俺の「変貌者」とリムルの「
ポタポタと鼻血が出てくる。
リムルが心配そうに俺を見てくるが、第一リムルが一人でやれば俺はここまで消耗してない。
確かに一人でやるよりは成功率も上がるし、所要時間も大幅に短縮できるから二人でやった方がいいんだけれど。
手術を行う間に血液をめぐらせてカリュブディスの情報は貰えたから、今回は小言は言わないでおこうと思う。
意識のないフォビオに回復薬を食わせた所に離れたところに避難していた皆が集まってきた。
俺の疲労が限界に達したため人化を解いて、ベニマルに前足を伸ばせば軽々と抱きかかえてくれた。自分も疲労困憊だろうに、使える奴だ。
数分も経てば、フォビオの意識も戻った。
とっても美しい土下座を披露してくれたフォビオが質問に答えていく。
カリュブディスの封印の場所は仮面を被った二人の道化に教えられたらしい。
トレイニーが地面に書き写した道化らしい仮面の絵はフォビオの前に現れた道化とは別のようで、涙目の仮面の少女と怒った仮面の太った男から封印の場所を教えたそうだ。
怒った仮面の太った男はフットマンという名前で、中庸道化連と呼ばれるなんでも屋の一人らしい。トレイニーの書いた仮面の男はラプラスという名前のようで、フットマンと同様ゲルミュッドの使者だったことも分かった。ゲルミュッドが死んでなお変わらず活動してる感じ、ゲルミュッドは捨て駒に近いものだったんだろう。噛ませ犬っぽいやつだったし。
ミリムは中庸道化連という名前には聞き覚えがないようだが、クレイマンならそいつらを使ってなにか企んでいる可能性があるとういう。
クレイマンというのは魔王の一人で企み事が大好きなやつだそうだ。
リムルは確証がないうちはクレイマンという魔王のことは保留にするらしく、なんでも屋に注意を払っていくという形で話を終わらせた。
「じゃあフォビオ、お前も気をつけて帰れよ」
「...は!?いや、俺は許されないだろう!!」
自分のした事の重大さがよくわかっているらしいフォビオはなんの罰も科されないことに戸惑いを隠せずにいる。
別に殺して欲しいなら今すぐ殺してやってもいいんだけどね、俺は。
「まぁ、無罪では無いけどな。真犯人に利用されてたみたいだし、幸いにも人的被害はないしな。ミリムもそれでいいだろ?」
「うむ!1発殴ろうと思ってたが、許してやるのだ!」
ミリムがピースしながらニコニコ笑う。
別に殴ってやればいいのに、俺もついでに蹴るから。
「カリオンもそれでいいだろう?」
カリオン…確かフォビオが尊敬してやまない魔王様の名前だ。
ミリムが振り向いた方から歩いてきたのはいかにも魔王なんてもんが似合いそうな大柄の男。
鋭い眼光からは歴戦の猛者であることが伝わってくる。
近侍者が反応したのはこいつか?
今は、さっきみたいに暴れる感じもない。
なら、こいつ以外にも誰かが見ていた?
ミリムはあの時、特に何も感じてなかったようだけど…ただカリオンに反応してびっくりしただけかもしれない。
今あれこれ考えても、埒が明かないな。
カリオンは自分の非を認めると、今回の件を借り1つとした。何かあれば頼ってもいいらしい。
意外ではあったが、フォビオが尊敬してやまない理由はよくわかる。
リムルはジュラ・テンペスト連邦国と獣王国ユーラザニアの間に不可侵協定を提案し、カリオンはそれを受け入れた。
さすが魔王、一切悩みもせずに頷いた。
何故かフォビオを1発ぶん殴ったカリオンは、後日改めて使者を送ると言って姿を消した。
めちゃくちゃ血出てたけど、フォビオ大丈夫か?てか、俺の回復薬!無駄にしやがって…。
▽
カリュブディスの一件から数日。
テンペストはすっかり落ち着きを取り戻した。
俺の願い通り、戦いを見届けてくれたフューズらはブルムンド王国に帰還した。ブルムンド王国とテンペストとが友好関係を結べるように国王や貴族らを脅迫...説得してくれるらしい。
色々弱みを握ってるようだから、素晴らしい説得をしてくれると期待している。
ドワーフ王国には後日改めて今回の件を伝えることになっていた。ガゼル王から正式な招待状をもらったのは結構ビビった...。
ユーラザニアからはカリオンの言葉を携えフォビオがやってきた。フォビオはなんと、自分から使者に志願したらしい。初めとは打って変わって慇懃な物腰だった。
カリオンからの手紙しかり、俺はこの世界の文字全般は大賢者に読んでもらっている。
最近まではラルタもそうなんだと思っていたが、いつの間にか大体の文字なら自力で読めるようになっていやがった。
あいつにも結構色んな仕事を任せてしまっているのに、いつ勉強したんだか...てか覚えるのはやすぎるだろ。
文字に関しては置いといて、いよいよテンペストが「国」らしくなってきてこれから政治的な駆け引きなんかも必要になるだろう。
でも、執務室にこもり続けてはしない。
この世界は戦いで物事が決まる場合が多い事を俺はもうよく知っている。だから戦闘訓練を欠かす訳にはいかない。
今はミリムに訓練に付き合ってもらってるのだが...
