転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第17話...魔物の町に注目する者たち

「随分とまぁ、立派になって」

「ラルタ様、この度はご足労頂き感謝する」

 

なかなか時間が取れていなかった、アビルへの訪問を今日やっと執り行えた。

リムルからの名付けで蜥蜴人族(リザードマン)から龍人族(ドラゴニュート)に進化した事で、前にあった時よりも威厳がある。

まぁ、前にあったのが死にかけだったってのもあるかもしれないけど。

リザードマンの1人に案内されて、食事の席につく。今回の訪問は堅苦しい物にする予定がなかったのでアビルとは食事を取りながら話をしようという話になっていた。

 

俺の訪問に合わせて用意したであろう、上等な肉を頬張る。

近侍者が俺の足元で、食べたそうに動いているから帰りに何か魔物の肉をあげようと思う。

 

「へぇー、ガビルのこと勘当で済ませたんだ。親バカだね」

「ガビルには自分の思うがままに生きて欲しいと思ったのです。今頃はあなた方の町に向かっている事でしょう」

「え、なんで俺たちの町に?」

「リムル様に救って頂いたことをガビルは心から感謝している様子だったのです」

 

ここを出てそれなりに日付が経っているようだから、もしかしたら今頃は町についてるのかもしれない。リムルはきっとガビルを受け入れるだろうし。

 

「そういえば、側近の奴はどうした?」

「娘なら、見聞を広めるために送り出しました。今頃ガビルと共にいるかと、ソウエイ殿に強い憧れを持っておりましたから」

 

よりにもよって、ソウエイに憧れたのか。

あいつだいぶイカレポンチだけど大丈夫かな…。

その後、猪人族との連携は上手くいっているか等同盟に関することを話し込んだ。

その日は、一晩泊まらせて貰ったんだがハイエナ姿の俺はやけにリザードマン達に人気で撫で回された。

アビル曰くここら辺には毛深い魔物があんまりいないからだという。

毛がボサボサになったが同盟相手という事で許してやろう。

 

翌朝、そこまで急いで戻る必要もないので空を飛んで帰ることにした。

杖に横向きで座って、空を進む。

風魔法を応用することで、揺れなしの快適な移動方法だ。

移動中に飛んでいた魔物を近侍者が飛び出して食べてしまったせいで、そこに血の雨を降らしてしまったがまぁ大丈夫だろう。

 

草とか石はただ血液で収集するだけなのに、肉になるとわざわざ口を作ってまで咀嚼する。

結局行き着く先は一緒なのに、なんでなのか。

味とかわかるのかな…。

 

町が見えて来た。

こうやって上から見ると、あっぱれなものである。ここが最初は森だったことを忘れてしまいそうだ。

視線を下に向けると、木々の隙間に見慣れた青色の頭が見えた。

 

「おーい、ソウエーイ!」

俺の声に答えて、顔をあげたのはソウエイだった。杖を倉庫に戻して地面に降り立つ。

 

「おかえりなさいませ。ラルタ様」

「うん、ただいま。こんなところで何してるの?」

「新人の教育を」

「新人?」

 

その時、俺の魔力感知がさっき俺の来た方向から魔物の気配を感知した。

本当に、僅かなものだけれど。

そうして姿を表したのは5人の人型の魔物だ。

 

「遅い、この程度の罠でこれだけ時間をかけるな」

 

どうやら森の中にソウエイが仕掛けた罠があり、それを掻い潜りながら時間内に戻ってくる訓練をこいつらにしていたようだ。

「申し訳ありません、急に空から血が降ってきたために…」

 

空から血。あっ、それ絶対俺たちのせいじゃん。ここは知ったかだ。

空から血が降ってくるなんて怖いこともあるもんだ。

 

「ラルタ様では無いですか!ソウエイ様から父に会いに行ったと聞いておりました。おかえりなさいませ」

 

父、アビルの事だよな。

てことは側近の娘…。え、マジで?

 

「リムル様から蒼華の名を賜り龍人族(ドラゴニュート)へと進化致しました」

 

え…リザードマンとしてのアイデンティティは角と羽だけで補えるの?

