魔女と死神   作:三文小説家

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なんか前回リュトがヴィオラを家に連れてった、みたいな文で終わりましたがまだ家には着きません。もう少しこの世界観を掘り下げます。


逢魔の四辻

 先程倒した魔物の死体を処理した後、リュトはヴィオラを自分が住む家、正確にはサクスの家に案内していた。今後の打ち合わせをするにしても落ち着ける場所は必要だし、今回の内容はサクスも当事者である。これからどうするかは未定だが、彼を抜きにして話す事は出来ない。

そのような事情をリュトはヴィオラに歩きながら話していた。

 

「へえ、良い人なんですね、サクスさん」

「悪い奴じゃないな。住む場所も情報も提供してくれてるし。俺は代金としてアイツの仕事を手伝ってる。おそらくヴィオラの事も無下にはしないだろ」

「楽しみです、その人に会うの」

 

 そのような会話をしながら目的地に向かう途中、とある四辻に入った時に異変が起こった。

 

「……なんだ?」

「なんか、変な感じ……」

 

 街の建物の配置などは変わっていないが、景色の色調が少し変化している。なにより、先程まで喧噪で溢れていたはずが、物音一つしない。

 

「チッ、『魔界』に引きずり込まれたか」

 

 『魔界』とは世界の歪みが引き起こす異変の一つである。人間達が住む通常の世界とは異なる異空間が発生し、陰で範囲を拡げていく。人間達のあずかり知らぬところで勝手に拡がるならばいいのだが、この空間の厄介な所は通常の空間の物を取り込みながら成長するという点だ。対象には勿論人間などの知性体(この世界には人間以外の種族もいる)も含まれているため、放置すれば神隠しのオンパレードだ。

 

「すまんが話し合いはもう少し後だ。まずこの魔界をどうにかしねえと」

「そうですね。放置するわけにもいきませんし、足手纏いにならないように頑張ります」

「上等」

 

 魔物については存在を知らせ、熟睡していようが強制的に叩き起こす魔道具が存在するので対処は出来るのだが、魔界はそうはいかない。何の前触れも無く発生し、世界を蝕んでいくので対処が難しく、基本的に予測も不可能だ。

 

 リュトの死神としての力を使えば空間を切り裂いて外に出る事も可能なのだが、それは更なる世界の歪み、ひいては街中での魔物の大量発生につながる。できれば避けたい事だ。

 

 魔界は存在が確認されるとすぐに処理の依頼が出されるのだが、リュトの知る限りその手の依頼は出ていない。つまり『誰かがやってくれる』という希望的観測は期待しない方が良いという事だ。

 

「まずは発生源を探さないとな。魔物か、他の何かか……」

「どれくらい広いのでしょう。あんまり大きいとちょっとめんどくさいです」

 

 魔界は発生と同時に、存在を維持するための魔物やオブジェクトを作り出す。それを破壊すれば基本的に魔界は消滅するのだ。

 リュトとヴィオラが魔界を探索しようと足を踏み出した直後、魔界に住む魔物達が現れ二人を取り囲む。翼の付いた顔『クラマー』、小悪魔のような魔物『アンガー』、そしてアンガーが飛行能力を得た『レイジ』……一体一体はそれ程の強さではないが、集団になればそこそこ面倒である。

 

「いいねえ、皆でお出迎えってワケ」

「歓迎されてる訳ではないと思います……」

 

 リュトが溜息を吐きながら皮肉を飛ばすと、ヴィオラが律義に訂正する。レイジやアンガーが銃撃を、クラマーが光弾を放つが、その攻撃が二人に届く事は無かった。

 

「穿つ魔弾 我らを護る 土の轟壁」

 

 リュトが攻撃を鎌で斬り捨て、ヴィオラが詠唱と共に土の壁を生み出したからである。

 

「ここは俺一人でやる」

「え、いいんですか? 私は楽ですけど……」

「この程度の雑魚なら大丈夫だ。魔力だって無尽蔵じゃないんだろ?」

 

 普通の人間よりも多量の魔力を持つ魔女だが、当然無限ではない。魔界の探索がどれだけ続くか分からない以上、浪費は控えるべきだ。ヴィオラとしては茨でアンガー達を縛った時に魔力を吸い取っていたので心なしか余裕があるのだが、ここはリュトに甘える事にした。因みに後から聞いた事だが、魔力が少ない時に魔物を見ると食べ物に見えるらしい。

 

 一方、魔物の方は土の壁が消えるのを待っていた。破壊出来ない事は無いのだが、本格的な戦闘になる前に消耗してしまう。ならば相手の魔力が切れるのを待った方が良いと判断したようだ。彼らの判断は正しい。間違いがあるとするなら、そもそも正解など無いという事だろう。

 

「―――!?」

 

