転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第103話...西方動乱

愛と正義、時に気まぐれ。ただそれだけ。

西方諸国に齎された物は、それらが相応に無力であった事の証明。

 

その日、世界の大半は機能を停止した。

国も勇者も信仰も、何もかもが簡単に壊れてしまった。煮詰めに煮詰めた、悪意を前に。

 

そして、始まった。

 

 

 

──────大聖堂に侵入者あり。

 

そう報告を受けたのは、ルミナスからグランベルがルベリオス襲撃に動こうとしていると聞いた次の日の朝。朝食中であった。

 

百を超える死食鬼(グール)の群れが、国の内部構造を熟知した動きを見せて進行している。

平均してAランクにもなる魔物の大群が襲ってくるとなれば、その被害は血に血を足しても足りない。

案の定、見習い騎士は壊滅。

法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)からは死傷者が多数出ているという。このままでは十中八九押し負けるだろう。頭痛が痛いとはまさにこの事。

しかし、まるで奇跡のように、死亡しているグレンダとギャルドを除く十大聖人がルベリオスに待機していた。ルミナスがわざわざ昨夜に急遽呼び寄せたのだ。

サーレとグレゴリーに至っては、ファルムス王国の一件で法皇庁には戻れないと言うのに、わざわざ俺達と同じ、“来賓”という立場で呼び出されていた。

戻ってくるなと言われたり、来いと言われたりアイツらも中々に苦労しているんだろう。

 

サーレとグレゴリーは、既に死食鬼と戦っているが何分相手が相手。

元々群れる事ができない特性を活かして、多対一で討伐していた魔物が、何故か百を超える数が軍のように攻め込んできているのだ。

案の定苦戦を強いられていると言う。

 

ヒナタの合図で、待機中の聖騎士団が出撃。

 

状況は混沌を極めていた。

 

 

 

大聖堂入口は阿鼻叫喚の地獄絵図。

人化しているモノしていないモノ、色々居るが皆が皆口元にベッタリと血肉をこびりつかせていた。

これがセイヤ以外の初めて見る死食鬼だと思うと悲しくなる。皆一様に面がいい。

が、その何倍もセイヤは顔が綺麗だったのだと再認識した。今するべき事では絶対にない。

 

死食鬼の数は、百以上。対して法皇直属近衛師団はその三分の一も無いだろう数しか立っていない。後は屍に成り果てた。サーレとグレゴリーも、死食鬼の群れに押されている状況だ。

 

しかし、それを指し引いても目立つのが、ヒナタが対峙する爺さん。

グランベル・ロッゾ

七曜の老師 日曜日(グラン)、五大老の長。

魔物でもないが、人間でもない...その身に纏う覇気がその相手が尋常でない事を示していた。

 

「マリア、お前はルミナス様を探し出し、ここまで連れて来なさい。抵抗するなら殺しても構わん」

 

その言葉に反応し、一人の女性が姿を現した。

マリアベルによく似た、妙齢な女性、あれがマリアだろうか。

あれも人間では無いだろうが、相手はあのルミナスだ。任せてしまっても問題ないだろう。

 

 

俺としては、グランベルと死食鬼を早急に始末してしまいたい。

お生憎とこういうタイプには会話なんて無意味な事はもう痛いほど理解している。出来ることは、力比べのみ。ガキの喧嘩みたいだが、それで人が死ぬんだから物事の決定には十分すぎる。

 

 

「初めまして、グランベル。俺としてはお前の事は名前だけが独り歩きしていてな? 会えて嬉しいよ」

「魔王リムル......間違いは無いな?」

「あぁ間違いない。なぁ爺さんよ、俺と本当にやり合うか? 主義主張を力で証明し合うか? まだ引き返すなら俺はお前の背中は傷つけない」

「クックック、新参者が抜かしよる」

 

随分な自信だ。

新参なのは事実だが、魔王となれば警戒の一つでもするべきだろうに。

一分にも満たない会話で俺の警戒心はグンと跳ね上がったようだ。この爺さんは、出来る。

 

 

そんなグランベルに最初に挑んだのは、ニコラウスだった。それに付き従うのはレナード、アルノー、リティスの三名。

他の隊長格は法皇直属近衛師団のサポートに回っている。あちらもあちらで、限界ギリギリなのだ。グランベルが驚異であろうと、これ以上の人員を割けない。

 

 

ニコラウスが、詠唱を始めた。

華麗な剣でグランベルを翻弄するレナード。

的確な読みで、レナードに合わせるアルノー。

そんな二人を、適切にサポートするリティス。

普通だったなら過剰と言ってもいい時間稼ぎにより、ニコラウスの詠唱は最後の一節を残すのみとなった。

その間、グランベルは三人の攻めを汗ひとつなく捌いていく。

格が違う、そう納得せざるおえない。

世界への干渉は積層形魔法陣となって視覚化される。呪文で降りなされた光の牢獄の中心で、グランベルは悠々と佇んでいた。

霊子崩壊(デスインテグレーション)”が完成するれば防ぐ手段はない。

しかし、アレはダメだ。

常識がいとも簡単に覆る。

 

