転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第21話...ヨウム英雄化計画

「あっ、ラルタ様ー!」

 

ミリムをリムルに押し付けて、久しぶりに1人で森を散歩しているとゴブタとその部下に声をかけられた。

 

「なんすかラルタ様ー、サボりっすか?」

「あ?こういうのはな、息抜きって言うんだよ。息抜き、わかるか?」

「でも、ラルタ様にも息抜きできる時間があって安心しました。最近は執務室に篭もりっぱなしみたいだったので…」

「おっ、ゴブチー。ゴブタと違ってお前は良い奴だなぁ」

 

どうやら見回りをしているらしいので、同行することにした。どうせ暇だしね。

あーだこーだと話すゴブタ達を見ると、なかなかいいチームだと思える。お互い遠慮せずに物を言うけれど上下関係はしっかりしている。

これもゴブタだから作れる独特な空気感からなのかもしれない。

リムルもゴブタはこれからもっと強くなると言っていたし、楽しみにしてよう。

 

「あーあ、なんか大っきい魔物出ないっすかね」

「そんなホイホイ出てきてたまるか」

「そーっすよねー」

 

リムルは約束通り、クロベイにゴブタ用の武器を依頼した。小太刀と言われる刀で、ベニマル達が持っているものよりは小さめの太刀だ。

小さいせいで普通の太刀に比べれば威力は落ちるが、嵐牙狼族に騎乗した状態で振るうにはちょうどいいサイズ感だ。小回りの効くゴブタによくあっている。

せっかく貰えた武器を使いたいようだが、ゴブタの望むような魔物はそんなにいない。

大体は巣の中にいるから、自分たちからちょっかいをかけない限りは出会うことは無い。

 

 

数十分間見回りを続けているが、これといって異変はない。俺もそろそろ執務室に戻ろうか…。

その時、かすかな血の匂いが俺の鼻を刺激した。魔力感知の範囲を広げて、血の匂いの元を探ると魔物と交戦中の人間がいた。

 

「ゴブタ、暴れられそうだぞ」

「え…なんすかいきなり」

槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)だ、人間が襲われてる。向こうに直進すればすぐだ」

 

俺の言葉を最後まで聞いていたかは分からないが、カッコイイところを見せるっす!と言って駆け出して行った。ゴブチ達もその後に続く。

さすがに俺もここに突っ立ってる訳には行かないので、後を追う。

 

 

交戦していた人間の剣が、槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)に切り落とされる。その隙をついて鋭い脚が人間を切りつけまいと迫る。

既のところで、駆けつけたゴブタがその足を弾き返す。

 

「怪我はないか?」

「あなたは…っ、リ「待たせたな」

 

何を格好つけてるんだか。

「おい、何してる。さっさと仕留めろ。それを持って帰れば今日の晩飯は豪華になるぞ」

「任せろっす!」

 

ほっといても直ぐに終わりそうだ。

「ラルタの坊ちゃん!」

「お前たちはいつもなにかに追われてるな、カバル」

 

あはは、と苦笑いをするカバルの頭にチョップをして当たりを見渡す。

カバル、エレン、キド。知っている顔はこれだけだな。後は厳つい顔のおっさんとチンピラの集まりみたいな連中。

この森に用があるのか、テンペストに用があるのか。国に危害を加える様には見えないしほっといてもいいだろう。

 

「お疲れ様、ゴブタ」

「こんなの楽勝っすよ」

脚を切り落とされて完全に槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)は動けなくなっている。荷台をここまで持ってくるのもめんどくさいし1回倉庫に収納するか。

血液を広げて、槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)を収集する。

 

「失礼、貴方がラルタ様ですね」

「あ?そうだけど何?」

 

ジュラ・テンペスト連邦国の存在が世間に知れ渡るようになってきて、俺の名前も色んなところで1人歩きしている。

ラルタ=テンペストは死食鬼であるという話はお偉いさんなら皆知っているようで、ハイエナの姿...この世界ではハイエナは存在しないし、あの姿が死食鬼としての認識なんだけど...をここら辺で見かければ大体のやつは俺だとわかるだろう。

人の姿の時は、見分けがつかないだろうが。

この厳つい男はカバルの発言から俺をラルタ=テンペストだと認識したんだな。

 

「貴方に、頼みたいことがあります」

 