 突如として土の壁が切り裂かれる。予想だにしない人間の行動に驚愕するが、魔物達がその現象を理解する前に、壁と同じように死の旋風に身体を切り裂かれていった。

 

「はいお掃除完了」

 

 魔物達を微塵切りにしたのはリュトが投擲した大鎌だ。回転しながら飛来する武器は魔物達に回避の隙を与えることなく全滅させていた。最後に投げた鎌がリュトの手元に戻って攻撃が終了する。しかし、戦闘はこれで終わりではなかった。挽肉になった魔物達が転がる場所に白い光が現れ、その中から新たな魔物が登場する。柄の両端に点対象に刃が付いた大鎌を持つアンガーやレイジよりも大きな悪魔の姿をした『ヘイトリッド』だ。

 

 ヘイトリッドはアンガーやレイジに連なる種だが、その強さは二体とは一線を画し、下位種であるアンガーやレイジを統率する能力を持つ。下位種二体と同列に扱い、嘗めてかかれば命は無い。だがそれは、並の戦闘者であった場合の話だ。

 

「へえ、少しは楽しませてくれそうだ……が、そうも言ってられないな」

 

 リュトはヴィオラを見て自身の戦闘衝動を抑制する。『狩り』という攻撃的な概念を司る以上、リュトは他の死神と比べて好戦的だ。本人にとっては不本意だが、『血に酔う』という感覚も知っている。しかし理性無き殺戮者になるつもりは無いため、残虐性に完全に支配される事は防いでいる。

 

 リュトとヘイトリッドは大鎌を軽く回し、互いに戦闘態勢を取る。ヘイトリッドの周りにはアンガーとレイジが各々の武器を手に同じく戦闘態勢を取っていた。

 

「奏者を取り巻く 吹きすさぶ風」

 

 ヴィオラが竪琴を取り出し魔法を詠唱、そしてリュトとヘイトリッドの刃が交錯した時が戦闘開始の合図だった。

 レイジの銃撃とアンガーの双剣の刃がヴィオラに迫るが、ヴィオラを護るように竜巻が発生し、銃弾や斬撃を弾く。更に風は激しさを増し、近くにいたアンガーを切り裂いた。

 

 ヴィオラの竪琴は魔法の使用効率を上げる魔道具だ。通常時よりも詠唱が短くて済む。更に、歌による魔法は旋律の組み合わせや演奏の速度などで効果を変える事が出来るのだが、竪琴を使った方がスムーズに行える。

 

「ヴィオラが予想以上に逞しくて助かるね」

 

 一方リュトはヘイトリッドと刃を交えていた。点対象の刃で回転するように斬りつけてくる魔物に対して、リュトは大鎌で軌道をずらし、余裕の立ち回りを見せる。ついでに隙を見てレイジを銃撃で片付けておいた。ヘイトリッドは確かにこれまでの敵よりかは強いが、リュトからすれば余裕を見せて立ち回れる相手でしかないのである。

 

「そろそろケリをつけるか」

 

 リュトは相手の攻撃に刃を当て、その反動で距離を取る。そして大鎌をしまい、銃を二つ取り出すと、それらを組み合わせて弓にした。

 

「終わりだ」

 

 リュトが矢を放つと、ヘイトリッドはそれに貫かれて絶命した。弓の形態は、連射性能は銃に劣るが、一発の威力は上回る。銃と比べると隙が大きいのが難点だが、使う場面を選べば強力だ。

 

 新たに敵が出てこない事を確認し、一息ついたヴィオラが話しかけてきた。

 

「あ、あの、死神さんの武器って凄いですね。あんなの見たことありません」

 

 先程までの魔女らしい雰囲気は霧散し、出会ったばかりのころ(今でもそれほど付き合いは長くないが)のような気弱な少女になったヴィオラ。どうやら魔法の使用中とそれ以外で性格が変わるタイプらしい。

 

「まあ、死神じゃなくても再現は出来るだろうが、そうそう見ないだろうな。だがヴィオラの魔法も中々だぜ。戦闘中にあれほど臨機応変に旋律を変えられる奴もそういない」

「えへへ、ありがとうございます。それにしても、今の魔物さんが魔界の維持装置でしょうか」

「だったら楽なんだがな。どうやら違うらしい」

 

 魔界が消滅した気配は無い。維持装置となっている物を破壊すれば魔界は消滅し、元の世界へ戻れるはずなので、今しばらくこの闘いは続きそうだ。

 

「とはいえ、広さも分からん以上、馬鹿正直に歩いて探すのも馬鹿らしいな」

「でも、他に方法は無いですよ。放置するわけにもいきませんし、焦らずに探しましょう?」

「別に焦ってるわけじゃないが、少しは効率という物を考えても構わんだろう。ちょうど暇を持て余している奴もいるしな」

「え? でも私たち以外にはこの場にはいないですよ」

「この場には、な」

 

