転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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★第110話〜114話、同日投稿★


第113話...虚仮

現在 三〜四百歳

その長い年月の殆どを動かない、もしくは引きこもって生活をしていた。

唯一まともに意志を持って動いたのが彼女の救済である。

 

人間という生き物はたった一つの出来事で何かが大きく変わるなんて事は無い。

大半の人間は、一つの出来事としてそれを流し何の代わり映えのない日常へと戻っていくだろう。

蛭子は人間である。

つまり、蛭子だって何も変わらない。

そう...蛭子はほぼ強制された居候生活を満喫していた。

年月で言うと一年程度。数百歳の一年など些細なものだろう。

 

蛭子は生活の大半を、書庫で過ごしていた。

一応客室を一つ用意してもらっているが、それは使わずに書庫で睡眠まで行っている始末。

食事となれば一日一回、書庫を出るかどうかである。ここに来てから、太陽光すら浴びていない。

 

一年の間に、この家の母親は何人もの旅人を連れ込み食事と寝床を与えた。治癒の魔法が得意だそうで、寝泊まりさせずとも怪我をした者を見かければ治療をしてやっているようだ。

それはまるで聖母の様で、神の加護を代行するかのようだった。

 

何故そんな事をするのか蛭子は聞いた。

それは“当たり前”の事だからだそうだ。

“当たり前”とは何か? それは自分達が強いから。

 

なんとまぁ、ありもしない神の力を授かったこの国の者たちは世界の強者である以上、弱者を面倒見るのが当たり前であるらしい。

 

弱者、勝手に貼られた品定めに微かな不快感を覚える。

 

蛭子は続けて聞いた。

ここに来る途中に奴隷の様な扱いを受けた者を見た、何故それらを助けないのか。

そしてこう返ってきた。それは“当たり前”の事だから。

彼らは敗戦国の者達であり、我ら国家に楯突いた者達だ。それは神に逆らったも同義。

助けてはいけない。逆に罰を与えなくてはいけない。

 

疑問を持つ、蛭子はここにある書物類で学んだ。戦争を起こすのは国の上層部だと。

国民はそれを嫌がっても、抵抗力にはならないと。

 

それを伝えれば、その国の民であったなら同罪だそうだ。それが“当たり前”。

 

だから、痛めつけ惨めを晒させ、そして殺す。

 

 

蛭子は、不快感を何とか飲み下し思案する。

最近の蛭子は少しばかり賢くなった。

思案の結果は、以前よりも速やかに出た。

 

 

彼女は言った。「助けて」と。

そして「助けて」とは「殺して」だと蛭子は知っている。

しかし、男を殺すだけでは彼女は助からなかった。

 

それは殺す対象が違ったからでは無いか?

 

殺す対象こそが、この“当たり前”なのでは無いか?

 

脳にこびり付いた当たり前を払拭させるのは抵抗では不可能だ。

当たり前を執行する側がそれに疑問を持つはずも無い。

ならば、その“当たり前”を「殺す」しかない。

 

 

どうやら蛭子は、彼らの言う“当たり前”を知らなくてはいけないらしい。

そして、それはここにある書物類では学べない。

どうせ今蛭子の手元にある本が最後の一冊。文字も地理も医学も、頭に入れられるものは入れきった。

 

そろそろ、次の動きを始めなくては行けない。

 

 

 

「日が昇り次第、ここを出る」

「あら、もう行くのかい? もっと居てもいいのに」

「馬鹿言えババア、こいつ一年もこの家で引きこもってたんだぞ!」

「またアンタは母親をババアって言う! どーして、そんな生意気な子に育ったの───」

「次は、何処に行くんだ」

 

 

恒例行事の母親と息子の喧嘩には耳を傾けず、寡黙で職人気質の父親が蛭子に問う。

一見冷たそうな目の奥は何処までも慈愛に満ちていて、それが真っ直ぐにこちらを見るのが蛭子は何だか苦手だった。

 