 

 

フューズと名乗った男は、カバル達の上司にあたる人だった。ブルムンド王国の自由組合支部長(ギルドマスター)らしい。

頼みというのはリムルへの面会だったので、町へと案内してやることにした。何故か、チンピラ共もついてきたが。

 

「こいつらはなんの用だって?」

「知らね、面会したいって言うから連れてきただけだし」

「おい...」

 

町に着くまでの間に思念伝達でリムルに事情を話してあったので、こいつらを部屋に通せば既にリムル達が着席して待っていた。

俺も適当な窓際に腰掛けてる。

 

フューズは席につくと、直ぐに本題に入った。

最初にシズを弔ったリムルへの感謝を述べ、ここに来た理由を話した。

豚頭帝(オークロード)の出現により、対策に追われていた頃ソウエイがリムルの伝言を伝えに来たらしい。

豚頭帝(オークロード)を俺たちが討伐したという話は、豚頭帝(オークロード)が消失したという楽観的な事だけでは留まらなかった。豚頭帝(オークロード)の討伐を成す程の魔物は人間達の新たな脅威になる可能性がある。それを見極めるためにリムルと面会したかったそうだ。

 

だいたい理由はガゼルと同じだ。

ガゼルと違って町に何一つ迷惑をかけていないから、俺の中でのこいつの印象は極めて良い。

リムルの口から、ドワーフ王国との盟約を結んだことを聞かされたフューズは困惑を隠せないでいる。まぁ、ガゼルは世間から賢王と名高い奴らしいし信じられないのも無理はない。

 

「リムル様、例の回復薬の売り方についてですが...」

「ベスター、今来客中」

「あっ、ラルタ様。これは申し訳ありません」

 

リムルに一礼してベスターが退室する。

まじでいい加減ちゃんと俺もベスターと話がしたいんだが、いつ実現するのやら。

ドワーフのベスターの入室はフューズに一頻りの驚きを与え、リムルからカイジンの名前が出たことで完全にキャパオーバーで停止してしまった。

 

フューズが再起動するまで少し時間がかかりると判断して、リムルがチンピラに話を振る。

 

「で、そっちの兄ちゃん達は何しに来たんだ?君らもブルムンドの自由組合(ギルド)に所属してるのか?」

「いえ、私達は...」

「...その前に聞かせてくれ」

 

メガネの男の説明を遮るように、チンピラがリムルに質問をする。

 

「なんで、スライムが喋ってんだよ」

なんともごもっともな質問だ。何も知らない奴から見たら、スライムの後ろに鬼人が立っている様子はアンバランスに見えるだろう。

 

不毛なやり取りから流れを取り戻す様にメガネの男が話し始める。

「えーと...私達はファルムス王国の調査団です。こっちは団長のヨウム、私はお目付け役のロンメンといいます」

 

ロンメンの話によると、ヨウムの率いるチンピラ共は正規の軍隊では無いらしい。

ロンメンはチンピラ共のお目付け役として契約魔法でヨウム達が逃げ出さないように縛る役目があるそうだ。

なんともブラックなもんだと思ったが、どうやらロンメンはその魔法を解いてしまっているらしい。

今はヨウムについて行くことを決めんだとか。

 

「どうして逃げようとしなかったんだ」

「ああ?」

「危険な調査に安い装備で送り出されたんだろ?聞く限りじゃ、雇い主は成功報酬を奮発するタイプとは思えないけどな」

「んなこた分かってんだよ。豚頭帝(オークロード)の情報を教えてやらなねぇと町の人が危ねーじゃねぇか」

 

リムルの質問に対する回答があまりにも予想外で思わず吹き出してしまう。

 

「あ?なんだよ、何が面白い」

「んー」

 

窓際から降りて、ヨウムの元へ歩いていく。

後ろから首に抱きついて耳元で囁く。

 

「結構良い奴なんだなーって思っただけ」

「っ!離れろ、死食鬼(グール)!俺なんて食っても美味くねーぞ」

 

俺の腕の中でジタバタとヨウムが暴れる。

「んー、確かに美味しそうでは無いね。若い匂いはするけど栄養が足りてない」

「匂い?」

「あー、リムルには分からないか。血の匂いだよ、死食鬼(グール)は血の匂いに敏感だからね。んー、ここかな」

 

