魔女と死神   作:三文小説家

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残火の魔物

 リュトは燃える敵に対し、急接近して大鎌を振るう。更に跳躍して錐揉み回転し、弾丸の雨を浴びせる。フォーゴットが炎弾を放とうとするが、それをアコーディアがその身で受ける。

 

「アコーディアさん!」

「平気よ」

「良い炎だね。まるで暖炉のようだ」

 

 しかし、攻撃を喰らったアコーディアはダメージを負うどころか、むしろ生き生きとしていた。アコーディアは『冬』の死神である。『氷』ではなく『冬』なのだ。もちろん、氷や冷気も冬を構成する一要素ではあるが、それだけではない。暖を取るための焚火や暖炉も、重要な冬の要素だ。

 

 アコーディアは熱や炎を吸収する。そして、それを操ることも出来る。

 

「今まで通り、魔弾を撃って来たのなら、まだ勝ち目はあったかもしれないけどね……ボクに炎は効かないよ」

 

 アコーディアは吸収した炎を掌から放った。それで炎弾を相殺すると、地面を凍らせてスケートのように滑り、前衛を固めるオブリヴィオンに氷の蹴りを当てる。そこにすかさずリコードが長剣で斬りかかり、リュトが銃を組み合わせて変形させた弓で追撃する。

 

「凄い……て、こっちにも攻撃が来てます! Ahbrach freitz, guiza ro uiteoth ahgizel luf!」

 

『穿つ魔弾 我らを護る 土の轟壁』とヴィオラが呪文を唱え、土の壁で炎弾を防ぐ。そして、撃ったフォーゴットをグラスハが蝶で起こした竜巻で攻撃する。

 

「Nireom ea sutha, ahcigel sutha, croy ahgithel.」

 

 ヴィオラは今度は風魔法を唱えた。グラスハの技に便乗する形ではあるが、下手に違う魔法を使って邪魔をするよりはいいだろう。発生した真空波は幽霊たちを切り刻み、後衛を全滅させた。竪琴から響く旋律で威力を増大させているのである。

 

「負けてられねえな」

 

 リュトは弓を引き絞り、周囲にも複数の魔法陣を展開する。

 

「この矢は、お前達への憐みだ」

 

 リュトがそう呟くと、魔法陣からいくつもの光の矢が放たれ、光線のように敵に降り注ぐ。オブリヴィオン達は剣で撃ち落とそうとするも、死神の矢の威力には敵わず全員が撃ち抜かれてしまった。

 

「復活は……しねえな?」

 

 リュトは魔物達の死体をつつきながら確認事項を口にした。先程炎を纏って復活したのは一度きりの現象だったらしく、矢に貫かれて以降は動く様子は無い。素材を回収して死体を処理し、先に進む。

 

 すると、リュトの足元に引っかかるものがあった。

 

「なんだこりゃ……マッチ?」

 

 それはマッチの燃えさしだった。それが獣道に沿って撒かれている。少し前までは無かったものだ。

 

「森でマッチとは……危ない事をする輩がいるもんだねえ」

「それもそうだが、急に現れたというのが気になるな。それも図ったように道に沿ってやがる。案内してんのか?」

「いいえ、これは魔界の作用じゃなくて、実在する物質みたいよ。魔界と現実の境が以前ほど強固ではなくなって、現実の物質が現れ始めたみたいね」

 

 どうやらこのマッチは、リュト達よりも前に通った人物が残していったものらしい。燃えさしはかなり大量に存在しているが、行商人でも迷い込んだのだろうか。

 

「〝狩人ノ探索〟を使ってみたんだが……足跡を見る限り、こりゃ子供だな」

「子供……? が、迷い込んだの?」

「迷い込んだのか……逃げてきたのか……」

 

 きな臭くなってきた。この森は街からはそれなりに離れており、偶然迷い込むというのは少し考えづらい。となると後者、何かから逃げてきたのかもしれない。

 

 さらに進むと、大人の足跡も見つけた。逆に、子供の足跡は途中で途切れており、マッチの出処と思われる籠も転がっている。道の限り続くだけの大量のマッチである。この量は正規の使い方をするためとは考えづらい。

 

 街で売る予定のものだったのかもしれない。子供が一人で、というのは不自然ではあるが。背景に暗いモノを感じる。

 