「人を助けに」

「ほう? 具体的には、誰を?」

「劣勢にいる者達を」

「どうやって?」

「“当たり前”を殺す」

「おい親父、何真面目にコイツの話なんか聞いてるんだよ。コイツはいっつも“助ける”しか言わねぇんだ。聞いても無駄だよ」

「“当たり前”とは、なんだ?」

「だから、無駄だって親父」

「“当たり前”なら、今目の前にある」

「はァ? 何言ってんだ、マジで」

「私は学んだ、お前達の様な者を利用価値のある存在と言うのだと。

だが、搾取されて、枯れ落ちても無駄にはならない。安心していい」

 

 

近衛の本能が、危険を察知した。

一家の穏やかな空気は消え失せ、しかし最初から蛭子にはその穏やかさも尊さも理解出来ていない。一度は深く羨ましがった家族の形だと言うのに。

 

重なり合う金属同士の音。

蛭子の腰にぶら下がった剣が、近衛として磨き上げられた剣技とぶつかる。

それはまるで蛭子の心があげる金切り声の様だ。

 

 

蛭子には分からない。

 

何が当たり前なのか。

 

蛭子には分からない。

 

何を救いたいのか。

 

蛭子には分からない。

 

何をすればいいのか。

 

 

けれど、蛭子は知っている。

 

傷つけ方だけは、その身を持って知っている。

 

 

 

蛭子は結局、それしか知らない。

 

 

 

純粋な力比べならば、剣技をまともに知らぬ蛭子でも簡単に勝ててしまう。

彼らは勘違いをしている。いや、もはや盲目な目と神の声だとかいうふざけた幻聴に浸った彼らは、己が下である等想定さえしていない。

 

いつかの憎い男の剣が、嫌という程手に馴染む。

近衛をしていた屈強な息子を剣ごと叩き潰せてしまえば、筋肉だけの鍛冶屋の父親は柔らかな首をかっ切ってしまえばいい。

最後に残った泣き叫ぶしか脳のない機織りの母親は、うるさい口を貫いて黙らせた。

 

 

一度に三人も殺して、蛭子はまた思案する。

 

さて、今の殺しで誰が助かった?

“当たり前”を体現する一家の死で何が助かったのだろうか。

確か彼らは言っていた。

近衛は週に規定回数存在する当直勤務の際、奴隷を世話係としていると。

鍛冶屋は、病気や怪我で奴隷らしい仕事も出来なくなった人間を使って剣の切れ味を確かめると。

機織りは手を棘まみれにしなければ成らない花摘を、若い滑らかな手の女にやらせると。

 

 

ならば彼らが使用していた者達は救われたか?

 

──────否。

 

蛭子は本で読み、そして今屍と化した者たちから聞いた。

人間は組織を形成する生き物であり、彼ら一人欠けても組織は回る。

さすれば、蛭子の救うべき者たちは別の者に利用されるだけ。何も変化は無い。

 

 

なるほど、蛭子は理解した。

“当たり前”の単位は家族よりも大きな組織である。組織間で囚われた者たちを助けるならば、組織を「殺す」しかないのだ。

 

 

大いに満足。鉄臭い肉塊には感謝しかない。

実験動物に近い存在ではあるが、死んでも尚蛭子の思考の向上を齎した。

大輪が花だけ摘み取られ、残った葉や茎が枯れて土に還る。次はもっと大きな花を大地は咲かせ、また摘み取られるのだ。

 

 

 

 

しかし、一番最初に近衛の組織に向かうのははばかられる。それは国に最も近く、行動を間違えれば動きずらくなる可能性が高かった。

鍛冶屋も、確かあの父親は王城の地下にあると言っていた。

 

ならば、機織りから行ってみよう。

蛭子は先程殺した順番とは逆を辿って組織を巡ることにした。

 

まぁ、巡った先で残るのは血の海だけだが。

 

 

 

 

宣言通り蛭子は日が昇ると同時に家を出た。

 

機織り工房は、趣深い市場の中にあった。

ここに辿り着くまで何度か通行人に道を聞いたが、流石親切の体現、皆丁寧に教えてくれた。

 

