転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第30話...一時帰国

イングラシアで子供達の担任を務めるようになってそれなりに時間が経った。

俺は皆の様子が見たくなって、近況報告も兼ねてテンペストに一時帰国することにした。

 

影移動で俺の庵に移動すれば、すぐに多くの者達が集まってきた。...ちょっと集まりすぎな気もする。お土産として買ってきたシュークリームはシュナやシオンといったスイーツ好きの女子からベニマルといった甘党をも虜にするほどの人気で、すぐにその数を減らしていった。

 

話を聞くと、町の運営はつつがなく行われているようだった。ユーラザニアの使者もいつも通りだし、ブルムンドから要請のあった宿なんかも随時進めているそう。

ブルムンドから商人もやって来たそうだ。ガルド・ミョルマイルという商人は上位回復薬(ハイポーション)を大量買いして、イングラシアに行商に向かうと言っていたという。もしかしたら、そっちで会えるかもしれない。

 

「それにしても、人間がテンペストに来るにあたってここまで問題が出てないのは予想外だったよ。これもお前たちのおかげだな、ありがとう」

「いえ、俺たちは何も。その言葉はラルタ様に言ってあげてください」

「ラルタ様は条約が結ばれてすぐ、住民に向けて演説をしてくださいました。人間がやってくるという期待と不安の中で揺れる住民たちの背を力強く押してくださいました。貨幣についても何度も何度も説明してくださって、人間との間の些細な問題も解決に導いてもらいました。人間達との交渉や商談も善悪を見極め、相手の心理を探るその素晴らしい交渉術によってテンペストに利益をもたらしてくださいました」

 

ベニマルの言葉を補足するようにシュナがラルタの頑張りを語る。

その言葉からはラルタへの感謝と尊敬が感じられた。俺がイングラシアに行っている間にラルタがテンペストにいてくれて良かったと心から思う。

もちろん、ラルタたった一人でここまでの運営を行ってきた訳では無いのは理解している。でも、ラルタに任せれば十二分の結果になるという安心感があった。

 

それにしても、ラルタの演説か...めちゃくちゃ興味ある。聞いてみたかったなぁ。

 

 

「それで、当の本人はどうしたんだ?」

「ラルタ様なら森に行かれております。お食事かと」

「森...そういえば最近の森での件、魔人が関与してることがわかったそうじゃないか。そこから進展は無いのか?」

 

そう聞き返せば、ソウエイは少し申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。

 

狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)と遭遇した後、魔人は忽然と姿を消しました。追ってはいますが、なんの痕跡もまだ得られてはおらず...」

 

情報なし、か...ここまで手こずるのも珍しい話だ。まだどこの集落も町自体にもなんの被害もない。本当にただの嫌がらせだったのかもしれない。

 

 

「あー!久々に帰ってきた国王様が部下をいびってるー!きゃーこわーい」

手を引くべきかまだ深入りするか考えあぐねていると、神経を逆撫でるような無理矢理キーをあげた甲高い声が俺を馬鹿にした。

声のする方を見れば、ニヤニヤと嫌味ったらしい顔をしたラルタが入口に立っていた。

こちらに歩いてきたラルタはシュークリームを一つ受け取って縁側に座る。

 

「リムル様、リムル様の話もお聞かせください。人間の国の先生になられたとか」

 

......そうだな、皆に相談してみるのもいいかもしれない。

「実はな...」

 

 

 

 

俺は神楽坂優樹から聞いた子供達を取り巻く事情について話た。

リグルドは大号泣し、ベニマルも顔を少し歪めている。自分で話していても、やはり胸糞の悪い話だと改めて思う。

 

ハクロウ曰く、膨大な魔素を安定させるために必要なユニークスキルは厳しい修行を乗り越えたからといって必ず手に入る物ではないらしい。そこに期待していた分もあったが、やはりダメか...。

 

「リグルド、シズさんを覚えてるな?」

「は...もちろんです」

「彼女は昔生徒達と同じ状況だったが、魔素の安定に成功して長らえたんだよ」

「ふむ...その方法が分かればいいのですが、今のなっては調べることも...」

「...実は見当はついてるんだ。鍵を握っているのは炎の巨人(イフリート)との融合だ」

「イフリート...炎系の精霊では王級に次ぐ上位精霊ですよね」

「そうだ。シズさんは幼い頃そいつを魔王レオンに憑依させられた。恐らくだがイフリートが魔素を制御していたんじゃないかと思う」

 

まぁこんな堂々と語っているが、全部大賢者の考えだ。

 

「なるほど、つまりリムル様は子供達に精霊を宿らそうとお考えなのですね」

 

一瞬、変な間を挟んでそこにトレイニーさんがいることを俺は理解した。

いたのかと声を上げれば、にこやかにシュークリームを一つとって頂いていますと言った。

甘い匂いに誘われてきたのか...最近、トレイニーさんが食いしん坊キャラに見えてきた。

シュークリーム四個は胃が持たれる(胃なんてないけど)

 

「とても良い案だと思いますよ。確かに精霊は魔素の扱いに長けています。しかし無視できない問題もあります。

まず下位の精霊ではそれ程の魔素は制御できないでしょう。ですが上位精霊はその数も少なく...」

 

トレイニーさんの手から風が巻き起こり、美しい女性が姿を表した。

彼女はトレイニーさんの契約精霊「風の乙女(シルフィード)」、風を司る上位精霊だという。

 

「そこのあなた、ちょっとこの子に話しかけてご覧なさい」

「えっ!?」

 

突然指名されたのはガビルだった。

 

