魔女と死神   作:三文小説家

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こちらの作品はお久しぶり。果たしてどれ程の需要があるか不明ですが、書き始めた以上は書き続けようと思います。完全に作者の自己満ですがね。

皆様も宜しければ、魔女と死神の二人を見守ってください。


世間知らずの魔女

 リュトは数瞬の間、思考を停止した。目の前の魔女の言ったことは、リュトにとって否応なしに過去を想起させるものだった。『音楽で溢れる街』……それは嘗ての恋人であるアリアが探し求め、終ぞ見つけられなかった物。ヴィオラの特殊性も相まって、まるで追いかけてきた過去に捕まえられたような気分に陥る。

 

 そして少し考えた後、リュトは心配そうな顔をするヴィオラに問いかけた。

 

「……少し、話を聞かせてくれ。アンタは何で、それを探している?」

「え、えっと……私、実は記憶が無いんです」

「記憶喪失?」

「はい……どこで育ったとか、自分の境遇とか、一切分からないんです。ヴィオラという名前も、今被っている帽子に書いてあった名前で、本当の名前は分かりません」

 

 随分と波乱万丈な人生だ。知性体が不安を覚える原因はいくつか存在するが、『未知』というのはその中でも代表的な物だ。ましてや未知の対象が自分とあっては、尚更だ。

 

「覚えているのは『音楽で溢れる街』という名前だけなんです。そして……」

「……そして?」

「そこに行けば、死神さんに会えるかなって」

「死神さん?」

 

 とりあえず、ヴィオラが『音楽で溢れる街』を探している理由は分かった。記憶喪失の中、唯一覚えてる事象となれば探そうとするのも頷ける。好奇心だけで探していたアリアに比べれば、余程真っ当な理由とすら言える。しかし彼女の話はそこで終わらなかった。

 

「探している死神がいるのか?」

「……その死神さんは夢に出てくるんです。大鎌を担いだ男の子で、いつも嫌そうな顔をしながらも手を引っ張ってくれて、彼といると安心するんです。そして……その……」

「……………」

「恥ずかしながら……愛してます」

 

 ヴィオラは頬を紅潮させながら、上目遣いで告白する。まるでリュトに対して言っているかのような行動だが、本人にその意図は無いだろう……とリュトは思いたかった。

 

(いや、何の冗談だよ……)

 

 音楽で溢れる街、大鎌を担いだ男の死神……一々リュトの過去に繋がる内容だ。アリアが死んでから数年、何の手がかりも見つからなかった探し物が、今度は過去の思い出ごと押し寄せてきたのである。

 

「ご、ごめんなさい! 変ですよね……夢の中の死神さんに、恋をするなんて」

「い、いや、まあ、良いんじゃねえの? 見つかるといいな、ソイツ……」

 

 リュトが戸惑いながらもヴィオラを応援すると、ヴィオラはほっとしたように息を吐いた。内容が内容なだけに、真剣にとらえる者は少なかったのかもしれない。リュトは自分の目的について話すかどうか迷っていたが、ここまで来たら話す事にした。

 

「あー、実はな……俺もその『音楽が溢れる街』ってのを探してるんだ」

「本当ですか!?」

 

 リュトの告白にヴィオラは喰いつく。

 

「とはいっても見つけたわけじゃないけどな。今は知り合いの情報屋も頼ってる」

 

 リュトがそこまで話すと、ヴィオラは感極まったように泣き崩れてしまう。リュトが慌てて理由を聞くと、ヴィオラは泣きながら独白する。

 

「良かった……一人じゃなかった……やっと分かってくれる人がいた……」

「……………」

 

 リュトはそれを聞いて何とも言えない気持ちになる。記憶喪失になり、この広い世界をほとんど手掛かりなしで探し歩いていた少女。頼れる人もおらず、その道程はどれほどの孤独であったか……

 アリアを亡くしてからも、過去に縋って生きてきたリュトには、ヴィオラの現状は他人事とは思えなかった。気付けば、泣きじゃくる魔女の頭に手を置いていた。三角帽子の上からではあったが、確かに生き物としての体温を感じていた。

 

「……?」

「あ……悪い、つい、な」

 

 ヴィオラがリュトの手に反応すると、リュトはバツが悪そうな顔をして手を引っ込める。殆ど無意識だったとはいえ、初対面の男に触れられるのは嫌だろうと思ったのだ。ましてや数分前に男に絡まれたばかりである。しかしヴィオラにとってはそうでもなかったようで、

 