歩きながら、街並みを眺め分かったのは家の大半が木造建築である事だった。

遠くに見える王城は流石に木製ではなさそうだが、森に囲まれている事もあってか際限なく木を利用し、他の国よりも多い人口の建物を賄っているらしい。

 

それから、蛭子は直ぐに“旅人”と判断され、奴隷の脱走者だとは見られなかった。

綺麗な身なりをしているからだとかそういった理由での判断もあっただろうが、人に道を尋ねる時に皆一度蛭子の首を確認していた。

そういえば、彼女の首には鎖の刻印がされていた。

なるほど、あれがこの国で言う罰を与えられて当然の存在の証明。

蛭子が助けるべき者達の証明であるらしい。

 

分かりやすくて大いに結構。

 

 

朝一番に機織り工房にやって来た蛭子を扉に着いた鈴が知らせる。

その音に景気の良い挨拶をくれる者と、顔をかすかに顰めるもの。後者の首には刻印が見て取れた。

 

「いらっしゃい、お客さん。

新しい服を見繕いに来たの? それともお直し?」

「つかぬ事を聞いても良いか?」

「はいなんでしょ」

「今日、勤め人は何名来ている」

「......? 今日は十五名です」

「それは首の刻印がないものだけでの数だな。入れると何人だ」

「お客さん、変わった事を聞くのですね。でも、ごめんなさいね。あの子達の個数まで把握してないんです。でも...二、三十かしらねぇ」

「...個数、か」

「で? お客さんは今日は何しにこちらへ?」

「十五人のうち、この店の長は来ているか?」

「お客さん! いい加減にしてよ! うちだって忙しいんだよ」

「来ているか? 来ていないか?」

「......来てますよ! と言うよりうちの長様は毎日こちらにいらっしゃいます!」

「そうか」

 

 

上下関係あり、数も十分。

そして救済するべき者もきちんと目の届く距離にいる。

組織を殺す事が“当たり前”を殺す事になるのか、実験するには絶好の機会だ。

 

「今日は、染色にやって来た」

「はぁ......あのねお客さん、染色なら染色屋に行ってくれなきゃ。うちには染め道具も材料もない───」

「いや、揃っている」

「はい?」

「この店には、材料が十五個揃っている。染め道具はこの剣で十分」

「お客さん......?」

 

 

入口での騒ぎに、店の物達が集まって来た。

蛭子が言えた事でもないが、野次馬精神は己に被害しか齎さないので辞めておいた方がいい。

 

剣を抜き、目の前の女の首を飛ばす。

実に数秒の出来事だ。

 

全く、集まっていなければ逃げれたかも知れないのに、出来上がったのは十四個の死骸の山。

蛭子は染色と言ったが、服が血で染まると赤色を保っていられるのはそこまで長い時間では無いらしい。どす黒い黒色に服が変化した。

 

 

「お前達」

「ヒッ......ぁ、何...でしょう...か?」

「そう怯えるな。お前達を殺しはしない。しかし、後もう暫くは静かに。

この店の長は何処にいる? この山には居ないだろう?」

「二階、に...」

「そうか。何をそんなに怯えている?」

「えっ...だって、頭が...それにぐちゃぐちゃで」

 

これは驚いた。

まさか助けるという行為から発生する殺しには、死体の見た目まで規定があると言うのか。

少しだけ、本当に少しだけ、蛭子は助けた筈の劣勢を図々しいと感じた。

それと同時に、殺すならぐちゃぐちゃで汚い方が“愉しい”のに...そう拗ねた子供のような思考が頭をかすめた。

 

これ以上は長考を始めてしまいそうだったので、蛭子は彼らに同じ境遇同士上手く逃げるように言って二階の階段へと登った。

背後からバタバタと足音がするあたり、きちんと逃げたらしい。

蛭子としては、これは正しく「助けた」に入る結果だろう。

 

 

階段を登った先に居たのは、蛭子の想定よりも若い男であった。

こってりとした脂身の付いた豚を想像してた身としては拍子抜け以外に言葉が出ない。

 