「ふむ、なかなかの詠唱だったな。魔法の流れを読み取るには、これ以上ないほどにのう。

詠唱が読みとかれるようでは、この先その魔法はいとも容易く相手に利用されることになる。記憶しておくことだな」

「まさか......!」

 

霊子崩壊(デスインテグレーション)”が放たれた。

目に焼き付く閃光、それはまっすぐグランベルへと向かい、突如起動を変えてその手に収まる剣へと吸い込まれた。

それは刹那の出来事。

ヒナタの「散開」の檄に、レナード達が反応する。しかし、遅すぎる。

それは超絶聖剣技(オーバーブレイド)崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)、ヒナタ生み出した最強の奥義。

グランベルの薙いだそれは、扇状に衝撃を走る。

 

その閃光が過ぎ知ったなら、立っている者はいない。

ヒナタはニコラウスを庇い吹き飛ばされ、レナード達は余波で瀕死へと追いやられた。

今もう一度立ち上がれるのはヒナタだけだ。

 

 

「“絶対防御”か......ワシの腕も鈍ったものよ」

「何の話を...いえ、リムルね」

「しかし脆いな。その守りでは何も守れんぞ。そして隊長格もたかだかこれだけでもう立ち上がれぬと来た。それで何が守れるというのだ?」

「随分な自信ね。私はきちんと立ち上がっているわ」

「ヒナタよ、一人が立っていても後ろの者が死んだならそれは無意味でしかないのだよ。

常々の慢心を理解するべきだ。貴様は、今ただそこの新参に守られたから立っているに過ぎない。自惚れるな」

 

 

グランベルが言った“絶対防御”。

確かに俺が咄嗟にヒナタ達に一人ずつ発動させたものだ。

中々に慢心してもいい性能をしている絶対防御だが、同時に複数となれば性能も落ちるらしい。

正直これだけの被害が出るとは思っていなかった。俺もあの一瞬の一薙に絶対防御を間に合わせるのは中々にキツかった。そう何度も出来ない。どうする? ヒナタと俺で同時に仕留めてしまうべきだろうか。

 

 

「そう見つめるでない、魔王リムルよ。貴様の相手ならば後でゆっくりとしてやるゆえ、今は...ほれ、そこでたった今にでも壊滅する師団でも助けてやると良い。

生死を駆け引きする立場にあるならば、守るべきものが何か分からない訳ではあるまい?」

 

 

クソッ、痛い所をついてくる。

法皇直属近衛師団の被害はもう目に見えて危険な段階に来ている。

今この場だけを考えるなら、俺はきっと師団を切り捨てるだろう。しかし、彼らが担っていたのは治安維持。言ってしまえば人々の心の支えだ。それを失う訳にはいかない。

争いはその場で終わっても、生活は先も続くのだ。まぁ、それは生者にのみ言える事だが。

 

「リムル、貴方は死食鬼をどうにかしてちょうだい。ここは私がやるわ」

「任せても大丈夫か?」

「えぇ、一度お手合わせ願ってみたかったのよ。光の勇者とはね」

「......頼んだぞ!」

 

 

頼んでしまってもいいのか、本当に?

何故だか不安が拭えない。

 

ルミナスは昨夜俺に、グランベルが攻めてくる可能性を仄めかした。それ自体も何処かとどのつまりがあるような言い方だった。

グランベル以外に何かあるのだろうか?

第一、あのルミナスが少し遠方にいた隊長格ですらもをルベリオスに待機させたのだ。

ギュンターやルイですら、何時でも戦闘態勢に入れるように指示を受けていた。

仮にも、元配下の襲撃にここまでするのだろうか? いや、もちろん備えるに越したことはないのだが。

 

何か、大きなものが隠れているように感じてしまう。グランベルが死食鬼の群れを用意出来た、という違和感と同じ何かが。

 

 

 

「リムル様!!」

 

思考を遮るように、サーレが声を上げた。

その姿は至る所傷だらけで、疲労も溜まっているのだろう。微かに指先が震えている。

 

「...!ッどうした!」

「このままでは死食鬼に押し負けます。どうか、お力添えを」

「分かってる、状況は?」

「はい。どうやらあの死食鬼は何者かに強化を受けているようです。A+に到達しているものもちらほら、他も殆どその領域です。

一体討伐するのに、最低でも二名は兵が死んでいます。このままでは......」

「思ったより酷い状況だな」

「おそらく、干渉が入っているのだと思います。複数体への全体攻撃はまず無効化され、一体ずつ対処せねばならず、干渉を解除しようにも法則が一つ一つバラバラです」

「それを解除出来れば、お前達でどうにか出来るのか?」

「ええ、伊達にグレゴリーも他の奴らも、死食鬼を第一優勢討伐対象として動いてませんから」

「なら、俺が一体ずつ解除と弱体化を行う。何分数が多い──────俺の動きにお前たちが合わせろ、良いな?」

「はい!」

 

サーレが全体に指示を飛ばす。

流石の統制力というべきか、サーレの指示を聞いて皆が皆体制を立て直している。

俺が弱体化させるまでの間、できる限り死傷者を減らし、かつ死食鬼の動きを止めるような体制だ。フリッツやバッカスもいる、気にしてやらなくてもいいだろう。

 

専念するべきは、死食鬼にかけられた干渉の解除だ。

 

智慧之王(ラファエル)先生、いけそうか?

