転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第2話...ゴブリン村の守護者

(さて、この壁水刃で切り刻めばいいか?)

(捕食者で食べちゃえば?)

(そもそも、これ食べられるのか?)

 

目の前にあるのは大きな扉。

ここまで来るのに案外歩かされた。道が一本道じゃなかったら今も出口を探して歩き回ってただろう。

というか、そんなに悩まなくていいから早くこの扉をどうにかしてほしい。

本当にお腹すいた。こんな空腹、スラムにいた頃も感じたことない。

 

空腹で思考が鈍っている中で、扉の開閉音がやけに響いて聞こえた。

随分長いこと開かれていなかったことが、よく分かる。

 

(おっ、おい!ラルタ隠れるぞ!)

(あ、うん。)

 

軋んだ音を立てて空いた扉から、三人の人間が入ってきた。

なんだか騒がしい奴らだ。

 

(リムル、どうする?)

(ついて行きたいけど、今回はやめとこう)

(そう…)

 

岩場の影でしばらく様子を見ていると、三人の姿がぼやけ出した。見えないって程じゃないけど。色んなスキルがあるんだな。

 

(あんなん、ドリーム技術だよな。覗き見し放題だ。)

(リムル、お前さ。彼女いたことないだろ)

(鼻で笑ってんじゃねーよ!余計なお世話だ!)

(はぁ、行くよ)

 

 

リムル=テンペストは焦っていた。

明らかにラルタの空腹が限界値に達している。

足取りは覚束無いし、話しかけてもまともに返事が帰ってこない。

暫く進むと、分かれ道があった。どの道に行くか考えてる時間もおしくて適当な道に入った。

 

チロリと目が合った。ギョロりとした目の持ち主、前世の蛇なんて可愛く思えるほどの、大蛇だ。

だけど、今は好都合だ。大賢者が言うには死食鬼は人間や魔物の死肉を食べると言う。

悪いが、お前はラルタの餌になってもらうぞ。

 

(水刃!!)

俺のはなった水刃は、大蛇に一切の抵抗を許さずその首を刎ねた。宙を舞った頭は鈍い音を立てて地面に落ちた。

 

(ラルタ、シッポの方とかなら食べられるんじゃないか?)

(あ、うん…。)

 

声が完全に消えかけている。

水刃でシッポを切って渡してやれば、結構硬そうな鱗をものともせず噛み砕いて食べている。

ラルタが自分の生態はほとんどハイエナだって言ってたけど、確かにそうかもしれない。

ハイエナって骨とか食べるんだよな…。ラルタを怒らせて噛まれたりしたらひとたまりもないな。

それにしても、水刃は思ったより強力だ。

これなら、この先の魔物ともそれなりに戦えるだろ。

 

 

美味しい。それはもう、涙が出そうなほど美味しい。魔物の肉は美味しい、覚えておこう。

正直扉を抜けた辺りから何も考えてなかった。強いて言えば、目の前のリムルの切れ端くらい貰うかと考えてたくらいだ。助言者に止められたけど。

 

《告。魔物を討伐し、諂諛者に収集させることを推奨します。》

あぁ、スキルとかが手に入るんだよな。

さっきのは蛇はリムルが捕食者で食べちゃったし、俺も自分で魔物を倒さなきゃだな。

 

なぁ、助言者。俺はどうやって魔物を倒せばいい?リムルと違って水刃なんて覚えてないぞ。

 

《解。既に諂諛者の血液を主様の思考とリンクさせています。主様の意思に沿って形を変え、硬化させることが可能です。血液は空中に浮遊することも可能です。》

 

つまり、小刀みたいなのを血液で生成して、空中でシュンシュン動かせばいいわけね?

《はい。助言者がサポートを行います。》

でも、そう思うと諂諛者の血液って便利だね。俺が怪我しても再生してくれるし。諂諛者にありがとうって言っておいて。

《了》

 

(それで、リムルは何してるの?)

(ふっふっふ、俺は今蝙蝠を捕食した。何故かわかるか?)

(あぁ、発声器官ね。)

(チッ、お前もか)

 

リムルが上手く喋れるようになったら、念話じゃなくてもいいのか。念話でもいいけど、やっぱ口を動かして話したい気持ちもある。よし、リムルの発声練習には手を貸してやろう。

 

(擬態できるって聞いてたけど、再現度高いね。スライムのままそれっぽくするんだと思ってた。)

(それは俺も思ってたよ。お前は?出来ないのか?)

(できない。でも、出来ても多分しないから、宝の持ち腐れになるだけだな。)

 

性能的に言えば、諂諛者に関してはリムルの捕食者の下位互換だ。いや、そんなことない。

安心しろ、諂諛者。俺がお前をNO.1にしやる!

