転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第106話...宗教陥落

青と赤の金銀妖瞳(ヘテロクロミア)が、正義に濡れた瞳と交差する。

戦闘は激化の一途を辿っていた。

 

気がつけば死食鬼の殲滅などとうに終わり俺とレオン、その他諸々はただその戦いを眺めていた。

助太刀するには千年の私怨が濃すぎたのだ。

ヒナタの表情は何処か暗い。それは己の無力さから来る自虐だろうか。

 

この場に無力感を感じる必要性なんてあってないというのに。

 

 

「まだ粘るか、グランベル!」

「虚勢を。進化すらしていない貴方がどうして優勢を気取るのか」

 

私怨がぶつかり合う。

その衝撃はあまりに酷く、ルミナスの敗北が近い事はきちんと理解出来ているのに。

 

“既視感”ある霧が、思考を覆っている。

 

 

《──────人、主……主人(マスター)!》

 

 

一瞬だけ意識が正常に戻ってくる。

智慧之王の声に脳が反応したのでは無い、ただ目の前に躍り出た“その子”の存在が霧の中から思考を引きずり出したのだ。

 

 

「逃げてー!!」

 

幼い金切り声が、危険を知らせている。

脳はやっとのこさ今の状況を理解したのに。

体は動かない。夕方まで惰眠を貪った休日のように、心地よく体が重い。

 

その子がグランベルの方へと駆ける。

ルミナスが止めに入っても、それは遅かった。

 

 

グランベルの背後から、グランベルごとその子を細剣(レイピア)が貫いたのだ。

 

「ッ......ヒナタ! お主何を...!」

 

グランベルと対峙していたルミナスが張り詰めた声で名を呼ぶ。俺の後ろで暗い顔をしていた筈の、ヒナタの名を。

 

いつの間に。

そう思って気づく、そういえば俺は、ルミナスとグランベルの戦闘内容の記憶が全くと無い。

 

ずっと、微睡みにいるみたいだ。

 

なのに心臓が酷く煩い。ありもしないくせに。

 

 

グランベルの血が細剣を伝り、クロエに混ざり、そして混ざった血も細剣の先から落ちていく。血が落ちる水音がやっと俺の意識を刺激した。

 

まるで、一時間だけと昼寝をして、気がつけば空が夕日に染まっていた時のように。

 

 

「おい、クロエ!!」

 

肉を抉る様に抜き取られた細剣が、カラカラと音を立てて落ちる。ヒナタは“魂が抜けてしまった”様にただそこに立っていた。

その瞳は、自分が突き刺した幼子すら見えていない。

 

「クロエだと...、本当にクロエなのか!?」

なんだかレオンが動揺しているが、今は無視だ。

駆け寄ったルミナスがクロエを抱き抱える。幼子の傷は明確に心臓に位置し、衰弱があまりに早い。

対象的にグランベルは急所を免れたものを、何処か焦ったようにヒナタを見ていた。

 

 

「何故だ...ワシは最大の策を講じた筈だ。彼奴がこちらを貶める行動をする事は分かっていたのに......何故、ヒナタ...貴様、どこで“レブル”に取り憑かれたというのだ」

「レブルじゃと?そんなまさか」

「それだけはダメだ。絶対に......!」

 

 

あぁ、嫌な勘とはよく当たる物だ。

この場にいる全員の視線が、ヒナタへと集まる。

のそりと、ヒナタが口を開く。

僅かに瞳孔が揺れた。まだ意識はあるらしい。

 

 

「ヒナタ!」

「......ルミ、ナ......さ」

 

 

「──────宜しい」

 

ヒナタから漏れ出た言葉を遮ったのは、きっとこの場で最も聞きたくない声。

いや、この場などと言わず、生きている中で聞かずに済むなら誰も聞きたくは無い声が静寂の中に響いた。

音の波紋は絶望を形どっている。

 

そこに、世界の害がいる。

 

何か黒い物体を引き摺りながら、ゆっくりと歩みを進めるレブルに俺の手が震えるのが分かる。

こうして対面するのは評議会ぶりだ。

俺の中の恐怖はまだ消えてはいない。

 

 

「酷い、惨状だ。嘆かわしい事この上ない。さてグランベル、どれが......希望の光だったのだろうか?」

 

心底退屈ですという顔をレブルはする。

 

そこでハッと気づく。

レブルが引きずっているのは、大聖堂を襲撃していた蟲型魔獣(インセクト)であると。

 

