転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第14話...心服の魔王/全てを喰らう者

「オレの名はゲルド。豚頭魔王(オーク・ディザスター)ゲルドと呼ぶがいい!!」

 

周りにいたオーク達が跪く。

さすがは魔王、素晴らしい風格だ。

けど、ゲルミュッドが喰われたのは残念だな。あの2人のエルフの事でおちょくってやろうと思ってたのに。

魔人の肉ってのは美味しいのかな。少しゲルドともお話をしたいけど、そんな時間もないか。

 

リムルの乾いた笑みが俺のところまで聞こえてくる。鬼人達やランガの一斉攻撃の痕は今やゲルドの身に何一つ残っちゃいない。

圧倒的な回復量。

即死させるだけの力が必要だけれど、ランガは魔素切れでリムルの影に戻ってしまった。

鬼人達の魔素も十分に残っているとは言えない。このままなら、俺たちが負ける。

 

「足りヌ...。もっとだ、もっと喰わせロ」

 

名付け親を食べて、仲間も食べて。

まだ、足りないらしい。

 

(ラルタ)

(はいはい、なんですか?)

(俺の支援をしろ)

 

先程から、ゆっくりとゲルドに近づいていたリムルから話しかけられた。

しかも、命令形で。

俺が断るなんて考えてもいない話しかけ方。

信用されていると言えば、聞こえはいいな。

 

「...鬼人、デカイ牙狼。美味そうなエサが5匹はいたはずダ。牙狼はどこへ行っタ?」

「ランガのことか?俺の影の中だよ」

「...食ったのカ?」

「まさか、理由もなく仲間を喰ったりしない。お前じゃあるまいし」

 

リムルの発言に怒ったゲルドが、攻撃を仕掛ける。

それは次第に激しくなっていく。

ゲルドの攻撃を避けきれずに飛ばされたシズの仮面を拾い上げて、頭にリムルの様に付ける。

俺には、この仮面は似合わないな。

 

《告。ユニークスキル「大賢者」からの戦闘計画の情報共有を確認。主様に後方支援を求めている模様です。》

 

はいはい、やりますよ。

諂諛者、ゲルドに軽く腐食させられてご機嫌ななめかもしれないけどちゃんとやってね。

お前の能力があいつに渡らないように助言者にちゃんと調整してもらってるから。

杖をしっかりと持って、前に進む、

皆よりも少し前に立つと、諂諛者が球体を作ってクルクルと回る。

 

「ラルタ様?」

「......初めての連携、よろしく頼むよ。大賢者」

 

 

『「大賢者」へ主導権の位置を確認。自動戦闘状態(オートバトルモード)へ移行します。』

 

 

 

 

 

 

大賢者が黒炎を纏わせた刀を構えて走り出す。

先程、切り落とされたゲルドの腕は再生されることなく、燃えていた。

ゲルドを上から切り付けるための足場を地面を動かすことで作ってやる。

それを使って力強く飛び上がった大賢者が刀を振るうと、ゲルドがそれを受け止める。

刃物のぶつかり合う音が響いて、すぐさま大賢者が黒炎で刀を溶かす。

大賢者を振り払ったゲルドが今度は混沌喰(カオスイーター)を発動させる。

すぐさま血液を槍状にして、大賢者を狙って動く混沌喰(カオスイーター)と衝突させる。

諂諛者は腐らされても止まることなく、突き進み混沌喰(カオスイーター)を抹消させる。

周りを飛び回る諂諛者が不満そうに動き回っている。ごめんね、許してよ。

ほぼ自動的に、消されてはまた出てくる混沌喰(カオスイーター)を抹消し続ける。

ゲルドがスっと手を前に突き出すと、魔素が集まって球体をいくつも作りだす。

ゲルミュッドの死者之行進演舞(デスマーチダンス)にゲルドの能力があわさった餓鬼之行進演舞(デスマーチダンス)

腐食効果があるそれを、諂諛者を壁にして後ろにいるベニマル達を守る。

 

「チッ、やることが多いんだよ...」

 

壁よりも外側に打ち付けられた魔素弾が地面を打ち付けて砂埃が舞う。

砂埃をかき分けて、ゲルドの手が大賢者を掴みとる。

 

「残念だったナ。お前はここでオレに喰われるのダ。飢餓者(ウエルモノ)で腐食させたものはそのまま我らの糧となる。お前は腐り溶けて死ヌ。」

『...否。炎化爆獄陣(フレアサークル)。』

 

大賢者が魔法を放つと、俺もそれに習って魔法

を使う。

これで終わってくれればいいけど。

大賢者の計画の中で、1つ切り捨てられたものがあった。それは...