俺の中では、助言者と諂諛者は既にNO.1だけど。今のところ比較して出来ないのは意識のあるものの収集と、擬態。擬態はいらないからいいけど。

でも、血液に関しては唯一無二だ。これを活かしていこう。スキルとか魔法の回路になるらしいし、自由自在に動かせればもっと強く出れる。そのためにも、スキルを獲得しないとな。

 

(リムル、肉をありがとう。俺も、スキルの獲得がしたい。遭遇した魔物はそれっぽく分け合っていこう。)

(あぁ、構わない。どうやら、ここら辺は魔物がうじゃうじゃいるみたい出しな)

 

その後、リムルの発声練習に付き合いながら魔物を倒して、収集を繰り返した。

最初の方は、何となく伝わる諂諛者のこう動きたいって気持ちと俺のこう動かしたいって気持ちがバラバラで結構疲れたけど今ではお互いそれなりに察せて動けてる。助言者のサポートもあって、ここら辺の魔物なら楽勝だ。

 

風を感じる。そろそろ洞窟の出口がある。

思えば結構な魔物を倒してスキルを獲得した。

特に、「毒霧吐息」「麻痺吐息」「身体装甲」の3つがめちゃくちゃ便利。

血液をミスト状にして動かせば簡単に敵が溶けるし、血液を盾っぽくして身体装甲を使えば大抵の物理攻撃を360度防げる。

遠隔で行ったり来たりさせられるのが使い勝手の良さを倍増させている。

 

(ラルタ、外だ。)

(そうだな。)

 

いよいよ洞窟から旅立つ時が来た。

 

 

 

 

 

久々の太陽。太陽ってこんなに眩しかったか?

洞窟は森の中にあったらしい。

鳥のさえずり、風に揺れる草花の音。あの洞窟が嘘かのように平和だ。

森の素材集めとかをしておくのもいいな。

 

(リムル、少し別行動をしよう。俺は、森の素材集めがしたい。お前もスキル練習とかするだろ?)

(確かに、その方が効率がいいかもな。よし、なら何か変わったことがあったら報告しよう。集合時間と場所はどうする?)

(日が暮れる頃に俺がリムルの場所に行くよ)

(俺の場所わかるのか?)

(わかるよ)

 

逆に何故分からないと思っているのか。

糸を出して木々を移動するリムルを見やる。

妖気がダダ漏れだ。きっと気づいてないんだろうな。まぁ、言ってやらないけど。

リムルの大賢者はそう言う細かい事は言ってくれないのかな。

リムルから聞いた話だと大賢者はYes/Noといちいちリムルに確認をとるらしい。

俺の助言者はだいたい勝手に動いて勝手にスキルを使うと言ったら、リムルは嫌そうな顔をしてたけど、俺としてはいちいちYES/Noと聞かれる方がウザイ。

まぁ、人に個性があるようにスキルにもあるのか。

 

そんなことは別にたいした事じゃない。

さて助言者、この木で服を作れるか?

《肯。血液により木を収集し繊維から服を生成します。》

そんな、大したものじゃなくていいからね。

 

そう、服である。服があれば人化の封印も解けるというものだ。

だけど、このハイエナの姿も便利ではある。足は早いし身軽。聴覚、嗅覚共に高い。

使い分けて行ければ最高だな。

 

《服の生成が完了しました。》

そう言って出てきたのは立体ひし形造形をした結晶。うっすら青みがかった中に黒い液体がうようよ動いている。

これが、諂諛者が収集を行う際に行う結晶化である。生成したものもこうして結晶化して倉庫に綺麗に並ぶ。確かにこれがある限り意思があるものは収集できないな。リムルと違ってひと手間あるから時間もかかる。

そんなことを考えていると、諂諛者の血液が俺の前をクルクルと回った。文句言うなって言いたいんだろう。別にお前に言ったわけじゃないよ。不服そうに帰っていく諂諛者を見る。

俺とこいつは仲が良くない。助言者が間にいなかったら今頃破綻してるだろうな。

 

助言者、人化する時は服も同時に着れるようにしてくれ。

《了》

 

さて、やってみるか。

ハイエナの姿が瞬く間に人の姿に変わり、横にあった結晶も俺の体に纏う服になった。

薄茶色のちょっと固めの布で出来たTシャツと短パン。上出来じゃないか!想定の何倍もいいものができた。

ありがとう諂諛者、助言者。

 

それなりに長い間人の姿をとっていなかったから、歩き方とか忘れてるかと思ったけどスムーズに歩けている。

人の手で木になっている果物をとって食べてみる。みずみずしくて美味しい。

助言者によると死肉とそれ以外の食事は2対8くらいでいいらしい。月に1回位は死にたてホヤホヤの肉を食べたいものだ。

 

そうして、夜になればハイエナの姿に戻ってリムルのところに戻って昼には人の姿で散策をした。気分でリムルと昼にも行動したりしたが。

まだリムルには人の姿を見せてなかった。深い理由は特にない。

 

1度だけリムルと昼に行動してたら狼に襲われた。逃げていったが。

こんなに妖気ダダ漏れのやつがいればそりゃ逃げる。助言者に見てもらったけど、半径100m圏内にリムルより強い魔物はいないらしい。俺も含めて…ちょっとだけど悔しい。

 

