魔女と死神   作:三文小説家

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 主人公以外の話も書いていきたいところ。


復讐の機械騎士

「わーお、魔界って何でもありだねえ。こうして地形まで変えちゃうんだから」

「感心してる場合か『冬』! 下に落ちたら全員お終いだぞ!」

「あら、この程度、問題にもならないわ」

 

 軽口を叩き合うリュトとアコーディア。リュト達の歩いている地面が突如切断されたように離れ離れとなり、危うく全員落ちるところだったのだ。

 

「いやー、そうは言うけどリュトだって余裕そうじゃん? こんな時にいちゃついてるんだし」

「別にいちゃついてるわけじゃねえよ」

「あ、う、ごめんね」

 

 処刑者達は鍵縄、氷、時空移動等の各々の方法で切り抜けたものの、アリアだけはそれらの手段を持たず、咄嗟にリュトにしがみついたのである。

 

(にしても戦地のど真ん中で恋に落ちなくたって……)

(場所なんてね? 関係ないのよ。家畜市場の前で恋に落ちたって奴知ってるもの私)

(後ろの動きがうるせえ)

 

 アコーディアがニヤニヤとした表情で見てくるためリュトとしては非常に鬱陶しいのだが、それを臆面もなく表情に出したことで、非難されたと勘違いしたアリアがしゅんと落ち込んでしまう。やはり自分が足手纏いになっているという意識が有るのだろう。

 

 リュトに対してはかなり遠慮のない態度を取っていたが、それでもリュトの邪魔をしたいわけではないのだ。

 

「あらあら……女の子を泣かせるなんて、男の風上にも置けないわね」

「お前マジお前一回ボコしていいか!?」

 

 リコードに律義に中指を立てながらアリアをどうフォローするか悩むリュト。ひとまず後ろのガヤ二人は完全に無視する事に決めてアリアの頭を撫でた。

 

「っ……」

「別に足手纏いだとは思ってねえよ。そもそもお前は『歌』の死神だ。『鳥』でも『蝶』でもねえ。空が飛べないからって責めやしねえさ」

「でも、凄く不機嫌そうな顔してた」

「後ろのバカ二人に向ける顔としちゃ充分だろ。あと俺は元からこういう顔だ」

「じゃあ、怒ってないの? 嫌いになってない?」

「木に登る事だけを評価基準にしたら、魚は一生自分が無能だと勘違いして生きる事になるだろうが。俺はそこまで馬鹿でも狭量でもねえ」

 

 リュトとしては至極真っ当な論理でアリアを諭しているつもりなのだが、アリアの頬は言葉の量に比例して染まっていく。理由は簡単だ。リュトが話している間、ずっとアリアの頭を撫でていたのである。

 

 なお、リュトとしては完全にヤケクソである。とりあえず頭撫でておけば治まるだろう程度の感情しかない。人間に分かる範囲で例えるならば、膝の上で猫を寝かしつけているようなものであろうか。

 

 そもそも名前で呼ばせる程度の好感度はある以上、頭を撫でたくらいで顰蹙は買わないだろう。

 

(ごく自然な動きで頭撫でたね、リュト)

(時々ああいうことするわよね、アイツ)

(青春のセンチメンタリズムだねえ。お姉さんは懐かしいよ)

(アンタお姉さんって年かしら)

(喧しいよ、おばあちゃん。一応死神の中では若い方なんだからね!)

「あ……ありがとう……でも、その、ずっと頭を撫でられるのはちょっと恥ずかしいかな……」

「……悪い」

 

 リュトとアリアの間に気まずい沈黙が流れるが、なんにせよ、とりあえずアリアは立ち直ったので良しとしよう。と意識を切り替えた。今はこの魔界を出る事が先決だ。あと後ろで堂々と出歯亀をしている二人をどう処理しようかと悩んでもいた。

 

「さて、どの道にしようかな……て、おお?」

「アコーディアさん!?」

 

 再びリュト達の乗る床が分断され、アコーディアが一人隔離されてしまった。

 