《解。死食鬼一体一体に別の解除方法が存在します。ですが、どれもそこまで複雑ではありません。》

 

結構自信満々に答えてきた。

どうやら、難しくは無いらしい。

俺としては、最近“法則”という単語を聞くとあの親子がチラつくのだ。アイツらがでしゃばるとついでに法則がでしゃばってくるという、法則? あっ、ダメだ、なんかイライラしてきた。

 

不必要な呼吸を一つ。

 

落ち着くべきだ。

アイツらの作る法則は今まで、元素が見つからないという謎のセリフを智慧之王先生が言っていた。それが、今回は簡単だと言う。

ならば、あの親子の策とは考えにくい。グランベル本人か、雇われ人だろう。

案外ユウキが出しゃばってきてる可能性もある。まぁ、誰でもいいが。

 

《......。》

 

 

剣を今一度強く握り締めた。

俺が駆け出しても、死食鬼達は反応を示さない。えぇ、えぇ、所詮美味しくもないスライムですよ。けど...それは仇だ。欲望以外に思考を回せるようになれなければ、俺の適では無い。

 

背後に回り込み、拘束。

やっと振り向いたって、もう遅い。拘束された死食鬼は捕食者ではなく、捕食者に睨まれたゴミでしかない。食ってやる価値だって無いのだ。

 

法則を見つけ出し、解除の手段を確立し、実行に移す。その工程に一秒だって時間は必要ない。

 

 

《告。解除を中断してくだ──────》

 

 

ッ......!!

解除が終わるのとほぼ同時、もしくは終わった後に制止の声を頭が処理した。

正確に言うなら、処理できた言葉は途中までだった。代わりに頭を支配したのは、有り得んばかりの轟音。

 

それは、称すならば「核爆弾」だった。

 

《告。“絶対防御”を対象包囲状に発動させ、衝撃を防御範囲内に抑え込みました。対象の死亡を確認。》

 

何が、抑え込んだ、だろうか。

確かに大半の衝撃は抑え込むことに成功しただろう。しかし、核爆弾とは都市一つを陥落させるだけの威力を持つのだ。

そう、つい最近に滅んだイングラシア王国のように。

 

絶対防御は、普通外からの攻撃を無効化する。

それを内側からの攻撃を無効化するように仕掛け、反射で死食鬼を一体殺した。

代償と言えば、俺の腕が吹っ飛んだ事くらいだろうか。周囲にいた師団兵も三人程死んだ。重傷者も多い。

これだけで済んだことが奇跡であることがまた俺をイラつかせる。

 

 

何が起きた?

《解。法則を解除する事で、起動する仕組みになっていた様です。その仕組みは、“観測不能な元素”によって隠されていました。

爆発にも一部同じ元素が含まれており、それらが“絶対防御”をすり抜けた模様です。》

 

 

“観測不能な元素”

 

 

「チッ......あ゛ぁ、クソ! やられた!巫山戯るなよ、あの野郎共が......!!」

 

 

羽目られた。

それを理解した途端、ずっとあった不安やらイラつきが限界を突破した。

掻きむしった頭は髪を乱れさせ、衝動のままに爆発して残った死食鬼の残骸を切りつけた。

 

何度こちらをコケにしてくれたら気が済むのか。誰だ、誰が来た?

セイヤか?...レブルだったら勘弁だが嫌な予感と言うものは往々にして当たるのだ。

 

態々、俺が死食鬼の干渉を解除出来る事を見越した上で罠を仕掛けてきた。

随分な目に合わせてくれるじゃないか。

 

 

しかし、どうするか。

爆発させれば、もちろん死食鬼にかけられた干渉なんて吹っ飛ばして殺すことが出来る。

他の死食鬼が無傷なのが歯痒いが、殺すとなればそれが楽だ。

爆風が生じる瞬間に、空間を食ってしまう方法で一体ずつ殺すか?

 

《否。それも罠の可能性があります。観測不能元素を体内に入れた場合、抵抗(レジスト)及び最適化が出来ません》

 

なら、もう諦めて解除なしで殺るしかない。

 

純粋な力比べ、まぁいいだろう。

 

そういうのは案外得意な方だ。

 

俺をここまでコケにしやがって、絶対に許してやんない。今決めた。

 

死食鬼共も、俺と力比ベすることになるなんて術者を死に間際で恨む事だ。

爆発で死ぬより辛い思いをする事になる。

だって、爆発で死ねば一瞬、無駄に強化されるとなれば余計に苦しむのだ。

 

俺の死食鬼に向ける目は、きっと昔の面影など残してはいないだろう。

 

まぁそんな事は、もうどうでも良いのだが。

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