魔女と死神   作:三文小説家

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 お久しぶりです。自分の書いた作品読み返したら、この作品が物凄く面白かったです(自画自賛)。


均衡

 魔力の空間を砕いて森を進むリュト達。百年殺しとも言える堂々巡りの空間を抜けると、途端に魔物達が現れた。

 

「〝フォーゴット〟か……」

 

 フォーゴットとはオブヴィアスと同じく幽霊のような見た目をした魔物だ。幽霊型の魔物は多数の種類がいるが、フォーゴットは変色したかのような緑色の布を纏っている。

 

 なお、アコーディアが出発前に話していたが、魔物の名前は時々流れ着く異世界の書物に登場する単語から名付けられているらしい。

 

「Sulav, ahsilel ea dulav.」

 

 ヴィオラが光の魔法で周囲を照らし、フォーゴットの弱体化を図る。ついでにリュトも弱体化するのだが、事前に相談したうえで問題ないと判断した。

 

「ナイス、ヴィオラちゃん。後はこの幽霊をシバくだけだね」

 

 アコーディアがそう言って氷の双剣で斬りかかる。フォーゴットは魔弾を飛ばしてくるが銃弾よりも遅いその攻撃に、アコーディアが当たる事は無い。右に左にと回避し、フォーゴットに一撃を与える。更にそのまま回転の勢いを利用して連続攻撃を加えた。

 

「リュト、交代」

「分かった」

 

 リュトはアコーディアと入れ替わり、大鎌で強力な斬撃を三発飛ばす。そのまま二撃、三撃と繋げ、魔弾を銃撃で撃ち落とす。優勢に思われたが、ここで闖入者が現れた。

 

「リュトさん!」

「安心しろ。気付いてる」

 

 リュトは銃を素早く弓に変形して、事前に姿を消して包囲していた敵達の間から飛びずさる。

 

「新手……」

「随分戦略的じゃない? 数も揃えて、前衛で固めて後衛を護るなんて」

 

 グラスハが目の前の状況を端的に分析し、リコードが戦況を分析する。

 

 新たに現れたのはオブリヴィオンという、これまた幽霊型の魔物だ。ゆっくりと迫ってくる魔弾を操るフォーゴットに対し、オブリヴィオンは魔力の剣を扱う前衛型。それが五体。そして、フォーゴットも追加され三体に増えた。基本的ではあるが、それ故に理に適った陣形である。

 

「魔物が随分と知恵を付けてまあ……」

「良いじゃねえか。俺としてはこれくらい歯ごたえのある戦いの方が楽しめるってもんだ」

「私としては楽に終わる方が良いんですけど……頑張りますね!」

「ヴィオラちゃん? 楽に終わる方が良いとか言いながら、その魔法薬の塊は何かしら?」

「……マッドサイエンティスト?」

「魔女です!」

 

 リュトが狼も斯くやという狂暴な表情で大鎌を構え、ヴィオラが鞄から魔法薬の瓶を幾つも取り出す。しかし、ヴィオラはマッドサイエンティストとは呼ばれたくないのか「魔女です」と訂正している。

 

「皆でお出迎えとは豪勢なこって。もてなされてやろうじゃねえか。まずは花火だな。ヴィオラ」

「了解です!」

 

 リュトの一声で、ヴィオラが手の仲の薬瓶を幽霊の軍団に向かってばら撒く。その薬瓶は敵に当たると同時に爆発した。

 

「ちょっと! 森なんだけど!?」

「大丈夫です! あくまで爆発するだけなので、炎上はしません!」

「本当?」

 

 実際ヴィオラの言う通り、炎上はしていない。あくまで爆発に特化した薬品であり、その爆発力は幽霊軍団を大きく怯ませる事に成功している。

 

「狩りの時間だ!」

「ボクも行くよ」

「今回は私も行こうかしら」

「なんだ? 随分な心変わりだな。終末時計の針が前進でもしたか?」

「だったら私が冷静すぎるじゃない」

 

 『狩り(リュト)』『(アコーディア)』『昨日(リコード)』の死神が爆発の直後に敵に突っ込む。リュトは大鎌を回転させ、オブリヴィオンの集団に斬りかかる。そしてそれを飛び越えてリコードが長剣を振り下ろし、アコーディアが合間を縫って氷の刃を飛ばした。

 