「にひひ。なかなか良くなって来たぞ!リムルが魔王になると言い出しても、ワタシは反対しないのだ」
「...ならないって」
俺はミリムにボコボコにされている。
今だってボロボロの俺に対してミリムは汚れのひとつも着いちゃいない。
ミリムには俺が作ってやったドラゴンナックルを訓練中もつけてもらっている。
減速と脱力の魔鋼をしのばせてあるため、ミリムの攻撃を随分と緩和してくれている。
まぁ、それでボロボロにされてるんだから何も言えないが。
一戦が終わったのを見計らってラルタが弁当を持ってきた。
ラルタは誰かと戦闘訓練をすることがない。
魔法を軸にした戦闘スタイルはこの国ではあまりいないというのもあるが、純粋にラルタは「誰かと」何かをするのがあんまり好きじゃないんだろう。大体いつも一人で何かをしている。
ミリムもラルタと戦闘訓練をしたいとせがんでいたようだが、根気負けしたようだ。
ランガに寄りかかりながら3人で、シュナの作ってくれた弁当を食べる。
ラルタは弁当だけ渡してすぐに帰ろうとしたが、ミリムが一緒に食べたいということでホットサンドをひとつだけ齧っていた。
「そういえば、ミリムはなんで魔王になったの?」
「ン?そうだなーなんでだろ?何か嫌なことがあって…ムシャクシャして?」
「俺に聞くなよ」
「良く思い出せん、忘れたのだ!」
「そっか」
聞けばミリムは最古参の魔王の一柱だというし、俺の想像の及ばないほどの年月を生きてきたんだろう。
こんな子供みたいな見た目でも、それだけの年月を生きてればどうしても嫌だったことくらいあるか。魔王になるほど嫌なこと、きっと壮大な事なんだろうけど。
それから、ずっとここにいるが家族はいないのか質問した。心配してる人とかはいないのか。
ミリムは平然と世話をするものはいると言う。
どうやらミリムはサイキョーだから心配すら畏れ多いと思われてるらしい。
ドラゴンナックルをいじいじするミリムの頭をラルタが撫でる。
「別にいいんじゃない?ミリムの性格上、心配されて部屋に閉じ込められるより今の方がよっぽどミリムらしく居れてるよ」
「それもそうなのだ!だからワタシはリムルとラルタ…二人と友になれたのだ!」
キャッキャと笑うミリムの横で、ラルタも優しく笑う。何故か心がキュンとしてしまった。
やはり中身はおっさん。子供たちの作る空間には心が刺激されてしまう。
「…これからも宜しくな。ミリム」
「勿論なのだ!」
数日後。
食事を終えたミリムが仕事に行くと席を立った。行ってらっしゃいと手を振るラルタに手を振り返してミリムが走り出す。
俺は部屋を出てミリムを追いかける。
どうやら、仕事というのは他の魔王に会いに行くことらしい。ついでにここに手を出さないように言い聞かせてくれるとか。
もちろん、それはありがたい話だが…。
瞬時に服を変えたミリムが空へと飛び立っていく。来る時も突然だったが、去る時の唐突さも凄まじい。ミリムの監督役もこれでひとまず終了か。
町にはラルタがいるし、運営はリグルド達と協力して回していけるだろう。
俺も、そろそろ出発時期を考えないといけない。他国との交流も得られた今こそ、人捜しができる環境になったと言える。
町に向かって戻っている途中、木陰にシズさんが見えた。それは一瞬ですぐに風に掻き消されてしまった。
大丈夫だ、忘れたわけじゃない。
そろそろ、探し出してやらないとな…あの人の心残りを。