転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第33話...絶望と希望/希望の条件

「...なんだあれ、怖すぎるだろ」

「我が主よご無事でしたか!」

「ああ...何とかな」

 

西方聖教会の聖騎士団長、ヒナタ・サカグチ。

聖浄化結界(ホーリーフィールド)に囚われた中での戦闘は困難を極めた。ソウエイの忠告を聞いて分身体に相手をさせていなければ、今頃本当に死んでいただろう。結界がなくても正直ヤバかったが...。

 

「主よ、実は...先程からベニマル殿へ報せようとしているのですが影空間が繋がらないのです」

「え?そんな馬鹿な、結界はもう消えたようだが...」

 

《告。移動先が何らかの結界により隔絶されていると推測されます。》

 

結界...テンペストに?

ヒナタの俺の国が邪魔だという言葉、襲われてるのか?

大賢者、転移可能な一番近くのポイントを探せ!

《了》

 

なんだ、一体何が起こってるんだ...。

 

 

 

 

 

転移できる場所で、町に一番近い洞窟の前へと転移した。俺が戻ってきたことに気づいたガビルとベスターがすぐに報告をしてくれた。

ベスターは町が何らかの魔法に覆われて外部からの干渉を阻まれているのではないかと予想していた。

 

ミリムの宣戦布告にユーラザニアの避難民受け入れ要請。ミリムのやつが何を考えているか分からないが、今はテンペストに起こった異変の方が優先だ。

 

「ご無事で何よりです、リムル様」

「ソウエイ」

 

俺の影から出てきたソウエイは分身体ではなく本体の方だった。

どこか暗い顔をしたソウエイに案内され、やって来たのは結界の外周部。大賢者の解析によれば、内部に基点のある大魔法「魔法不能領域(アンチマジックエリア)」の影響と、外部から仕掛けられた結界による魔素濃度の低下が確認された。

外部から仕掛けられた結界は、ヒナタと戦っときの聖浄化結界(ホーリーフィールド)とは別物の劣化版だそうだ。

俺なら、多重結界で抵抗できる。

 

ソウエイにはソーカ達と共に外から結界を張っている術者の捜索する様に指示した。

それにしても、誰が何のために結界なんて...

 

「...恐らくまだ、始まりにすぎません。どうか警戒を、要因の一つは恐らく人間の国...ファルムス王国が軍事行動を起こしテンペストへと向かってきています」

 

ヒナタに足止めされたのが悔やまれる。

結界内に入って中心部の方へと走れば、俺に気付いたリグルドとカイジンが駆け寄ってきた。

 

リグルドが啜り泣きながら俺に縋りく。

俺との連絡も取れず、町には結界がはられて相当不安だっただろう。それでも、住民達の指揮を前線に立って行ってくれたはずだ。

 

申し訳なく思うが、もう少しリグルドにも頑張ってもらわなきゃいけない。

近くにできた人集りについて聞こうとした時だった。

 

激しく響き渡る轟音。

なんだ、誰かが交戦中なのか?

人混みから離れた路地裏に、砂埃が舞い上がっている。漂う妖気からはヒシヒシと怒気が感じられる。砂埃が消え去って、全貌が見えた。

ベニマルとグルーシスが戦っている。

グルーシスの後ろには見知らぬ女と意識のないヨウム。

 

「...いい加減そこを退け、グルーシス」

「...それは出来んな。冷静さを欠いた今のあんたらにこの女は渡せねーよ!」

 

その攻防は一方的なものだった。

ベニマルは刀も抜いていないのに、グルーシスは傷だらけで立っているのもやっとの様に見える。一発、拳が入る。ひれ伏したグルーシスにベニマルは一歩一歩近づいて行った。

 

「お前やヨウムには悪いが、追求しない訳にはいかない」

「やめろベニマル!!」

 

俺に気づいベニマルが事情を知りたがる俺を広場へと案内した。

 

 

そこにあったのは、横たえられた住民達。

 