「なぁ、一つ問おう」

「ヒッ......嫌だ、嫌だ...!」

「お前は神を信じているか?」

「当たり前だろ! 僕は何も...何も悪い事なんて! なのに何で...僕の所にこんな奴が」

「そうか...当たり前か。それは神がお前達にとって当たり前だからか?」

「お救い下さい...神様、どうか!」

「返事は無し。だが、答えは見えたな」

 

 

項垂れて神に祈りを捧げる男は、急所である首をやたらに晒している。

まさか、こんな状況でまだ神が自分を助けてくださるだなんて愚かに信じているのだろうか?

今まさに直面している死がある時点で、それは神に見放された様なものなのに。

 

「神とやらは随分と酔狂なのだな。まるでこの状況を見たいが為に希望をチラつかせているようだ。さぞかし、望まれるのは甘美な心理を覚えるらしい」

「神様...どうか、どうか」

「あぁ、そういえば人間は別れに言葉を送るのだったな」

「神...様......」

「さよなら。愚かな信者」

 

事切れた死体は、最後まで祈りの姿勢を崩さなかった。

先程の批評を考慮して、綺麗に腹を突く程度にしてみたが...死体がこうもみっともなく残るならやはり、人間の尊厳等無くしたような死体の方が幾分もいい。

それに、その方が蛭子としては愉しい。

 

目の前の死体を意味もなく蹴り上げて、顔が認識出来なくなるまで切りつけ遊んだ頃。

何やら外が騒がしい。

蛭子のいる部屋は窓が一つ。しかし、その窓は建物との間にあり、喧騒とは真逆だ。

 

何名かの足音が建物に侵入したのがわかる。

なるほど、組織が大きくなればそれだけ発見が早くなるらしい。事実、あの三人家族を殺した時は人が気づく気配など微塵も無かった。

 

 

 

「動くな!!」

 

 

正義が体現する横暴さ、声を荒げれば我が押し通るとでも思っているのだろうか。

蛭子も大概に馬鹿だが、彼らも相応な頭脳。

案外これが人間という霊長類の一般的かつ平均的な頭脳であるのかもしれない。

 

 

「貴様が奴隷解放を唄う犯罪者か?」

「奴隷解放...?」

「この店から逃げ出した奴隷なら全て捕らえてある。言っていたぞ、“彼が助けてくれた”と。貴様も愚かだな......救った気でいるなら大間違いだ。貴様が解放した奴隷なら今頃一人づつ処刑され始めた頃だろう。

ほら、今も一人が死んだんじゃないか?」

「正義と言うには劣悪か......」

「何だと?」

 

ゾロゾロと三匹、立派な害虫が店に乗り込んで来たようだ。

口々に溢れる語りを形成する言の葉は、正義に濡れているのだと思っていたが...蓋を開けてみれば殺戮を楽しむ悪と大差無い。

 

 

蛭子は知らない。自分も同じであると。

 

 

しかしそうか...組織からの解放では救いにならないらしい。

何故なら彼らには逃げる先が無い。

この国には居場所が無い。

家族という最小単位の組織がダメで、職務的組織でもダメ。

滝登り状態だが、彼らの様な劣勢を解放するならば“当たり前”を定義した組織を潰さなければいけないようだ。流石に規模が大きくなってきた。

 

「国、か......これはあれだな。骨が折れるというやつだ、再生出来るにしてもこれは酷い」

「何を言っている?」

「お前達に問おうか。国は“当たり前”を提示するモノか? 国が消えれば“当たり前”は消えるか?」

「その発言は、国家への反逆と見なすぞ」

「はぁ......死人に口なし、生者の口も所詮は飾りか。とりあえず、是と言っておいた方がいいぞ。国がダメなら、次に私が殺さなければいけないのは神になってしまう。これは骨だけ折っても達成出来ない話だからな」

「神までもを冒涜するか......もういい、捕らえろ!!」

 

