転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第25話...獣王国との交流

リムルは魔王カリオンからの提案を受け、テンペストと獣王国ユーラザニアで互いに使節団を派遣することにした。

使節団に任命する人材は俺とリムルが会議で決定し、幹部候補のホブゴブリン数名とその取りまとめ役としてリグル、そして団長にはベニマルを指名することにした。

 

使節団は中央広場のステージの前に並び、今か今かとリムルの言葉を待っていた。

正装に身を包んだ使節団は、俺から見てもとてもかっこいい。リグルなんて、最初は布切れを巻いただけのゴブリンだったと思うと見違えるほどだ。

ステージ近くの建物の屋根の上からそれを眺めていると、俺の横にいた龍人族(ドラゴニュート)が話しかけてきた。

 

「ラルタ様は何か言わないんですか?」

「使節団に?俺が何か言ったって無意味だろ」

「えー、俺だったら嬉しいっすけどね」

「そういうのはリムルに任せればいいんだよ。皆それを望んでる」

 

中央広場から世界的スターが現れたかのような歓声が聞こえてくる。

スーツに身を包んだリムルがステージに現れた。「頑張れ」という簡潔な言葉はさすがにダメだったらしくリムルがそれらしい演説を始める。

 

「いいか、お前ら。今回は相手と今後も付き合っていけるのかを見極めるという目的もある。我慢しながらじゃないと付き合えなさそうなものならそんな関係はいらない。

お前たちの後ろには俺や仲間達がいる。恐れず自分達の意思はキッチリ伝えろ。友誼を結べる相手か否かその目で確かめて欲しい。

頼んだぞ!」

 

やっぱりリムルは誰かを鼓舞する演説が上手い。俺はそういうの苦手だからなぁ。

まぁ、俺の演説なんざ誰も聞かないだろう。

俺の言葉に中身なんて詰まってないし…。

 

「ラルタ様ー!」

俺に手を振るベニマルに振り返してやる。

自信たっぷりの顔で馬車…狼車?に乗り込んで行ったベニマル一行は多分心配いらないだろう。

 

テンペストと獣王国が良好な関係を築ければ、正式な国交を結べるようになる。

その為には、俺も張り切らなくちゃいけない。

こちらの使節団は問題ないし、あとは受け入れ準備を始めるとしよう。

 

 

屋根から飛び降りて着地して、すぐに迎賓館の方へと向かう。

国としてテンペストが本格的に発展してきて、大急ぎで迎賓館が作られた。

元々制作が計画されていたが、獣王国の使節団受け入れのため予定を前倒しにして作られた。

 

そして、もう一つ前倒しで作られたのがホワイトハウスだ。王宮としてテンペストが見栄を張るために必要な建物だ。

ホワイトハウスのデザインはほぼリムルが決めたもので、どこか合衆国ホワイトハウスを彷彿とさせる。

俺の執務室、私室もホワイトハウスの中にあり、執務室はリムルの次に広い部屋を与えられてはいるが私室は俺の要望でほかの幹部より狭く質素なものにしてもらった。

執務室も本当はそうして欲しかったのだが、立場的に無理だった。

 

そんなホワイトハウスの前を通って左に曲がって進めば、迎賓地区がある。

そこはバタバタといろんな者たちが行き交っている。俺が姿を見せると、一人のゴブリナが机を運ぶのを手伝ってくれと言ってきた。

その為に来たからもちろん了承し、ゴブリナと一緒に机を運び入れる。

 

その間もリムルのスピーチがかっこよかった、

スーツ姿がかっこよかったと恋する乙女のようにリムルの良さを語ってきた。

さすがにラルタ様もそう思いませんか?と言われた時は返答に困ったが、頷いておくことにした。

 

その後も、土産の準備や酒の準備などとバタバタと動き回っていた。あれを手伝ってくれ、これを手伝ってくれ。あれを持ってきてくれ、これを動かしてくれとあちらこちらから声がかけられた。

最近思い始めたんだが、こいつらと俺の距離感が明らかに近い。というか俺の扱いがリムルと比べるとだいぶ雑。

上司と部下というほど遠くもなく、友達というほどには近くない。まぁ、俺的にはこれくらいの距離感が居心地がいいから構わないが、もう少し休憩時間が欲しいものだ。

 

 

「ラルタ様、ヨウム様ご一行が…」

「ヨウム?…リムルは?」

「現在、書類整理中で手が離せないそうで」

 