衛兵も、女も男も、子供も

 

───全員死んでいた。

 

誰も目を開けない、誰も起き上がらない。

 

襲撃にあったのだとベニマルは言う。

普段ならここまでの被害は起きなかった。結界がなければ、弱体化していなければこんな事にはならなかった。

 

襲撃者は商人に扮していたらしい。

皆は俺の命令で人間に丁重に接していた。悪意のある人間がいるなんて考えてもいなかった。

 

『1つ、仲間内で争わない

2つ、他種族を見下さない

3つ、人間を襲わない 』

...そうか、俺の命令に従ったせいか。

行き場のない怒りが、俺の体を駆け巡る。

人間への怒りが、術者への怒りが、己への怒りが俺の思考を塗りつぶしていく。

 

「私が大魔法を使用しなければ、こんなことにはならなかったでしょう」

 

ミュウラン。

魔法不能領域(アンチマジックエリア)をはった女。こいつが、いなければ...

 

《告。大魔法「魔法不能領域(アンチマジックエリア)」よりも、町の外部から張られているもう一つの結界のほうが影響は上だと推測。》

 

!...そうだ、落ち着け。

この女は俺を激昂させて自分だけを殺させようとしているんだ。冷静になれば自分を庇うヨウムやグルーシスに咎が行かないための言葉だとわかるのに。

我を忘れるな、頭を動かせ。ここでこの女を殺して何が変わる?

今はこの女に正しい処遇を下せない。一度話を聞いてから改めて考えよう。

宿に軟禁するように指示を出して、連行させる。

 

「会議室で詳しい話を聞きたい。ベニマル、ラルタは何処だ?あいつの意見も聞きたいんだが...」

 

ラルタは何処にいるんだろうか。

妖気を抑えるのが種族的に上手いせいで遠くに離れられるとどこにいるか分からない。

でも、ラルタがこんな緊急事態に前線にいないことがあるのか?そんな無責任な奴じゃないはずだ、別の場所で何かしてるのか?

 

「リムル様...ラルタ様は、」

 

俺の横にいたベニマルが肩を震わせて唇を噛み締める。握りしめられた手からは血が滲んでいた。

 

「......ラルタ様は、拐われました」

「は?......どういうことだ、どこに......誰に。すぐに、助けにッ......行かないと」

 

ラルタが拐われた?

まるで何かの冗談の様に聞こえてしまう。それなのに、ベニマルの悲痛な表情がそれが真実なのだと語っていた。

俺を支えてくれていた柱が崩れ落ちる感覚に襲われる。

まっすぐ立っていることさえ出来ず、俺の足は行くあてもなく歩き出す。

何処に向かっているのか、違う、ラルタの所に。

 

その時、乱暴に腕を掴まれた。

ベニマルが普段だったら考えられないほどの力で俺の腕を掴んでいる。

 

「ラルタ様から、伝言を預かっています。

『俺の事は気にしなくていい。お前は国王だから優先するべき事を優先して』との事です」

 

頭を殴られた様な気分だ。

わかってる、国王として、今俺が一人の私情でラルタを助けに行くことはできない。

じゃあ俺はラルタを信じて待つ事しか出来ないのか?俺がラルタを向かいに行けるようになるまであいつは生きているのか。もう今まさに殺されてしまってるんじゃないか。

 

一つ、深呼吸をする。

落ち着け、あいつを誰だと思ってるんだ。あいつの強さは俺が一番近くで見てきたじゃないか。ずっとラルタを信じてきたじゃないか、この世界に来てからずっと。

ラルタは死なない、戻ってくる。信じろ。

 

「悪かった。会議に参加できる幹部を会議室に集めろ。詳しい話を聞くよ」

「リムル様、よろしければワシも会議に参加させてもらえませんか。今回の件について外の者の視点でお話しできるかと」

「あんたは。来てたのか...あぁ助かるよ。ミョルマイル」

 

 

 

 

 

