リムルが旅立って数日がたった。
落ち着いたら連絡を入れると言っていたから、多分まだブルムンドにはついてないんだろう。
国王代理の仕事とは、シュナとシオンがいるおかげで前回よりは俺の机の上に積まれている書類の量が減った。
会議や視察も、国全体が安定してきたことでそこまで頻繁に行っているわけじゃない。
ただ、疲労感で言えば前回の倍だ。
前回は面会系の仕事をリムルが片しておいてくれていたが今回はそうもいかない。
「集落付近の魔物の変死体...ですか?」
「はい、こちらでも調査を行いましたが原因特定には至らず。このままではいずれは集落にまで得体の知れない何かが襲ってきてしまう。そのような事態はこちらも避けたい一心です。おこがましい事は重々承知しております、何卒お力をお貸しください」
ただ、問題なのは「変死体」という点だ。
実はベニマルからも似たような報告を受けていた。
リムルがドワルゴンに行っていた間に受けた報告では死骸が転がっているとだけだったが、日が経つにつれて死体の損傷が見当たらなくなっていたのだ。
テンペスト付近ではそこまで問題視されるほどの問題ではなかったが、どうやらその範囲は広がりを見せているようだ。
何らかの病原体か、はたまた誰かの仕業か。
情報が掴めていない中では派手にも動けない。
「もちろん、お助け致します。ですがこちらも情報が足りていない。こちらの兵力の一部をお貸しします。ですから、情報を集めて頂けますか?」
「はっはい!もちろんでございます」
面会が終わり、
「ソウエイ」
「ここに」
「他の集落に警戒するよう伝えろ。それから、ソーカ達にも情報収集を行わせろ。できるだけ速やかに。くれぐれも、犯人だと思われる人物がいても殺さずに連れてこい」
「はっ」
まだ大きな被害は出ていない。
ただのチンピラのイタズラならそれでいいが、何かの予兆だったりしないことを願いたい。
苦手な面会を終えて、ソファに沈み込む。
最近は嫌な夢を見る回数も減ってなんとか持ち堪えているが、こう毎日のように何らかの面会があると気が滅入る。
ちょっとだけリムルのことを尊敬しちゃいそうだ。
応接室にずっといるのも嫌になってきて、ほぼ逃げるように部屋を出た。
そろそろ昼食の時間だし、それを食べたら書類仕事に戻ろう。夕方にはゲルドの様子を見に行かなきゃいけない。
昼食は珍しくハクロウと2人で食べた。
食べながらも修行に参加しないかとしつこく、近々見学になら行くということで何とか折れてもらった。
それを除けば、おじいちゃんと食事をしているようなのんびりとした時間を過ごせた。
茶を飲み終えて、席をたとうとしたところでハクロウに止められた。
少し待っていろと言って部屋を出ていったハクロウは何故かシオンとシュナを連れて戻ってきた。
「ほらシオン。思い切ってお渡ししましょう」
「でっですが...本当に大丈夫でしょうか」
「大丈夫です。杖をお渡しした時だってとても喜んでくださいました。ラルタ様は好意を無下にするような方とは無いことは貴方もよく知ってるでしょう?」
「うっ.........」
何かを後ろに隠してモジモジするシオンと鼓舞するシュナ、微笑ましげに眺めているハクロウという妙な状況が作り出されていた。
杖を渡した時って言ったか?
