魔女と死神   作:三文小説家

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 存在は死んだら、何処へ行く。

 死神が死んだら、何処へ行く。


墜落と鳥

 リコードと別れた後、ドルチェットは同伴者を伴ってタウファクトの地下水道に赴いていた。ここは『蜘蛛』の死神の管理が行き届いていない区域であり、身を隠すには適している。結果的にとはいえ治安維持に貢献している『蜘蛛』だが、この水道は例外。なにせ、あまりに広く複雑である為、正確な全容を把握している者は皆無なのである。

 『蜘蛛』の八つの目を以てしても完璧ではないのだ。リュトは『蜘蛛』が外敵を見逃すはずがないと言っていたが、内部で発生した敵は時に見逃す。

 

「辛気くせえ場所。だがまあ、後ろめたい事をするなら持って来いってな」

「そうね。こんなに複雑な構造なら貴方にはとても覚えられないでしょうね」

「鳥頭ってか! だが流石に反論する気にもならねえぜ。お前だって来たことあっても全部は知らねえんだろ?」

 

 ドルチェットは鳥の姿をした同伴者に微笑む。彼女と話しているのは『鳥』の死神―『処刑者』にも数えられているコントラスだ。空を飛ぶ『鳥』にとって『墜落』は忌むべき存在だが、よくドルチェットの方からコントラスに絡むのである。飛行という行為には常に落ちるという影が付き纏い、永遠に飛び続ける事は出来ないという摂理の現れだろうか。

 

 コントラスは一度近くを旋回して、住み着いている魔物を視認した。

 

「言うまでもねえが、俺は此処に来るのは初めてだ。つまりぃ? お前がやられりゃ俺もおじゃんだ! 死ぬまでここから出られねえ。方向見失うくらいなら戦闘ガン無視で逃げたって良い。迷子になるよかよっぽどマシだ。どうする? 逃げる?」

 

 目の前に現れたアンガーやレイジを見て、ドルチェットは鼻で笑う。

 

「彼らは見逃してくれる気は無いみたいよ。それに、一々魔物風情の顔色伺って探索なんて非効率な事やってられないわ」

 

 コントラスは銃を構えたレイジを雷撃で撃ち落としながら軽口を叩く。

 

「オーケイ『墜落』ちゃん。シャローム(カラス)追っかけて不思議の国に行く無垢な少女……無垢でも少女って柄でもねえか? まあいい、案内してやらあ!?」

「女性の前で年齢を話題に出すものじゃないわ」

 

 コントラスが現代の人間達に受けているらしい物語を引き合いに出してドルチェットを揶揄うが、気分を害した彼女から一発お見舞いされてしまった。

 

 そんな彼女の手にはリュトの物とは違う二丁拳銃が握られている。それぞれの銃から散発ずつダイスが放たれ、計六つのダイスが水路内を舞う。そして、

 

「あら、両方ともダブル止まり。まあいいわ。〝落ちる〟感覚を味わいなさい」

 

 ドルチェットの言葉の直後、チップが降り注ぎ強烈な重力が魔物達に掛かる。立つことすら覚束なくなった魔物達に、容赦なくコントラスの雷が直撃した。

 

「ダブルでこれかい……トリプル揃ったらどうなっちまうのかねえ」

「潰れちゃうかもしれないわね」

「おっかねえ……」

「あら、貴方もさっき『痺れな豚ヤロー!』とか言ってたじゃない」

 

 どっちもどっちである。と、もはや処刑者の間では日常と化している憎まれ口が終わる頃、新たな敵が姿を現した。見た目は白く神々しいエイと言ったところか。魔物の名前は〝エンラプチャー〟。水道や水脈に発生する魔物だ。

 

「飛んでる奴は貴方の担当、でしょ? 頑張ってね?」

「いや、アンタも頑張って下さいっての」

 

 むしろ飛んでる奴は落としやすいだろうが、と思うコントラスであった。エンラプチャーが飛ばしてくる雷撃を回避、相殺しながら的確にエンラプチャーの弱点である炎を発射していく。そして、そこにドルチェットの銃撃が合間を縫ってエンラプチャー……ではなく敵の攻撃に命中する。

 

「5,1,5、合わせて11。良い目が出たわね」

 

