麦わらのウタ   作:ヒラメもち

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第89話 ルフィ

 

 海軍大将の青キジと、私たちは一味全員で戦っていた。

 

 草原には残り火がメラメラとしていて、もう少し威力が高かったら森にまで広がっていたかもしれない。ムジカちゃんのおかげで規模は再現できたけど、鋭さっていうのかな、エースが使っていた『火拳』より全然足りない結果になったんだ。

 

 子どもの頃よりずっと、そして航海に出てからさらに能力を磨いてきたと思っていたけど、まだ届かなかった。

 

「や、やったのか?」

「それならクソ幸運だったんだがな」

 

 ウソップが恐る恐る声をかけてきて、険しい表情のサンジが冷や汗をかきながら答えてくれた。

 

「……ルフィ、手応えはあったか?」

「……いや、地面を殴ってるみたいだった」

 

 3人は私たちを守るように立っていて、でもルフィやゾロも焦っている。純粋な戦闘力で言えば、あの2人が私たちの中でも飛び抜けていて、しかも武装色の覇気の習得だって、足を踏み入れているのに。

 

「ねぇロビン、何か思いついた?」

「いえ……何も」

 

 ナミもクリマタクトを握りしめて苦い顔をしていて、青キジと会ったことのあるロビンは絶望の表情を浮かべたままだ。

 

「で、出てくるぞ!」

「みんな、あれでも本気じゃないと思う」

 

 チョッパーが悲鳴を上げるように叫んだけど、途方もない気配を感じさせる存在が火の中から現れた。

 

「何かと思ったら、噂の『魔王』じゃないの。そりゃ麦わらの嬢ちゃんを政府が警戒するわけだ」

 

 エースでさえ片腕だったのに、青キジは全身が黒く輝いていて武装色の覇気で硬化しているんだ。たぶん、ムジカちゃんを警戒して使ったんだろうけど、私が一度引っ込めたのを見て、青キジも解除した。

 

 やっぱり、だいぶ体力がもっていかれた。

 見聞色の覇気もエネル以上の格上っぽくて、こっちの内心の焦りもお見通しって感じなのがホントくるものがあるね。

 

「さて、どうしたものか」

 

 私たちを前にダラけきっていて、まるで赤子の手をひねるみたいな態度になった。

 

「賞金首を4人とっ捕まえて、わざわざ護送船を待つのもな。あー、何人か残して殺しておけばいいか」

 

 心底面倒くさそうに、青キジはヒエヒエの冷気によって、残っていた火を全部吹き飛ばした。あれだけ強いのに、本気を出すまでもないって感じかな。

 

「ちくしょう! こんなの勝てるかよ!?」

 

お前ら! 死ぬ覚悟で構えろ! 一味の瀬戸際だぞ!

 

 ゾロの一喝で、本能で思わず逃げようとしてしまったウソップの足が止まる。

 

 そして私たちも気を引き締め直す。私たちが相手をしているのは、世界でも最上位の強さなんだ。体術や覇気だけじゃなくて、例えばさっき海を全て凍らせた技をこの場で出すことだってできるんだよね。

 

 流れる冷や汗が、頬を突き刺すように凍えさせる。

 

「あららら、まだやる気なんだな。こいつらを囮にして逃げるか、ニコ・ロビン?」

 

「私が目的なら、さっさと殺せばいいじゃない!!」

 

 ロビンが犠牲になって死にたいみたいじゃん。

 そんなの私もルフィも許さないけどね。

 

 さて、どうにかして、この場を切り抜けないといけないけど。

 

「ウタ! さっきのやつで合わせてくれ!」

 

 その背中を見つめるけど、本気なのよね。

 

「それは……ごめん、できない」

 

 今度ばかりは辛いことを選ばせてくる。私が貴方を傷つけるために歌うことなんてできるわけがないじゃない。

 

「頼む。もう後悔はしたくない」

 

 そう言ってルフィは麦わら帽子を脱いで、私に向かって投げてくる。古い麦わら帽子は傷だらけで、これからもいっぱい無茶するんだろうな。

 