「あらあら……そっちを片付けたらまた会いましょう」

「え? なんでそんな朗らかに会話してるんですか!?」

「アイツなら大丈夫だ。氷河が消えるほどに世界が温まっちまったら分からないが……この程度なら苦境の内にも入りゃしねえ。それより……」

 

 リュトが残った道の先を見れば魔物が湧いている。どうやらこちらも逃がすつもりは無いらしい。

 

「隠れてろ、アリア。アイツ等は俺達で頂く」

「あら、いつになくやる気じゃない」

「テメエと一緒にすんな『昨日』。俺は元から獲物を狩る死神だ」

 

 アリアが物陰に隠れた後、敵を見据えて不敵な笑みと面倒という感情を隠しもしない表情を浮かべた処刑者最強の二柱は敵の殲滅にかかった。

 

 

 

 

 

「さーて、何処に連れていかれるのかなっと」

 

 一方、一人隔離されたアコーディアは尚も余裕の表情を崩さずに周りを見回す。すると、彼女の乗る床に飛来する者がいた。

 

「へえ? 今度は君がボクの相手をしてくれるのかい?」

 

 戦士にしては華奢な身体に、片翼と長刀を持つ機械に身を包んだ人間にアコーディアは話しかける。

 

「『冬』の死神……貴様だけは、私が殺す!」

 

 アコーディアは彼女(声から察するに女性)の言葉に首を傾げた。随分と怨み骨髄に入っているようだが、アコーディアの方に女性との面識はない。処刑者という立場上、人の怨みはよく買うが、流石に一度も会ったことの無い相手では心当たりが咄嗟に思い浮かばなかった。

 

「私の名前はマリー・フェルマータ。この姓に覚えが無いとは言わせないぞ。お前が裏切りの果てに殺したルーカス・フェルマータの娘だ!」

 

 マリーと名乗る女性の鋭い声に「ははぁ」と感心したが、アコーディアの表情は変わらない。閉じているのではないかと錯覚する細い目も、普段はホットミルクが運ばれる口も何も動じない。

 

「それで? 君はルーカスの仇を取るために、こんな野蛮な国に協力してまでボクを殺そうとしているのかい。……彼は最低限の品性は備えていたと記憶しているんだけど」

「黙れ!! 父を裏切った貴様に品性などと語る資格はない! 貴様を殺す力を得られるならば、安い物だ!!」

 

 マリーが連呼する『裏切り』という単語に、アコーディアは辟易とした表情となる。嘗てアコーディアは研究者であるルーカスと友人だった。そして、アコーディアが彼を殺した。

 

「裏切り……と来たか。まあ、キミタチから見ればそう見えるんだろうね。立場が違えば真実も違う」

「よくもまあヌケヌケと……貴様が父の研究が生み出す利益に目が眩み、友人であった父を殺して簒奪したのだろうが!」

「へえ、アイツの研究ってそんなに価値が有ったんだ。なら焼却せずに売り飛ばせばよかったかな」

「貴様……!」

 

 憎悪を滾らせるマリーとは対照的に、アコーディアの内心は非常に冷めていた。親子そろって手のかかる奴らだと溜息を吐きたい気分である。

 

「一つだけ訂正しておくけど、ボクがルーカスを殺したのは〝処刑者〟としての役割だ。アイツの研究は世界を滅ぼす代物だった。だからボクが殺したのさ」

「…………」

「まあ、キミにはボクを詰る権利があると思うよ。ボクに何ができるわけでもないけどね」

 

 ――――ああ、全く、馬鹿だよ。キミは。

 ――――世界を滅ぼそうとするキミを、ボクが見逃せるわけないじゃないか。

 ――――もう終わりにしよう、ルーカス。せめて、ボクがその苦しみから解き放ってあげる。

 

 壊れてしまった嘗ての友人と全く同じ顔をした娘を見て、『昨日』となってしまった過去は戻らないのだなと、場違いの感慨にアコーディアは耽った。

 

「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!! この上嘘を塗りたくるのか! 薄汚い死神が!!」

「信じないか。まあ、言ってみただけだよ。どちらにしろ、ボクがあの日の選択を後悔していないのは変わらない。良いよ。かかって来なよ。父親と同じように、〝処刑者〟として殺してあげる」

