転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第3話...牙狼族の主

おぉ!と歓喜の声が聞こえる。

どうやら、リムルは怪我人の治療に成功しているらしい。

リムルと相談して怪我人の治療をリムルが、柵の作成を俺がやることになった。

 

「今から俺達は柵を作る。家を解体してその木材を利用しよう。俺が家を解体する。柵はお前たちで組み立てて、いい?」

「はい!」

 

元気な返事とともに作業を開始した。

諂諛者の血液を使って家に使われてた木材を取り出して組み立てやすいように1箇所にまとめる。血液の操作にもだいぶ慣れてきてスムーズにことが進んでいる。

 

「ラルタ様」

「ん?何」

 

話しかけてきたのはまだ小さな子供だった。解体作業を続けたまま、子供の方に目をやる。

 

「あのね、ラルタ様。私たちを助けてくれてありがとうございます!」

「それを決めたのはリムルだよ。ありがとうはリムルに言ってやって」

「うん。でも、ラルタ様にも言いたいの。ありがとございます!」

「わかったよ」

 

子供は言いたいことを言って満足したのか行ってしまった。なんだか心がポカポカして変な感じだ。この世界に来てから変な気分ばっかり味わっている。

 

「ラルタ様ー!」

「今行く!」

 

 

 

 

‪‪

 

夜になり、俺は女子供と一緒に村の奥にいる。

表側には戦える雄ゴブリンとリムルがいるから問題ないけれど、俺までそこにいると裏から牙狼族が入ってきた時に対処ができない。

「村の奥で何かあったら、俺が対処する。誰も死なせない」

これは俺がリムルに言ったことだっだ。随分とキザなことを言ったものだが、それだけ嬉しかったのだ。昼に言われた感謝の言葉が。

信頼をひしひしと感じさせるゴブリン達の態度が。

 

遠吠えが聞こえる。来た。

 

「ラルタ様、向こうは大丈夫でしょうか?」

「リムルがいるんだ、何も起きない」

向こうが騒がしくなってきた。どうやら戦いが始まったらしい。

周りのゴブリン達がお互いを抱きしめあって怯えている。そんな中、声が上がった。

 

「ラルタ様!牙狼族が...!」

集団行動を主とする牙狼族の統率が乱れた。

あいつらは昼間にリムルと会っているやつらだ。異様な妖気を放つ魔物に正面衝突をすることに疑心が生まれたんだろう。

 

「ひとかたまりになって動くな!」

 

行くぞ、諂諛者。ちゃんと動いてくれ...。

血液が宙に舞ってい、剣の形を作り出す。

「グルルッ」俺の唸り声が響く。睨み合いの場面は大抵最初に動いた方が負ける。そして、動いたのは牙狼族の方だった。

2匹の牙狼族は俺を挟み撃ちにするように突っ込んで来た。

走り出した牙狼族の足を剣で切り落とす。急に足を失った牙狼族はスピードを持ったまま前に転がる。その頭を剣で串刺しにした。諂諛者、回収しろ。

 

「きゃぁぁぁ!」

魔力感知が新しい存在を感知した。諂諛者!

っておい、そっちばっかり夢中になるな!

諂諛者が牙狼族の死体に夢中なせいで、俺の元に出てこない。お前は後で説教だ。

俺は駆け出した。雌ゴブリンに食ってかかろうとする牙狼族の元に。

牙狼族に飛びかかった俺はそのまま首を噛みちぎる。ブチブチと肉が裂ける音。口に血の味が広がる。

ピクピクと動いていた牙狼族も数秒で動きをとめた。群れから外れ襲ってきた牙狼族3匹は全員殺した。

 

《告。牙狼の固有スキル「超嗅覚、思念伝達、威圧」を獲得しました 。》

 

牙狼族の血がかかったのだろう。襲われそうになっていた雌ゴブリンは血濡れになっていた。

「怪我は?」

「あっ、ありません!」

「ならいい、リムルに怒られずに済む」

 

はっきり言って、諂諛者が呼び掛けに答えてくれなかった時は焦った。何とかなったから良いものの、またこうやって諂諛者と連携が取れなかったらどうにかできる保証がない。

俺も、水刃みたいなスキルとか、魔法とか欲しいな...。

 

 

 

 

 

戦いは終わった。

リムルが牙狼族のボスを捕食して、残った者は服従する形でまとまったらしい。

夜が明けて、広場にはゴブリンと牙狼族の全員が集まっていた。

昨日の敵は今日の友と言うが、まだ少しゴブリンは牙狼族を警戒しているみたいだ。

リムルはゴブリンと牙狼族で2人1組のペアを作らせて名前まで付けてやるらしい。

俺は名付けには参加しなかった。

最初に言ってあったからだ。こいつらの主はリムルであり俺は助手に過ぎない。

これから先名乗っていく名前なら主に付けてもらうべきだろう。

村長はリグルド、その息子は兄の前を継いでリグルとなった。

その後も、1列に並んだゴブリンに名前をつけていく。

 

助言者、覚えといてね。

《了》

 