 

《________確認しました。

豚頭魔王(オーク・ディザスター)ゲルドは炎熱攻撃耐性を獲得。》

あーあ。最低なんだけど。

《告。ユニークスキル「大賢者」への主導権の一任が解消されたことを確認。

個体名リムル=テンペストから諂諛者での援助の申請を確認。》

 

まだ、うちの諂諛者を働かせる気か...。

こりゃ、後のご機嫌取りをちゃんと考えておかないといけないな。

俺の横で、嫌そうに飛び回る諂諛者。異義の申し立てが激しいな。

 

「諂諛者、行け」

数秒、血液を波打たせて講義していたが最終的には地面を張ってリムルの方へと向かっていく。

最近は、俺の言うことも少し聞いてくれるようで嬉しいものだ。

炎化爆獄陣(フレアサークル)をリムルと同時に解く。

後はただの喰らい合い。

諂諛者はリムルの中へと入っていく。

勝つのは相手を喰らい尽くすという、強い意識のあったものだ。

 

 

 

 

 

リムルとゲルドの喰らい合いを眺めていると、急に視界が歪んだ。

俺の視界はゆっくりと闇に包まれて、急に開けた。

 

俺が今立っているのは、枯れ果てた大地だ。

少し遠くでは、やせ細ったオークの子供が泣いている。ここは、ゲルドの記憶の中か。

諂諛者を通して、俺にもこの記憶が見えているんだろう。

 

布切れを巻いたオークの子供の横を通り過ぎる。彼らの目に俺は写っていない。

少し歩けば、リムルとゲルドが背中合わせにたっていた。

 

 

あの方はオレに食事と名を与え、そして豚頭帝(オークロード)の持つ「飢餓者(ウエルモノ)」について教えてくれた。

豚頭帝(オークロード)となったオレが喰えば「飢餓者(ウエルモノ)」の支配下にある者は死なない。

飢える仲間を救えるのだと。

邪悪な企みの駒にされてたようだが、それに賭けるしか無かった。

だからオレは喰わなければならない。

お前が何でも喰うスライムだとしてもオレは喰われるわけにはいかない。

 

同胞が飢えているのだ。

オレは負けられぬ。

オレは他の魔物を喰い荒らした。

ゲルミュッド様を喰った。

...同胞すら喰った。

 

俺が死んだら同胞が罪を背負う。

もはや退けぬのだ。

 

「皆が飢えることの無いよう、オレがこの世の全ての飢えを引き受けて見せよう!!」

 

 

あぁ、優しすぎた馬鹿の最後の足掻き。

 

俺には理解できない。

自分のために、守りたい物のために他を喰うことがなぜ罪なのか。

 

俺には理解出来る。

飢えの苦しみを。終わりのない苦しみを。

 

「お前の罪もお前の同胞の罪も俺が喰ってやるよ」

「罪を喰う...だと?オレの同胞も含めて?」

「そうだよ、俺は欲張りだからな」

 

リムルは何を言っている?

どうして、リムルがその罪を喰らってやる必要がある?

罪を背負って死ぬことがいけないことなのか?

これから生きていく同胞に罪を残すことはいけないことなのか?

何も分からないのは、俺とリムルの行き方の違いなのか。考え方の違いなのか。

リムルとの違いが、そのままリムルとの距離のような気がして...モヤモヤする。

ぐるぐると不満が体の中で回っている。

 

ゲルドの体が崩れ落ちる。

その姿は禍々しい魔王の姿から、ただ同胞を守りたかった1人のオークへと変わっていく。

 

「...眠いな。ここは、暖かい。強欲な者よ、オレの罪を喰らう者よ。オレの飢えは今、満たされた」

 

ゲルドは草花に埋もれて消えていく。

幸せそうに、笑って。

 

「最低、諂諛者の力を貸してやったんだ。それって、俺もこいつの罪を喰らったってことだろ?」

「...ラルタが嫌なら俺だけでいいさ」

 

俺とリムルのいる空間が白けていく。

風景はボヤけて、形を失っていく。

リムルは草花に包まれているのに、俺は枯れた大地に立っている。

この明確な境界線は、俺とリムルの考え方の差なのだろうか。

分からないことばかりだけど、これだけは言える。

 

「飢えに苦しんだ事もないスライムが、喰いきれるもんか。俺が半分もらってやるよ」

「そうか...」

 

視界が激しく点滅する。

たった今、リムルの中で豚頭魔王(オーク・ディザスター)ゲルドの意識が消失した。

 

目を開ければ、リムルが日に照らされてたっている。

「俺たちの勝ちだ」

 

その言葉と共に、この戦争は集結した。

歓喜の声と、悲観の声が朝日に吸い込まれて溶けていく。

 

俺はリムルの頭に、シズの仮面を被せてやる。

やっぱり、その仮面はリムルによく似合っていた。




最後のきっかけ。

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