 

 これ以上の言葉は不要だった。マリーは目にも留まらぬ速さでアコーディアに肉薄すると同時に長刀を討ち付けてくる。

 

 アコーディアはそれを氷の剣でいなしながら、ルーカスは存外良い父親だったのだな、と考えていた。アコーディアから見た彼は良くも悪くも研究バカという印象であり、一緒に過ごすうちに時が経って結婚したと知らせは受けたが、家族の存在は断片的に聞かされた思い出しかない。当然、彼の妻にも娘にも面識はないし、マリーという名前自体初めて知った。

 

 いや、妻の方には面識はある。尤も、アレを知り合ったと言えるかは分からないが。

 

 そのため、ルーカスが研究室以外でどのように過ごしているのかは非常に謎であったが、少なくとも娘には慕われていたらしい。

 

 ならば、マリーの怨みは筋違いでもなんでもなく正当なものと言える。命令を下した『月』は「他の人に代わっても良いんだよ」と言っていたが、アコーディアは自分の意志でルーカスを殺したのだ。

 

(恨まずにはやっていられないって所かな。それが生きる目標になっちゃってるから、何を言っても止まらない。ボクの動機なんてどうでも良いし、真偽も同じ。闘うしかないね)

 

 足に氷のブレードを生成し、相手の剣戟を弾きながら、アコーディアは意識を冷徹な処刑者に切り替える。マリーはそのまま三度剣を叩きつけ、一度後ろに下がってから急接近して横薙ぎの一閃を加える。

 

 アコーディアは氷の双剣で全て三度の斬撃を弾くと、最後の横薙ぎは地面を凍らせて剣の下を滑りぬけ背後に回ってブレード付きの回し蹴りをお見舞いする。

 

「ぐう……!」

 

 マリーは対抗するように下段攻撃を繰り出すが、アコーディアは宙返りで躱す。更に氷の剣で刺突攻撃を返され、マリーは蹈鞴(たたら)を踏んだ。

 

「まだだ!」

 

 マリーは剣波を一筋飛ばすと、右側の肩甲骨から機械の翼を生やした。と、アコーディアが剣波を回避した直後にマリーに電流が走ったかと思うと彼女の姿が消失。一瞬後にアコーディアの背後に現れ、翼で斬りかかる。

 

「わお、武器にもなるんだね。それ」

「今のも躱すか。私の父もその澄ました顔で殺したのだろうな。友人という割に悲しそうな顔一つしない」

「生憎と絶望するにも才能が必要でね」

「抜かせ!」

 

 マリーは再び瞬間移動し、今度は敢えて正面から刺突攻撃を繰り出す。アコーディアがそれを弾くと再び瞬間移動し翼で斬りつけ、三度瞬間移動しては横薙ぎの一閃を撃ちつける。

 

(へえ、上手く使いこなしているじゃないか。でも……)

 

 アコーディアは瞬間移動の後隙を狙って氷の剣を突き出した。

 

「ぐっ……!」

 

 それはマリーの腹部に刺さり、さしもの彼女も苦痛の声を上げる。更にアコーディアは氷柱を撃ち出し追撃する。最後の氷柱だけは翼で防ぎ弾き返したが、マリーは少なくないダメージを負っている。

 

「言っておくけど、ボクだってルーカスの……ルカの事は怨んでいるんだ」

「何だと……?」

「彼があんな発明をしなければ、したところで思いとどまってくれれば、ボクは友人を失わずに済んだ」

 

 ルカというのは、ルーカスのあだ名である。ルーカスは優しく、そして探求心のある男であった。

 

 彼の研究テーマは生命。ざっくり言えば人間その他の寿命を延ばそうとしていた。別にこれだけならば死神の出る幕ではない。絶え間ない努力や進化によって寿命が延びる事は多いし、身も蓋も無い事を言えば最終的に死ぬのは変わらない。

 

「私の父は人を生かそうとしていた! 誰も非業の死を遂げる事がないように、寝る間も惜しんで研究していたんだ! それを貴様が殺した! 死を遠ざける事を嫌った死神が! 死に狂った化け物が!」

