翌日、ドワルゴンとジュラ・テンペスト連邦国の間で調印が行われた。
「ジュラ・テンペスト連邦国」はリムルと俺の共通名からテンペストを取り、ジュラの森大同盟に参加している種族も加わることでジュラと連邦国をつけた物だ。
なかなかいい国名だと思う。
ちなみに、俺たちがいる町は中央都市「リムル」となった。リムルはやめてほしそうにしてたけれど、最後は押し切られていた。
うん、なかなかいい都市名だと思う。
その後、俺は国王であるリムルから首相という地位をもらった。
昨日のガゼルの話を聞いていたくせに大胆な行動である。まぁ、表向き用の役職でやることは前とさほど変わらない。
リムルの手の回らない所をやるのが俺の仕事。
魔物の国が成立したことが世間に知れ渡ったてはや数日。中央都市リムルは千客万来である。
リムルに面会を求める者や庇護を求める者も多くいる。そのせいで、細々した雑務が全部俺に回ってきている。リグルド達も手伝ってくれているがまぁ忙しい。
そういえば、庇護を求めてきた魔蟲にリムルが名前を上げてハチミツ集めをさせていた。
俺はハチミツにそこまで興味は無いけれど、リムルがルンルンだったから何も言わない。
後、庇護とかじゃないけどベスターとかいうよくわかんない男を迎え入れた。近々顔を見に行こうと思う。
仕事の息抜きに執務室でお茶を飲んでいると悲鳴が聞こえた。またやってる。
スライムが王という事で変なチンピラがまぁやってくる。大体はシオンとソウエイが片してくれるんだけど、ソウエイに関しては甚振って晒し者にするからタチが悪い。
やっぱりあいつ倫理観イってるんだろうな。
リムルは、来る者拒まずの姿勢を取ってゆっくり俺たちの存在を認知してもらう方針なようで俺もそれに従っているんだが…
こうやって、椅子に座って雑務ばっかりやってると体が訛ってくるな。
近侍者もソファーの上でバタバタしたり伸びたりと暇そうにしている。
俺もハクロウの訓練参加するかな…剣使えないやつも参加していいのかな?
《告。膨大な魔素を秘めた者が接近中。着地地点を推測…成功しました。5秒後、南東1000m先に着地します》
その瞬間、ドォォンと激しい音がなって地面が揺れる。体が訛ってきたとは言ったけど、これは想定外だろ…。
後、助言者ちょっと遅いかも言うの。
《申し訳ありません》
いや、教えてくれてありがとう。怒ってないから。
近侍者がソファーの上でぴょんぴょんと飛び回る。
「馬鹿野郎、こんな魔素バチバチの奴と戦えるかよ。早く俺のところに戻ってこい!行くぞ」
ぺしょっとしぼんだ近侍者が俺の所に戻って来ると同時に部屋を出る。
「リグルド!リムルは?」
「ラルタ様、リムル様ならもう向かわれました」
「わかった、誰も近づけるなよ!」
「は!」
リグルドに指示を出して影移動で魔素の強い場所に移動する。
そこに広がっていたのは散々たる光景。
抉れた地面と、血まみれのベニマル達。
地面の中心に立つ桜金色のツインテール女がこの光景を作り出した元凶だろう。
「リムル!」
「ラルタ、こいつは俺が相手をする。全員に回復薬を」
リムルが抉れた地面の中へと降りていく。
指示通りに倒れたシオンに回復薬の入った結晶を食べさせ、ベニマルとソウエイに渡す。
「ラルタ様…リムル様を連れて早く逃げてくれ」
「大丈夫だ、何も策がないのに突っ込んでいったりはしないさ」
こいつらも弱いわけじゃないのに、コテンパンだな。ベニマルにはああ言ったが、はっきり言ってリムルが何をしようとしているのか分からない。本当に大丈夫だよな…。
リムルが負けたら部下になる約束を了承して突っ込んでいく。女は姿勢を崩さずに突っ立っている。リムルの手の中に金色の液体が見えた。
あれは…ハチミツ?
女の口にハチミツを押し込んだリムルが後ろに下がる。あれで、どうにかなるのか?
