できるだけぼかして書きましたが、苦手な方はご注意ください。
淡いシャンデリアの光に照らされた夕食の席は、家族団欒とは程遠い静かで重苦しいものだった。
美しく盛られた食事はどれも最高品質のもので、よりすぐりのシェフ達が丹精込めて作ったものだ。色鮮やかな食事達はこの空間を少しばかり明るいものに変えてくれていた。
『そういえば、家庭教師が言っていた。今日の小テストは初歩ミスが目立っていたと』
『申し訳ありません』
『小テストだったからいいものを。学校の期末テスト、必ず全ての科目で満点を取りなさい。確かそろそろだろう。もし、何らかの科目で満点でないものがあったら...わかっているな』
『はい』
『この前もそう返事をして、数学が99点だったじゃないか。次そのような事があったらまたお仕置をしなきゃいけない。ああ、今度は拷問を生業としている者でも呼ぼうか』
お仕置という言葉に少年は肩を震わす。
そのせいで食器が音を立て、父親がそれを叱り付ける。少年は何度も申し訳ありませんと繰り返し、父親の顔色を伺う。
食事を終えた父親は少年に後で部屋に来るように伝えその場を去った。
場面が切り替わる。
父親の部屋で裸体の少年がベットの上に横たわっていた。意識は殆どなく、ただぼーっとどこかも分からない虚空を見つめていた。
そんな少年に父親は満足そうに頬を撫でる。
そして耳元で囁くのだ。
『私は全てを作り替える存在になる。せいぜい、使えるように育ちなさい──────』
「うわぁぁ!」
ほぼ叫ぶようにして目が覚めた。
詰まっていた息が急に抜けてむせかえる。
何度も咳をして、荒い息を落ち着かせる。
ベットから飛び降りる。
人化してカーテンを少し開ければ、外には朝がやってきていた。
いつもよりも少し早い時間。後一時間は寝れる。けれども、二度寝をする気にはなれなかった。
再びベットに戻り、膝を抱えるようにして座る。なんとも不快な夢を見た。
いままで前世の夢なんて一度も見なかったというのに...。
夢の内容は殆ど思い出せないが、胸が突っかえるような感覚が酷く、呼吸が苦しい。
鳥肌が収まらず自分の腕を何度も擦った。
体調は落ち着くどころか酷くなっていき、吐き気までしてきた。
近侍者が心配そうに姿を表した。持ち上げて強く抱きしめても、暴れることなくされるがままでいてくれた。
何故か溢れていく涙は頬をつたい顎に溜まって落ちていく。落ちた涙は近侍者の中に吸い込まれていった。
一時間、近侍者を抱きしめながら何かから自分を守るように縮こまっていた。
なんとか息も落ち着いてきたから、ベットを降りて服を着替える。
いつまでもくらい気持ちでいる訳にもいかないから、珍しく窓を開け放った。
燦々と輝く太陽が俺を照らし、風が部屋に舞い込む。深く深呼吸をすれば嫌な気分も少しは楽になった気がする。
町の住民たちは少し浮き足立っているようだ。
それもそう。今日はリムル達が帰ってくる日。
結局、リムルが不在の間に変わった事は起きなかった。まぁ起きないに越したことはないないが。
窓枠に腰かけて町を眺めていると、俺の部屋にノックの音が響いた。
どうぞと言えば、入ってきたのはリグルドだった。四畳半程しかない俺の私室にはリグルドが窮屈そうに見えてなんだか笑えてきた。
「おはようございます、ラルタ様。珍しいですなラルタ様が窓を開けていらっしゃるのは。ささ、朝食が冷めてしまいますぞ」
「...うん、今行くよ」
「...?ラルタ様、顔色が悪いようですが」
「ちょっと夢見が悪かっただけ。もう平気」
昼少し前に、リムル達は帰ってきた。
どうやら、ミリムが魔法兵器と勘違いされた件は上手く片付いたらしい。
そして本題の二国間の友好宣言の式典、ドワーフ王国の国民たちからは好印象を貰えたようだ。ガゼルからはダメだしまみれの零点をもらったそうだが...。
まぁ、リムルらしいと言えばらしいのかな。
俺がスピーチなんてした日には国同士の友好が終わりそうだ。
俺の方からはリムルに特に報告する事もなかった。任されていた書類は全て終わらせたし、イレギュラーなこともなかった。
ベニマルの報告にあった、魔物の死骸の話も一応したがリムルも特に気に止めていないようだった。
「お前、今日なんかあったか?」
「...なんかって、何?」
「いや...気のせいならそれでいいんだけどさ。少し顔色が悪い気がして。声色もなんか暗いし」
朝食を食べた後、気分転換に散歩をしたりしたがあまり改善は出来ていなかったらしい。