そろそろ夕方になるだろう時間帯に、ヨウム達がやってきたという報告が来た。

リムルが手が離せないから俺に向かって欲しいんだという。なぜ今来た?まぁいいけど。

ヨウム達が旅立ってからどうしてるか気になっていた所だ。

 

 

ヨウム達を迎えに食堂に行くと、賑やかな声が聞こえてきた。

 

「おかえり、ヨウム」

「ん?あーラルタさん。ただいま」

 

ステーキを口に頬張りながら、ここの飯が1番だと笑う。

せっかくだから俺も休憩時間としてパスタを頼んで、ヨウムの隣に座る。

届いたパスタを食べ始めると、ヨウムがここを出てからのことを色々話してくれた。

色んな国を回って、色んな人に会ってテンペストの事を宣伝してくれてるらしい。それに、困ってる人も率先して倒してるんだとか。

さっきもここに来る途中に親子を助けたようで、随分と英雄らしくなったものだ。

 

「ラルタさん、俺なんか嫌なこと言ったか?」

「は?別にそんなことないけど」

「それならいいんだけどさ、なんか不貞腐れた顔してるから」

「そんな顔してな…いや、えっと…」

 

不貞腐れた顔をした自覚は無いけれど、本当にそうなら心当たりがあった。

ユーラザニアに向かうベニマル達を見た時も、ドワルゴンへの友好宣言式典の話を聞いた時も少しだけ嫉妬してしまっている。

 

俺も、この森を出てみたい。

けれど死食鬼(グール)という種族が邪魔をする。

ドワルゴンでさえ死食鬼(グール)の立ち入りを禁止しているし、正式な場で自分たちを餌にする奴を相手が連れてきたら俺だって不快な気分になる。

他の国もそうだ。

だいたいどの国も死食鬼(グール)を受け入れてない。

テンペストを代表して行けば入れないことはないだろうが、俺の滞在中に死食鬼に関する事件が起きたら俺が疑われる。

テンペストのイメージを下げる可能性もある。

この国のことを考えれば、俺は森から出ない方がいい。

 

 

「気のせい!気のせいだ!」

「うわっ、いきなり叫ぶなよ。わかったよ」

 

パスタを食べきって、立ち上がる。

夜になればリムルも時間が開けられるだろうということを伝えて部屋を出る。

何に急かされてるのか、俺は早足で迎賓地区へと戻って行った。

 

 

 

 

受け入れの準備を進めてはや数日。

とうとうユーラザニアの使節団がやってくる日が来た。テンペストの入口で使節団が来るのを待っていると、白雷虎(サンダータイガー)が引く物々しい虎車がやってきた。

 

虎車から降りてきたのは、三獣士の黄蛇角アルビスと白虎爪スフィアだ。

ちなみに、三獣士の最後の一人はちょっと前に多大な迷惑をかけてくれたフォビオであり黒豹牙なんてなんともかっこいい二つ名を持っていた。

 

スフィアの方はスライムが盟主であることや人間とつるんでいることがお気に召さないようで、随分と喧嘩腰だ。

リムルがヨウムについて説明するも、スフィアはそれがどうしたと一蹴り。

さすが獣、お話し合いに向いた頭は持ち合わせてないらしい。

 

スフィアに煽られ、部下たちの歓声に煽られヨウムが剣の柄に手をかけた。

その時、すっとソフィアがリグルドに指を指す。正確にはその肩に乗っている俺に。

 

「それにお前だ、死食鬼(グール)。オレは死食鬼(グール)のいる国なんざとは友誼なんて結びたかないんだ。人間も人間だがな、その人間を餌にする死食鬼(グール)なぞ、汚穢と同義だ」

 

スフィアは喉を唸らせて威嚇する。

なんだこいつ。今死ぬほどイラッとしたんだけど。大丈夫、平常心。

頭が筋肉でできた猫と同じ目線で話すな。

 

リグルドの肩から降りて人の姿へと変わる。

目を細めて、口角をあげてスフィアへと向き直る。

 

「そのように申されましても、困ってしまいます。スフィア様が私を死食鬼(グール)だと存じ上げているということは、魔王カリオン様から先んじてお話を伺ったということでは?

