ルフィとゾロの戦いも無事に終わって、私たちはロビンたちがいるところへ向かっていた。
成長してもルフィは気になったものにすぐ飛びついていっちゃうし、なぜかゾロは急に方向を変えてどっかいっちゃうし、私とチョッパーに感謝してよね。
それにしても。
なぜか私だけ記憶が戻らないままなんだけど。
「どうだ、この枝カッコいいだろ!」
「すげぇ! まるでゾロの刀みたいに真っすぐだ!」
「俺の刀をそんな棒切れと同じにするんじゃねぇ」
男子同士で仲が良くてちょっとヤキモチかも。
私って本当に赤髪海賊団を離れて海賊をやってたのかな。
「ウタも見てろよ!」
いろいろ考えこんでいたら、ルフィに名前を呼ばれて顔を上げたけど。
「さんとうりゅう~!」
「ワハハハハっ!」
「てめぇ、もう一回
両手にそれぞれ枝を持って、枝を口にも挟んでる。
それがなんとも不格好で。
「ぷっ、ルフィったらまだまだ子どもなんだから」
「なんだと! もう子どもじゃないぞ!」
悩んでいるのがバカらしくなってくる。
ルフィの海賊団は赤髪海賊団くらい楽しいんだね。
「誰が最初に森を抜けるか競争ね!」
「ししし 昔のウタに戻ったみたいだ!」
「先にスタートしてやがるな!」
「えぇ! 待ってくれぇ~!」
その横顔はいつだって明るく笑っていて、もうかけっこなんて一瞬で追い抜かれてしまう。こうやってどんどん離れていってしまうのかって不安は少しあるけど。
赤いシャツの大きな背中は一度立ち止まって。
そして私の手を握って抱え込んでくれる。
「ウタ! しっかり掴まってろよ!」
「……うん!」
成長しても、変わらない良さはいっぱいあるけど。
昔よりずっとカッコよくて優しくなってる。
「ゴムゴムのロケットぉ~!」
ギューンって飛んでいく感じがした。
私は思わずギュッとシャツを握り込む。
「飛んでったぞ!?」
「こりゃあ負けたな」
ゾロやチョッパーも通り過ぎていく。
1番最初に森を抜けて、そして広い海が見えた。
太陽みたいにポカポカして温かくて名残惜しいけど、一度離れる。
あと手を繋いでほしいなーって思うけど、それはさすがに子どもっぽいのかな。
「ルフィ! ウタ!」
「お前ら無事だったか!」
「ウタちゃ~ん! 俺たち記憶戻ったよ~!」
「フフッ、剣士さんと船医さんもいるわね」
えーと、ナミとウソップとサンジとロビン、この人たちも記憶が戻ったみたい。私たちが無事に合流したのを安心してくれているみたいで、この海賊団には優しい人たちがいっぱいだね。
「なんだ? お前らも戻ったのか」
「ああ。あの笛、タツノオトシゴが犯人だ」
昨晩の笛のほうだったんだ。
「えっと……?」
「そうだ、ウタだけがまだ戻ってないんだ!」
「なんですって!?」
「あいつなら海に潜っていったが…」
「逃がしてしまったのは失敗だったわね」
「いや、まだ海中から見てやがるな」
「ウタの記憶を返せぇ!!」
「お前は潜るなぁ!?」
ゴボゴボとルフィが溺れていたり、サンジがタツノオトシゴと争っていたり、皆が私の記憶を取り戻すために頑張ってくれている。取り戻さなきゃって焦るより、なんだか嬉しいなって感じがした。
「ほらルフィ、早く上がってこい」
「す、すまねぇ~」
ゾロがルフィの身体を引き上げて、サンジがタツノオトシゴを捕まえて海から上がってきたとき。
「げっ!」
「しまった!」
「往生際の悪いやつだ!」
プ~って紫色の煙を吐き出した。
そして見えてきたのは7人の人影で。
「ベルメールさん……なの……?」
「グスッ……ドクター……」
「くいな……」
「母ちゃん……」
「くそっ……」
「……」
私にはモヤモヤとしててハッキリと分からないけど、ナミやチョッパーやゾロやウソップ、それにサンジやロビンにとって、もう会えない大切な人なのかな。たぶんみんなの記憶を奪うと同時に、思い出を残像にして時間稼ぎをしているんだ。