夢見が悪かっただけだとリグルドの時と同じように伝えれば、不安そうに頬を撫でられた。
その行為が一瞬、朧気な夢の光景と重なった。
パァンと乾いた音が俺とリムルしかいない静かな部屋に響き渡る。
...しまった。思わず、手を振り払ってしまった。
「あっ、悪い...。嫌だったか?」
「違う!大丈夫...だから。確かに少し体調が悪いのかもしれない。今日は部屋に戻るよ」
「ああ、何かあったら言えよ」
部屋を出で廊下の隅に蹲る。
一瞬だけ、本当に一瞬。リムルが怖いと思ってしまった。リムルの姿が父と重なった。
『──────誠也、お前に間違いは許されていない。失敗は許されていない。完璧であれ、そうでなければお前に価値はないのだから』
「...様、...ルタ様.........ラルタ様!」
肩を揺すられる感覚に目を覚ますと、そこにはシュナがいた。
どうやら読書中に寝てしまったらしい。
「ラルタ様、魘されていましたよ。大丈夫ですか?」
「............うん、大丈夫。シュナこそなんかあったの?」
「リムル様が会議室に集まるようにと。思念伝達を送ったそうなのですが応答がなかったため、私が」
「...わかった、先に行ってて」
シュナが部屋を出たのを確認して、ソファに沈む。
またこの夢だ。あれから数日、寝る度に父が出てくる。出たがりか?いい加減、ストレスが溜まってきた。
胃がムカムカしてきて、急いでトイレに駆け込む。吐き出された物は殆ど胃液で、そういえば今日は朝食も断ったんだと思い出した。
俺、今日何も食べてないな。最近は死肉も食べてない。......食欲はわかないがこのまま何も食べない訳にもいかないか。
明日にでも何か食べると決めて、口をゆすいで会議室へと向かう。
その間も、肩が重くて息がしずらい。
けれどもここ数日で、体調不良の隠し方もマスターしている。無駄な心配をかけることもないだろう。
助言者、お前夢とか止められない?
《...解。
人格崩壊...それは困るな。他は?
《睡眠時に行われる脳の処理に干渉することで、
じゃ、それやって。ゼロにできなくても今よりはマシ。
助言者の協力があれば少しは今の現状も変わるだろう。
会議室の扉を開けば全員が着席していた。
どうやら相当待たせてしまったらしい。軽く謝罪をして、近くのカウンターチェアに座るとリムルが話し始めた。
リムルはイングラシアに行くらしい。
シズがリムルの夢に出てきて子供たちの場所を教えてくれたんだとか。子供たちとはシズの心残りだった。
国の運営も安定してきたし、行くなら今なのは理解出来る。けど、「という訳で」で済ませていい話じゃないだろ。
イングラシアへは人間に化けてこっそりと潜入するらしい。リグルドとハクロウは難色を示したが、ランガとソウエイの分身も連絡役として一緒に向かうらしい。
道案内もカバル、エレン、キドの三人衆に頼んだようだ。ブルムンドを経由する道を使うから危険も少ない。
「ラルタ、お前はどうする?お前なら簡単に人間の国に潜入できると思うが」
「俺は...いいや。人間の国ってなると死肉がないし、俺まで国から離れるのは何かあった時困るだろ」
それに、俺の夢にはシズは出てこなかった。
リムルがシズを捕食したからというのは大きいのかもしれないけど、きっと俺がいっても子供たちには何も出ない。
リムルの旅の足でまといになる気しかしない。
「わかった、ならさっき伝えたメンバーで行くよ」
「...わかりました。ですが、くれぐれもご注意くださいね」
「リムル様にもしものことがあれば我らは...ッ」
「十分気をつけるよ!」
夜にはカバル達も到着し、早朝に出発することが決まった。
町の入口には早朝だと言うのに沢山の住民たちが、リムルの見送りのために集まった。
「ラルタ、右手を出してくれるか」
そう言われて素直に右手を差し出せば、リムルが俺の小指に指輪をはめた。
近くで見てみると、その指輪にはダイヤモンドが使われていた。ブラックゴールドの指輪の中心にぐるりと1周、ダイヤモンドがついている。
「お守り」
「お守りって、普通旅に出るやつが受け取るんじゃないのかよ」
「いいだろ、別に。渡したくなったんだ」
サプライズが成功した子供のように笑ったリムルは、留守を頼むと俺に言って旅立っていった。住民たちも大きな声で行ってらっしゃいと叫ぶ。その声は姿が見えなくなるまで続いた。
指輪を一撫でする。なんだか、この指輪は俺の価値を証明してくれているような気がした。
ラルタさん、病み期入ってます。