「余命一・二年...明日の朝日を拝めるかも分からないな」
『ああ、何とかしてあいつらを救ってやらなきゃいけない。方法は色々模索するが会ってみないことにはな...。当分はイングラシアで一人暮らしだ』
「そっ、まぁリムルがいればどうとでもなるよ。最悪、死ぬ前にお前の胃袋に突っ込んじゃえばいいんだから。
話はわかった。生徒にかまけるのもいいが...どこかで一度、俺に土産を携えて帰ってこい」
『もちろん、皆の顔も見たいしな。土産は何がいい?』
「本。イングラシアは都会だ。世界各地の本が集まってる図書館くらい必ずある。もしかしたらお前の就任する学校にもそれなりに大きいのがあるだろう。それら全ての本の内容を俺に持って帰ってきて、政治、経済、歴史...種族間の対立を書いたものもあるだろうから。ああ、あと魔法関連の本も」
『おっおい!全部かよ...』
「.........なんか文句あるかよ」
『...ないです。ありませんよ、ええ。次帰った時に大賢者から助言者に今言った本の内容を送るよ』
「ありがと」
『そっちは、どうだ?何か問題は』
「前にリムルに話した魔物の変死体、あれは魔人が関与してることがわかった。...まぁそれだけ。リムルは気にしなくていい、そっちに集中してて。こちらで何とかする」
『わかった。おやすみ、ラルタ』
リムルがイングラシアで
シズの件で一悶着あったようだが、漫画を差し出すことで信用を勝ち取ったらしい。チョロすぎて疑心すら覚えそうだ。
それに、そんな事に使われる大賢者が可哀想で仕方がない。
シズの心残りは五人の子供達だった。
異世界人は、この世界に来る時に膨大な量の魔素を取り込む。そのエネルギーは本人の望みに沿った形で定着する。
しかし、いつ現れるかも分からない異世界人を待つだけでは人間達の魔物に対する恐怖は収まらなかった。
だから人間達は待つのではなく、呼ぶことにした。各国が極秘に召喚の儀式を行っている。
突然知らぬところに呼ばれ、魔物と戦わされる。その身は魔法で拘束される。
召喚には膨大な手間と費用がかかる。
そこで簡素化された召喚術式が生み出された。
だけどその方式は失敗が多く、スキルを獲得していない子供たちが喚ばれてしまう。
本来スキルへと還元される膨大なエネルギーは行き場をなくし、やがてその子供たちの身を滅ぼしてしまう。
不完全に召喚された子供は五年以内に死ぬ。
五人の子供達もその失敗作だった。
理不尽に呼び出された、死を目前に控える勇者のなり損ない。
なんとも悲しい話だ。
リムルはシズの代わりに教師として子供達を導くそうだ。
まぁどうせ俺には何も出来ないんだし、リムルを信じる事しかできない。
この歯痒さはシズがイフリートに体を乗っ取られた時以来だ...。俺はシズにとっても子供達にとっても不必要な存在でしかない。
リムルとシズとの繋がりを俺は外から眺めていることしかできない。
『──────誠也、お前だけは...』
重い体を何とか起こしてベットから降りる。
助言者のおかげで不快な夢を見る回数は減ったけど、それでも見ちゃった日の朝は何とも最低だ。リムルみたいに睡眠のいらない体になりたいな。
あれから数日、リムルから連絡は無い。
そろそろ解決策が見つかってる頃だといいんだが。
リムルの近況はよく分からないが、俺はと言えば特に変わりない日々を送っている。
ユーラザニアの使者の対応やブルムンドから来る受取人に上位回復薬を売りつけたりと外との交流も上手く行っている。
リムルから依頼されていた施設の建設も順調に進んでいて、冒険者なんかもそれなりの人数がテンペストを訪れている。
昼時には屋台が立ち並ぶ道には多くの人間の姿が見受けられた。
テンペストの料理は天下一品だ。他の国では見られないような料理も多いし、森の恵をふんだんに使っている。
鮮度も味も素晴らしい物だ。
冒険者達からもテンペストの料理の良さはきちんと伝わっているようだ。至る所から感嘆の声が聞こえる。
俺も視察と称して、新しく出来たコロッケ屋の牛鹿コロッケを頬張りながら歩き回る。
しばらくルンルン気分で歩いていると聞き知った声が聞こえた。
「美味しいー!やっぱり料理はここが一番ねぇ」
「おい、ありゃ何だ?美味そうな店があるぞ!」
エレンとカバルの二人が屋台の前で騒いでいる。ここの料理を絶賛してくれてるのは嬉しいが、ギドはどうした?
道中ではぐれたか...いやあいつら馬鹿でもそれは無いか。
「久しぶりだな、二人とも」
「あっ、ラルタの坊ちゃんじゃないですか。お久しぶりです。元気でしたか?」
「まぁ、俺は元気だけど...」
「リムルさんの護衛ちゃんと務めましたよぅ」
「そう。で、今日は何しに?」
「あ!私たちラルタさんを探してるところだったのぉ」
探してた?観光してたようにしか見えないのは俺の目が節穴だからか?
話を聞くと、イングラシアでリムルの護衛の任を解かれた後、ある人物がテンペストに行くまでの護衛を頼まれたらしい。
ある人物というのはガルド・ミョルマイル、ブルムンド王国の大商人だそうだ。
「ふーん。で、その商人は?」
「ギドと二人で近くの店で待ってます」
「待たせてんのかよ...早く案内してもらっていい?」
「おまかせぇー!」
「はぁ、部屋までお通しするのにだいぶお待たせしてしまったようで...申し訳ございません」
「いえいえ、ワシが待機していた店の料理も絶品なものでした。いい時間を過ごせましたよ」
ギドと待機していたミョルマイルを部屋を応接室に通した。髭と贅肉を素晴らしく蓄えた悪人面の男、大商人と言うだけあって身につけているものは全て一級品だ。
「名乗るのが遅れました。私はラルタ=テンペスト。我らが国王リムル=テンペストが不在の為、代理を務めております」
「ご丁寧にどうも。早速ですが、こちらに目を通してくだされ」
ミョルマイルが差し出してきたのは手紙だった。フューズの名が書いてある。
手紙には
...断る理由はないだろう。
還元される利益は値引きをした分を優に超える。ミョルマイルはここらでは有名な商人のようだし、きちんとここで商談を成功させて今後への先駆けを作った方がいい。
「内容は把握致しました。こちらからの異論もございません」
「それは良かった。では、
「構いません。では、そのように手配致しましょう」
ミョルマイルと握手を交わし、商談は終わった。
どうやらテンペストに数日滞在していくそうだ。テンペストの街並み等もとても気に入っているようだから、いい宣伝役になってくれるだろう。
ミュルマイルは書類への署名をして、リグルドに案内されて宿へと戻って行った。
廊下からリムルという尊い存在を熱弁するリグルドの声が聞こえてくる。今はいないリムルに同情してしまう。
だが、なかなか気さくな奴だった。夜にでも酒を持ってミョルマイルのいる部屋を訪れるのもいいかもしれない。