 リュトはニヤリと笑うと、大鎌で地面に円を描く。

 

「仕事だ。ザイロフ」

 

 リュトがそう言うと、円の中から黒い犬が現れた。犬はリュトを見上げると、不満そうに口を開く。

 

「やれやれ、ようやく仕事か。影の中で惰眠を貪るのも悪くは無いが、何事も長すぎれば飽きが来るぞ」

「しゃ、喋った!?」

「後で幾らでも喋ってやるよ、お嬢さん」

「なんだ、ブラックドッグを見るのは初めてか?」

 

 『ブラックドッグ』。墓守犬(チャーチ・グリム)とも呼ばれるその犬は、一部の上位の死神が眷属とする存在で、死にきれない者や血に酔った殺戮者、そして世界の歪みを感知する事が出来る。死神を補助する存在だが、殺戮者に堕ちてしまった死神を殺す役割も併せ持つ番犬だ。

 

「魔界の維持装置を探してくれ。仮に見つからなくても、面白いものを見つけたら報告してくれてもいい」

「分かった。仮に見つけた時はどうする。破壊してしまってもいいか?」

「その辺は任せる。ただ、どっちにしても一度知らせてくれ」

 

 ザイロフという名のブラックドッグは了承の意を伝えると走り出し、リュト達の視界から消えてしまった。ヴィオラが少し手を出したまま名残惜しそうにしている。どうやらザイロフを撫でたかったらしい。

ブラックドッグといえば死神の眷属というのはそれなりに広まっており、大抵の人は畏怖の感情を抱くか、『不吉の象徴』として露骨な嫌悪を表情に出す者もいる。

 いずれにせよ、ブラックドッグを見て愛玩動物と認識される事は基本的に無いと思っていい。やはりヴィオラの感性は普通とは少しずれているようだ。

 

「まあ、ザイロフ本人が嫌じゃないなら後で撫でさせてやるよ……」

 

 リュトがそう言うと、ヴィオラは嬉しそうに表情を綻ばせる。「若者の感性はよくわからん」と思いながらも自分達も並行して魔界の探索を始めるために足を踏み出す。すると、ヴィオラが提案をしてきた。

 

「い、一応私も探知する事はできますよ」

「そうなのか? じゃあ頼んでもいいか?」

「はい!」

 

 ヴィオラは元気よく返事をすると、自分の髪を一本抜いて、進行方向に向ける。

 

「分かれ道 危険の影 探し物 先に待ち受けるものは何?」

 

すると、ヴィオラが手に持つ髪は彼女を始点とする黒い直線のように伸びた。

 

「なんだ? それは」

「私の髪を媒体とする探知魔法です。ザイロフさんほど自由には行きませんけど、危険などを予め把握できます」

「なるほど、そりゃ便利だ」

 

 『狩り』を司る以上、リュトは眼が良いし、探索するための技能もある。しかし時々ザイロフを散歩させる目的で偵察を頼むことが多く、自分では周囲の警戒以外あまり使わないのだ。しかし、今回はヴィオラがやけに張り切っているので使わせる事にした。本人曰く、それ程魔力は消費しないようだし、いざとなれば一人くらいなら護衛も出来る。

 

「あ、何か反応した、て、ザイロフさんでした……」

 

 黒い直線が一定の波を描くように震える。我々現代人からすれば心電図を想起させるものだが、この反応が行く先に『何かがある』と示す物なのだ。そして、使い手にはある程度正体が分かるのである。今回はハズレだったようだが。

 

「まあ、ちゃんと機能するのが分かっただけ上々だろ」

「あう、ありがとうございます……」

 

 どうやら少しはしゃいでしまったことへの羞恥もあるようで、顔が赤い。ただ、『旋律が聞こえる』という他者に共感しづらい感覚で動かれるより余程助かるので、リュトはヴィオラを咎める事はしなかった。

 

 こうして、本格的な魔界探索が幕を開けたのである。

 




新キャラ登場しましたね。因みに主要人物の名前は楽器や音楽用語から取っています。良ければ元ネタを推測してみてください。魔物の方は特にモチーフに統一性はありません。

備忘録

レイジ:空飛ぶアンガー。名前はRageより。

ヘイトリッド:アンガーやレイジの上位種で、下位種を統率する技能を持つ。名前はHatredより。人間が相手をするとちょっと苦戦する。冒険者や狩人になりたての人間がコイツにやられる事例が多い。

ブラックドッグ:上位の死神に付けられる眷属。しかし力が強いという事は同時に闇落ちのリスクも高いという事であり、そうなった場合は死神を処刑する役割を持つ。いよいよ手に負えなくなったら別の方法もあるが……

リュトの武器:実は銃は弓を分解して使っているだけだったりする。なので弓の形が本来の姿なのである。
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