 不格好だけど、私は自分の麦わら帽子を背中側に回してから、もう1つ帽子を被っておく。

 

「避けるのは簡単だが、まあ、なんだ。やってみるといい」

 

「……ギア2!!」

 

 身体は赤く、心を燃やすようにルフィは飛び込んでいく。

 私は力を振り絞って、ムジカちゃんをもう一度顕現する。

 

「武装!……ッ!!」

 

 ごめん、ルフィ。

 私のせいでルフィが伸ばした右腕が発火する。

 

「うおおおおおおお!!!」

 

 ルフィだって痛いことはちゃんと辛いのに、それでも突き進んでいく。メラメラと燃える腕を一度伸ばして、ゴムの反発力でその拳が青キジへ向かっていく。

 

ゴムゴムの火拳ッ!!

 

 氷を溶かしながら、ドンッとピストルを叩き込んだ。

 

 私は唇をギュって噛んで、戦いの最中に泣かないように頑張る。

 

 今回は確かに、青キジの身体はさっきみたいに氷塊にならず、確かに実体を捉えることができていた。クロコダイルに水や血を使ってダメージが通ったように、エネルにゴムの性質でダメージが通ったように、氷の自然系だって対抗策がなかったわけだけど。

 

「ぁ……」

 

「女を泣かせてまで勝てない戦いに挑もうとするか、ルーキー?」

 

 青キジの武装色の覇気を超えられず、傷1つついていなかった。

 

「く、くそっ!」

 

  暴風雨(ストーム)に移るべく、打ち上げようとするも右足はただ氷を砕くだけで。

 

「ギ、ギア3……」

 

 呆然とルフィは、あんな目の前でギア3を発動しようとしてしまっている。まだ右腕のメラメラと燃える火を絶やさないように、左手の指を噛んで腕に空気を送り込もうとする。

 

お前の負けだ、モンキー・D・ルフィ

 

「がぁぁぁぁぁぁ!!!?」

「ルフィ!?」

 

 その前に右腕が掴まれて、腕を燃やす火もろとも凍らされた。

 

「ルフィから離れて!」

 

「あららら、まるで俺が悪者じゃないの」

 

 私もギア2を発動させて、赤く燃える大剣で斬りかかる。

 でも、いとも簡単に氷で造形された剣に止められた。

 

 お互いに純粋の剣士じゃないとはいえ、込められた覇気の違いが大きすぎる。それに、もうムジカちゃんを出す余裕もなくて、心臓がドクドクと鳴って私のギア2は代償が大きすぎるわりに、大した強化でもない。

 

「感謝してほしいくらいだがな。あのまま燃えたままだったら、右腕が使いものにならなくなっていただろ」

 

「きゃっ!?」

「ウタ…… 大丈夫か……」

 

 五線譜で創った赤い大剣が弾かれて、私は地面に転がってしまう。駆けつけてくれたルフィの右腕は凍りついたままダラリと下がっている。早く溶かさないと、たぶん凍傷が悪化しちゃうのに。

 

「ルフィ! 一度下がれ!」

「俺たちが時間を稼ぐ!」

 

 ゾロとサンジが救援に動いてくれるけど。

 

「今の俺たちじゃ、こいつに……勝てねぇ!

 俺が一騎打ちで時間を稼ぐからお前らは!?」

 

 船長がそんな命令をしても、仲間を犠牲にして生き延びようとするなんて船員は誰もいないっての。

 

 私はサンジとゾロに加勢するべく立ち上がるけど、ムジカちゃんやギア2の消耗が激しくて、フラついてしまう。

 

「いい仲間に出会ったな、ニコ・ロビン」

 

「わ、私は……」

 

 ロビンが何も言えないのを嘲笑うように、青キジは低い声で『だがいつもお前は周りを不幸にする』と告げる。

 

 そして。

 

氷河時代(アイス・エイジ)

 

 こんなの、いくら見聞色の覇気で読んでいても避けられるはずがない。

 