会議室に集まったのは、負傷した者を除いた幹部とこの国に留まる人間達。

 

 

最初の襲撃者は三人の男女だそうだ。衛兵の一人が絡まれそこから交戦に至ったらしい。

シュナやゴブタ、ハクロウも応援に加わったが戦闘が始まってすぐに町が二種類の結界に覆われた。

その後、ファルムス王国の騎士団が百名程この町に訪れた。奴らは襲撃者とゴブタ達の戦いを見て、人類の法に従い加勢すると宣言したという。宣言したや否や魔物に対し剣を振るいだした。嘲笑いながら、衛兵のみならず成り行きを見守っていた住民たちもを甚振り殺した。

去り際には、こちらとの宣戦布告を行ったそうだ。

 

「で、その裏でラルタが襲われたのか」

「ラルタ様の件は推測の域を出ないものなので、そのつもりでお願いします。

最初の襲撃者と同時に魔人の用意した敵が森を巡回していた狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)を襲いました。結界がはられていない状態でも力は敵の方が強く、一人の兵士がラルタ様に報告に来ました。ラルタ様はすぐに交戦中の場所に向かい負傷した兵士を逃がしました。ラルタ様がこちらに戻ってきた時間を考えると、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)は森から町に追いやられ、ラルタ様も結界内での戦闘を強いられたものと思われます。

ラルタ様が戻ってこられたのはファルムス騎士団が宣戦布告を行う少し前です。俺がラルタ様を見つけたのは騎士団が去って少したった後です。急にラルタ様が俺に何か感じるかと聞いてきました。何も感じないと答えれば、俺に伝言を残しその場を立ち去りました。

その場を他のものに任せ、俺は急いでラルタ様を追いかけました。広場から離れた道で、ラルタ様は魔人と対峙し、鎌で首を切られ拐われました。その魔人は“時間稼ぎ”、“計画が狂う”、“用がある”と言っていました。これらの言葉から、ラルタ様を取り巻く何かは組織的なものでありファルムス王国と協力しお互いの利益になるように動いていたのだと思われます」

 

ファルムス王国にとってラルタがいるのは不都合だった。そこでラルタと何らかの関係のある組織と協力し、ラルタと町を分断させた。

ファルムス王国側はラルタという障害物を取り除く事ができ、その組織はラルタを結界で弱らせ拐いやすいようにした。

 

ソウエイの報告ではファルムスは既に軍事行動を開始しているとの事だった。調査自体は本当でも結論は初めから決まっていたんだろう。

大層な茶番だ。

 

ヒナタのことと合わせて考えると、ファルムス王国と西方聖教会、そしてその組織はグルなんだろう。3つとも繋がってるのか、別々にファルムス王国と繋がっているのか。

 

 

ラルタの事は、情報が少なすぎて今どうこう考えるのは時間が足りなさすぎる。ラルタが戻ってきてから考えるしかないな。

 

西方聖教会は魔物の殲滅を教義に掲げている。

しかし...

 

「ファルムス王国の目的は何なんだろうな」

「ラルタ様の見解ではありますが、テンペストがファルムス王国にとって利益の競争相手になったからでは無いかと。元々ファルムス王国は西方諸国が森を避けて貿易を行う際に必ず通らなくてはならない国だったそうです。それを利用し貿易中継国として利益を得ていたと」

「その話で間違いないでしょう。さらに言えば、潰すよりも手中に収めたい...そんな国なのです」

 

俺は周囲の国家との調和を蔑ろにしているつもりはなかった。だが、所詮素人。

しかもラルタはそれらをきちんと見れていた...やはり俺の方針のせいか

 

「リムル様、どうか誤解しないで頂きたいのです」

「え?」

「ファルムスの動機はそれで間違いないでしょう。ですが、その対応が然るべきものだと言っとるのではありません。まず評議会を通していないのはおかしい。

最初の三人は魔物が先に手を出してきたからと正当性を主張するためでしょう。ラルタ様を街の騒動と切り離したのは、その計画を潰させないため。ラルタ様なら傷一つ付けずに事を終わらせることもできてしまうでしょうからな。