 そして、大人の足跡だが、どうやら子供を迎えに来たというわけではないようだ。リコードの権能で過去を覗いてみると、衝撃的な事実が浮かび上がった。少女はどうやら、父親からマッチを売るように言われ、街を歩いていた。しかし、この大量の在庫を見るに、売れ行きは芳しくなかったと見える。親に叱られる(というのはかなりオブラートな表現だが)と思った少女は街から森へと逃げ出した。

 

 そして、少女は暖を取るためにマッチに火をつけた。そして、マッチの火の中に暖炉や七面鳥の幻覚を見た。しかし、人間である以上飢えには勝てず、少女は行き倒れてしまう。

 

 だが、それを見ていたかのように、一人の大人が現れる。その大人は魔女のような服装をしており、老婆とも妙齢の女性ともつかない動作で瀕死のマッチ売りの少女の前に跪き、言葉を投げかけている。

 

『悲しき子よ。この世の存在でいる限り、君に救いは無い。私ならば、君の欲しているものを、私は現実にする事が出来る。暖炉も七面鳥も、全てを味わう事ができるのだ』

 

 そうして、彼女が何らかの処置をすると、少女は起き上がって森の奥へと消えていった。少女を救った大人と救われた少女は、満足そうな雰囲気を醸し出していた。

 

 自分と同じ魔女という事で、ヴィオラはその正体が気になったが、それを考える前にリコードが、腕を振って過去再生を消す。その表情には怒りが宿っていた。

 

「リコードさん?」

「許せないわ……」

 

 ヴィオラは彼女の表情を見て驚く。基本的に怠惰で優しいリコードからは考えられないほどに、彼女の表情は怒りに歪んでいた。周りを見渡せば、死神達は大なり小なり怒りを滲ませている。

 

 ヴィオラはますます困惑した。少なくとも、少女に対して処置をした魔女に悪意は感じなかったし、少女も幸せそうに森の奥に消えた。ヴィオラには何が悪い事なのか、分からない。

 

「でも、二人とも幸せそうでしたよ。あの子だって、凄く幸せそうで……ひっ!?」

 

 ヴィオラはリコードに睨まれて引き攣った声を上げた。リュトはとりあえず間に入ってヴィオラを庇う。

 

 ヴィオラの弱点と言えば、弱点なのかもしれない。一人旅でそれなりの知識は手に入れたが、記憶が不完全な状態で存在する彼女は人の感情の機微や哲学に疎い。無論、人の感情など理屈で説明のつかない部分も多いが、ヴィオラにとっては更に不透明なものなのだ。

 

 リュトは少し考えて口を開いた。

 

「……確かに、過程がどうあれ本人達が幸せなら良いって考え方もある。けどな、幸せは幸せだけで出来ているわけじゃない。確かに本人は幸せかもしれないが、それでも死者は眠らなければならないんだよ」

「それが……世界の理だから?」

「それも無いとは言わねえが、それだけじゃねえ」

 

 どこか納得できていないヴィオラに、今度はアコーディアが口を挟む。

 

「死者が死に至れないほど惨い事も、あまり無いさ。大人が出てくる前も過去再生はしたけれど、少女は果たして本当に幸せを手に入れたのかな? ただ幻覚に生かされて、苦痛に浸されているだけなんじゃないのかい?」

「そう……なんですか?」

「こればかりは言語化が難しいけどね。ボク達は死と生の間で苦しむ存在達を多く見てきた。だから、バイアスが掛かっているというのも否定はしない。これから少女に会って、キミがボク達と違う結論に至ったというのであれば、それはそれでいい。少なくともボクはね……」

 

 そして、リュトがそれを引き継ぐ。

 

「死に至れないという事は、今も死に続けてるって事だ。幻想と言う幸福が有ったとしても、やがて時の苦痛がそれを上回るだろうよ。俺達に出来るのは、一刻も早く眠らせてやる事だけだ。厳粛なる哀悼を以て、な」

 

 ヴィオラは今でも、死神達が正しいかどうかは分からない。それを判断できるだけの経験はない。しかし、リュト達処刑者は少なくとも悪意によって何かを実行した事は無かった。

 

 そして、いつもは友人同士の気安い関係の処刑者達がいつになく真剣な目をしているのである。ヴィオラに死と生の論理は分からないが、とりあえずは見守ってみようと思った。

 




 元ネタはアンデルセン童話の『マッチ売りの少女』です。

 死神達の死生観は、ヴィオラのように同意できない部分もあるとは思いますが、とりあえず主人公サイドの思想としてはこういう感じです。
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