転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第105話...正論

狂気だ。狂気が人の皮を被っている。

 

頭から吹き出し続ける血が、思考を鈍らせる中でそう認識する。 良すぎる目は赤に染まり、希望もへったくれも写してはくれない。

見えているのは、絶望と狂気。

 

恍惚と笑う、セイヤ・カミシロだけだった。

 

 

鮮血の覇王(ブラッティーロード)ね、なかなかに厨二臭くて嫌になる。それにお前...本当に手もつけられない荒くれ者だったのか? 。名前負けもいい所だ。

やっぱり兄弟仲は良くいた方が良かったってことだよ、お兄ちゃん。一つが二つに、二つが一つに...それは言い換えているだけのように見えて全くの別物なんだから」

「何故...ロイとの......」

「関係を知っているのか? 答えは簡単、教えて貰ったから。“ギュンター”にね。

悲しいこったな、裏切りでは無いはずなのにやってる事は死罪に値する神への裏切り。でも大丈夫だよ、ギュンターは俺という加害者の被害者でしかないんだから、死に様はきっとキレイだ」

 

 

ギュンター、三公の一人でありナイトガーデンを担当していた男である。

そんな男は今、喋らぬ人形のようにセイヤ・カミシロの後ろに突っ立っていた。言葉は発していない。思考や記憶を覗き見られたのだろう。

 

そうだ。ルイとギュンターの二人がかりならば、セイヤ・カミシロに負ける事は無かった筈だ。そのはずだった。

誤算が二つ、一つはセイヤ・カミシロが多対一に長けた戦闘技術を持っていたこと。もう一つ、それは信仰心が絶対的な要塞に守られていると錯覚していた事である。

 

世間一般が風俗的に使う意味のままに、ギュンターは堕ちたのだ。

セイヤ・カミシロに予備動作は無かった、ただ良すぎる目が認識しただけ。堕ちる瞬間の別物のように変化した目と、ダラりと下げられた手が、まるで死んだ様で。

ルミナス・ヴァレンタインという神が全てであったことが裏目に出たのだ。

 

一対一になってしまえば、ルイに勝ち目は無い。ただただ蹂躙され、今に至る。

 

 

セイヤ・カミシロは愉しそうだ。

 

 

「時に...法皇様、愚かな私に教えてくださいな。生死とは一体なんでありましょうか?」

「............は?」

「私がいた世界では、つくづく生死に関する名言が残ります。それは集を成して世間に顕となって、紡がれていけば意味を忘れられる言葉達です。さて、それら名言には多々神という単語を目にします。

私はかの聖騎士様と同じ世界で同じ国の出身でございますが、その国の偉人である義の武将などと呼ばれた男はこう言ったそうです。もちろん、事実なのか...私の解釈が彼の言った意味を汲んでいるかは別ですが。

『人間、一度しか死ぬことはできない。命は神さまからの借りものだ』

そうですね......前半部分に関しては嘘ハッタリでしたね。何分、私自身が一度で済まなかったので。有難い話です。

法皇様にお聞きしたいのは後半部分です。

本題に入ります。生死とは一体なんでしょうか? 神様からの授かりものですか?

神とは...なんの神でしょう? 私の国では全てに神が宿ると言います。では彼はなんの神を指してそう言ったのですか? この世界では神ルミナスがそうなのですか? あの魔王が命を借すのですか? 借り物という事はお返ししなければいけないのですか? 返してしまえばその命はどうなるのですか? 再利用? 処分? 保存?

ねぇ、法皇様...教えてくださいな...教えてくださいな...教えてください。生死とはなんですか?

管理された平和に生きた命は、死んでどうなるのですか? お生憎、私は無能の権化ですので死者を追えないのです。貴方様は死んで体験する事になるかもしれませんが、私には分かりません。だからこそ、私に法皇様の言葉で教えてくださいな。ねぇ?」

 

 

どろどろと体の中に、不快感が溜まっていく様だった。これは恐怖だ。

幼い子供の純粋な疑問が、かつての栄光も偉業もを踏み潰しす。ルイの口からは意味の無い音だけが零れていく。

 

最早、敗北しているルイに逃げ場は無い。

ただ幼子の手の上で、踊らされて飽きて捨てられるのを待つだけに過ぎないのだ。

 

 

しかし、超克者である吸血鬼を尽く蚊と呼ぶ子供からすればわざわざ下手にでて あげた のに無視されるのは遺憾である。

子供は短気である。特に自分の思い通りに事が進まなければ、これから待つ癇癪は想像を絶する。ルイは愚かであった、もしかしたら穏便に死ねたかもしれないのに。

 

 

「なぁ゛、お前ふざけてんのか? それとも俺を馬鹿にしてんのか? 何とか言えよ」

「............ぁ」

「あ? んだよ聞こえないんだけど、法皇ってのは来賓をもてなすのが仕事の一つじゃなかったのか? これだから無能は嫌なんだ。

それともなんだ、ルミナス教信者限定でしか、法皇様は口を開かないのか?