ヨウムの腹をグッと押してやれば、痛みに暴れる。あんまり暴れると傷口開くと思うけど。

腹を抱えて、ヨウムが撃沈してしまったので回復薬を食べさせてやる。

さっきもシオンに殴られてたせいで回復薬使ってたけど、頭の傷しか直していないようだったから丁度いいだろう。

 

その後も話をを続けるヨウムのことをリムルは気に入ったらしい。

あーあ、これはめんどくさいことに巻き込まれるな。哀れなヨウムの頭を一撫でして、ソウエイの横に移動する。

何枚か持ってきたポテチ擬きをソウエイに渡してやれば、俺の手からそのまま食べた。

 

「ちょっといいかフューズさんとやら」

「...はっはい!?」

豚頭帝(オークロード)が倒されたという情報は既に知れ渡っているのか?」

「あっいや...使者殿が来た時、その場にいたのは私とこの三人だけです。知らせたのはブルムンドの国王と1部の大臣のみ。一般には発表はされていません」

 

フューズへの質問で、リムルが何をしようとしているのかがだいたい分かった。

一般に知らされてないなら、真実なんていくらでもねじ曲げられる。

 

「よし、決めたぞヨウム君」

「あ?なんだよ」

「君、英雄になる気はないかね?」

 

豚頭帝(オークロード)を倒したのが魔物であれば、人間にとって脅威が去ったとは言えない。

けれど、それを倒したのが人間であればそれは新たな脅威の誕生ではなく英雄の誕生になる。

その英雄を裏から支えたのが魔物の国。

そのポジションは人間と仲良くしたいリムルにとって望ましいものだ。

 

リムルはその英雄にヨウムを抜擢した。

ヨウムは困惑を隠せないようで、そとに出ていってしまった。

 

「あいつが受け入れるって分かってるくせに」

「100パーセントじゃないだろ?」

 

開き直ったように答えるリムルを無視して部屋を出る。ヨウムの後ろ姿が見えたが、後を追わずに反対方向に進んだ。

どうせ今日中にヨウムは、あの計画を受け入れる。先に準備を始めておいたほうがいいだろう。

 

 

 

案の定、夕方には本格的に計画が始まった。

もちろんその計画はすぐに決行できるわけでもなく“英雄”に相応しくなってもらうために体裁を整える必要がある。

 

あれから数日、ヨウム達の武器・防具を新調するのはもちろん、あいつら自身の能力の底上げが行われていた。ヨウム達はハクロウに扱かれ、毎日ボロボロになっている。

今日も手酷くやられたようで、晩飯を何度もおかわりしていた。

 

俺も馬の手配をしたりとイレギュラーな仕事が増えてまともに休めていない。

ヨウム英雄化計画が無事に終わったら休めるといいんだけど...。

 

 

「はぁ、ほんと疲れる」

暗い森の奥深くでため息をつく。

元々、ヨウム達が来た日に死肉を貪りに行こうと思ってたのに仕事に追われて予定がズルズルと伸びてしまった。

今日も時間が作れなかったかそのまま寝ようと思ったのだが、いかんせん空腹で寝付けない。

仕方ないから、深夜の森に入って魔物を殺すことになった。この燃費の悪さはどうにかしたいな...。

 

今回の魔物は当たりだった、肉も詰まってるしほんのり甘い味がする。

皮膚を噛みちぎって、肉付きのいいところの肉を喰ったあと人化して骨や血をとりだす。

骨はおやつになるし、血は酒を作るのに使う。

今回の魔物の血は甘めだからスープとかにしてもいいかもしれない。厨房の空いてる時間を見計らってやってみるか。

 

近侍者と協力して欲しい部分だけを収集する。

小骨はおやつにしても満足感がないから背骨などの太いところを回収する。

ぶちぶちと音を立てて骨と肉を剥がしていると、声が聞こえた。

 

「うわっ!.........ラルタ、さん?」

 

俺の食事を邪魔したのはヨウムだった。

食事中はどうしても注意が散漫しやすい。普段だったらヨウムが近づいてくる気配にすぐに気がつくのに。

助言者、悪いけど食事中に誰か来たら敵意関係なしに報告して。

《了》

 