魔王カリオン様が死食鬼(グール)である私のいる国に使節団を送ったということは、それ即ち死食鬼(グール)がいるという事を前提に国交樹立を検討している…ということだと思いますが」

「はっ、良くもまぁペラペラと回る口だな。死食鬼(グール)の言葉なんざ意味も含まれない戯言よ。

かかってこい、俺が直々に見極めてやる」

 

 

あー、やばい。本当にイライラしてきた。

あげた口角がピクピクと動くのを感じる。

まじでその筋肉しか詰まってない頭むしり取ってやろうか。

 

「いいえ、その必要はございません!その暴言の数々、黙って聞いておりましたがもう限界です!貴方の相手は私が務めます」

 

シオンがリムルをシュナに渡して声を上げる。

シオンの言葉にニヤリと笑ったスフィアが、お前はどうなんだと俺を睨みつけてくる。

あぁ、うざい。

 

 

「いや、いい。シオンお前は出なくていい。そうだな、お前はもしもの時の為に力でも貯めて待ってろ。

ソフィア様、私でよければお相手させていただきます」

 

シオンが不満そうにしながらも、1歩後ろに下がった。

ヨウムが俺を心配そうに見ていたが、あんな猫に不覚を取るわけがない。

そんなヨウムの相手は、グルーシスという男が務めるらしい。どうでもいいけど。

どうせヨウムが負けるなんてことは無い。

 

 

俺は数歩前に出てスフィアと向かい合う。

こいつの目的はわかってる。仮にもユーラザニアを代表してきてるんだ。喧嘩をしに来たわけじゃない。

俺を見極めたいんだろう。まぁ、その脳筋的な見極め方は心底うざいが種族の違いとして受け入れてやる。

 

 

「精々楽しませろよ、汚穢さんよ!」

 

 

 

 

 

 

最初に動いたのはスフィアの方だった。

 

雷を帯びた爪が襲いかかるが、それをラルタは顔色ひとつ変えずに避ける。

身をかがめ爪を避けたラルタは、スフィアの懐に潜り込みスフィア自身を蹴りあげる。

スフィアもそれに動揺することなく、空中で体制を変え着地。それと同時に動いたラルタは低姿勢のままスフィアに突っ込んでいく。

 

スフィアとラルタの攻防はあまりにも素早く、大抵の人間には今何が起きてるのかも分からないほどだ。

しかも、ラルタもスフィアも俺の解析鑑定によると身体強化は行っておらず素の力だけで戦っている。

 

攻防は激化していき、地面は抉られていった。

スフィアは歯を剥き出しにして笑い、心からこの戦いを楽しんでいることが感じられた。

ラルタの顔はよく見えなかったが、深緑の髪の隙間から見えた口は好戦的に狂乱的につり上がっていた。

 

 

「いいぞ…もっとだ!もっと見せろ!本能を解き放て!!オレをもっと楽しませろ!」

 

一度距離を取った2人が、ほぼ同時に踏み出した瞬間だった。

 

「それまで」

 

あと少しでまたぶつかり合うだろう二人の間に、遮るようにアルビスが立ち塞がった。

その姿は先程の人間と変わらぬ姿から、角が生え蛇の下半身を持つ異形へと変わっていた。

スフィアは不満そうに姿勢をもどし、ラルタは服についた土埃をはらった。

 

アルビスの一言でグルーシスとヨウムの戦いも終わり、グルーシスは刃物をしまった。

ヨウムにも剣を下ろすように伝えれば、困惑そうにしながらも剣をしまった。

 

「それで?俺たちは合格なのか?」

「ええ、堪能させていただきました」

 

アルビスもスフィアも満足そうに笑う。

戦いに巻き込まれないように、虎車の中に待機していた者たちも続々と出てきた。

その者達に見せつけるようにスフィアは右手を突き上げて宣言する。

 

「見たか、お前ら!彼らは強く度胸もある。我らが友誼を結ぶに相応しい相手だ!

