魔女と死神   作:三文小説家

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 最終更新日を見たら半年以上放置していたこの作品。いや、時間が取れないのとちょっとしたスランプ状態だったのと……

 読んで下さる方がいらっしゃることを信じて書き続けようと思います。


戦場の花

「あの小娘……きな臭いな」

 

 リュトに魔界の探索を命じられたザイロフ。人型よりも機動力のある身体故、そして犬の嗅覚を併せ持つため探索に向いている。しかし、今回は探索をしながらも思考の一部はヴィオラの事を考えていた。

 

(魔女と死神の魂が混ざるなど、我も聞いたことが無い。それも死んだ『狩り』が愛した『歌』の物とはな)

 

 仮にリュトが自暴自棄になって殺戮でも始めようものなら、ザイロフはリュトを殺さねばならなくなる。今は様子を見るしかないが、ザイロフとしてもリュトを殺すのはあまり歓迎できない結末だ。命を共有しているわけではないのでザイロフは死なないが、リュトの事はそれなりに気に入っているのだ。

 

 ザイロフが今後を憂いながら探索を続けていると、クラマーやアンガーなどの魔物が道を塞ぐ。しかしリュトと互角以上に闘えるザイロフからすればただの『餌』でしかない。

 

「ふん、雑魚共が」

 

 ザイロフが能力を以て一掃しようとするが、その前に魔物達が何かに貫かれて絶命する。死体を見てみれば、刺さっていたのはナイフだった。

 

「あら、『狩り』の飼い犬じゃない」

「貴様か、『昨日』」

 

 倒れ伏す魔物達の向こう側にいたのは『昨日』の死神、リコードだった。胸元まで伸ばした白髪にエルフのように尖った耳……のような時計の針、道ですれ違えば半数以上の男が振り返るであろう美貌に、黒いロングコートのような服。全体的に瀟洒な雰囲気を纏っている女の姿だ。

 

「あなたがいるという事は、『狩り』もいるのかしら」

「そうだと言ったら?」

「それならいいわ。一人で魔界を片付ける羽目にならずにすむもの」

 

 『昨日』は心底面倒そうな顔で魔界を見やる。人間からすれば脅威そのものだが、彼女からすれば面倒ごとの一つに過ぎないのである。

 

「眷属もいない貴様では、確かに無為に時間をかけるだろうな」

「『月』は私をそれほど危険視していないのでしょうね。むしろ大人しい事を評価してほしいくらいだけど」

 

 ブラッグドッグは死神の眷属でもあり、監視役でもある。故に、ある程度危険と判断された死神に付けられるのだ。なお、その判断は最高位に位置する『月』の死神が下している。ブラッグドッグも大元を辿れば『月』の死神が創り出した存在だ。

 

 裏を返せば、リュトは力を認められ、そして同時に危険視されている存在なのである。反面、基本的に自発的に動こうとしないリコードは監視の必要すらないために放置されている。本人が言うように問題を起こさずに大人しくしている事の証左でもある。

 

「怠惰な貴様では、それほどの脅威にもならんか」

「無駄が無いって言ってくれない? 私は確かに怠惰だけど、その分効率よく物事を片付けられるの」

「まあ、そういうことにしといてやろう……」

 

 死神と眷属が舌戦を繰り広げていると、新たな魔物が現れる。鳥のような翼が生えたイカのような魔物だ。

 

「何だか知らないけど、さっさと片付けるわ」

 

 リコードが面倒そうに長剣を取り出し、横に一薙ぎする。すると、魔物は上下に分かたれたように見えたが、今度はそれぞれが別の個体となって動き出した。

 

「増えたぞ」

「見りゃ分かるわよ。要するに、雑に扱うと増えるってわけね。良いわ。だったらお望み通り、少しずつ殺してやろうじゃない」

 

 リコードはそう言うと、長剣を細剣に持ち替えて刺突攻撃を浴びせる。敵――コーポレートの触手も光弾も全てリコードの細剣に撃ち落とされていく。戦闘力の差は歴然であった。

 

「ほう……惰眠で腕がなまっているかと思えば、中々どうして」

「伊達に『処刑者』やってないわよ」

 