ワシはこの町に留まる商人の代表としてこの場におります。聖教会を恐れる声もありますが、意見は概ね一致しとります。ファルムスを迎え撃つのなら助力は惜しみません。

武器、食料、必要とあらばコネというコネを使い集めましょう」

 

「オレぁブルムンドの冒険者だ。最近はずっとこの町を活動拠点にさせてもらってた。ラルタ様にも顔合わせをさせてもらったこともある。戦力が必要なら力を貸すぜ?」

「わっ私も力になります!」

 

次々と賛同する声が聞こえる。

どれだけラルタが丁寧に人間達に接してくれていたかがよくわかる。そういう交流は苦手なのに...。

彼らの申し出はとてもありがたいものだ。

だが...。

 

「ありがとうございます。ですが...この問題は俺達だけで片付けます。皆さんはどうか帰還の準備をなさってください」

 

断った理由はこの人達を巻き込みたくないから。そしてこの人達の身に万が一のことがあった場合、それを俺達の凶行だと触れ回させない為だ。

魔物の国を悪と喧伝したい者からしたら、この町を知る者から俺達を擁護されるのは都合が悪いはずだ。口封じという手段もとりかねない。

テンペストに訪れていた人間達を全て空間移動で送り出した。

...これ以上、奪われてたまるか。

 

 

 

 

 

次に怪我人の所へ向かった。

負傷者の殆どは手当ては済んでいるようで、静かに眠っていた。胸に手を当てれば確かにその鼓動が感じられる。当たり前の事が、とても特別なことのように思えてしまう。

 

「リムル様!おかえりだったのですね。よくご無事で...」

「シュナもな」

 

ずっと負傷者の手当をしていてくれたんだろう。シュナやクロベエの顔には疲労が滲み、手には血がついていた。

その奥にはハクロウとゴブタが横たわっていた。包帯は巻かれているものの大きく切り裂かれた腹の切り傷からは血が滲んでいた。

二人に傷を負わせた襲撃者は空間属性のスキルを使う者だったらしい。これでは、傷口に直接働きかけることが出来ず、回復薬も聞かない。

 

大賢者、暴食者はもう使えるか?

《解。問題ありません。個体名ヒナタとの戦闘で切り離した分は復元完了しています。

空間属性の影響を確認しました。「暴食者(グラトニー)」にて影響を捕食しますか?》

もちろんYESだ。

 

空間属性の影響を消し去って、二人に回復薬を使用する。少し経てばハクロウは立って歩けるようになり、ゴブタも目を覚ました。

二人がいつもの様に会話をしている。

 

良かった、そう思いたいのに...。

賑やかになった部屋を見渡してもいない奴がいた。俺の横でいつも騒がしくしていた奴が。

 

「...なぁベニマル。あいつはどこだ?」

 

 

ベニマルは俺の質問に答えなかった。

ただ一言「付いて来てください」とだけ言うと、魔物たちの遺体が安置されている広場に向かって歩き出した。

 

皆が俯きながら、何も言わず歩き続ける。

やがて、隅に布の敷かれた遺体の前に止まった。

 

「...ここです」

 

布が取られ、横たわった遺体が顕になる。

 

..................え?

シオン......なのか?

 

唖然とする俺の横で、物言わぬゴブゾウを見つけたゴブタが泣いている。

シオンは襲撃者が狙った子供を庇ったらしい。

ゴブゾウもシュナを守ろうとして殺された。

 

何も信じられない。信じたくない。

頼むから今すぐ目を開けてくれ。いつもみたいに俺の名前を呼んでくれ。

 

俺の中にあった何かが外れた。

妖気の抑え方が分からなくなる。内側から色んな感情が俺を殴りつける。

 

「...すまん。しばらく一人にしてくれ」

 

シュナが俺をきつく抱きしめて、皆と一緒に去っていく。

静寂がここら一体を包んでいた。

この町で嗅ぐとは思っていなかった、濃い鉄の匂いが鼻を通って俺を責め立てる。

 

《告。弱体化した魔物にとって、強すぎる妖気(オーラ)圧力(プレッシャー)になります。》

 

「抗魔の仮面の解析は?」

《完了しております。複製しますか?》

「頼む」

 

 

───どうしてこんな事になったんだ

 

《告。回答不能。》

 

───どうするのが正解だった?