「ッ──────ラズル!」

 

グランベルが声を上げる。

その拍子に傷から血が溢れ出した。

 

ラズルと呼ばれた蟲型魔獣は、鎧が落ちるような金属製の音を立てて地面に放られる。

胸元にポッカリと穴の空いたそれは、確かにもうこの世に魂を残していないらしい。

 

 

「あぁいい、結構だ。そんな悲劇の絶頂のように声を上げなくても。特にこの虫に思い入れは無いし動く心もない。と言うよりも、この虫はラズルなどという名だったのだな。忘れていたよ」

 

「待て、大聖堂にいた他の奴らは......」

俺の疑問の声に、レブルはつまらなそうな顔に皺を寄せた。

 

 

「殺していない。用がなかったからな。この虫はあまりに目障りだから殺した。

......はぁ、そう廃人が現状に嘆くような顔をするな。言葉に困ってしまう。

そんなに心配か? まぁ、正しい反応か。

事実、殺しては無いが......明日を拝めるかはお前達の頑張り次第だからな」

 

 

レブルの表情は今度はやけに愉快そうに変化した。

 

 

「結局、光とは聖騎士のことか吸血鬼なのかはたまた......それともその全てか。

まぁ、所詮希望を名乗るには弱いな」

 

 

意地悪く口角を上げた唇が音に合わせて動く。

 

──────そんな仮初で期待外れの希望の光に殺されるというのは、お前らしいだろう。

 

 

レブルが指先一つでヒナタを引き寄せる。

手を伸ばしたのは意外にもグランベルで、悲しいかなその手は届くことは無かった。

 

俺はと言えば、何故だか分からないが体はピクリとも動かない。

そういえば、恐怖はあるのに何故だろうか、焦りがあまりないのだ。何故......

 

「覚えておきなさい。相手を貶める最大の策とは......こういう事を言うのだ」

 

引き寄せたヒナタの腕をレブルが掴んだ刹那、人体から鳴るにはあまりにおぞましい音が響いた。

 

バキ、バキ......グチッ

 

骨が砕け、肉が伸びる異質な音。

手が、足が、胴に飲み込まれ、胴は細く引き伸ばされる。黒く艶のある髪はハラハラと地に落ちた。骨がそれを形取るように輪郭を形成した。

 

それは、あまりに非人道的な

 

それでいて、人類の神秘を否定する

 

 

何処か古めかし創りをした剣が、レブルの手には収まっていた。

 

 

 

なんだあれは......何が起きた。

そう感じているのは俺だけではないだろう。ルミナスもレオンも、この世の裏側を見たような顔をしている。

 

人を剣にする、その発想もそれを実現する力も全てが、嫌悪するには十分なものだった。

 

後ろにいた師団の中には抑えきれずに嘔吐する者や、失神した者もいる。

無理もない話だ。きっと、その方がずっと楽だ。

 

だって、これはあまりにも......

 

生き物がしていい所業じゃない。

 

いち早く状況を理解したルミナスが吠える。

 

「貴様ッ──────!」

 

「騒がしい。そんなにこの騎士が大事だったのか? いい教訓になる。覚えておきなさい、“大人は餓鬼が何を考えているか等、手に取るように分かるのだよ”

......グランベル、お前にはきちんと言ってやったと思うのだが忘れてしまったか? ちまちま、ちまちまと癇に障る事ばかりお前はする。

死食鬼を用意しろと言うから何をするのかと思えば、私に向かって回路を繋げるとはなかなか考えたじゃないか。微妙に腹立たしく、それは賞賛する価値がある。

それに、ここに来る道中にも聖を纏った者が幾度と襲ってきた。もはや隠す気も無いと見える。所詮は時間稼ぎだ。許そうじゃないか」

 

 

「可笑しい」

 

 

レブルの演説を遮るようにグランベルは立ち上がる。

剣を地に突き立てて、無理矢理に立ち上がる様はヒナタと重なった。

足元の血溜まりがまた少し大きくなった。

 

「何がだろうか」

「貴様を襲わせたのはワシ自ら育て上げた精鋭だ。それを千は襲わせた。

ましてや死食鬼に仕掛けたのは、一体死ねばその分の魔素を貴様から吸い上げる絡繰だ。貴様の魔素は、もう残っていないはず......」

「ほぉ......驚いた。まだ理解していなかったとは。良いだろう、その努力を評価し、特別に教えてやる。

私の力は、物質を作り変えることが出来る。確かに私の魔素は世間一般に言うスライムの群れを殲滅でもすれば尽きるだろう。だがな、魔素なんてなんでもいいんだよ、空気でも水でも人でも...なんだって、魔素に変えられる。