片手に持ったライトで照らされた俺を見て、ヨウムは顔を顰めた。

まぁ、無理もない。口の周りや手は血まみれで、服も至る所に血が飛び散っている。

魔物も生きていた頃の面影なんてなく、ぐちゃぐちゃの塊に成り果てていた。

 

「俺の食事を邪魔するとはいい度胸だな」

「あっ、いや...悪い」

 

また1つ深いため息をして、立ち上がる。

口を脱ぐって、服を瞬時に変える。血まみれの服は近侍者の倉庫の中で助言者が綺麗にしてくれる。

俺の手に着いた血を近侍者が取ってくれて、足元の塊を見なければ俺が先程まで食事をしてたなんて分からない。

 

「こんな時間に何してんの」

「あー、寝付けなくて...その、散歩を」

「深夜の森を散歩なんて、結構危険なことするじゃん」

「悪い...」

「別にいーよ。散歩だっけ?付き合ってやるよ」

「おっおい待てよ。これは置いてくのか?」

「ん?あー、それはね将来俺の餌になる魔物が食べるんだよ」

 

歩き出した俺を止めて、ヨウムが塊を指さして聞いてくる。

皮と小骨と少しの肉、それから頭の残った塊は狩の能力が低い別の魔物が食べる。そうすればその魔物は成長出来て、その成長した魔物を俺が食える。

これも自給自足だと笑えば、ヨウムがまた顔を顰める。

気にせずに歩き出せば、ヨウムは塊を避けて俺に着いてきた。

 

「あんた、ちゃんと死食鬼(グール)だったんだな」

「初めて会った時に言ったと思うけど」

「いやそうじゃねぇ。俺が悪党やってた頃に聞いた話だがな、死食鬼(グール)の前に血を流しながら現れたらそれは食べてくださいって言ってるようなもんだって。実際、その話をしてくれた奴も怪我をした部下を運んでる最中に血の匂いに誘われた死食鬼(グール)が現れて怪我した部下を食っちまったんだと」

「あー、その感覚わかるわ。美味そうな匂い垂れ流してる奴がいたらそりゃ食う」

「アンタにもその感覚あんのか」

「あるある。お前だって、目の前に美味そうな匂いがした高級料理が置いてあったら食うだろ?そういうことだよ」

「でもあんたは食わないんだな」

「まぁね、我慢してるから」

「えっ、我慢してんのか...」

「当たり前だろ、リムルと俺が無関係の存在だったら今頃お前は俺の腹の中だよ」

 

 

そう、我慢してる。

ヨウムだけじゃない、ベニマル達が血を流してる時だって俺は自分の欲を押さえつけてる。

何度喰いたいと思ったか、何度溢れる唾液を飲み込んだか。

でも我慢には慣れてるし、リムル達と一緒にいる時に押さえつけた欲は一人の時に満たせばいいだけ。

この町でこれからも生きていたいから、リムルの機嫌を損ねる訳には行かない。

リムルは短気な性格じゃないし、リムルの決めたことに反対意見を言わずに従ってればこれからも安泰だ。死食鬼にとって1番のご馳走である人間を食べることが許されなくても仕方がない。

 

 

森を抜けて、ヨウム達が寝泊まりしている宿舎が見えてきた。

ヨウムは明日もハクロウとの修行があるから、そろそろ部屋に戻すべきだろう。俺も眠い。

真っ直ぐに宿舎に向かっていたヨウムが急に止まった。

俺の方をじっと見つめて何か言いたげに口を開けたり閉じたりしている。

 

「何」

「なぁ、ラルタさん。それって窮屈じゃねぇか?そりゃ俺たち人間からしたら、今のままのラルタさんでいてくれた方がいいさ。でも、それでもアンタはその生き方で満足なのか?」

 

真剣な顔でヨウムが俺を見つめる。

本当にこいつはお人好しだな...。俺の事をこんなに心配してもなんの利益にもならないだろうに。

 

「窮屈だよ?だけど、それがなんだ。俺はねリムルの傍でこの国の奴らを守りたいんだ。それなら、窮屈でも不満足でも俺は今の生き方を誇ってるんだよ」

「そんなのって...」

「明日もはやいんだ、もう寝ろ。今の話、誰にも言うなよ」

 

不満そうにしているヨウムにお休みを告げて自分の部屋に向かう。

 

 




前回投稿したやつを1度下げて、話を繋げました。
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