転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第109話...失敗駄作の閉演

『【報告書 -月-日 作成者名︰神代誠也 】

神聖法皇国ルベリオス襲撃及びその他報告

 

以下抜粋

 

作戦終了後、魔王ルミナスが保管していた勇者クロノアの消失を確認。

作戦内にて殺害に成功したのは以下の通りである。

・勇者クロノア

・坂口日向

・グランベル・ロッゾ

・蟲型魔獣ラズル

・ギュンター

・ルイ・ヴァレンタイン

なお、坂口日向を除く聖騎士団の有力人材については聖騎士団の完全なる戦意喪失を防ぐために殺害していない。

 

また、ルイ・ヴァレンタイン及びギュンターを殺害後、神代誠司の指示によりいくつかの国を破壊している。

・ロスティア王国

・ドラン将王国

・シフトロッゾ王国 等

破壊した国には神代誠司によって生成された建造物が設置されそこから魔物が発生している事を確認している。

今回対象となった国はどれも人間の国であるため、国民は死亡していると考えられる。

 

補足:作戦中、魔王ギィの気配を感知。

こちらに対しての行動等は見られなかった

が要警戒するべきと考える。

 

以上。』

 

──────総務部に掛け合い、報告書の正式な書き方を学んでくるように。 近藤達也

 

その時間を寄越せバーカ。 神代誠也

 

 

 

 

 

黄金郷エルドラド、その城内にある中庭には穏やかな風が吹いていた。

時折風が草花を揺らす音が、暖かな日差しと共にレオンとクロエの再会を祝福していた。

 

クロエは、先の戦いで多くの疾患をその小さな身体に背負う事になった。一日に一時間程度しか目を開かず、眠っている間の心臓の音は余りに小さい。

最早身体は思うように動かず、自力で歩くことも出来ない。

車椅子生活を強いられ、一人でその車椅子を乗り降りする事も出来ない。

 

初めは、エルドラドよりも技術力に優れたテンペストでの療養が良いと言う話になった。

レオンも、最愛を手放したくは無かったがそれが彼女の為だと理解していた。

それを拒否したのリムルだった。クロエに大好きだと言われたリムル本人が、引き受けられないとそう言ったのだ。

 

言うに、テンペストは内陸国であり東の帝国とファルナスカ王国と隣接している。西方諸国が完全に陥落した今の状況では、情報収集も疎かになりいつどのように敵が責めてくるか分からない。

テンペストは必ず戦場になる。

そのような場所にクロエは置いておけない。

エルドラドは海を隔てた別大陸であり、テンペストに比べれば直ぐに戦火に飲まれる事は無いだろう。との事。

 

レオンはそれに同意した。一理あったからだ。

あと少しだけ、クロエと共に居れることに喜んだからだ。

リムルはエルドラドに医療技術者と専属医師を派遣すると約束してくれた。

 

 

「ねぇ、レオンお兄ちゃん...」

「どうした」

「私の事ずっとずっと、探してくれてたんだよね。えへへ...私もね...れおん、お兄ちゃんに...会いたかっ......たんだ」

「眠いなら、眠ってしまって構わない。俺が守ろう」

「う、ん......レオン、お兄ちゃん?」

「なんだ」

「.........ありがとう」

 

 

すーすーと穏やかな寝息が聞こえる。

こうなってしまえば、どれだけ強い意志があっても幼子である。あの場にいた誰もが、守り通せなかった子供である。

身体が冷えないように、ずり落ちてしまった毛布を肩まで掛け直す。やはり夕方は風が少し冷たい。もう一枚ほど、予備で持っていた方がいいだろうか。クロエは心配しすぎだと言うが、レオンからすれば冷たい身体が少しでも温まってくれればと思うのだ。

 

車椅子の前に回り込み、覗き込むクロエの顔はやはり白い。頬をするりと撫れば、“金属”の冷たさにか少し身震いだ。

眠りに入ってしまえば、クロエはそうそう目覚めない。レオンはお構い無しにクロエの額を引き寄せ己の額と触れ合わせる。やはり体温が下がってきている。

 