貴様がするべきだったのは小細工じゃない。この世界を空気すらも焼き尽くして更地にすることだった。そうでなければ私は倒せない」

「貴様...それは世界に干渉出来ると言っている様な物だが」

「この世にはそんな奴そこら辺に溢れんばかりにいるさ。例えば“時間”だとか......な」

 

 

グランベルの剣が皮膚の圧で音を立てる。

憤りや、無力感。そんなものがこちらにまでヒシヒシと伝わってきた。

 

「貴方は......ゴホッ、あな......たは」

「クロエよ、喋るでない!!まだ治療が...」

「貴方は、神様なの?」

 

 

ルミナスによって治療を施されていたクロエが掠れた声で声で問う。

その目は死人に着々と近づいてきているようだ。

 

その問いに、僅かにレブルが反応した。

 

「貴様、何か見たのか?

いやあの勇者とてそこまでは知らないはず......戯言か? ヒナタの攻撃に混入した魔素からアイコンタクトを取った可能性はあるな。

素晴らしいものだ、流石は長命の勇者。スキルの中でなら私の汚染は届かないか」

 

反応、と言うよりかはブツブツと要領を得ないことを呟いている。

勇者とは誰の事だろうか。

グランベル?レオン?

しかしそのどちらもが話の内容とは噛み合わなさそうだ。

 

「結構結構、今一つだけ嫌な考察が行われた。破壊衝動ならば獣らしく動けばいいものを......チッ、愛とやらならそれはクソだな」

 

 

あっ、こいつ案外口悪い。

 

 

「ふっ、私が神かどうかだったか。半分正解で半分間違いとでも言っておこう」

「───黙れ。貴様が神を名乗るな」

「おやクソガキ。その体でまだ私に歯向かうのか。ましてや、クロエ・オベールを守る為に? なるほど、希望の光とは危険を伴うな」

 

 

グランベルが剣先をレブルに向ける。

その様は、正義と悪をより分けた。

 

「貴様はこの世界に不必要な存在だ。殺し、抹消しなければならない。貴様がいる限り、人類に安寧は訪れない。

これしか無いのだ。ワシは何を失おうと、例え己が朽ちようとも、人類の平和を望むのだ。

諸刃でも良い。不完全で良い。貴様に刃先を向ける全てが希望だ。ここにいる全てが希望だ。

人は臆病なのだ。別のルールで生きる者を受け入れられぬ。けれども、今新たな道が開かれようとするならば。ワシはそれが人類の為だと信じようぞ。」

 

 

グランベルは、イカれたおっさんだと思っていた。しかしその口から語られる言葉は全てが人の為のもの。

 

 

「……だから、わざわざ人を育て今この場でその身を滅ぼすのか?」

「そうだ。人類の生存圏確保の為ならばそれもまた運命だ」

「…………分からないな。先程まで死闘を繰り広げていた魔王に背を向けて、私に牙を剥くその様が…分からないな。

そこに転がる無数の死体は、お前が引き連れた“死食鬼”の群れで死んだと言うのに。目的の為なら、他者の命も惜しまないのか」

「さよう」

「ならば、そこに転がる死体達は人類には当てはまらなかったのだろうな。

“人類”を選定するのがお前であったばかりに。

あぁ、ならばその忌々しい蚊も粘液生物も…“人類”なのか。その背の後ろに居るのだから」

 

「貴様は───「もういい、それ以上は不愉快だ。その戯言は辞めていい」

 

 

 

空気が変わったのが嫌でも分かる。

グランベルを見つめていたその目がゆっくりと細められる。ブラックホールよりも黒いんじゃないかと錯覚してしまう程、その目が何を写しているのかは分からない。

 

こちら側とレブル、どちらが少しでも動けば、直ぐにでも戦闘が始まるだろう。

 

 

「やめ、て…………ダメ…戦ってはダメ」

「クロエ!」

「……ダ……メ…」

 

「なんだ、まだそこに居たのか。死なれては困るのだ。絡繰をひとつ壊したからな、手で修正してやらなければならないのか……

はぁ、流石にこちらから旅を支援してやるのは疲れるのだがなぁ」

 