 ダブルが揃ったため、エンラプチャー達はチップの落ちる音と共に過重力が掛かり、更に出目の合計が11以上であったため、ダイスやチップが物理的な衝撃を伴って落下する。

 

「一応聞くが、ダイスの目が10以下だった場合どうなっちまうワケ」

「あら、貴方もよく知ってるでしょう? 敵が強化されるわ」

「大事な場面で(おもむろ)に使うなよソレェ!?」

 

 仮に強敵との戦闘中に出目を外されたらたまったものでは無い。ただでさえ強い敵が更に強化されるというのだから。基本的に軽薄な態度で物を考えるコントラスだが、こればかりは笑えない。

 

「さあ、どうかしら? 私はここぞという時に賭けるのが大好きだもの」

「一人の時にやってくれねえかなぁ……」

 

 コントラスが引き続きボケる中、ドルチェットは意味ありげな笑みを浮かべる。

 

(ええ、敵は強化される。尤も、その強化を使いこなせればの話なのだけれど)

 

 エンラプチャー達の死体を一応回収しながら地下水道を進んでいく二体の死神。上がり、下がり、右へ左へと複雑な道を進んでいく。

 

「わりぃ、もう道忘れたぜ」

「はぁ? 予想してたとはいえもう少し頑張りなさいよ鳥頭」

「いや、無理だ。そもそも俺は空飛んでんだからだいたいの方角さえ覚えときゃ何とかなる。そもそも道っつう概念すら慣れねえんだ」

「空にだって道はあるでしょうに。このポンコツ」

 

 斥候役に連れてきたが、思った以上に役に立たないかもしれないと後悔するドルチェット。とりあえず、道はドルチェットが覚えているので帰りは何とかなるが。

 ただ、コントラスは飛んでいる以上通路の形は無視できる。おまけにドルチェットと比べて身体も小さいため、更に自由が利く。

 

「というか、アンタだって空飛べるんだからご自分で行ったらどうなの」

「それも考えたんだけどね。あのダクトの向こう側とか、私じゃ無理だわ」

「行けってか。風送り用の羽とか動いてねえだろうなぁ」

「動いてたら戻っていらっしゃい。別の方法を考えるわ」

 

 コントラスは今は機能を失っているダクトを通り、ドルチェットの行方を塞ぐ開閉式のシャッターの向こう側へ行く。そして、コントラスの方でドアロックを操作しドルチェットの道を開けた。

 

「へえ……俺がいないとダメねえ」

「ありがとう。ここを探索するには貴方か『狩り』の協力が必須なのよねえ。勿論、他にもできる人はいるでしょうけど、すぐに協力してくれるのがね……」

「なんで『狩り』? ああ、ブラックドッグか……」

 

 ドルチェットの知る中で、死神の監視者であるブラックドッグが付けられているのはリュトを含め数体だけである。一応、闇の組織の頭目として動いているドルチェットにすらブラックドッグが付いていない事を考えると、如何に例外的な措置であるかがよく分かる。

 

 一方、コントラスは鳥の羽根があしらわれた帽子を被り、動物の皮で作られた服を着た貴族の狩人の姿をした『狩り』の死神を思い浮かべていた。

 

 狩る側と狩られる側ではあるものの、二人の中はそれほど悪くはない。尤も、リュトの方は時折鬱陶しそうにしているが。

 

「まあ、アイツ荒れてたもんなあ。『歌』が死んだ後は特に」

「本人は無自覚でしょうけどね。だからこそ、ブラックドッグが付けられた」

「アイツ強えしなあ。他の奴らなら鎮圧もできっけど、処刑者最強はヤベえって! わざわざ『月』が危険視するだけの事はあるってこったな」

 

 なお、二人の中では死神の中で最強なのは『狩り』の死神であるリュトと『昨日』の死神であるリコードだった。死神対死神の闘いでも負けは無く、上位の魔物との闘いでも八面六臂の大活躍なのがこの二人である。

 無論、環境や敵との相性次第で多少変動はするだろうが、単騎の戦闘力という点でリュトとリコードは突出していた。

 

「『王』の『月』への反乱も、『蝶』や『血』の暴走時も、あの二人にはお世話になったわ」

「俺なんて『鳥』だから狩られるだけよ。それにしても、案外処刑者って前科者多いのねえ」

「だから手元に置いとくために処刑者にしてるのよ。勿論、『月』が寛大っていうのもあるわ」

 