 

《告。回答不能。》

 

───人間と関わったのが間違いだったのか?

 

《告。回答不能。》

 

 

「なぁ...俺が間違っていたのか?」

 

《...告。回答不能。》

 

頭の中は激しい感情が渦巻いているのに、同時に酷く冷静で

 

.........涙一滴でない

 

シズさんの時は涙が出たのに、いつからだろう。

 

なぁ、ラルタなら答えてくれるか?

あいつは優しい言葉はくれないけど、いつも正しいことを言ってくれる。

あの何処か低く心地いい声が聞きたい。

 

なぁ、ラルタはどうして隣にいてくれない?

いつも、少しだけ触れてくるあの少し冷たい体温が今はどこにもない。

 

「...ああ、俺はもう心から魔物になったんだな」

 

 

 

 

 

何度も、何度も、探した。

シオンたちが、もう一度目覚める方法を。この出来事全てを夢にする方法を。

 

《告。検索結果、該当なし。

完全なる死者の蘇生に関する魔法は検出されませんでした。》

 

イングラシアの図書館で大量に取り込んだ魔法に関する本も役には絶たなかった。

シオンの顔に手を滑らせれば、その肉体が硬くなりつつある事に気がついた。もう、潮時なのかもしれない。

 

いつまでもここでこうしてはいられない。

遺体はやがて朽ち、魔素に還元されて消えてしまうのだろう。

 

消えて...しまう。

あの笑顔が、声が、思い出が、これからの未来が...消える。

 

涙も流せない体に変わってか、仮面に一筋の罅が入った。

せめて、俺の中で安らかに───

 

「リムルさん!!」

 

暴食者で全て捕食してしまおうと思った時、走ってくる者達がいた。

エレン、カバル、ギド。きっと報せを受けて急いで向かってきてくれたんだろう。

 

「...来てくれたのか、ありがとう。だけど少し待ってくれ。...そろそろ眠らせてやらないと」

「...あっ......あのね!リムルさん、可能性は低いけど。ううん、殆ど無いかもしれないんだけど。でもあるのよ。死者が蘇生したというお伽話が」

 

お伽話?

そりゃただの作り話だろう。なんでそんな話をするんだよ。やめてくれ、期待したくなるじゃないか。こいつらのために俺に出来ることがまだ残されていると。

 

......こいつらのため?

 

本当にそうなのか?

 

...違う。俺が、失いたくないんだ。

 

「所詮は作り話だって思うかもしれないけどぉ。でもこれは史実に基づいた伝説なの

だから───」

「ふっ、はははは」

「リムルさん?」

「いや、悪いな。つい嬉しくって。死者の蘇生か、まるで夢物語だな...。可能性が零でないなら十分だ。詳しく聞かせてくれ、エレン」

 

 

 

 

 

それは、魔導王朝サリオンに伝わるお伽噺。

 

ある少女と竜の物語...

 

───この世に四体のみ存在する“竜種”

その最初の一体が大地にて人間と子を生した。我が子に力の大半を讓渡することとなった最初の竜種は残る全ての力を結晶化させ、自分の分身体ともいえる子竜を生み出した。

そしてその子竜を我が子...竜皇女へと送ったのである。幼い竜皇女はすぐに子竜と仲良くなった。

平和な日々は永遠に続くかと思われたが......