「なっなんなのだこれは!?こんな美味しいもの今まで食べた事がないのだ!!」
どうにかなりそうだな…。
リムルの話を聞く限り、あいつは魔王ミリムというらしい。
リムルが大人気なく、ハチミツをチラつかせてミリムに降参するように言う。
大人気ないリムルとは対照的にミリムはチョロいようで今回の勝負を引き分けにして、今後俺たちに手出しをしないと誓った。
ハチミツだけでそこまで必死になるのか、まぁ助かったけど。
「おっお前は、何か持ってないのか!?」
ミリムが俺に詰め寄ってくる。
「悪いね、何も俺は持ってないよ」
「なんでなのだー!」
なんでと言っても、俺が普段から持ち歩いてるオヤツなんて動物の骨とかくらいだ。
骨あげたら絶対拗ねるだろ…。
俺の着ているサマーセーターを掴んで揺すられる。伸びるからやめろ。
「お前は、あいつの次に強いじゃないか!なんで持ってないのだ…」
「強さは何も関係ないだろ」
「うぅ…」
「離せ、服が伸びる」
「やーなーのーだー!!」
このままでは服がダメになると思い、人化を解く。体をブルブルさせて、リムルの足元に避難すればリムルが困ったように声を上げた。
「あー、取り敢えず町に戻るか」
タシタシとランガの足音だけが、気まずい空間に響く。ハチミツをご機嫌に舐めるミリムをベニマルの肩に乗って眺める。
さっきまでは気づかなかったけど、服装エグくないか?この世界だとこれくらい普通なのか。
腹冷やしそー。
「なぁなぁ、お前は魔王になろうとしないのか?」
「…しねーよ」
「お前は?」
ミリムが振り向いて俺にも話を降ってくる。
「しない」
「でも…魔王は魔人や人間に威張れるのだぞ?」
「うわ、つまんなそー」
俺の発言が癇に障ったのかリムルを揺らしながら俺に指をさして怒る。
「おっお前!?魔王になるより面白いことをしてるのか!?ズルいぞ、ズルイズルイもう怒った。ワタシも仲間に入れるのだ!!」
駄々っ子かよ…。
リムルはミリムの駄々に負けて町を案内してやるらしい。
「えーじゃあ、お前のことはミリムと呼ぶ。お前も俺の事はリムルと呼んだらいいさ」
「むっ、いいけど特別なんだぞ?ワタシをミリムも呼んでいいのは仲間の魔王達だけなのだ」
「ハイハイ、ありがとよ。じゃあ今日から俺達も友達だな」
ベニマルが肩に乗っていた俺をリムルに渡す。
町案内は俺も参加しなきゃ行けないらしい。
ちょんちょんと、指でつつかれたのでそっちを見ればキラキラした目でミリムが俺を見つめている。
ともだち…と呟いて俺に顔を近づける。
俺を抱っこしていたリムルがトントンと俺を叩く。仕方がない、腹を括るか
「ラルタって呼んで、ミリム」
「わかったのだ!!」
嬉しそうに笑って、ミリムが俺の頭を撫でる。力加減が出来てないせいで、ちょっと痛い。
「ほら、着いたぞ。ようこそ
町に着いたミリムは子供のように、あれやこれやを見て走り回る。遊園地に来た子供みたいだ。町に着いてすぐに約束したウロチョロしない、暴れないのうちの1つは完全に機能していない。
俺も、地面に降りてミリムを追いかける。
いかんせん足が早いせいで、こっちの姿じゃないとおいつけもしない。
「おやリムル様、ラルタ様。丁度よかった。回復薬についてお話が…」
「あっ、ガビル。今はお前帰ってろ」
俺たちに話しかけて来たガビルに謎の嫌な予感がする。なんというか、やらかしそうというか。
「おお!