車椅子のロックを外し、城の中へと歩みを進める。走行音も静かで段差に物怖じしないこの車椅子は、さすがテンペストの技術力と言った所だろう。

 

 

──────先の戦い、レオンは両手両足を失った。テンペスト産の義手義足は使用者の魔素に適応し、元の手足と代わりなく動かすことが出来る。しかし、なんとも惨めな事か。

レオンはレブルに手足を切り落とされた後、何をすることも出来ずに、ただ戦いを見上げているだけだった。情けない。

噛み締めた唇からは血が流れ、頭には己に対する侮蔑の言葉が幾度となく流れた。

こんな文字通りに手も足も出ない事があってたまるだろうか。

 

恥を忍んで、ギィの所にも向かった。

この手足はどんな回復薬を使っても魔法を使っても再生しない。お前は何か解決策を知らないのかと。

しかしギィは言った、レブルにやられたなら治ることは無いと。

レブルは物質を変異させる力を持つ。

気体が水に、水が氷に。そんな常識的変異ではない。花は鉄に、水は油に、人は布に。レオンの切られた断面は、最早“再生”という観点を持ち合わせない素材に移り変わってしまったと言う。だから、もう再生は出来ない。見た目が血肉の断面でもその細胞は、化学式に置き換わった。もう二度とレオンは自らの手足で戦場に立つことは出来ない。

 

 

 

車椅子を押しながら考える。

あの化け物(レブル)に一体誰が勝てるのだろうか。グランベルに託された“人類の守護”は、余りに実現が不可能では無いか。

レオンは、レブルに勝てる者が想像出来なかった。最古の魔王であるギィやミリムならば...悠久とも言える時を生きたあの男を打ち破れるのだろうか。にわかに信じ難い。

そんな中で、まさか自分がアレともう一度戦えるとも思えない。

 

けれど、レオンは戦おうとしている。

恐怖に震える手足はもう無い。怯えているのは心だけだ。だが心はもう満ちている。

クロエと再会できた、それで十分だ。

 

レオンは魔王の中でも甘い男だ。

だが、諦めも悪い男だ。

 

勇者から魔王へと転じた男にはクロエが居る。国がある。人類がある。守らねばならない者たちが大勢いる。

 

レブルという厄災がそれらに害を齎すなら、レオンは戦うのだ。

 

 

多くの犠牲の上に、立っている。

ならばこの手足は代償なのだ。甘んじて受けねばならない。だが、その代償がレオン以外に向くならば受け入れてやる気はさらさらない。

 

 

「クロエ......俺が守ろう。何もかもから。君を害する全てから、この命にかけて」

 

 

《確認しました。個体名レオン・クロムウェルにユニークスキル「実正者(センケツタルモノ)」を讓渡──────成功しました。》

 

 

レオンは良き者には戻れない。

死に様は、惨めで耐え難いものだろう。

 

それを受け入れて前を向けるのは、彼が光の精霊に力を与えられた“勇者”であるからだらうか。

 

勇者とは、勇気ある者の事である。

 

 

《レオン・クロムウェル、戦うのです。

そこ力を真に成長させ、“虚偽”を消滅させるのです。》

 

例えそれが戦うことを決めた害の思うつぼだったとしても、目を背けることは出来ない。

前を静かに見据え、進まなければ。

 

後ろに振り向いたなら、次はこの首が空を飛ぶだろうから。

 

 

 

「各国家の国民は一人として生きてなかった」

「そうか」

「発生した塔の周辺を調査したが、大気は汚染され土は生命力を失い、魔物が増えた」

「その魔物とやらは、イングラシアを襲ったのと同じじゃな?」

「あぁ」

「妾もルベリオスを調べたが、イングラシアとの国境からお主が羅列した通りの現象が進行してきておる。レブルが攻め込んでくる前はそんな事はなかった」

「イングラシアにも塔が出たんだよな」

「関係はあるじゃろうが、近づくのは難儀よ」

 

