわけか」

 

 お互い隙を見せないよう、大技を出さない。

 それでも私やチョッパーの周りがどんどん更地になる。

 

「どうした? そんな力任せじゃ、世界一の大剣豪にはなれないぞ?」

 

 それを聞いたゾロの動きが1度止まって、3本の刀を鞘へ戻した。ルフィが言うにはシャンクスより強くなるってことが、ゾロの夢なのかな。

 

「……知らない間に俺は多くの戦いを経験したんだな」

 

「ししし 海賊は楽しいぞ!」

 

 ニヤリと笑ったゾロの動きが変わった。

 

 一刀流の居合とか、他にも二刀流で攻撃を受け流したり、三刀流でも飛ぶ斬撃だったり、どんどん多彩な動きを見せる。たとえ記憶を奪われたとしても、戦いの記憶をゾロの身体が憶えているんだ。

 

 ルフィも笑いながら応戦する。

 

「「オラァ!!」」

 

 ただの頭突きなのに、バチーンってまるで雷のような音がした。気迫とかそういう何かの力で鎧でも纏っているのかなって思うくらい。

 

「あ、あいつらすげぇ!」

「もう周りが更地だもんね」

 

 隣にいるチョッパーは頷いた。

 

「しかも俺たちを巻き込んでない!

 強くてカッコよくて、優しい海賊なんだ!」

 

 そう言って、目を輝かせる。

 

 私もそう思うな。

 シャンクスたちがそうだったように。

 

「武装 三刀流奥義!」

 

「ギア2! 武装!」

 

 ゾロはクルクルと刀を振り回す。

 ルフィは蒸気を発している。

 

三千世界!」「ゴムゴムのJETバズーカ!

 

 大技がぶつかった。

 ちょっ、まるで嵐なんだけど!?

 

「きゃああ!?」

「うわあああ!?」

 

 隠れていた大木ごと、私たちの身体が吹き飛ばされた。

 

 ズキリと鋭い痛みがした。

 たぶん背中から地面に落ちて。

 

 太陽が闇に包まれたように暗くなる。

 私たちへ向かって、大木が落ちてきているんだ。

 

「ぁ……」

 

 私はただ見上げることしかできないけど。

 

「JET(ピストル)

「三十六煩悩鳳(ポンドほう)

 

 2人の勇ましい声が安心させてくれた。

 

「ふぅ~、さすがにやりすぎたな」

「ここまでにしておくか」

 

 『記憶戻ったのか!』とか『いい運動になった』とか呑気な声もする。そういった話を上手く呑み込めない程、私は身体がガクガクと震えている。

 

 そして目はキューって熱くなってきちゃう。

 

「うぅ~、ルフィのバカぁ~」

「ウタ、どこかケガしたのか?」

 

 思わずルフィへ抱き着いて。

 ギューって赤いシャツへ顔を押し付ける。

 

「おいチョッパー、何があった?」

「ウタだけ10年分の記憶がないらしいけど」

 

「そう泣くなよ。痛いの痛いのとんでけ~」

「な"いでない~~!」

 

 抱きしめてヨシヨシしてくれる。

 私、2歳も年下のルフィが好きになっちゃいそう。

 

 

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