大賢者、魔力感知をマクロにしてくれ。
《了》
戦場が巨視的に映し出される。
リザードマンの隊がオーク軍に囲まれていて、リザードマンに分が悪い状況のようだ。
シュミレーションゲームだったら詰んでるな。
リザードマンの方に意識を向けると、
あれは、ガビルか。
ガビルの
発生した光に紛れて
それを振り払い、ガビルは
...ただのお調子者だと思っていたが、なかなか男気があるじゃないか。
(ランガ、聞こえるか?)
(は!)
(ガビルを助けてやれ。)
ランガに、ガビル救出の指示を出す。
理由なんて、俺があいつを気に入ったから。
ここで死なせるのには惜しい奴だと思ったからだ。
そこから、配下達の蹂躙が始まった。
ベニマルの
少し、自分の配下に引いてしまっている。
戦況の変遷は凄まじく、圧倒的だったはずのオーク軍が見る間に減っていく。
それでも、20万という数は多く全滅には程遠い。けれども、戦場に立てる人数は限られるし、俺からの思念伝達で俯瞰情報を得たベニマルの指揮があれば後続な軍勢と分断できるだろう。
本当に鬼人勢が優秀だ。
1人危なっかしい奴もいるが、この戦いが終わっても仲良くしたいものだ。
戦いが激化していく中で、俺は1人のオークと目を合わせる。
キィィィと何かの飛行する音がして俺の横を通り過ぎていく。
地面に降り立ったのは仮面をつけた何とも胡散臭そうなやつ。
「これは一体どういうことだ!?このゲルミュッド様の計画を台無しにしやがって!!」
いきなり飛んできて何を喚き散らしているんだ、こいつ。...ていうか誰?
とりあえず、羽をしまいながら地面に降り立つ。
「このノロマが!貴様がさっさと魔王に進化しておれば、わざわざこの上位魔人であるこの俺様が出向く必要などなかったのだ!!」
魔人...て言ったかこいつ。
じゃあこいつがトレイニーさんの言っていた豚頭帝誕生に関わりのある魔王の手の者か...。
にしてはちょっと小物っぽいな。
どうやら、豚頭帝の方は計画とやらを理解していないのか知らないのか困惑している。
「ゲルミュッド様!吾輩を助けに来てくださったのですか!?申し訳ない...ラプラス殿から警告は聞いていたというのに...」
「ガビルか...いいところに来た」
「え?」
「
ゲルミュトと名乗った魔人が杖を振り上げてガビルとその部下に魔力弾を飛ばす。
足に力を入れて、魔力弾が到達するよりも先にガビルの前に立つ。
手を前に出せば、スルスルと俺の手の中に吸い込まれていく。随分と、枯れた魔力弾だ。
「あのトカゲを喰え。使えぬ奴だったが一応この俺が名を与えた個体の1つだ。貴様を魔王に進化させるだけの力はあるやも知れん」
あぁ、ガビル。お前は嵌められたんだよ。
お前は今、
魔王軍の幹部、ゲルミュッド。
つまりこいつが、というよりはこいつを抱えている魔王が今回のオーク侵攻の黒幕と見るべきかな。
ガビルに伝えられた、見どころがあるという話も、右腕にするという話も全ては体のいい嘘。
自分の役に立たないやつは消す。そうやって今までやってきたんだろう。
...そうだ、ゲルミュッドという名にはもう1つ聞き覚えがある。
リグルの兄にかつて名付けをし、そして...
「ようゲレ...じゃなくてゲルミュドか。オーガの里で全員に突っぱねられた名付けは順調のようだな」
「き...鬼人!」
オーガの里に訪れた仮面の魔人。
鬼人は復讐心に火をつけて、ゲルミュッドに襲いかかる。
自分は上位魔人だからと、戦況も相手の戦力の確認も怠って舐めてここにやってきた。
ゲルミュッドは鬼人に転がされている。
弱ったネズミを弄ぶる猫のように。
「ゲルミュッド様...」
「馬鹿だね、いつまでも夢見てる場合じゃないだろ」
それでも、手を伸ばそうとするガビルの前にガンっと杖が打ち付けられる。
ガビルの真後ろに立っていたのはラルタだ。
ラルタはガビルを馬鹿にしたように、けれども哀れんだようにクスクスと笑う。
「ラルタ様、お怪我は...」
「無い」
「さすがです。ガビルよ、もうよすことだ。あの男はお前を殺そうとしたのだ。貴様を救ったのはリムル様とそこの纏わりついている貴様の仲間達だ」
「おっ、ランガかっこいー」
ラルタの茶化しに照れながら、ランガが俺の元に来る。
遊ばれ続けているゲルミュッドに手を出さないように指示をして豚頭帝に思考を向ける。
豚頭帝、他のオークに比べて確かに妖気は強力だがどこか鈍そうに見える。
むしろ、傍に控える鋭い目付きのオークの方が強そうだ。
《解。数多の種族の力を得た結果、
ゲルミュッドに操られているなら気の毒だが、これ以上森を喰い荒させる訳にもいかないし、トレイニーさんとの約束もある。
ベニマル達の決着を待つことも無い。
どうせ遊んでいるだけだ。
俺が、終わらせてやろう。
ブツブツと呟いている
ゲルミュッドの悪あがきもかすり傷すら鬼人には付けられない。逃亡しようとしても、ラルタと共に戻ってきたであろうソウエイに拘束されてしまった。
「逃がすわけがないだろう。貴様には我らが失った同胞と同じ数だけの報いを受けてもらう。...楽に死ねると思うな」
ソウエイの鋭い眼光から逃れるように、
「おっ俺を助けろ
名付けと共に、
「そうだ、恩を返せ!!行き倒れのお前に飯をやったのはこの俺だ!!」
「オレはゲルミュッド様の願いを叶えル」
ゲルドは恩を返すため、名をくれた主のために動く。
魔王への進化。それは、この場で最も効率よく速やかな方法で達成された。
重い音がして、ゲルミュッドの首が飛ぶ。
首を落とした本人であるゲルドはその場にしゃがみこみ汚い音を立てて食事を始める。
うわ、目の前でやられると結構きついな...。
顔を顰めそうになって、ラルタの事を思い出す。他の皆も同じように顔を顰めないように堪えている。ホブゴブリンの中には今にも吐き出してしまいそうな者もいるが。
ラルタだけは、なんの感情も映し出していない目で、その光景を見ていた。
《確認しました。個体名ゲルドが魔王種への進化を開始します。》
ゲルドを中心に魔素が大きく波打つ。
魔王種に進化...。
大賢者、今のはお前の声じゃないよな?
《解。「世界の言葉」です。
その時、ゲルドから妖気が溢れ出す。
それは広がり、俺たちの足元へと迫ってくる。
《_______警告。》
「ラルタ!この妖気を食い止めろ!!」
「簡単に言ってんじゃねーよ、馬鹿」
ラルタが黒い液体を壁にして妖気を食い止める。壁の外側にいたオークの死体が溶けていく。触れたモノを「腐食」させる妖気...
これがあいつの能力か。
「ラルタ、全員守れ。それと後方支援。」
「チッ。任せろ」
いろいろ押し付けてしまっているが、舌打ちひとつで引き受けてくれた。
ゆっくりと身をかがめていた、ゲルドが立ち上がる。
先程とは比べ物にならない魔素が溢れ出ている。
これは、予想外だな...。
《...成功しました。個体名ゲルドは