「ん、吾輩はガビルと申す。この町は初めてかチビっ子よ」
ガビルがミリムの頭を撫でる。
ちなみに補足しておくと、ガビルは撫でるのが上手い。けど…
「………チビっ子?それはワタシの事か?」
「あっ、ガビル!避けろ!」
俺の声掛けも虚しく、ミリムに殴られたガビルが飛んでいく。地面を抉りながら飛んで行ったガビルは上半身が完全に地面に埋まってしまっている。
ごめん、避けろは無理言ったわ。
ていうか、チビっ子なのも間違いない気がするけど…俺より小さいし。
でも、一応暴れないという約束は守っているつもりらしい。全然守れてないけど。
「はっ、親父殿が川の向こうで手を振って…」
「アホ、アビルは健在だろうが」
今俺は、中央広場のステージ上に立っている。
ガビルみたいに地雷を踏む馬鹿を無くすために、ミリムの顔を覚えてもらおうという判断だ。リムルが手に魔イクをもってスピーチを始める。
「えーと、今日から新しい仲間が滞在することになった。客人という扱いなのでくれぐれも失礼のないように。じゃ、本人から一言」
「ミリム・ナーヴァだ。今日からここに住むことになった、よろしくな!」
リムルとミリムの発言に、聴衆に来た住民が動揺を隠せずにいる。
(おい、どうするんだよ)
(もう諦めたよ、俺は)
ミリムに聞こえないように、思念伝達で声をかければこいつ完全に諦めてやがる。
でも、ミリムがめちゃくちゃ笑顔なせいで今ここで断れば大惨事なのは目に見えていた。
「うむ、リムルとラルタはワタシの友達だから何かあったらワタシを頼っていいのだ」
「友達、か」
友達、どこかの竜を思い出す。
そういえばあの時も強引だったな。
「えっと、そっそうだな、友達というより…
え?おいまたなんか言い出したぞ。
俺とリムルの反応が思わしくなかったせいか、ミリムがヤバそうな技を発動しようとしている。町が破壊されるのは本意では無いからか、リムルが俺とミリムを引き寄せて宣言する。
「俺たちは
「だろ?お前も人を驚かせるのが上手いな!」
こうして、半強制的にミリムと親友になり最も危険な魔王がテンペストに滞在することになった。……前途は多難、だな。
▽
「うまーーっ!このかれーという食べ物はめちゃくちゃ美味いのだ!!」
歓喜の声をあげて食事をするのは…ミリム・ナーヴァ。どう見ても子供だが、れっきとした魔王の1人でその実力は計り知れない。
その魔王は何故か俺の親友を名乗り、ここに住むとか言い出した。全く、どうしてこうなったのやら。
「こんなに美味しいのはハチミツぶりなのだ」
「ミリム様が興味を持ったあれは蜂が集めた蜜だったのですか?」
ギクッ、シオンめ、意外と目聡い…。
「砂糖の代わりに用意したんだ、多くは採れないし抽出も今のところ俺とラルタにしか出来ない。お披露目は量産の目処が立ってからにしようと思ってたんだが…舐めてみ」
ハチミツを小皿に取り出して、配ってやればなかなかいい反応だ。ベニマルはちょっと過剰だけど。
「お砂糖は高級品なので食べたことがありませんでした」
「砂糖と言えば、ラルタ様がサトウキビなら育てられるかもと言ってました」
「サトウキビ?」
あいつ、そんなこと考えてたのか。
俺でも聞いてないぞ、その話。商人から色々本を見繕ってたし聞き込みもしてたからその時知ったのか?
「温かいところの自然界にあるらしいよ。繊細だから、どこの国も大量生産には至ってない。加工も大変だしね」
「ラルタ様、おかえりなさい」
ただいま、と声をかけながらソウエイの席に肘を着いて立つ。
「ラルタはかれーを食べないのか?」
「他の食事をしてきたってだけ」
「人か?」
「人じゃない、その話は他の奴らを不快にさせるからするな」
ソウエイのカレーを一口奪って、ラルタが話を続ける。
「今度、商人にサトウキビを取ってきて貰う話をしてある。生産に関してはリリナと話しておくから、目処が着いたらシュナとシオンに砂糖にする加工技術を見つけて欲しい」
「もちろんです!全力を尽くしましょう。いいですね?シオン」
「はい、シュナ様!このシオン、一命に代えましても砂糖の生産技術を発見してご覧に入れます」
「頼んだのだっ」
女子三人がキラキラと目を輝かせ、見つめ合う。いつの間に仲良くなったんだ。
その日ミリムは一日中はしゃぎ回っていた。ラルタなんて、公園でサッカーに付き合わされてヘロヘロになっていた。どんまい…。
「───という訳で、魔王ミリムの滞在が決まった。1人で出歩かせるのも不安なんで常に誰か側で見てやって欲しい」
その夜、女性陣を除く幹部を集めて話し合いを行う事にした。ラルタは席に着かずに横の階段で本を読んでいるが…この自由人め。仮にも首相なんだぞ。
みんなは他の魔王の出方を気にしているようだ。十大魔王と呼ばれる魔王たちはお互いに牽制し合う間柄だ。テンペストの王である俺がミリムと友好を宣言し、ミリムがここに滞在しているということは「テンペストが魔王ミリムと同盟を結んだ」と見られる可能性がある。
それは、今まで配下を持たないことで有名だったミリムの勢力が一気に拡大するという意味で、他の魔王たちにとっては面白くない話だ。
確かに、そうなるとこの森が勢力争いに巻き込まれる可能性もあるのか。帰ってもらうって話も出たが…聞かないだろうな。
無理に帰らそうとして機嫌を損ねられても後が怖い。
「飽きて去ってくれるのを待つしかなか…」
「はい、仮に敵対するなら他の魔王を相手にする方がマシです。魔王ミリムは正しく天災ですので」
あー、そういえば
投げやりではあるが、敵対する魔王が現れたらその時考えることにした。
「ところでリムル様、当のミリム様はどちらに?」
「ん?ああ風呂だよ。シュナとシオンに連れてって貰ったんだが…」
ちょうどそこに走ってくる足音がした。
ドアが壊れそうな勢いで入ってきたのは、タオルを巻いただけのミリム。そして、それに続いて同じような格好のシオンとシュナがいた。
おぉ、ナイスバディだな。
「リムル!ラルタ!ここの風呂はすごいな!泳げるのだ!!」
「ほら、まだ御髪を洗えていないでしょう」
「おお、すまぬ。感動したから早く
「俺は男だから無理だよ。他のことならしてあげる」
「そうか、ならリムル!明日は一緒にな!」
ミリムたち三人が風呂場に戻っていく。
「ガン見しやがって、変態共」
「うるっせ!逆にラルタは男としての欲をどこに捨ててきたんだ!」
「まずそんな物は持ってない」
「あー、ではミリム様のお相手は親友のリムル様とラルタ様に一任するということで」
「異議なし!!」
全員が声を揃えて賛同する。
ベニマルこの野郎。確かに懐かれてはいるし、ラルタと二人ならなんとか行けるか?