「違うよ。寿命が延びるだけならボク達だって止めはしない。ルカは好奇の狂熱に導かれるまま狂っていった。いつの間にか、全ての生命を殺す研究に変わってしまったんだ」

 

 マリーの動きが硬直する。研究ばかりではあったが、それでも家では優しかった父親。そんなルーカスが非人道の研究を行っていた。それはマリーの理解の範疇を超える情報だった。

 

「アイツの研究室には〝失敗作〟が溢れていたよ。一縷の望みを賭けた人間達を、ルカは消費していった。彼らは頭部が肥大し、光を失い、そして妊婦は奇形児を産んだ」

 

 アコーディアの脳もその状況を理解する事を拒んでいた。元は人道的な見地から始まった研究が何故こんな有様になったのやら。

 

 ――――殺してくれ。もう、殺してくれ。

 ――――こんなの私の子じゃない! 私の子を返して!

 ――――こんなところ、もう嫌だ。頭がおかしくなっちまうよ。

 

 アコーディアとて監視対象でもないルーカスに四六時中張り付いていたわけではない。『月』からの指令で彼の元に向かったみたらこの狂気の光景である。

 

 死者というには生者に見え、生者というには無理がある。寿命を延ばすという言葉の意味を、あくまで存在を残存させることだと考えたらどうだろう。つまるところ、ゾンビである。生者を死者にしようとしたか、はたまたその逆かは分からないが、いずれにせよルーカスは道を踏み外した。

 

 そして、優しく愚かな男であったルーカスは死神の地雷を悉く踏み抜いた。

 

 ――――これで皆苦しまずに済むぞ!

 

 彼の発明品は大量殺戮兵器だった。遺伝子を強制的に書き換える事により、ほぼ全ての生物を強制的に死滅させる。そう言った原理の発明品。アコーディアのどんな言葉も説得も涙も、ルーカスには一つも届かなかった。

 

「だから殺したのさ」

 

 ただ冷徹に殺すつもりだったマリーに思わず話してしまった真実。あの出来事は思いの外、アコーディアにもダメージが入っているらしい。

 

 なお、その話を聞いたマリーの表情は、

 

「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ! 薄汚い死神が! 何処まで人を馬鹿にすれば気が済む!」

 

 マリーはアコーディアの言葉を信じなかった。否、信じる事が出来なかったというべきか。まあ、証拠はない故に嘘だと断じてしまえば否定は出来ない。

 

「そういえば、記録を見る限り最初の被害者は君の母親だったらしいね。ルカを殺した後に会ったけれど、狂ってしまって、もはや自分も他人も認識出来ていなかった。遠方のゴタゴタを片付けるために数カ月離れただけであそこまで壊れるなんてね……」

「…………!」

 

 その事にはマリーも覚えが有った。ある日突然、母親が帰ってこなくなったことを。そして、狂ってしまった母親を。あれは死神のせいだと思っていたが、実は父親の仕業だった……?

 

 マリーの中でそんなことはあってはならなかった。

 

「ハハハ……アッハハハハハハハッハ!!!」

 

 突如、マリーが狂ったように笑い出す。というか実際狂っていた。

 

(この情報に精神が耐えられなかったか……)

 

 おそらく、心のどこかで無意識的に気づいてはいたのだろう。しかし、それを否定するためにアコーディアに全ての罪を擦り付けた。その支柱が壊れたマリーは精神が崩れ過ぎて完全に自暴自棄になってしまったようである。

 

「殺す! 殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス! お前だけは殺してやる!」

 

 マリーの背中から剣を持った腕や触手で構成された翼が歪に生える。何かしら限界突破したのかもしれない。

 

 アコーディアは自律神経を整えるために深呼吸してマリーを見据えた。

 

「ここまで清らかに狂えるのも才能かな……その精神に敬意を表して、少し本気で相手してあげるよ」

 

 アコーディアはそう言うと吹雪を引き起こした。

 

「かかって来な。クソガキ」

 




 まさかのマリー戦持ち越し。
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