アビルなんてちゃんとトカゲらしかったのに。

 

「あっ、そう。よろしく」

他の4人もソーカに続くように頭を下げる。

魔物ってのはつくづくよく分からない。

 

俺がずっといてもソウエイ達の邪魔になるのでさっさとその場を離れた。

町に帰ってくると、前回会った時にガビルの近くにいた龍人族とすれ違った。

 

そいつらにガビルの居場所を聞くと、回復薬の栽培のために洞窟にいるそうだ。

先に洞窟へ向かおうかと思って歩いていると、リムルの姿が見えた。

 

「リムル様ーご覧下さい!ヒポクテ草の栽培に成功しました!」

「早いな!どれどれ………雑草じゃねーか!!」

 

それと、変わらずの馬鹿が。

あの馬鹿さ加減がガビルの良さのような気もしてきた俺は末期なのかもしれない。

 

 

 

 

 

あれから町はどんどんと発展してきている。

最近はバタバタと忙しかったが、やっと一息つける。

今は、リムルの庵のさらに奥に作られた俺の庵でベニマルと将棋を指している。

 

「それにしても、この町の食事も大きく発展しましたが甘いものも欲しいですね」

「砂糖がないもん、サトウキビなら育てられそうだけど」

「サトウキビ?」

「そ、でもねーそこから砂糖にする技術がまだないんだよ。他の国から取り寄せるにしてもルートが確保できてないんだ。当分は諦めな、はい王手」

「あっ!」

 

深いため息をついてベニマルが寝っ転がる。

人の部屋で随分とだらしがない。

別に気にならないからいいけど。

もう1回戦が始まる気配がないので、将棋盤を片してある一角の布の山に手をつける。

 

「また凄い量ですね」

「女物の服を断ったせいかね。私服の量がリムルの3倍はあるよ」

 

布の山の正体は、俺の服だ。

今も近侍者の倉庫に結構な量があるのにまた最近新しく渡されたのだ。

おかげで毎日違う服を着ている。

昨日はパーカーで一昨日はブラウスだった。

今着てるのは、めちゃくちゃダボッとしたTシャツにスリムパンツ。

Tシャツはズボンの中に入れろとゴブリナから指示があったからそうしてるけど、一体なんの意味があるのか。

服の山のほとんどを近侍者に収集させて、コートやスーツ等は押し入れに仕舞う。

 

「さて、そろそろ俺は見回りに行ってきます」

よっこらせと言ってベニマルが立ち上がる。

俺も散歩にでも行こうかな。

 

「ベニマル、途中まで(リムル様、ラルタ様緊急事態です)

(北の空に武装集団を確認しました。その数およそ500。一直線にこちらに向かって来ています)

 

「ベニマル、お前は先にいけ。俺は町の皆を避難させる」

「はい!」

 

 

 

 

 

「まず名乗ろうか、俺の名はリムル。スライムなのはその通りだが見下すのはやめてもらおう。」

見せつけるように、スライムの姿から人の姿へと切り替える。

後ろに控えた兵士達の目が一段と警戒の色に染った。

 

「これでも一応、ジュラの森大同盟の盟主なんでな。これが本性って訳でもないんだが、こっちの方が話しやすいだろ?」

 

ガゼル王が剣先を俺に向ける。

「貴様を見極めるのに言葉など不要。この剣一本で十分よ。

この森の盟主などという法螺吹きには分というものを教えてやらねばなるまいしな。」

 

良くもまぁポンポンと煽り文句が出てくるものだ。

後ろから殺気が死ぬほど伝たわってくる。

ソウエイに至っては刀抜きそうだし…。

こいつらが暴走する前にことを済ませたいが、さてどうしたものか。

 

そんなピリピリした空気の中、割って入るように木の葉が舞う。

強い風を起こして現れたのはトレイニーさんを含む3人の樹妖精(ドライアド)

 

「我らが森の盟主に対し傲岸不遜ですよ、ドワーフ王」

 

そういえば、同盟締結の日以来あっていなかったな。今度ラルタと一緒に樹人族(トレント)の里に遊びに行こうかな…。

樹妖精が自ら出てきたことで、兵士たちが同様の声をあげる。

 

「ふはっ、ふははは!森の管理者がいうのであれば真実なのであろう。ホラ吹き呼ばわりは謝罪するぞリムルよ。だが、貴様の人となりを知るのは別の話…得物を抜けい!」

 

俺に剣を向けるガゼル王に怒り心頭のトレイニーさんを宥める。

こいつは根っからの武人なんだろう。

話し合いじゃあ証明はできない。俺が無害な愛くるしいスライムだってことは剣で証明するしかない。

 

トレイニーさんに立会人を任せて、俺とガゼル王の一騎打ちが始まる。

 