俺の杖は皆がデザインを考えて共同で作ってくれた物だったと思うけど。
「ラルタ様!」
「うん、何?」
「その...あの!これ!受け取って頂けませんか!」
いきよいよく突き出されたのはぬいぐるみだった。そのぬいぐるみは何故か頭を傾げていて、目も左右非対称だった。
縫い目は至る所にはやり直した跡がある。
そのぬいぐるみの首には深緑色のスカーフが巻かれていた。よく見ると、丁寧に蓮の花の刺繍がされている。
差し出されたぬいぐるみを受け取ると、シオンは嬉しそうに頬を赤らめた。
「その、そのぬいぐるみ...ラルタ様を模したものなんです!作るのには苦戦してしまったのですが、シュナ様に協力して頂いて...そのスカーフの刺繍はシュナ様がしてくださったんです!」
「ふふ、シオンったら最近ラルタ様がお疲れのようだから励ますために何か贈り物をしたいって言い出したんです」
贈り物。俺を思って...。
この感覚には覚えがあった。ムズムズして落ち着かなくって。胸が暖かい。頬がだらしなく緩む。
俺を見つめていた真っ黒な瞳のぬいぐるみの頭を撫でる。
「ありがとうシオン、シュナ。ははっ、めちゃくちゃ嬉しい!」
「!...良かったです!」
「ちょっ、抱きつくなってば」
シオンがいきよいよく抱きついてくる。
真ん中でぬいぐるみが苦しそうに潰れてしまっている。
あぁ、次リムルが戻ってきた時に自慢してやろう。私室の枕元に飾ろうかな。
そういえば、指輪のお礼をリムルにちゃんと伝えてなかったな...自慢ついでにちゃんとお礼も言わなきゃな。
「ブルムンドと条約を結んだ?」
『ああ、「相互安全保障」と「相互通行許可」を...』
「待って今、相互安全保障って言った?お前それ騙されてないか?」
『......あっはは、ラルタは鋭いなぁー。東の帝国が動いた際にはお願いしますって言われちゃったよ。まぁ、勉強ってことで許してくれ。
それよりも、相互通行許可の影響で人間がテンペストにやってくる事になる。だから、それに伴って色々準備してくれ。後、やってくる人間達にはちゃんと商売をしなきゃ行けない。店を構えてる奴らなんかには通貨の概念を教えておいてくれ。頼んだぞ』
「頼んだぞ、じゃねーんだよ。ポンポンあれこれ頼みやがって...。ま、おめでとって言っとくよ。人間との共存に1歩近づいたんじゃない?」
『ありがとう。それから、定期的に
「はいはい、騙されっぱなしじゃないようで何よりです」
『色々頼んじゃって悪いな。これからイングラシアに向かうよ』
「...気をつけて」
水晶に写っていたリムルが消える。
ブルムンドでは充実できたようで何よりだ。
そしてこれから俺のお仕事が充実すると...めんどくせぇなぁ。まぁ忙しくなるのは俺だけじゃないし、人間がこちらにやってくることはリムルにとって嬉しいことだ。
住民たちにとっても...きっと嬉しいんだろう。
これからの仕事を想像して、ため息が溢れて仕方がないが嫌だとも言えない。
隣の部屋で書類の確認をしていたシオンに声をかけ、会議室に全員を集めるよう伝えた。
事の経緯を説明すれば、全員が喜んでいた。
国が大きく発展するきっかけになる事もそうだが、リムルの近況を聞けたことが何よりも嬉しいらしい。
ブルムンドへの道路の設備は、リムルが進路上にある木を捕食して行ったようで予定より早く終わるようだ。
ブルムンドから最初に来るのは冒険者だ。その後少しずつ観光客が訪れるようになる。
だからまず最初に冒険者に必要な施設の建設を行う。宿、工房、商店。これらの施設の建設はドワーフ王国へ続く道路の修復をしていたハイオーク達に任せることにした。
その指揮はカイジンにお願いすることにした。
宿にはシュナに、工房はクロベエに、商店はドワーフ三兄弟に任せた。
宿は宿舎を広げる事で済ませようと思う。
部屋に置いておく寝巻きや、提供する料理を主にシュナが指揮をする。
工房は冒険者の武器や防具の修理を担う。
クロベエの弟子が随分よく育ったようで任せてしまって大丈夫らしい。だから、クロベエが主に行うのは冒険者に販売する用の装備制作になるだろう。
商店では、冒険者に必要な防具や武器、回復薬などを売る。値段に関してはベスターに任せた。
ベニマルには町を警備する人員の編成をお願いした。人間が来るに当たって小さないざこざが起きるのは目に見えていた。それを肥大化させずに沈めなければならない。
リグルドなんかはそれで駆り出される事も多くなるだろう。
「会議は以上だ。ベニマル、ソウエイ、リグル...お前たちは残れ。シオン悪いが俺が戻るまで書類仕事を頼む」
揃って返事をした幹部がぞろぞろと部屋を出ていった。
「
「はい、死亡者は出ていませんが...大鎌を持った女の魔人に襲われたと証言していました」
「魔人ね、急に現れたのか?」
「いえ、魔物の死骸の前で不審な動きをしていたとか。声をかけたら襲ってきたそうです。魔人は逃亡し、残った死骸はベニマル殿の報告と一致するものでした」
「ビンゴ...だな。ソウエイ、その魔人はお前たちは見てないのか」
「はい。その特徴に該当する魔人の目撃情報はありません」
「狼鬼兵部隊が損傷するほどの力がある魔人だ。他の集落が襲われればタダじゃすまない。それにこれから先人間がこっちに来る。その魔人に人間が襲われてイチャモンなんてつけられたくない。ベニマル、町の警備もそうだが...丸一日必ず誰かが森の警備できるように部隊を再編成しろ」
「了解しました」
「......はぁ。ただの魔人の奇行だったらいいんだが、な」