───パチン。

随分と軽い、指の音。

そして次にはルミナスに抱えられていた幼い子供は姿を消した。

 

 

「失礼。流石に、事前に魂を汚染するという事象を行ったのは初めてだったので。

まさか世界がヒナタの魂を、既に知覚して居なかったとは思わなかったのだ。

世界が進化を認めてスキルが進化するなら、そのスキルが発動するきっかけも世界の観点が基準となるのだな…実にいい結果を得た」

「ク…ロ、エ?」

「なぁ、光の勇者よ。その勇者の希望たちよ。

お前達はまだ理解していないのか。それとも、本当に頭が足りないのか。

君たちは、この世界の創造主に勝てる想像ができるか? 出来ないのであれば、私にも勝つ事など出来ないという事だ。

言っても分からないようなら───」

 

地についていた切っ先をレブルが持ち上げる。

あぁ、分かっている。自分が何をしなければいけないのか。だから……

 

「戦闘態勢!!」

 

グランベルの怒号が空間を切り裂く。

 

 

主人(マスター)!》

 

分かってる。全部分かってる。

霧のように曇っていた思考が、レブルの作った結界であることも。

グランベルが力を振り絞ってその結界を壊した事も。

 

そして、随分ともう、手遅れな事も。

 

ずっと分かってる。

それでも脳は結果に行き着かず、自分のスキルの声すら処理しようとしなかった。

恐ろしい迄の認識障害を与える結界。

 

「お前達には、現実をその目に写してやらなくてはいけないらしい」

 

それを、“グランベルなんか”が壊せるわけが無いことも。

 

 

 

足を踏み出すのも剣を振り上げるのも

 

レブルの方がずっと速い。

 

 

「………あ…」

 

 

縦に切り裂かれたグランベルが、左右にその体を落としていく。

上半身の方が重い人体は地面に落ちるその前に皮膚を引きちぎり、その上半身を落とす。その上に申し訳に足が乗る。

大まかに4分割された体は、絶妙なバランスを保って右足のみが変わらず立っていた。

 

 

「そろそろ来るな...」

 

そろそろ? 確かにレブルはそう口にした。

来るとは何が来るのだろうか。

セイヤか、ユウキか? いや、レブルが動いている状態であの二人も来る必要性は無いはずだ。

 

《告。次のレブルの目標はルミナス・ヴァレンタインであると推測》

───!

《「絶対防御」を──》

 

分かってる!

 

 

レブルの動きは速い。

絶対防御をルミナスの前に展開して、攻撃に回るのでは遅すぎる。

なら、攻撃に用いるその剣に絶対防御を纏わせればいい。攻撃と防御が両立出来るなら、少しは速度差を埋められる。

 

 

ヒナタから作られた剣がルミナスの首筋を掠める。刃先が首筋に触れ、線となって肌色を塗り替える。

刃が首に食い込むその前に、剣の刃先を弾き返す。

生じた風圧が、艶やかな髪の毛を空へと舞い上がらせた。

 

「女の髪を切り落とすって行為は、随分と最低だと俺は思うぞ」

「そうか…その女を守れないなら、お前も大した男では無いのだろうな」

 

 

「黙れ!妾は守られねばならぬ女では無い。

レオンよ、お主もいつまでも呆けておるな!ここで死ねばそれまでになるぞ」

「───! ………分かっている」

 

ルミナスが地に転がるヒナタの細剣を引き寄せる。

そのまま、部分的に切り落とされた髪を顎より上の高さで切り落とし、汚れたスカートを引き裂いた。

 

「おい、いいのか」

レオンの言葉にルミナスは鼻で笑った。

「良い、アレなんぞに触れられた髪など汚らわしいだけじゃ」

 

 

「レブルよ、失うものが無くなった者は何をするか分からない故、気を抜くでないぞ」

「おや、神様からのご忠告でしょうか」

「白々しい、不愉快じゃ」

「そうか。しかし聞き捨てならない。

お前達にはまだ残された物があるじゃないか。光の勇者の意思は拾ってやらないのか?」

「どこまでも…どこまでも……!