 『処刑者』とは、『月』の死神が選定した十二柱の死神の事であり、名前の通り、暴走した死神や脅威となる魔物を処刑する集団である。

 

「というか、同じ処刑者の『狩り』がいるんだから、私が頑張らなくても良いわよね?」

「ここから脱出するためだ。働け」

「チッ」

 

 リコードの舌打ちと共にザイロフの雷撃によってコーポレートが灰となる。だが、リコードは、もしリュトがこの魔界にいるならば「ほっときゃよかった」などと考えていそうだと思っていた。

 

 

 

 

 

 

「ぶへっくしょい!!」

「きゃっ!?」

 

 一方その頃、リュトは盛大にくしゃみをしていた。隣で真剣に探知魔法を操っていたヴィオラが驚いて、媒体である髪が盛大にはねた。歌を操る魔女なだけあり、音には敏感なのであろう。

 

「だ、大丈夫ですか……?」

「ああ、別に風邪という訳じゃないからな」

「死神さんって風邪ひくんですか?」

「たまにな」

 

 そんな他愛も無い会話をしていると、ザイロフから『昨日』の死神であるリコードが同じ空間にいる事が告げられた。

 

「なんでそんなに嫌そうな顔してるんですか?」

「いや、『昨日』の奴がいるならこんなに張り切って行動しなくても良かったか、とな」

「早く出なきゃいけないんですから一緒に行動しましょうよ」

「はあ……」

 

 リュトとリコードは、リュトがアリアと出会う前から続いているが、別に仲が良いというわけではなく、むしろ口喧嘩が絶えない関係だった。司る概念故に好戦的なリュトと、仕事以外では動こうとしないリコードでは性格的に反りが合わないのだ。

 

 ではそんな二柱が何故共に行動していたのかというと、闘う上で相性が良かったからである。もしくは、お互いの強さについて来られるのがリュトやリコードしかいなかったのだ。他の死神と比べれば強力な力を持つ処刑者だが、『狩り』と『昨日』はその中でも特に強い。

 

「こうなりゃさっさと魔界の主を倒して鉢合わせる前におさらばするか」

「どれだけ仲悪いんですか。というか、ザイロフさんはどうする気ですか」

「魔界が消えたら勝手に帰って来るだろ」

「扱いが雑……」

 

 ブラックドッグは場合によっては死神を処刑する存在であるため、死神視点であまり好意的になれないというのはヴィオラにも分からないではない。しかし、リュトとザイロフは険悪な関係ではない事は短いやり取りでも察する事ができたので、「そこまでして『昨日』に会いたくないか」とヴィオラは半眼となってしまった。

 

「というわけで、ここからは俺も本腰入れて探知するぞ」

「そんな子供みたいな理由で探知に加わらないでください……『昨日』さん? と情報共有したらどうですか?」

「やめておけ、碌な事にならん―――あ」

 

 そう言ってリュトが速足で歩きだすと、魔界自体が狭い範囲だった為か、リコードとザイロフに鉢合わせてしまった。一瞬にして流れる険悪な雰囲気にヴィオラは驚き、ザイロフは呆れている。

 

「おやおや『昨日』の死神サマ。こんな所で仕事もせずにのんべんだらりと一人旅ですか」

「仕事云々はアンタに言われたくないわ。まだこんな所で油売ってたのねぇ『狩り』の死神サマ」

「この二人、過去に何かあったんですか? 親の仇レベルで罵詈雑言が飛んでるんですけど……」

「我が知る限りでは無いな。単に性格が合わないだけだろう。仕事だけは息が合うようだがな」

「ええ……」

 

 しかし、流石は処刑者の精鋭二柱と言うべきか、恐るべき速さで魔界の主を特定し、今はその場所に向かっている最中である。

 

「凄いですね! 私なんて要らなかったかも……」

「あら? あなた、魔女?」

「は、はい……『昨日』の死神さんですよね?」

「ええ、リコードって名前なの。良かったらこっちで呼んでくれないかしら。貴女に『昨日』とか言われるの違和感だわ」

 

 死神は通常、司る概念の名で呼ばれる。名前で縛られる、というようなことは無いのだが、親密な者にしか本名を呼ばせない傾向が有るのだ。その点、初対面のヴィオラに名前呼びを許すのは異例であるといえる。特に、リコードのように我が強い死神の場合は。