 ついでに言えば、絶対者とも言える力を持つ『月』の死神にとって、他の死神の反乱や暴走など些事に等しいからでもある。人間に例えれば、決まった時期や数日おきに起こる雨などと似たような物であろうか。

 

「だけどまあ、強すぎるせいで月にしかいられないってのも不憫なこって……」

「……実際、そういうことを言ってたわね。処刑者を選定したのは、自分を恐れない話し相手が欲しかったのかも」

 

 歩くだけで世界が壊れてしまう『月』の死神。そんな存在は影響を及ぼさない他の天体に住むしかない。永遠に等しい寿命の中、孤独に過ごすしかないのだ。

 

 『月』の死神の性格自体はかなり善良で、ドルチェットやリコードからすればやや単純なきらいがある。そのおかげで力に託けて他者を見下したりしないのは間違いなく利点だが。

 その昔、リュトが当時の伴侶であったアリアを連れて行った時も快く出迎えていた。

 

「そうね。だから私は思うのよ。好きって、優しさって絶望だって」

 

 コントラスによってスイッチが起動し、下からせりあがった通路を歩きながらドルチェットは吐き捨てる。生命がいずれ死ぬなら、優しさゆえに孤独となるなら、好きだから死を許容しなければならないなら、それは絶望だ。

 

「私は死神という、処刑者というシステムに則って生きると決めたけど、本質はただ、自分が傷つきたくないだけなのかもしれないわね」

 

 敵の生死や自分の権能をギャンブルのように扱うのも、死が確率論的に無常に訪れる事を認識したいがためなのかもしれない。本人は自身の趣味嗜好によるものと思っているが。

 

 死神としての在り方を自問する傍ら、目的とする場所に着いたようである。以前にリコードに解説したシャロームという組織の活動拠点の一つが地下水道の一角であるこの部屋なのだ。

 

「誰もいねえ……」

「ええ、不気味なほどね。今回は罠か……ハズレかしら」

 

 あまりセキュリティに力を入れていないどころか、人員の一人も配置していない所を見ると大した情報は置いていないか、そもそも罠に嵌める目的かもしれない。処刑者とて全能ではない。罠というのは建設的な案と言えよう。

 

「一応、これ見よがしに放置してある資料を読んでみようじゃない」

 

 ドルチェットがそう言って紙束を取ると、彼女の背後から矢が飛んできた。

 

「『蝶』の暴走に『王』の反逆、その他死神の不祥事がどっさり。後はまあ、人間の死とか国の滅亡とか……そんな感じの内容ね」

 

 しかしドルチェットには命中しなかった。それどころか、クルリと矢が向きを変えて発射されたと思しき場所に戻っていった。見れば、ドルチェットの背中にルーレットのような模様が浮かび上がっている。

 どうやら、ルーレットで物の軌道を変えたらしい。

 

「重力を介した物体操作……えげつねえ事しやがる」

「お褒めの言葉ありがとう。見れる資料は全部見たけど、どうやら死神にとって不利な情報を集めてたみたいね」

 

 資料を見せられたコントラスは内容を吟味して首を捻った。

 

「ん? 死神に関しちゃ人間共に公開されてる情報ばっかじゃねえか。今更言いふらした所で意味なんかないんじゃねえの?」

「当時の事を知っている人間からすればそうでしょうね。でも、人間の寿命は私達より短い。世代交代を繰り返せば記憶も恐怖も薄れるわ。わざわざ調べない限り、歴史も知らないでしょうし」

 

 中には死神が世界の均衡を保つために人類を攻撃した物も多い。確かに、事前知識なしで公表されれば印象悪化は免れない。

 

「どうすんだよコレ……聞く限りかなり厄介なんじゃねえのん?」

「まあ、これについてはどうにかするわ。裏社会の力を極限まで濫用する。むしろ得意分野よ」

「〝濫用〟すんのかよ……まあ、正攻法でどうにかなる相手でもねえしなあ」

「チップやカードを持ってるのが自分達だけだと思い上がっている人間達にお灸をすえるのが楽しみね」

 

 ドルチェットが黒い表情で黒い話をしていると、背後に何者かの気配が現れる。振り返れば、虚空から滲み出るように魔物が現れる。その姿はボロ布を纏ったシャレコウベ。しかし、下半身は植物の根が歪に伸びたように絡まり、内部には人間の頭蓋骨が複数捕らわれている。なお、お決まりのように体色は不気味なほど白い。