 オブリヴィオンが二人がかりで剣を振り下ろす。リーチの長い大鎌であれば、姿を消して懐に入れば大鎌を振らせずにリュトを倒せると判断したのだろう。しかし、リュトは瞬時に大鎌を手放して銃撃する。

 

「甘えよ。数を揃えたくらいで勝てるとでも思ったか? 罠を張るって発想は褒めてやるが、連携もリカバリーも遅え……『狩り』としてはお粗末にすぎるんだよ」

「そして、その過去が貴方達を殺す」

 

 リコードは写真機を眼前の敵に向ける。そしてスイッチを押すと、自分達が振り下ろした斬撃がオブリヴィオンを貫いた。これは『昨日』の死神の能力で、写真機で撮影した範囲の過去を現在の時間軸で現実化させるというものである。

 

 そして、空中で斬られた幽霊たちをヴィオラとグラスハが攻撃した。グラスハは『蝶』の死神だが、本質的には風を操ると言って遜色ない。頭上に蝶を召喚し、羽ばたきで竜巻を発生させる。アコーディアが発生させた吹雪も相まって殲滅力は相当なものだ。

 

 斯くして、幽霊軍団はその本領を一つも発揮できることなく潰えたのであった。

 

「あっという間でしたね……」

「……今回は相手が弱すぎた。緊張感すら生まれない」

「グラスハさん……今の敵、人間相手なら大慌てで上層部に報告して対策会議を練るレベルの存在なんですけど……」

 

 ヴィオラが控えめに指摘する。世間知らずな彼女だが、記憶力が無いわけではない。以前、行商人の馬車に乗せてもらった時にこの規模の魔物の集団を目撃した時、商人が大慌てで組合(ギルド)に報告して対策会議にかけられたことを思い出したのである。

 

「お前も一人で討伐出来そうだけどな」

「そういう問題じゃないです……」

 

 確かに、やろうと思えばヴィオラ一人でも討伐可能だが、時間がかかる。そもそも、この短時間でこの魔物達を討伐できる処刑者四人が強すぎるのだとヴィオラは言いたかった。しかし、アコーディアによると、それも違うらしい。

 

「逆だよ。人間達が弱すぎるんだ。あんまり老人みたいなことは言いたくないんだけど、昔と比べて弱体化が激しすぎる」

「まあ、そうね。でも、言っちゃなんだけど私達が原因でしょ?」

「そうなんですか!?」

「不本意だがな。昔は命だ世界だに手を出す馬鹿が多かった。当然、死神はソイツ等を処刑しなけりゃならねえ。その結果、主戦力が無くなった人間達は大幅に弱体化しちまった」

 

 ヴィオラは衝撃の歴史に言葉を失う。魔界が出ただけでパニックになる数百年前よりはマシになったが、それでも死神目線だと人間は弱いのだ。それも、死神達が人間を処刑しすぎたせいだとリコードは語る。

 

「確かにボク達も大勢の人間を殺したよ? でも、全てをボク達に押し付けられても困るって」

「えっと?」

「考えてもみなよ。魔物が発生する原因は世界に歪みが生じたから。そして、その歪みは命や世界の根底のシステムを弄ろうとした人間達が引き起こしたものだ。つまり―――」

「魔物が増えたそもそもの原因は、人間達……」

「そういうこと。まあ、リュトとリコードは殺した人数が多いから、責任感じてるんだろうね」

 

 アコーディアの言う通り、リュトとリコードは苦い顔をしていた。

 

「アレ以外に方法が無かったってのは結果論だろ」

「そうね。もう少し良い着地点があった気がするわ」

「無理だって。あの時代の人間の腐敗はキミタチも知ってるだろ」

「……私も『冬』に賛成。アイツ等はもうどうしようもなかった」

「グラスハの言う通りさ。あの時代、他人を裏切って一人前、みたいな風潮もあったしね。禁忌時代とか、暗黒時代とか色々言われてたけど、反論の術が見つからないくらいにはろくでもない時代だった」

「「…………」」

 

 無言でいるリュトとリコードに、アコーディアは溜息を吐いた。

 

「キミタチの弱点はその傲慢さだね。なまじ強い力を持ってるからか知らないけど……何でもかんでも自分達で解決できると思い上がるのは―――何?」

 

 熱弁を振るうアコーディアをヴィオラが止めた。

 