 

 その点、リュトがヴィオラに名前呼びを許したのは、やはりアリアの記憶が強いからだろう。

 

「分かりました! よろしくお願いします、リコードさん!」

「(いい子だわ……) さっき、貴女が必要じゃないとか言ってたけど、そんな事は無いわ」

「え?」

 

 リコードは見るからにげんなりした様子で言葉を紡ぐ。

 

「正直……『狩り』と犬っころだけなら気分的に最悪だったもの」

「え、ええ……」

 

 どうやらリュトとリコードは本当に仲が悪いようだと再確認するヴィオラ。しかし、それでは結局自分は愛玩対象としてしか見られていないのではと落ち込んでしまう。

 

 それを見たリコードは溜息を吐いてヴィオラに話しかける。

 

「言っておくけれど、敵を殴り殺すばかりが仕事じゃないわよ」

「え……顔に出てましたか?」

「ええ、もう少し表情の隠し方を学んだほうが良いわね」

 

 一泊置いてリコードは続ける。

 

 「こういう考え方は戦闘職……というよりこの物騒な世界じゃ嫌われる考え方かも知れないけれど、基本的に知性体の集団っていうのは所属する人種が最低でも三種類くらいは必要なのよ。分かりやすい所で言えば、闘う奴とその他の雑用する奴と……あともう一種類くらいね」

「三種類……」

「今言ったのはあくまで例えで、成り立つなら何でもいいわ。男らしい奴と女らしい奴と、あと一種類……とかね。私のお勧めは人間関係の潤滑油になるような奴、かしら。これがいないと集団が崩壊する例が多いのよ。歴史が証明してるわ」

 

 リコードの言う事には一理ある。考え方が一種類に凝り固まった集団は維持に無理が生じるケースが多い。

 

「仲良くする技術、みたいな物でしょうか。でもそれだと私では力不足だと思います。ずっと一人でまともに他人と関わった事なんて無いんです」

「仲良くしろって言ってるわけじゃないわよ。せいぜい、敵対や無視をしない程度でいいわ。仮に残りの二種類が決裂しても、そういう奴が一人いるだけで崩壊の危険は少なくなるわね。さながら戦場の花って感じ」

「なるほど……参考にしてみます」

 

 ヴィオラがいたく感心した様子でリコードに返答する。なお、リコードが内心で「脳筋ばっかのパーティとか絶対御免だわ」とリュトとザイロフを脳筋扱いしていたが。

 

「そう。だからこそ私くらいは楽しても良いわよね!」

「つらつらと喋ってオチがそれかよ」

「珍しくマトモな事を言ったと思えば、悪い意味で期待を裏切らんな貴様」

 

 そして、結局自分の怠惰を肯定するだけの論理だったのが本人の口から発せられてしまい、リュトとザイロフは半眼でリコードを見た。

 

「おっと……どうやら魔界の主の元へ辿り着いたようだ」

「アレが魔界(コレ)の主ってわけ? 随分とけったいな見た目ね」

「アレだのコレだの……既にボケが始まってるのか?」

「舌引っこ抜くわよアンタ」

「喧嘩しないでください……」

 

 魔界の主との戦闘ともなれば、通常はもう少し緊張感が生まれる物なのだが、処刑者の精鋭二柱に、一人旅が出来る程度の強さを持つ魔女では軽口を叩く余裕すらあった。

 

「んじゃ、さっさと終わらせて家に帰るとしますか」

 

 リュトの合図を皮切りに、魔界の主『アムネシア』との闘いが始まった。

 




 私が投稿している他作品と比べると読みやすいかも知れないこの小説。転生、転移でもない完全な異世界だと現実の本とかのネタが使いづらいですからね。どちらかと言えば童話みたいな世界観ですし。

 え? 敵の名前がガッツリ英語だって? そこはご愛嬌。ぶっちゃけ海外の児童文学でもこういうネーミングは溢れていますしおすし。一応、この世界観は現実に存在するゲルマンケルトを元にしている部分もあるので多少はそういう物も出てきます。
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