そうかそうか、あぁそうか! いやもういい。何も言わなくていい、期待は損なわれた。

今決めたよ、お前の殺し方を...最高な案だ!」

 

 

セイヤ・カミシロは急に声を高鳴らせ、愉快そうに腕を広げてクルクルと回り出した。

何度か腕がギュンターに当たるが、お互いに気にした様子は無い。

 

本当に何処までも子供らしい。それがまた恐ろしい。

幼い子供の集団にいる、少し思想が強くていじめっ子気質でこだわりの強い子供。それが力と知恵を精神年齢そのままに得た結果が狂気の皮を被った“化け物”なのだ。

 

あぁ、やはり恐ろしい。だって子供は何を仕出かすか分からない。

 

 

「これは持論だ。しかし、正論だ。

俺の口から出た言葉は全て俺にとっての正論だ。そして正論は人に押し付けるから意味がある。これは、生死についての正論だ。

生きる事と死ぬ事、そう言ってしまうのは余りにけったいな。生死とは、一重に活力だ。

皆等しく、生に縋って死を恐れる。らしい考えだ。だから神なんぞの寄生虫に寄生される。

生死は道だ。後ろに死がある。それはジリジリと一定を持って追いかけてくる。だから人間は走るのだ、生を刻んで。時期に足は動かなくなり死に取り込まれる。

つまりだ、はなから人間には死しか無いのだ。目の前に、道無き道が生まれた瞬間からあるだけ。

一歩一歩の足跡が人生になるのだ。しかし、人生は全て過去に消える。何故? 死が後ろを追いかけるからだ。歩んだ人生は、振り向けばもう死に沈んでいるんだ。

生に終わりは無い、道であるからだ。

生に始まりは無い、だってもう始まりは見えない。そして...最果ても見えない。人間は不老不死では無い。

順風に全うして百年。気づけば足は動かない。稀に転けて立ち上がれずに死ぬ若者もいるが...それは言い、どうだっていい。

俺はね...最果てが見たいんだ。人類の境地だ!死から逃げて逃げて逃げて! 何が待っている? 死ぬのは怖い、でも生きるのも怖い、でも恐怖は興味だ...だから人は簡単に死んで生きる。俺の興味は生に傾いた。俺が走るその先に何がある? 俺は......それが知りたい。

その他要求は、歩む道の中で形成される。けれど...生だけは俺の人生が始まったその瞬間から......俺を興奮させた!

神様からの借り物? 巫山戯んな! 俺のもんだ、全部俺のもんだ...死にだってくれてはやらない。俺の全ては俺のもんだ。でね......俺はおれの全てを潤したいんだ、欲求って奴だな。

そう、お前だって俺の欲求の為に死ぬんだ。

結論! 生死とは道である。以上」

 

 

さて......神聖法皇国ルベリオス法皇ルイ・ヴァレンタイン、何か言うことは?

 

死のカウントダウンでも始まったのだろうか。

ルイの爪が、床石にカタカタとぶつかり細い音を立てる。今までに見たことも無いほど白い手に水滴が落ちた事で、自分が泣いていると理解した。

 

今までの全てを捨てて、ただ怖いのだ。

目の前の狂気が。

 

「ぁ......ぁあ──────ルミナス様」

 

 

目が変わった。最後の一単語で、ルイという玩具に飽きたらしい。

セイヤ・カミシロは蹲るルイの前に膝を降り、そして己の両手を絡めた。まるで祈りの様に。

 

ルイの心臓が淡く光る。

 

それは信仰者にとって、最上で最悪な死。

 

この場で最も聞きたくない者から発せられる詠唱。

 

 

『神への祈りを捧げ給う

 

我は望み精霊の御力を欲する

 

我が願い 聞き届け給え

 

──────霊子崩壊(デスインテグレーション)

 

 

最後に柔らかに微笑むのだから、ルイが余りに惨めでしょうがない。

心臓に発動した神聖魔法は静かに、ルイを殺した。力の抜けた頭が床に付き、まるで土下座の様である。いや、神への祈りと言った方が、立場としては正しいだろうか。

 

セイヤ・カミシロは立ち上がり、その場を去る。

 

「行くよギュンター、お前は人目に付くどっかに貼り付けておいてやる。

あームカつく...どいつもこいつも神ばかり。

あっ、そうだ。いい事を思いついた、今日の俺はどうやら随分と頭が冴えているらしい」

 

 

あぁ、そうだ。

セイヤ・カミシロの神聖魔法はヒナタ・サカグチの物よりもずっと質のいいものであった。

技術も威力も、全てが彼女を上回っていた。

信仰対象が自分自身であるのは少し気持ちが悪いかもしれない。

 

主に、セイヤ・カミシロの頭にいるスキルは「きっしょっっ」位には思っている。




本当にうるさいクソガキですみません......。
でも可愛いでしょ? ね?
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