ある時悲劇が起きる。栄華を極めた魔法大国が竜皇女を支配しようと目論み、子竜を手にかけたのだ。

竜皇女は嘆き悲しみ、そして怒り狂った。

父より受け継がれたその力は凄まじく、一帯が焦土と化してもその怒りは収まらなかった。

一柱の魔王と精霊女王の力でようやく正気を取り戻した頃、かつての大国は見る影もなく栄華は過去のものとなった。

望んだわけでなかった十数万の命が生け贄となり、竜皇女は魔王へと開花した。

 

すると奇跡が起きた。

子竜は竜皇女の魔王化に伴い、死して尚進化したのだ。立ち上がろうとするその姿に竜皇女は喜んだ。

しかし奇跡は望む形ではなかった。

混沌竜(カオスドラゴン)」死と同時に魂を失った子竜は意思のない邪悪な竜へと変貌してしまったのだ。

他を顧みることもなく破壊の限りを尽くすその様は、まるで友をなくした皇女自身のようだった。恐れ逃げ惑う人々の中、ただ一人竜皇女は理解した。友はもう、そこには居ないのだと。

 

そして自らの手で友の亡骸を封じた。

それが魔王となった竜皇女の最初の偉業となった───

 

竜皇女ってのはミリムのことだろうな。

一国を滅ぼし魔王に進化...そしてそれに伴う絆ある子竜の復活。

確かに魔物達は意味不明な進化をする。名前をつけただけで大騒ぎだった。

 

だが、意思のない怪物になっては意味がない。エレンの考えではそれは魂の有無で決まると言う。「魂」自己を確立する根源。

竜皇女の子竜は魂が戻らなかったために意思のない怪物に成り下がった。

けれど、シオン達の魂なんて残っているのか?

 

「この町は今、結界に覆われてるでしょう?ひょっとしたらだけど...シオンちゃん達、まだここに居るんじゃないかなぁ」

 

《告。絶滅した者達の魂は本来拡散して消滅するのですが、二種の結界に阻まれ残存している可能性があります。

その確率───3.14%》

 

円周率と同じかよ...。

低い?いや逆だ。死から蘇生できる可能性が3%以上もある。

俺が魔王にさえなれば...

 

「...魔王、か」

 

《告。個体名リムル=テンペストは既に魔王種を獲得しています。》

魔王種を獲得?どういうことだ?

《解。魔王種の有無は魔素量、保有スキル等が真なる魔王として覚醒するに足るか否かを指します。

豚頭魔王(オーク・ディザスター)を捕食した時点で獲得したしていました。条件を満たせば真なる魔王へと進化が可能です。》

ホントか!?それで条件ってのはなんだ?

《お伽噺から推測するに種を発芽させるには養分が必要です。生け贄となるのは人間の魂。必要となるのは一万名分以上と推測───》

人間の魂?

それは俺が一万人以上の人間を殺す必要があるということか?

《是。ですが、個体名リムル=テンペストの意思が介在していれば他の者に任せても問題ありません。》

 

 

 

「...そうか」

 

考えてみれば酷い話だ。スライムに転生してからも俺の判断基準はかつて三上悟だった頃の常識が根底にあった。

そう思うと、ラルタはずっと前から魔物だったな...シズさんにもラルタは前世の名前を名乗らなかった。

俺だけが人であり続けようとした。

 

「...魔物の基本理念は弱肉強食なのにな」

 

シオンだけじゃない、この国の者は皆、そんな俺の考えに従い...そして殺された。

 

「すまないな、シオン。俺の決断に納得いかないかもしれないけど、今回は俺自身の手でケジメをつける」

 

今後一切の甘えを己に許さぬために。

 

 

 

ソウエイから報告があった。

ファルムスと西方聖協会の連合軍が我らの領土へと侵攻中だそうだ。その数およそ二万。

 

ああ、十分に足りそうだ。

 

ラルタが帰ってきた時、誰も欠けることなく「おかえり」と言ってやろうじゃないか。




カットしたいのに全部が大事な場面でカットできない...。あともう数話、リムル側の話が続きます。申し訳ありません...。
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