彼らとその友人を軽んじることはカリオン様に対する不敬と思え。わかったな!!」

 

スフィアの宣言を聞いたグルーシスも満足そうにヨウムと握手をしていた。

スフィア本人もラルタを引き寄せるようにして笑っている。

 

「オレは死食鬼(グール)は嫌いだが、お前は気に入ったぞ!」

「俺はお前のこと嫌いだけどね」

「お?照れ隠しか?」

 

嫌いだと言うラルタも満更では無いようで、ほっぺを突くスフィアにされるがままになっている。

傍から見たら楽しそうに、言い合いをしていたスフィアとラルタが急に揃って大きな声をあげた。

 

周りがしんと静まり返り、自然と全員がスフィアとラルタの視線の先を追う。

そこにはシオン…と、どデカい魔力弾。

え?爆発寸前なんだけど…。

 

「え、シオン?何してんの…」

「だって!ラルタ様が力を貯めて待ってろって仰ったじゃないですか!」

「…いや、魔力弾は作んないだろ普通。いいから早くそれ消せって」

「無理です!もう気力が限界なんです!」

 

「おっ落ち着け!そっとだ、そっとそれを上に向けるんだ!」

「そんなこともう無理です!」

「なにー!?」

 

ラルタが目頭を抑え、スフィアがシオンを落ち着かせようとし、アルビスがそそくさと避難した。まったく…世話のやけるやつだ。

 

シュナの腕から抜け出して、地面に降り立つ。

 

「シオン、撃て。俺を信じろ」

「は…はいっ!!」

 

シオンが放った魔力弾に手を伸ばす。

俺の手から広がった暴食者は魔力弾を覆い隠し、そのまま魔力弾を消滅させた。

 

「ほい、お終い」

 

気力疲れしたシオンが完全にへたり込んでしまった。

今回はラルタの伝え方にも問題が…あったか?いや、あったあった。

だから、シオンだけを責めるのやめておこう。

 

「…さすがはカリオン様の認めしお方。

貴方と貴方の国と縁が出来たことに感謝を」

 

それに、この出来事は俺の印象にそれなりの影響を与えてくれたようだし。

 

「こちらこそ、ようこそテンペストへ」

 

 

 

 

その夜、新築した迎賓館で歓迎の宴を催したのだが…えらく酒のウケがいい。

 

アルビスは樽ごと酒を流し込み、幸せだと口を零す。えぇ、本当に幸せそうな顔をしてますよ。

 

スフィアに止めるように促そうと、ラルタと共に酒を飲んでいたスフィアに話しかけるとそこには虎がいた。

俺の驚きの声をよそに、スフィアは酒をペロペロと飲み、ラルタはスフィアの毛に埋もれてラルタしか飲まないえげつない色の酒を飲んでいた。

 

てか、ラルタお前随分と仲良くなったな。

出会い頭なんて、完全にスフィアにイライラしてたくせに。うちの子ちょっとチョロいのかも…心配になっちゃうわ!

なんてのは置いといて、スフィアの今の姿をホイホイ見せていいものか確認する。

どうやら見せてはいけないものではないらしい。さすがに油断しすぎだが。

…まぁ、それだけ心を許してくれたんだと思えば嬉しいことだ。

 

気づけば、林檎のブランデーもどんどんと空になっていた。

「あまり数は造れませんの?」

「あっすまんすまん。客人に振る舞うのがメインだから気にしないでくれ。果物は試験品しか作ってなくて森からの恵に頼ってるんだ。

酒は嗜好品だし、まだみんなには行き渡っていないんだよ」

「…では良い考えがございます。我がユーラザニアの果物をそちらにまわすよう手配致しましょう」

「えっ!?いいのか?」

 

浮かれた声をあげる俺をじとりとスフィアとアルビスが見つめてくる。

…どうやら「それで酒を造ってこっちにもよこせ」ということらしい。

 

「割合は?」

「細かいことは任せる!オレは美味い酒が飲めればいい」

 

雑務はこちらに丸投げする気らしい。

物々交換となると妥当なラインが難しいな…。

ラルタなんて、スフィアの毛に完全に沈んでしまっていて話にならない。

 

…うん、専門家に任せよう。

何故か腹踊りをしているゴブタに商人を呼ぶように声をかける。

 

腹踊りを終えたゴブタが早足で承認の詰め所へと向かっていった。

 

 

ゴブタが連れてきたのは犬頭族(コボルト)の商人代表のコビー。俺が名付けた訳じゃないが、そう呼ばれている。

困惑の隠しきれないコビーの肩を叩いて部屋を出る。案外、取引なんて酒の席でまとまるものなのかもしれない。

 

他国との交流、その始まりとしてはなかなか上々だ。




自分で書きながらラルタのちょろさに不安になってきました。
もしかしてこの子、告白されたらころっと受け入れちゃうんじゃ?なんて思ったりしてます。

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