「サボぉ~……」
「サボ……?」
ルフィもいっぱい泣いていて。
その少年を知らないはずの私も涙が出る。
次々と誰かの残像が空に浮かび、やがてタツノオトシゴはその全てを吸収した。
「一体何を……」
「あいつはこう言っていた。『キミたちのせいで今まで集めた村人たちの記憶まで失ってしまった。だけどキミたちの濃い記憶をすべて手に入れれば僕は成れるんだ』って」
チョッパーがそう通訳してくれたけど、それがタツノオトシゴさんの夢なのかな。
「なんで今、記憶が……もしかして天使ちゃん?」
ルフィたちは『ここはどこ』『私はだれ?』『お前ら何者だ?』『タヌキがしゃべってるぞ』みたいな状態なのに、逆に私は鮮明にすべての記憶を取り戻した。
みんなが記憶を奪われた際の保険だったのかな。
記憶を失ったロビンはスッキリした表情で。
なんだか私は胸の奥がズキリとする気がした。
「なあ紅白の髪の人、何か知ってるか?」
「えっ、うん、知ってるよ!」
今はいろいろ考えている場合じゃないや。
ぶー、てかルフィすら私のこと忘れちゃってる。
さっさとみんなの記憶を取り戻さないとね。
「みんな落ち着いて。あいつが原因ってわけ!」
「「「おぉ~」」」
私が指差した方向にはプカプカと風船みたいに膨らんだタツノオトシゴさんがいる。空を飛びたかったのか、それとも別の何かを目指したのか分からないけれど、人の記憶を奪って夢を叶えるなんて許せない。
風の歌で浮かんだ私は、みんながビックリする声を背中にして、タツノオトシゴさんを追いかける。
「……ッ!!」
「満腹で苦しそうだね。でもその姿は本当に成りたかったものじゃない」
記憶を渡すまいと睨みつけてくるけど、歪んだ方向で夢を叶えてしまって焦っているんだ。
「私たちにとって記憶は宝物なの。海賊のお宝を奪ったらただじゃ済まないってことを憶えておいて」
私は五線譜を固めて、ハンマーの形にする。
ちょっとだけ痛いの我慢してね。
「あなたが夢を叶えたいなら、自分の記憶で成ってみて!」
えいっとガツンと身体を叩けば、風船から空気が抜けるようにピュ~って海に向かって落ちていく。
バシャーンって大きな水しぶきが鳴って。
「「「あっ……」」」
キラキラした煙を浴びたみんなは記憶を取り戻せたみたい。そのタイミングで何か大切な思い出が頭をよぎったみたいで、一度ごしごしと涙を拭いてから、こっちを向いて笑った。
「よーし、これで全員取り戻せたな!」
「ったく、とんだ騒動だった」
「お前が誘導されてなきゃ楽に済んでたがな」
『ああん?』ってゾロとサンジは仲良く喧嘩を始めたし、いつも通りの光景だね。
「能力者でもないのに不思議な生き物がいたものね」
「記憶を奪われるのはこりごりだぜ」
ナミやウソップも『疲れたー』って船に帰りたい感じかな。
「ロビン、大丈夫か?」
「ええ、あまり寝ていないから疲れちゃったのかも」
チョッパーが気にするようにロビンの様子は少し不安だけど、アラバスタにいた頃よりは明るくなっているから、このまま元気になってくれるといいな。
それにしても、もう夕暮れ時で太陽が綺麗だね。
「ウタ、船まで競争でもするか?」
「あんたにもう勝てるわけないでしょ」
と思ったけど、久しぶりにやってみようかな。
「あっ! あっちに美味しそうなお肉!」
「なにぃ! どこだ! あっちか!?」
ルフィが叫んで騙されちゃっているうちに、ニカッと笑い合って私たち7人は一斉に海沿いを走り始めた。やっぱり麦わらの一味って、赤髪海賊団に負けないくらい最高なんだ!
おかげさまで毎日が楽しくて仕方ない。
ねぇルフィ、いつもありがとう。
「ひきょーだぞ、ウタ~!」
「や~い、負け惜しみ~!!」
これからもみんなでいろんな冒険をしようね。