もう良い。地獄にすら行かせてはやらぬ!」

 

 

喪失感、怒り。

それらは渦となって、戦火を広がらせていく。

 

 

レブルの剣が交差する。

動きとしては分かりやすい。予備動作も、目線の配り方も、未来予知なんてなくても次に何をするのか用意にわかる。

 

ただ、力比べにおいて負けているのは、俺の方だ。

クロベエお手製の最高傑作が、ミシリと嫌な音を立てた。刃の部分ではなく、柄の部分が先にダメになってしまうだろう。

絶対防御を貼ってこの有様。

レブルの動きは、基本に忠実でありその基本から一切はみ出すこともない。

 

純粋に、速くて力が強い。

 

そしてこちらの攻撃が一切通らない。

まるで一度見た事があるかのように、全てが先回りされる。

避ける動作もわざとらしくわかりやすいのに、避けた先に攻撃を仕掛ければ何故だかレブルの剣は俺の首元近くをかすめる。

 

 

ルミナスの剣さばきは、美しいものだった。

レオンは勇者らしく、雄々しくけれども正確だ。

3対1、有利なのはどちらかと言われればこちらな筈だ。それだと言うのに……

 

 

レブルに付けられた傷は、再生すること無く残り続けている。

これは後で、体の細胞ごと入れ替えなければならないだろう。スライムという種族に少しだけ感謝しなくては。

 

 

自分達が、交差させる剣がヒナタ自身であったとしても、ここで戦いを中断など出来ない。

激化し続ける戦闘の中で、レブルだけが済ました顔をしていたとしても。

 

「リムル!!」

「──────!」

 

レオンの声に反応すれば、レブルが後ろへと回り込み今その瞬間にもグランベルにした様に俺を殺そうとしていた。

いつの間に、どうやって万能感知を、未来予知を潜り抜けたのか。

全くと言っていいほど“認識できなかった。”

 

 

──────“観測不能な元素”

 

なるほど、もはやその元素が体を構成するのか。そりゃあこんだけ不利な対面にもなる。

体の一部が観測できない奴なんて、斑にしか見えない霧と戦っているようなものなのだから。

 

 

「リムル!」

「分かってるっっつーの!」

 

正面衝突、それしかない。そう思った。

その時───

すぐ近くが大爆発を起こした。

閃光がレブル目掛けて向かってくる。

光速よりかは遅いそれは、レブルが避けるには十分な時間があった。

 

 

「このような事をするのは初めてだったが……そうか、そういう意思でも世界に組み込まれていれば刃向かってくるのか。

希望の光……なるほど、不愉快な話だ」

 

 

ゴタゴタとまた何かを抜かすレブルを知り目に、気絶して積み上がっている聖騎士を見る。

いつの間に戻ってきたのやら、クフフフと笑うディアブロが結果を張っていた。

 

「ディアブロ! 助かった」

「遅くなってしまい、大変申し訳ありません」

「いい。早速だが、大聖堂に戻ってくれ。ラズル…お前達が戦っていた蟲型魔獣なら死んだ。レブルが殺した。シオンや子供達の状況が分からない、殺していないと言っていたが信じられない話だ。確認して、処置を」

「アレと戦えないのは非常に残念ですが……ご命令とあらば」

 

 

ディアブロが姿を消す。

シオンは流石に死んでいないだろうが、子供達は……頼む、生きていてくれ。

 

爆発で生じた煙を鬱陶しげに払うレブルを、レオンは隙と判断したらしい。

剣が、レブルへと迫っていく。

あと少し──────

 

 

「お前は、もう良い」

 

また、意味のわからない言葉。

 

そして…………理解したくもない光景。

 

 

両手両足が宙を舞う。

レブルの物では無い、“レオン”の物だ。

残された体が、地に打ち付けられた。

 

誰も、この状況を理解などしていない。

 

 

「…………な…ぜ」

 

「あぁ、こうして対面で会うのは久しいな。

──────破滅の意思(クロノア)

 

 

誰一人、レオンを気にかけている場合ではなかった。

視線は爆発の起きた地点に集中する。

 

レブルが愉快そうに声を上げて笑った。

随分と、人らしく。

 

そして視線の先には、人形の様な一糸まとわぬ少女。

風に靡く黒髪が日に反射し、銀光を撒き散らす。

 

「レブル…貴様! 何を解き放ったかわかっているのか!」

「勿論、わかってるさ。あれはグランベルの希望だ。そして、糧となって枯れ落ちる物だ」

 

 

クロノアが動き出す。

軽く頭を振り、その目が開く。

 

少女の視線は、厳しく、レブルのみに向いていた。

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