「いいえ、リュトさんはなんだか、嫌じゃないです」

 

 と、少し頬を染めて答えた。それはそれで居た堪れない気持ちになるリュトは、早急に話題を変えるべく、現在発覚している問題点を口にする。

 

「これからどうするにしても、とりあえずその服装をどうにかしないとな……」

「さっきも言ってましたけど、そんなに危険なんですね。この服」

「ああ、魔女ってのは良くも悪くも目立つからな。どこか服屋に行って……」

 

 リュトが女物の服を売っている店を脳内でリストアップするが、そこへ向かう前にヴィオラが歌を歌い出した。

 

「街路の町娘 舞台の踊り子 社交場の貴公子 皆思い思いに服を変える 私に相応しい服は何?」

 

 レチタティーヴォのような独唱の直後、ヴィオラの服装がガラリと変わる。黒いローブに三角帽子という如何にも魔女然としたものでは無く、余所行きに少し着飾った町娘のような格好だ。

 ヴィオラが魔法を使い、服装を変えたのだとリュトは遅れて認識した。ヴィオラが魔法を使う間、少し前のおどおどとした少女の雰囲気ではなく、一人の魔女としての気品を纏っていた。有り体に言えば、リュトはヴィオラに見惚れていたのである。

 しかし、その光景を見たリュトに、新たな疑問が生じたのも確かだ。

 

「なんで今までその魔法使わなかったんだよ……」

「あの格好がそこまで危険なものだと知らなくて、わざわざ変えるほどの物でも無いかなって……」

 

 魔女とて、使える魔力は無尽蔵というわけではない。不必要と判断した魔法をわざわざ使ったりはしないのだ。また、この魔法もそれほど万能ではないらしく、時々ズレた服装になってしまうとのこと。

一方リュトは、ヴィオラの『記憶喪失』を甘く見ていた事に気付く。この調子だとかなりの常識をヴィオラが知らない可能性も浮上してきたのだ。

 

「よく今まで一人旅できてたな……」

「なんとなく分かるんです……向かうべき方向に然るべき旋律が聞こえるというか」

「……そうかい」

 

 記憶と言うか知識が無い分、感覚に頼って生きてきたらしい。混ざっているのが『歌』の死神であることを考えると、その感覚も全く当てにならないというわけではなさそうだが、かなり危なっかしいのは間違いない。

 

「なあ、アンタさえ良ければ、その旅に協力させてくれないか? 一人でやるよりは効率が良いだろうし、腕の良い情報屋もいる。悪い条件じゃないと思うんだが」

 

 『歌』の死神の魂と目的、様々な事情でリュトはヴィオラに協力を申し出た。彼としても、これだけ特異的な存在を野放しにするわけにもいかないのである。

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 対するヴィオラは二つ返事で了承した。リュトは拒否されなかった事に安堵する一方で、自分が持ちかけたとはいえ警戒心を見せない魔女が更に心配になってきていた。

 

「とりあえず一度サクスの所に帰るか。今後の方針を決めるにもその方が良い――!」

 

 突然背後に気配を感じたリュトは咄嗟に召喚した大鎌を振るう。すると、翼の付いた顔の形をした白い怪物体が地面に落ちた。

 

「魔物……!」

「『蜘蛛』が外敵を見逃す可能性は低い。自然発生しやがったな」

 

 この世界において『魔物』とは、いわば不完全性の証明である。表面上は成り立っているように見えるこの世界だが、完全には程遠い。そこかしこに歪みや綻びがあり、また、予期せぬことがきっかけで一部が壊れてしまったりもする。

 そして、そのような歪みや綻び、崩壊が原因で生まれてくるのが『魔物』という存在だ。魔物は不完全な場所ならばどこにでも発生する。例え街道や屋内であっても油断してはならない。その場で自然発生されては防壁など役には立たないからだ。

 

「アンタ、一人旅やってたなら自衛は出来るよな」

「は、はい、逃げる事も出来ますし、あれくらいなら倒せます」

「ソイツは頼もしい。だったら手伝ってくれ」

 

 最悪サクスの家の場所を書いてある地図を渡して逃げてもらう事も考えていたが、意外に逞しい魔女の言葉を聞き、助力を依頼する。リュトの腕なら一人でも平気なのだが、この機にヴィオラの強さを見ておくのも悪くない。

 

 リュトが戦闘の算段を立てた所で、翼の付いた顔のような魔物『クラマー』の群れが空襲を仕掛けてくる。突撃してきた個体を大鎌で切り裂く傍らヴィオラの方を見ると、既に魔法の歌を歌い始めていた。