「なっ!?」

「クソッ!?」

「やめろぉーーー!」

 

「……ぇ」

 

 たぶん、私の身体はルフィに突き飛ばされた。

 そして瞬きしてしまった間に。

 

「ルフィ……? 生きてる、よね……?」

 

 私を助けようと必死な表情のまま、ルフィが氷像になってしまっていたんだ。

 

 慌てて私は、ルフィの冷たくなっていく身体へ耳を近づける。

 

「サンジ君! ゾロまで!?」

「放っておけば凍傷どころじゃ済まないぞ!?」

「あの3人がやられた……終わりだ……」

 

 よかった、まだルフィの鼓動はかすかに聴こえる。

 でもどんどん小さくなっていっちゃってる。

 

「まっ、こいつら3人は丈夫だから、ちゃんと解凍すれば生きてるだろ。ただ、割れやすくなってるんで、取り扱いには注意だ。おっと……」

 

()らないで

 

   いつも世界は私たちから奪うんだ。

 

 サボの時だってそうだった。

 

   こんな世界から消えればいいのに。

 

 ルフィが生きている世界だよ。

 

 なら生きないといけないわね。

 

「一戦交えるかしら、海軍大将?」

 

「おやおや?」

 

 わざと外そうとしていたとはいえ、ルフィを蹴ろうとする素振りを見せた青キジを、私が軽く蹴り飛ばす。こっちは武装硬化で武装色の覇気だって込めたというのに、全く痛がっている様子がないわね。

 

「なるほど。スモーカーが警戒していたのはそっちの顔か」

 

 この島全体を凍らせることだってできる程のヒエヒエの実の能力、それだけではなくて覇気も相当に磨かれている。とはいえ、迷いが生じているから、一騎打ちでもまだつけ入る隙はあるはず。

 

 とはいえ、このまま戦うことになれば、すでに消耗している身体が持つかどうかだけじゃなくて、ナミたちも確実に巻き込まれるわね。

 

「……自転車が壊れたら帰りが面倒だな」

 

「あら、いいのかしら?」

 

 まさか賞金首を4人も見逃してくれるなんて、相変わらず悪運が強いわ。

 

「あー、あれだ、貸しを返したんだ。クロコダイルの一件はこれでチャラにしてもらう」

 

 でっち上げの理由で、真意は分からないけれど。

 ともかく、コートを拾った青キジは背を向けた。

 

「ただし次はないぞ、ニコ・ロビン?」

 

「……二度と出会わないことを祈るわ」

 

 ロビンが私たちの船に乗ってこの先の海へ進む以上、必ず出会うことになるでしょうね。

 

 さてと。

 悠々と青キジが自転車へ乗って氷を滑っていく。

 

 

「あっ…… えっと、なんとかなった?」

 

「……ええ。気まぐれ、かしら?」

「「「とにかくよかった~~」」」

 

 なんとか、今までで最大の危機は切り抜けられたのかな。クロコダイルの時も助けてもらって、たぶん今回も助けてくれたのかな。天使ちゃんには自分を超えろと言われていても、ちょっと自信を失いそうかも。

 

 強くならなきゃだけど、まずやるべきことは。

 

「ねぇチョッパー、ルフィたちはどうすれば?」

 

「ま、まずは船に運ぼう。それで常温の水でゆっくり溶かすんだ」

 

 チョッパーも氷漬けの人の治療は経験がないみたいで、不安そうな表情をしている。私だって小さな鼓動が聞こえなかったら、3人が生きてる状態とは思えないもん。

 

「船の水じゃ全く足りないわ。サンジ君とゾロは、海で溶かしましょう」

 

「そ、そうだな! チョッパー、ゾロを運んでくれるか?」

 

「ロビン、その……ルフィを運ぶの手伝ってくれる?」

 

「え、ええ……」

 

 とてつもない無力感を味わいながらも、ルフィたちを助けるべく私たちは行動を起こした。

 

 ルフィの右手、火傷も痛々しいんだろう。

 私が弱いせいで。

 

 

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