この力を持ってしても、少し骨が折れる。

 

 

そう恨めしそうに言うのはルミナスだった。

長く美しい髪を切り落とし、お似合いのゴスロリ服も脱ぎ捨てて。

今俺の目の前にいるのは、まるでヒナタの黒バージョンだ。

 

先程から語られる、塔 とやらはレブルが作り出したらしい。

俺が精神世界にいる間に西方諸国の至る国が爆発し一瞬の静寂の後、塔が生えてきたらしい。

 

何それ怖すぎ。

 

その塔は、レブルやセイヤの使う観測不能な元素を放出し続け逆に国の生命力を吸い付くしてる。

その循環口からきっしょい見た目の魔物が溢れてきているという訳だ。

 

観測不能な元素とは言うが、ルミナスからすればそれはもう理解出来てしまう元素であるらしい。

世界の言葉より受け取ったスキルは、その元素を浄化し無効化する力を持つらしい。

そしてそれは、うちの隠密であるソーカも持つ力だった。そのおかげでここまで調査が進んでいる。

 

「何かを失い、強い感情をレブルやセイヤに向ける事で世界の言葉が反応している」

 

とはルミナスの言葉だ。

 

 

ルベリオスに住む民は全てテンペストへと移った。ルベリオスには国として国民を守る力が残っていないからである。

階級の高かった吸血鬼は殺され、そこにはルイやギュンターも含まれていた。

ギュンターに至っては、城のテッペンに磔にされていた。まるで、イエス・キリストを彷彿とさせるように。悪趣味な話だと思う。

 

レナード達も、今はテンペストを拠点にルミナスの指示の元に動いている。

 

 

今のルミナスはらしくない、と思う。

怒りに駆られて、喪失感に駆られて、ずっと焦っている。レブルを殺す事しか頭にないみたいだ。

でも多分それは俺にも言えることだから。

お互い、部下には恵まれているらしい。

 

 

「これはもう、世界の問題だ。

一度、魔王達の宴(ワルプルギス)に議題として上げようかと思う。ギィとかならなにか知ってそうだしな」

「ほぉ…それは良い。ついでに、色々とお咎めを受けると良い」

「いや、お咎めって俺そんな魔王に咎められるような事してねーって」

 

お咎めってなんだ。俺は何かしたのだろうか。

本当に分からない、そんな顔をすればルミナスは態とらしく大きいため息をついた。

 

「はぁ……リムルよ」

「なんだよ」

「文化交流は先延ばしじゃ。先ずはこの世界の害を取り除く事にのみ尽力する。良いな」

「元からそのつもりだよ」

 

色々思う事、考えなきゃ行けないことはある。

でもそれは…多分今いくら考えてもダメな事なんだと思う。

 

目の前の事にガムシャラに成れるうちに、何もかもを終わらせられたら。

 

視界にチラつく緑髪も消え失せるのだろうか。

 

 

 

執務室の窓を開けて顔を出せば、子供達が俺を呼んだ。それに反応して聖騎士達も頭を下げる。

吹き込む風は思考を消すには不十分だったが、彼らの輝きは視界の邪魔者を掠めさせた。

 

 

──────光の勇者が、未来に残した希望。

 

 

グランベル、生真面目で不器用な男だった。

最愛を失って狂って、もう一度失って正気に戻った男。

何となく、グランベルの気持ちがわかる気がする。少しだけだけど。

 

でも、それなら俺は“狂ってしまった”のだろうか。

 

それなら、後何を失って正常に戻るのだろうか。

 

 

西方諸国は太陽の光すら満足に注がれないのに。

笑顔溢れるテンペストがどこか異質に見えた。

 

 

あぁ、俺の“覚悟”が…俺を狂わせたのだろうか。

 

 

 

「…………吐き気がする」

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