こうして魔王ミリムは俺とラルタが担当するという暗黙のルールが成立してしまった。
「そういえば、お前さっきから何読んでんだ?」
「絵本」
「へー、絵本か。どんな内容だ?」
「
……なんてもの読んでだ、こいつ。
「ラルタ様、どこでそれを?」
「感じの悪い、商人。なかなか面白いよ、内容は凝ってるし絵も綺麗」
「そうか…」
翌日、ミリムとラルタと朝食をとる。
野菜スープは特にお気に召したようで、今飲んでるのは2杯目だ。
ちなみに昨日ラルタが読んでた絵本はベニマルが燃やした。
「ミリム、飯が終わったらラルタと製作工房に連れてってやるよ。可愛い服もいっぱいあるから、好きなのを見繕ってもらうといい」
▽
「おぉー!すごいのだ。服だらけなのだ!」
「じゃあ、後はよろしくな二人とも」
リムルがベスターのいる回復薬の研究所に向かった。本当は二人で行く予定だったけど、生憎俺は行けそうにない。今度ちゃんとお茶にでも誘うか。
「なぁなぁ、今ラルタが着ているそれはなんというのだ?」
ミリムが興味を示したのはセーラー服だった。俺のはメンズようだし、大きめに作られた黒に白の線の入ったものだ。白の大きなリボンに同じようなデザインのベレー帽を被っている。これが俺に似合ってるのかは知らん。
シュナ達から大絶賛だったから多分大丈夫だろう。
「セーラー服だよ」
「可愛いのだ!似たようなのはないのか?」
「シュナ、出してあげて」
「かしこまりました」
シュナがミリムに渡したのは、白に薄水色の線の入ったセーラーワンピースだった。
「可愛いのだ!似合っているか?」
「似合ってる、似合ってる」
ベレー帽はミリムだと飛ばしてしまう可能性が高いのでなしだ。
キャッキャとシュナと服について話していた。これはなんだ、これは可愛いと。女の子らしい会話に自分の場違い感が拭えないまま時間がすぎていく。
その後も話を続けていたミリムが急に黙った。
「どうした?ミリ…」
「ミリム様!?」
行き良いよく、部屋を出てミリムが走り出す。
え、何いきなり。
とりあえず、シュナにはあとから着いてきて貰うことにしてミリムを追う。
もうほとんど姿は見えないが、魔素を辿って行く。その間にも、おはようございますと住民が挨拶をしてくれる。魔王の全力疾走にビビらないのはどうなのか。
やっとミリムの近くにまでたどり着くと、そこには顔を負傷したリグルドと4人の魔人がいた。入国リストにはない奴らだ。侵入者か?
その時、ミリムが拳を握って魔人のリーダーだと思われるやつに突っ込んだ。
「ミリム、ストッ「親友の子分に何をするのだー!!」
ミリムに気づいき慌てた男が繰り出した「豹牙爆炎掌」という技がミリムによって巻き上げられ、上空に向かって火柱が登る。
あー、リムルに監督不行届出されるかもな…。
ちなみに、ラルタは170cm程です。
ハイエナの時は40cm程。
ベニマルの方に乗ってた時は、後ろ足と前足を別の肩に置いて乗ってます。