 

「おっと魔物だ。あの姿から見るにオブヴィアスか……」

「しかも、魂を見るに人間が混ざってるわね」

「魔物とって事か? あり得るのかよ」

 

 ドルチェットが死神の目で相手を見た所、衝撃の情報が明らかになる。魔物とは歪みが顕現したもの。これまで、既存の生物や物質と混ざる事など無かった。

 

(ヴィオラちゃんみたいなイレギュラーが存在する以上、あり得ないとは言い切れないわね。歪みを正常に近づけたのか、それともその逆か……調べる必要があるわ)

 

 だが、思考するドルチェットにオブヴィアスが魔法の矢を放つ。先のトラップとは違い、こちらは物理法則をある程度無視して相手に攻撃できる。すなわち、ドルチェットの重力操作は効果が薄い。素直に回避するべきだ。

 

「少し面倒ね」

 

 矢を回避するために首を傾げた状態で言葉を発するドルチェット。その横をコントラスが颯爽と飛ぶ。

 

「確かにドルちゃんとは相性ワリィ奴だな。ここは俺に任せとけって」

 

 そう言ってコントラスは炎を纏い、更に炎で作り出した分身を従えてオブヴィアスに突撃する。衝突と同時に大きな爆発が起こり、オブヴィアスが爆炎に包まれる。しかし、実態を持つ亡霊は魔力の剣で炎を切り裂き、ドルチェットを狙う。

 

「チッ、流石に一発じゃ死なねえか。にしても、随分とお前さんにご執心じゃねえの。怨み買った覚えアル? それか付き合ってた記憶は?」

「どうせなら前者が良いわね。愛してるなんて脅迫を言う奴、私嫌いよ」

「難儀な女だねェ……」

 

 ドルチェットは銃からダイスを射出してオブヴィアスを迎え撃つ。更に、両手から大量のチップを放り投げ、尾を引くほどの高速でオブヴィアスに飛来させる。

 

「ただ重力を操るだけじゃないのよ」

 

 相手の斬撃を銃でいなし、最後に銃のグリップで殴打する。無論、重力で衝撃を増強した上で。

 

「ヒュー。やるじゃねえのよ」

「よそ見しちゃ駄目よ」

「あ? おっと……」

 

 コントラスは背後から飛んできた矢を旋回して避ける。オブヴィアスは大量の矢をつがえると、二人よりも高い位置に移動する。

 

「バカと何とかは高い所が好きってか? 叩き落してやれよ」

「言われずとも」

 

 ドルチェットが三つのダイスを射出する間、コントラスはオブヴィアスの矢を雷で撃ち落としていた。そしてダイスの目は、

 

「4,4,4.ジャックポットね」

 

 ドルチェットはそう言うと、オブヴィアスに向けて銃撃する。放たれたダイスに合わせて展開された重力は針か光線のように相手を貫通する。更に、オブヴィアスの頭上から大量のチップが降り注いだ。一つ一つがかなりの威力を誇り、更に広範囲の過重力も加わる。オブヴィアスは耐えきれずに屈した。

 

「貴様ラニ……苦痛ヲ……貴様ラニ……死ヲ……」

 

 僅かに人間としての理性が残っていたのか、最期に死神に対する憎悪の言葉を吐いた。

 

「ええ、死んであげるわ。時が来ればね」

 

 全ての存在はいずれ死に、滅びる。その時が来たら喜んで死のう。ドルチェットはこの後の予定を立てながらそう返した。

 




 新キャラ、『鳥』の死神コントラス。〝鳥葬〟という物が存在するのでイメージしやすいかと。性格はかなり明るい感じで、時々うるさい。性別は男(オス?)で、ドストレートに鳥の姿。何人かいる賑やかし担当。

 ついでに、ドルチェットの裏モチーフはギャンブラーです(表モチーフは勿論『墜落』)。ハイファンタジーと銘打っている以上、現実世界の用語を出すべきではないのかもしれませんが、彼女のキャラ付けのためにこれからも登場します。因みに、ルーレットなどは別のファンタジー小説にも登場していました。

 なお、ドルチェットの司る概念は〝命を落とす〟から着想を得ました。
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