 

「空に敵 流れる空気 吹きすさぶ風」

 

 服装を変えた時にも聞こえた魔術言語の歌が大気を震わせる。遠隔攻撃を仕掛けようとしていたクラマーの群れだったが、攻撃が発動する前に小規模の竜巻に巻き込まれ切り裂かれる。

 ヴィオラが風魔法で敵を切り裂いたのだ。

 

「中々やるな。もう全部任せてもいいか」

「伊達に一人旅やってません。でも手伝ってください」

「安心しろ、冗談だ」

 

 リュトは冗談を飛ばしつつ、更に増えてきたクラマーを鎌の斬撃と短銃の攻撃で敵を殲滅していく。その光景を見て、ヴィオラは予想を確信に近づけていた。

 

(あの大鎌……やっぱり夢に出てきた……)

 

 しかし、それによって注意が疎かになり、ヴィオラは背後の敵に気が付かない。クラマーがヴィオラに向かって光弾を発射しようとしたが、

 

「きゃっ!?」

 

 その前にリュトの短銃が火を噴いた。ヴィオラの横を通り抜けた銃弾がクラマーを撃墜する。

 

「筋は悪くないが、脇が甘い」

「敵よりもリュトさんの攻撃に吃驚しました!」

 

 涙目で抗議するヴィオラに「少しやり過ぎたか?」と思いつつも、銃撃自体は妥当であるため大して気にしない事にした。

 クラマーの群れを殲滅し終えても魔物の襲撃は終わらない。今度は白い小悪魔のような魔物『アンガー』が現れる。しかしリュトやヴィオラにとってはクラマーに毛が生えた程度の雑魚でしかない。

 

「眼前の敵 影の茨 捕らえる蔓」

 

 アンガーの一体の影から黒い茨が伸び、影の主を雁字搦めにする。そして、他の個体の足元からも茨が生え、アンガー達は全員捉えられてしまった。

 

「のろまな魔物さんで助かりました」

 

 少し黒いセリフを笑顔で言いながら、ヴィオラはリュトに合図を送る。その意味を正しく理解したリュトは大鎌の一閃で魔物達を両断した。

 こうして街中で突発的に発生した戦闘は幕を閉じたのである。

 

「しかし強いな、アンタ。チンピラ共に絡まれた時は余計なお世話だったか」

「確かになんとか出来たかも知れませんけど、見捨てられたらそれはそれで嫌です」

「それもそうか」

「それに……」

 

 ヴィオラはふくれっ面をしてリュトに迫る。

 

「さっきから『アンタ』って呼ばれるのも嫌です」

 

 リュトとしては死んだ恋人の面影を残すが別人であるヴィオラとは一線を引いた関係でいるために距離を取ろうとしたが、事情を知らない彼女にとってはただただ不愉快であったようだ。

 

「じゃあ、魔女さん?」

「私が魔女だってバレちゃダメなんですよね………?」

「旅人さん?」

「……………普通にヴィオラでいいです」

「分かったよ、ヴィオラ」

 

 妥協案を悉く却下され、最終的にリュトが折れた。ヴィオラは満足そうに微笑むと、今後の予定を聞いてくる。

 

「とりあえず知り合いの情報屋の所に向かう。細かい打ち合わせはその後だな」

「分かりました。では改めてよろしくお願いします、リュトさん」

 

 ヴィオラの笑顔に心が動きそうになるも、自制するリュト。少しでも心が揺らげば、全くの別人であるヴィオラを嘗ての恋人に重ねてしまうであろうから。それはヴィオラという『存在』に失礼だからだ。

 

(とりあえずヴィオラの魂が死神と混ざっている事は伝えよう。だが、その死神が俺の恋人だったって事は伏せておくべきだ。そんなこと、別人であるヴィオラは知らなくていいんだからな)

 

 一人決意を固めたリュトは、一人の魔女を自分が住む家に案内した。




色々ツッコミどころ満載な話になってきた件。正統派な話として書き始めた物だったんですがね……。でも個人的には気に入っているのでこのまま行きます。

別に覚えなくても良い事柄

クラマー:名前はClamorより。翼の付いた顔。突撃してきたり光弾を撃ってきたり。ド○クエでいうところのスライムレベル。

アンガー:小悪魔のような敵。今回は描写されなかったが武装している。翼のようなものが付いているが飛行能力は無い。名前はAngerより。
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