「わっ吾輩はガビルと申す者。ご機嫌いかがですかな?」

何とか絞り出したように話しかけたガビルを少し見つめた精霊は、顔を顰めてガビルの横を素通りして行った。ガビルの事など眼中に無いように、振り向きもしない精霊はラルタに近づく。じっと見つめられたラルタは困ったように微笑んだ。

「...あ、俺?俺はラルタ。ご機嫌はいかが?」

全くと言っていいほどガビルと同じことを言ったラルタを見つめていた精霊は、にこやかに笑いラルタの横に腰掛けた。

 

「このように上位精霊は気まぐれです。気に入られなければ助力は望めないでしょう」

 

一連の流れがガビルにクリーンヒットした。

トレイニーさんの後ろにいるガビルが完全に項垂れているのが見える...むごい。

 

「せめて精霊の棲家へ行くことが出来れば相性のいい精霊に出会えるかもしれませんが...」

「精霊の棲家?」

「精霊女王の統べる別次元にある場所です。入口は女王の意思ひとつで引っ越してしまうので特定は困難でしょう。

私が取り次げたら良かったのですか、現女王とは接点がないのです」

 

残念ではあったが、俺のやろうとしていることが間違っていないとわかったのは大きな収穫だろう。

 

「さてと、結構長居しちゃったな。少しラルタと話したら戻るよ」

「かしこまりました。では私たちはお暇致しましょう」

「ああ、ありが───」

 

ふと、やけに静かだと思ってシオンを見ると重々しい雰囲気を纏ってシュークリームを凝視していた。

 

「どうしたシオン...怖い顔して」

「この、シュークリムル...これ以上食べたら工事現場のゲルド達の分が...っでもっ...でも美味しくて...っ、私はどうしたらいいのですかリムル様!」

 

平和だなー、シオンは。シュークリームだしな

 

 

 

 

 

 

「全く、賑やかで何よりだな」

「そーだね。皆寂しいんだよ、リムルがいなくて」

「お前は寂しくなかったのか?」

「俺?俺は寂しくないよ。いくらでも好きなように旅をすればいいさ」

 

先程まで賑やかだった庵は、打って変わって俺とラルタだけの落ち着いた空間へと変わっていた。

先程まで縁側にいたラルタも、ハイエナの姿になって俺の近くに寝そべっていた。

 

「土産、持ってきたよ。ラルタの見立て通り結構大きい図書館があった」

「ほんと?なら早く送って、ほら」

「急かすなって、今助言者の方に情報を渡すから」

「やった。これでやっとまともに外の情勢が知れる。あっ、ちゃんと魔法の本も持ってきてくれたんだ。ありがと」

 

詳しくは後で確認すると言ったラルタの尻尾がはち切れんばかりに揺れている。

やっぱりハイエナの姿だと人化してる時の何倍も可愛げがある。

 

「土産、本当にありがとう。お礼と言ってはなんだけど、いいものをあげる」

「いいもの?」

 

《告。ユニークスキル「助言者」から擬似上位精霊の作成ツールが送られてきました。》

 

「...擬似上位精霊?」

「ふふ、お前なら精霊の棲家には簡単に行ける。でも、精霊を呼び出してもそれが上位精霊である確率なんて低いもんだ。だから、俺が精霊魔法を覚える時に下位精霊を集めて上位精霊にした時のツールをあげる。お前にはイフリートの自我情報もあるし、子供達に憑依できるくらいのも作れるだろ?」

 

まさかラルタがそんなものをくれるとは思っていなかった。

ラルタが精霊魔法を習得する時に、そこら辺にいる精霊にヤリ捨て紛いな事をしたのは知っていたが擬似上位精霊にしていたとは...。

通りで、精霊魔法の精度が無駄に高いわけだ。

 

「ありがとう、ラルタ。じゃあ俺はそろそろ戻るよ」

「うん...あっ!リムル」

「どうした?」

「指輪、ありがとう。お礼が言えてなかったから。貰った日からさ、ちゃんと肌身離さずつけてるんだ」

 

ほら、今も。そう言ってラルタは立ち上がる。

毛で見えていなかったが、首元にネックレスとして指輪がついていた。どうやら、人化してない時は首に何か触れていても気にならないらしい。毛があるかないかの差か?

 

「なぁ、どうして俺に指輪をくれたの?」

「言っただろ、お守り。本当にあげたくなっただけだよ」

「そっか。まぁ、いいや。じゃあねリムル、ヘマするなよ」

「はいよ」

 

ラルタに見送られながら、影移動でイングラシアへと戻る。

 

一つ、ラルタに隠し事をした。

本当は指輪を渡したのには明確な理由があった。ラルタはいつも何処か俺たちと離れた場所にいる。いつも少し離れたところから俺たちを眺めている。

その立ち位置は妙に不安定で、何処かに消えてしまいそうでけれども何処にも行けないようにも見えた。

それはベニマルやシオン達も感じている事だった。

 

だから、俺はあの指輪を渡した。

もしも、ラルタが迷子になった時に道標になってくれればと、そう思って。




ステータス
名前:ラルタ=テンペスト
種族:死食鬼
加護:暴風の紋章
称号:魔物を支える者
魔法:元素魔法、精霊魔法
ユニークスキル:近侍者、助言者、変貌者
エクストラスキル:魔力感知
獲得スキル:熱源感知、毒霧吐息、身体装甲、影移動
耐性:物理攻撃耐性、痛覚無効、熱変動耐性ex、毒耐性

今の段階のリムルとラルタが戦った場合、勝敗は五分五分になります。
魔素量はオークロードを喰ったりしているリムルの方がありますが、ラルタも魔王種を持てるほどには魔素があります。リムルよりラルタの方が戦闘センスがあり、魔素の操作に長けています。

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