まずは、小手調べ。こっちから行くか。

俺の方から斬りかかれば、片手で受け止められ弾き返される。鍔迫り合いはこっちに分が悪い。

なら、としたから行き良いよく突けば顔を逸らすだけで避けられた。

下から右から左から、どんな角度でどんなスピードで斬り込んでも受け流される。

しかも腹の立つことにこの野郎一歩も動いていない。

 

「どうした?そんなものか?」

「うるさい!まだ本気出してないだけだ」

 

わかってる。剣技でこいつには勝つのは簡単な事じゃない。何もかもが格上過ぎる。

くそ…めちゃくちゃデカく見える。スキルを使えば勝つことは出来るだろうが、剣以外で勝ったとしても精神的敗北だ。

 

もう一度走り出だすと、ガゼル王を中心に風が吹き荒れる。

強い風が髪を揺らして仮面を地面へと落とす。

……!?

体が動かない。動かそうと力を入れても剣がカタカタと音を立てるだけだ。

 

《告。エクストラスキル「英雄覇気」です。対象を萎縮させ屈服させる効果があります。》

 

屈服だ?ふざけやがって…対処法は?

《…気合いです。》

は!?なんて頼りにならない返事だ。

 

ガゼル王がゆっくりと俺に近づいてくる。

気合い?わかったよ、やればいいんだろ。お前はいつも正しいもんな大賢者。

 

歯を食いしばって、力を込める。

額に青筋が浮かんで、手汗がでる。

貯めた力を解放するように、低く大きな雄叫びをあげる。

風が舞って、体が軽くなる。

 

「…解けたぞ」

「…そう来なくてはな。では次はこちらからだ」

 

剣を構えなをす俺に、ニヤリと笑ったガゼル王が姿を消す。

消えた、わけじゃない。前にもこんなことがあった。俺の魔力感知を掻い潜って…。

 

目の前に、剣筋が現れる。

下から上に振り上げられた剣を体を逸らすことで避ける。

これで終わりじゃない、次がくる!!

次は____上だ!!

 

ガゼル王が剣を振り下ろす姿が見える。

その瞬間、鉄と鉄のぶつかり合う不愉快な音が鳴り響く。

俺の頭上で、ガゼル王の剣は受け止められていた。

 

「…はは。クロベエの刀じゃなかったら真っ二つだったな」

「ふっふはははははッ!こやつめ俺の剣を受け止めをったわ!!」

 

剣が下ろされる。

落ちた仮面を拾い上げながらガゼル王が言った。

「降参だ、俺の負けでいい。邪悪な存在ではないと判断した。良ければ話し合いの場を設けてもらいたい」

 

トレイニーさんが俺の勝利を宣言する。

ハクロウの技ににてたから受け止められただけなんだけど…。

 

パチパチパチと拍手の音がなる。

「ラルタ、ハクロウ」

「お見事でしたな、リムル様。ですが打ち込みの方はまだまだ」

 

褒めてくれたかと思えば、直ぐにダメ出しを食らった。鬼畜じじいめ…。

 

「失礼ですが、剣鬼殿ではございませんか?」

「…先程の剣気。如何なる猛者かと思ってみれば随分と成長なされた」

 

え?なに?知り合い?

「ふむ、森の中で迷っていた小僧に剣を教えたのは懐かしい思い出」

「あれから300年になりますか」

 

まじか、てことはガゼル王は俺の兄弟弟子になるわけか。道理で太刀筋がハクロウには似てると思った。300年って、今いくつなんだよ…。

 

「そこの貴様、名はなんと申す」

思い出話に花を咲かせていたかと思えば、俺の横に立っていたラルタを指差す。

 

「ラルタ=テンペスト。ガゼル王、この度は町に多大なる迷惑をかけてくれたこと感謝する」

 

口角を無理やり釣り上げて、ラルタが笑う。

めちゃくちゃ不機嫌じゃないですか…。

 

「貴様、死食鬼(グール)か?」

「だったら?」

ガゼル王はラルタが死食鬼(グール)だと知ってるのか?

いや、ラルタはドワーフ王国には行った事がない。この町に死食鬼(グール)がいるという情報とラルタの妖気を照らし合わせた結果の判断とみた方が自然か。

 

「いや何、どうにかするということじゃない。俺はリムルを認めた。リムルの町にいるものがどんな魔物でも構わない」

「さよーですか」

「さぁ、早く案内してくれリムル」

 

ズバンと背中を叩かれる。

「上空から見た限りじゃ美しい町並みだったぞ?美味い酒くらいあるのだろう?」

「…まぁあるけど」

 

ノリの軽いおっさんである。

まぁ、これくらいの方が気楽でいいけど。


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