「私は、素敵だと思います。そういう傲慢さ。言い換えれば、優しさ、じゃないですか」

「……優しすぎるのは毒だと思うけどね。それも、後になって尾を引く遅効性の毒だ。或る意味劇毒よりも質が悪い」

「確かに、そうかもしれませんね。でも、私は好きですよ。その甘い毒も。それに、これは心を持たないが故の我儘なのかもしれませんけど、冷酷さだけが解決の手段だなんて、あまり信じたくありません」

 

 ヴィオラは心を持っていない。客観的に見て、冷酷さと傲慢さのどちらが悪いかなど判断が付かない。だが、それでも『優しさ』は悪ではないと思いたかった。一人旅の最中に触れたそれらが、悪いだけのものであるとは信じたくなかったのだ。これは謂わばエゴである事はヴィオラも分かっている。しかし、彼女はそのエゴを、自分よりも格上の相手にぶつけた。

 

「ありがとな。ヴィオラ」

 

 アコーディアが少し言葉に詰まっていると、リュトはヴィオラに礼を言って頭を撫でる。頬を赤くして俯くヴィオラに嬉しいような、悲しいような思いを抱きつつも、リュトはアコーディアに言い放つ。

 

「確かに俺達は傲慢だ。だがな、お前の言う方法論で俺達が一致したとしても、その先に有るのはお前の言う最低の時代が、今度は死神に訪れるだけだ。俺達が必要悪だ、なんて自惚れるつもりは無いが、考えることくらいは許してくれ。俺達みたいなのが見敵必殺になっちまえば、秒でこの世の生物が全滅しちまう」

「そうね。私は時空に直接干渉できる分、考える事も多い。いえ、考えなければならないのよ。最善の着地点を、最適な時間軸を考察する必要が有るの」

 

 リコードは他にも何かを言いたそうだったが、言葉を飲み込んだ。ただ、ある程度推察する事は出来る。時空に直接干渉する力を持つリコードが与えられた役割が何なのか。ついでに言えば、彼女はアコーディアの考え方にある程度は賛成する立場である。そして、『最適な時間軸』という言葉。少なくとも、この状況がある程度最適化されているということの証左である。それでも人間達がここまで弱体化するとは想定外だったようだが。

 

 いずれにせよ、アコーディアは折れることにした。

 

「……分かったよ。仕事はしてくれるし、小言はこの辺にしとく。レクイエムみたいなのが多数占めるよりマシだし」

「レクイエムさん?」

「ああ、うん、気にしなくていいよ。まあ、確かに処刑者全員が『Kill them all』とかになったらそれはそれで世界が滅びそうだしね。多少はリュトやリコードみたいな人員も必要だよね……」

 

 そこでヴィオラはある事に気付く。すなわち、

 

「人間のせいで滅びるか、死神のせいで滅びるかって……」

「うん。分かったでしょ? この世界はかなり危ない均衡の上で成り立ってる。想定される世界終焉シナリオの数が普通に四桁行くからね。ちゃんと数えたらそれ以上かも知んない」

「分かってはいるんだがな。これが『最善』だってのは。まだ状況は良い方だぜ。分かってはいるんだ」

 

 なお、この状況を調整するのに多大なる労力をかけた、現在遠い顔をしているリコードには、流石にリュトも酒を奢った。数百年物の超高級酒を。

 

「じゃあ、処刑者が人間に混ざって生活してるのって……」

「弱体化してる人間達に手を貸しつつ、世界終焉シナリオをちまちま潰してるわけね」

「……何なら『狩り』と『昨日』は概念縮小して弱体化して地上に馴染んでる」

「そんなことまでしてるんですか!? というか、本当はもっと強いんですか!?」

「本来の力でうろついたらそれこそ世界ぶっ壊れるからね。そこに関しては素直に尊敬してるよ。そうだね。傲慢も悪い事ばかりじゃない」

 

 と、死神達と魔女が雑談していると倒した魔物が起き上がっていた。それも、炎を纏って。

 

「……面倒くさいけどやるしかないわね」

「第二ラウンドか。まあ、不完全燃焼だしありがてえや」

「その切り替えの速さ好きだよ、ボク」

 

 再び死神達は武器を取った。

 




 リコードさん、実は一番の功労賞かもしれない。あと、この世界が本当に危うい。
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