牙狼族との戦いが終わったあと、宣言通り諂諛者には説教をした。

説教と言っても、血液に噛み付いて文句を言っただけだけど。きっついお仕置は助言者がしたらしい。その後の諂諛者の俺への態度がやけに白白しかったからだいぶキツめの内容だったのだろう。内容は...、聞かないでおこう。

 

リムルの横で名付けを眺めていると、ゴブリンの列が終わって牙狼族の番になった。

 

「嵐の牙でランガ、お前の名はランガだ!」

牙狼族のボスの息子への名付けを行った時、リムルの体が傾いた。

助言者から名付けについては聞いていたからさして驚きはしなかった。リムルは知らなかったらしいけど。

リムル様!と慌てた声が響いて、動揺が伝染していく。

 

「大丈夫だから、落ち着け」

俺の声は届かない。リムルの時はスパッと止まった動揺は今も広がり酷くなっていく。

はぁ、風格の違いなのか...。

 

俺はハイエナの姿を人型に変えて、リムルを抱える。リムルに向いていた視線は自然と俺の方に向く。

 

「ラルタ、様...」

「落ち着け、数日もすれば目覚める。お前たちが騒いでも何も変わらない」

 

安堵の声が聞こえる。

やっぱり人の姿の方が、皆的にもいいのかもしれない。ハイエナの姿も、牙狼族よりは遥かに小さいせいで風格が足りないし、なるべく人の姿でいることにしよう。

その時、横にいたリグルドが倒れた。力が入らないのか立ち上がれないようだ。

それに続くように、次々と皆が倒れていく。

 

《告。リムル=テンペストの名付を受けた者たちの進化が始まります。》

 

「抗わなくていい、眠っていろ」

「ラルタ様、これは...」

「リムルからお前たちへの贈り物だよ。大人しく眠って、その間は俺が守ってやる」

 

 

 

 

 

俺以外の皆が眠っている夜、膝にリムルを乗せて切り株に座っていた。

空を見上げれば星が良く見えた。

 

なぁ、助言者。俺はリムルより弱いか?

《はい》

どうしたら、強くなれる?

《最適解としてあるのは、諂諛者の主従関係の改善です。》

今、諂諛者の主は助言者なんだよね。

《はい》

ねぇ、諂諛者と話すことは出来ないのか。

《ユニークスキル「諂諛者」に言葉を操ることは不可能です。》

俺の、頑張り次第...か。

 

諂諛者、俺の声が聞こえてるかわかんないけど、俺頑張るからさ。

今はまだ、お前にとって俺は不十分なのかもしれない。でも、いつかお前にとっての主が俺だって解らせてやる。

助言者にとっての主が俺の様にお前の諂諛者の主も俺だ。

 

「見てろ。俺の事を...!」

俺の声が、夜の闇に消えていく。

 

 

 

 

 

 

太陽が登ると同時に進化を終えた皆が起きて来た。雄ゴブリンはホブゴブリンに雌ゴブリンはゴブリナに進化した。

牙狼族は嵐牙という名が種族名となって嵐牙狼族(テンペストウルフ)に進化した。

 

「リグルド、見違えたな」

「はい、ラルタ様。我々の進化を見届けてくださったこと心より感謝致します。」

「別に大したことじゃない」

 

膝の上に載せていたリムルは目覚めたゴブリナに手渡した。

他のみんなも頭を下げて移動していく。

リグルドも別の場所に移動して1人になった時、頭上に影が落ちた。

 

「ランガだよね?」

「はい!ラルタ様、我ら一同嵐牙狼族(テンペストウルフ)に進化致しました!」

「そっ、おめでとう」

 

 

全員が目覚めたあと、俺はもう一度みんなを広場に集めた。

「皆、進化おめでとう。皆の新しい姿を見れて俺は嬉しいよ。これから話すのはリムルが目覚めるまでにすることと、俺の立場についてだ」

リムルがするまでのことは実際そんなにない。

家を壊しちゃったから、皆が雨風をしのげる簡易的な家を順次建てていく。食料を集める。それだけ。

 

そして、ここからが大事。

「皆がリムルの魂の系譜に連なったことで、お前たちとリムルの間には明確な主従が出来た。お前たちの中には俺の事とどう接していいか分からない奴もいるかもしれない。俺は、リムルの助手みたいなもんだ。まぁなんだ、それなりの距離感でやっていこうよ」

 

困惑している者もいるが、最終的には全員が返事をした。

 

「何かわからないことがあったら言って。詳しいことはリムルがまた皆を集めて決めるだろ。じゃあ、作業を始めよう」

 

リムルが目覚めるまであと数日。

 

 




牙狼族の主「の助手」

ステータス
名前:ラルタ=テンペスト
種族:死食鬼(グール)
加護:暴風の紋章
称号:なし
魔法:なし
ユニークスキル:諂諛者、助言者
エクストラスキル:魔力感知
獲得スキル:熱源感知、毒霧吐息、身体装甲
耐性:物理攻撃耐性、痛覚無効、熱変動耐性ex

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