捕らえろという号令に威勢よく返事を返す虫共。司令塔の脳が小さければ、それに従う働き虫は脳無しか。

 

虫けら三匹程度、剣一振で片がつく。

 

どうか頭三つくっつけて、それなりの脳になってくれる事を期待する。

まぁ、しかし死人に口なし...出来上がった脳が語れる言葉はないらしい。飾りでも口は必要だ。

 

 

時刻は昼時、しかし騒ぎのせいかここらで飯屋は何も提供してくれ無さそうだ。

そういえば一家の息子が、王城には食堂があると言っていた。そこならそれなりの飯が出るはずだ。それに王城ともなれば、あの家には無かった書物もある筈。

まさか一日で一家殺しから国家反逆へと変貌するとは思いもせず、だが善は急げ。

 

 

蛭子は二階入口に倒れた死体を踏みつけて、次の目的地へと足を運んだ。

 

 

人の死に一切の情緒なく、まるで流れ作業。

淡々と増える死者に思う事は無い。

実を言うなら、助けるべき劣勢にも思う事などありはしない。

蛭子が救世主であったなら、犠牲者の数は最小に抑えられた事だろう。

 

 

さて、先を急がなくては。

人間という生き物は日付を跨ぐとどうにもやる気が削がれてしまう性分を一定数持ち合わせている。国一つとなれば、空は直ぐに寒色を忘れてしまうだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────緊急事態発生。

在城兵は直ちに戦闘態勢に入り、対象の討伐を行え。対象は現在、王城に道なりに進んでおり、視界に入った国民を無差別に虐殺している。

国民は衛兵の指示に従い避難を開始。

繰り返す.........緊急事態発生

 

 

 

 

「幾つか、思うのだ」

 

蛭子が問いかけるのは、たった今腹を串刺しにされた兵士である。立派な鎧も鍛え上げられた筋肉も、一切の意味を提示する事は出来ない。

腹に刺さる剣を時計回りに回せば、蛇口の様に口から血をはき出す。

蛭子はまた少し愉しくなった。

 

「討伐を行え、避難を開始......お高く言うが、実際にどうするかは提示していない。

結果は、お前の視界の通り。私の通った道は死体で埋め尽くされている」

「お前が...この国のっ、平和...を」

 

 

事切れたらしい兵士は自重で剣から抜け落ち、血を吹き上げた。

平和を、なんだ。何故人間は遺言を言い切らずに死んでいくのだろうか。全く......だが、

 

「“この国の平和”と定義するなら、私は確かにそれを壊したな」

 

 

それに、一応殺す人間は首元を見て決めたが死体を掻き分けてみれば劣勢は多く埋もれているだろう。

己を守る為に肉盾にしたり、本人が絶望の中で自死を選んだり。理由は様々あれど、死体になってしまえば優勢も劣勢も無く、強いて言えば優勢は蛭子を指し劣勢は死体全てを指すだろう。

 

 

逃亡の準備を進めていたであろう王は、一言も発すること無く死を迎えた。

力を持たない欲に濡れそぼったその身を蛭子が背後から真っ二つにしたからである。その周辺にいた近衛の方が余程強かった。

 

なんと呆気ないことか。

 

 

 

夕日が照らすのは、血濡れた国と王城。

影が指し始めた蛭子の思考はもはや虚無に近い。

 

たった一日で国という組織が壊滅して、そして思うのだ。

あぁ、結局───この世界はもうダメだ。

 

最初は極小さな物だったのかもしれない。

何処かで生まれた“当たり前”は単位を大きくしていき、いずれは国になり世界になった。

その最小単位が神かはたまた全くの別物かは知り得ないが、もはやそれを殺したとて救いは訪れない。

蛭子が救うべき存在だってとっくに当たり前に飲み込まれた後だったのだ。

世界の一部である物はみな平等にこの“当たり前”に囚われている。

 

 

 

 

「国がダメなら神かと思ったが...世界になるとは驚いたな。

あぁ...それとも、世界がもはや神なのか」

 

 

 

 

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