そして今、目の前にいるこいつらも例外ではない。ゴブリンというらしいこの種族。

装備も、服もボロボロ。ここら辺の魔物の生活水準は結構低めなのかもしれない。

人間もこれくらいの生活水準なのか?いや、さすがにそれだはないと信じたい。

 

「強き者よ、この先に何か用事がおありですか?」

 

話していることが分かる。洞窟であった3人組の言っていることもわかったし、言語が統一なのかな。いや、仮に統一されてても日本語じゃないはず。スラムにいた頃の言語なんて有名でもないし、リムルも分からないはず。

 

《解。意思が込められている音波は魔力感知の応用で理解できる言葉へと変換されます。》

なるほど、魔力感知って便利なんだな。

 

「初めまして!俺はスライムのリムルという」

「クゥン」

リムルがゴブリン達に話しかけた。それはいい。いいんだけど、うるさい。

ハイエナの時は耳がいいんだ。横でそんな大声を出さないでくれ、頼むから!

 

《今後、音の大きさによって諂諛者で調整を図ります。》

それは、助かる…。あー、クラクラする。

 

「強き者よ!貴方様のお力は十分にわかりました。どうか声を鎮めてください!」

ほら、ゴブリン達だってうるせぇって言ってる!弁えろ馬鹿リムル。

 

「すまんな、まだ調整が苦手なんだ」

「おっ、恐れ多い。我々に謝罪は不要です!」

「で、俺たちになんか用?俺達はこの先に用事なんてないよ?」

「左様でしたか。この先に我々の村があるのです。強力な魔物の気配がしたので警戒に来た次第です」

 

リムルの事だ。リムルもやっと自分が妖気ダダ漏れなことに気づいたらしい。

(おい、ラルタ!気づいてたなら言えよ!)

(え、なんの事?俺よくわかんない)

(お前、良くもまぁそんなニヤニヤしながら…!)

 

「ふっふふふ。わかるか?」

白白しい嘘で、何とか誤魔化したリムルはその後もゴブリン達と会話を続けた。

 

「その、そちらの方は?」

「俺?俺はラルタ=テンペスト。死食鬼(グール)だ。」

「えっ、死食鬼(グール)…」

「怖い?」

「いっいえ、そんな」

「お前たちのことは食べないよ。リムルもお前たちのことを気に入りだしてるみたいだしね」

 

その後、話の流れで村へお邪魔することになった。泊めてくれるらしい。

俺が死食鬼ってことにあんな怯えた顔をしたくせに、良く俺まで泊めようと思ったものだ。

まぁ、リムルのおまけ程度だろう。

 

 

 

 

 

ゴブリン村はどこもボロボロで、通された家もボロボロだった。

 

「我らの願い、何とぞ聞き届けては貰えませんか」

リムルと俺を招いたのに理由があるのはわかっていた。そして、リムルはきっとこれを受け入れることも。

 

どうやら、この村に牙狼族が攻め入ろうとしているらしい。目の前にいる村長の息子は、いくつかの情報を残して死んだそう。

ボロボロの姿で強い者に泣き縋る姿が前世で見てきたものとリンクする。

スラムでは、貧困者たちの戯言など聞き入れもされなかった。くだらないと一掃されるだけだった。それなのに、今では頭を下げられる立場にいる。

 

「村長、1つ確認したい。俺がこの村を助けるならその見返りはなんだ?お前たちは俺に何を差し出せる?」

「強き者よ、我々の忠誠を捧げます!」

 

この忠誠をリムルは受け取るんだろう。そうすれば、リムルはこの村の守護者となる。

俺は、仕方がないから助手でもやるとしよう。

実際、この話に俺は参加していない。リムルの横で静かに話を聞いてるだけ。

 

遠吠えが聞こえる。

ゴブリン達の動揺は激しく、騒がしい。

それでも、リムルの声は良く響いた。

 

「怯える必要は無い。これから倒す相手だ。お前たちのその願い、暴風竜ヴェルドラに代わり、このリムル=テンペストが聞き届けよう。この村は俺が導く」

「我らに守護をお与えください。さすれば今日から我らは貴方様の忠実なるシモべでございます!」

 

リムルが俺の方をチラリと見る。

俺も何か言えということらしい。

「はぁ、導いてやる気は無いが気分で手伝ってやる」

 

また1つ、むず痒い繋がりができた。でもやっぱり、悪い気はしない。

 




ゴブリン村の守護者「の助手」

ステータス
名前:ラルタ=テンペスト
種族:死食鬼
加護:暴風の紋章
称号:なし
魔法:なし
ユニークスキル:諂諛者、助言者
エクストラスキル:魔力感知
獲得スキル:熱源感知、毒霧吐息、身体装甲
耐性:物理攻撃耐性、痛覚無効、熱変動耐性ex

口調は統一させる予定はありません。精神年齢17歳の口調なんて意識してなきゃバラバラだと思ってます。
諂諛者とラルタは直接的な主従関係にありません。助言者が無理やり繋げているようなもの。
ラルタが取り込んだものと、諂諛者が収集するものが別なためラルタが魔物の死肉を食べてもスキルなどは得られません。


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