転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第34話...魔女の処罰/変わらぬ忠誠

シオン達の魂がまだこの結界内に残っている。

その可能性を少しでもあげるため、まずは町を覆う二種の結界の解析を行った。大魔法「魔法不能領域(アンチマジックエリア)」は解除できるが、もう一方の複合結界は難しいらしい。本命はそちらだったが、仕方がない。

魔法不能領域はまだ解除しないでおいた。二重ではシオン達の魂が拡散してしまうかもしれない。それを防ぐため改変した結界を第三の結界として張った。

結界に気づいたリグルドとベニマルはすぐに俺の所へやってきた。俺が張ったものだと伝え、リグルドに幹部を会議室に集めるように伝える。議題は今後の人間に対する振る舞いについてとシオン達の蘇生について。俺の言葉を聞いたリグルドが涙ぐんで駆け出していった。

 

「あんまり驚かれなかったな。おかしくなったと心配されるかと思ったのに」

「まぁ予想はしてたんで」

「予想?」

「俺たちは皆、リムル様なら或いはと思ってましたからね」

「...そっか」

 

そこまで信頼されているとどうもむず痒くなってしまう。それでも、まだだ。もう少しだけ気をはらなきゃいけない。

俺はベニマルと共に、ミュウランを軟禁している宿へと向かう。まずは彼女から事の経緯を聞き出して処遇を決めなくては...。

 

 

 

 

 

部屋にはヨウムとグルーシスもいた。

ミュウランは俺の聴取に躊躇いもなく言葉を発する。

魔王クレイマンの配下“五本指”の一人、薬指のミュウラン。テンペストの内偵の任を受け、ヨウムを利用してこの町に潜入した。魔導師(ウィザード)魔法不能領域(アンチマジックエリア)で出来ることなど普通の人間と変わらず、ミュウランからクレイマンへの連絡手段もない。離脱する方法もなく、見捨てられたという事実を飲み下すことしか出来ない。

 

クレイマン、豚頭帝(オークロード)計画に関わる魔王の一柱でありミリムの話では印象は良くない。

人形傀儡師(マリオネットマスター)の二つ名を持ち、操り人形の如く意のままに操る。配下は道具でしかなく、壊れたり要らなくなれば捨てるだけ。

俺とは相容れない思考の持ち主だ。きっと話し合いでは何も解決しないだろう、まぁ向こうから聞くべき話もないが。

 

なぜ、クレイマンの配下として下ったのか。この質問は純粋に俺が話を聞いていて疑問に思ったことだ。

元人間の魔女、迫害から逃げ延び森に隠れて幾百年。孤独の中で終焉が顔を見せ始めていたその時、クレイマンが現れた。若き体と引替えに忠誠を誓った世間知らずの魔女。「支配の心臓(マリオネットハート)」という仮初の心臓を施され、望みと引き換えに自由を失った。

文字通り、生殺与奪権を握られてしまったのだろう。普段だったら同情出来たのかもしれない、できる限りその苦悩に寄り添えたのかもしれない。だが、今回だけは無理だ。

 

「つまり自分の命惜しさに俺の仲間を窮地に陥れてくれたわけか」

 

部屋の空気が凍りついたのがわかった。

ああ、自分がここまで誰かに対して冷酷でいる日が来るなんて前世でも今世でも予想していなかった。ようやくエゴを貫くという意味がわかった気がする。

 

テンペストとファルムス王国の間で戦争を起こさせるというクレイマンの筋書き。今から援軍要請を行ってもファルムス王国軍を迎え撃つには準備期間も足りない。後手に回らされている...。

 

「もう一つ、ラルタが拐われた件だ。それについてクレイマンが関与している可能性は」

「...わかりません。ラルタ様の誘拐に関しては私自身も聞いていない話です。ですがクレイマンの性格上、何処かの組織と協力するとは考えられません。ラルタ様の不意をつけるほどの組織であれば、クレイマンの下につくことも、ないかと」

「無関係、か」

 

だが魔法不能領域(アンチマジックエリア)がラルタの戦闘を大きく妨害したのは事実だ。ラルタを拐った組織がファルムス王国と手を組んでいるとすれば、多重結界が張られる事は知っているはず。だが、多重結界だけではラルタを止めるのは難しい。この町に来た魔人もラルタが魔法を使えたなら負けるはずのない程度の強さだと言う。

組織が魔法不能領域(アンチマジックエリア)を利用しているのは確か。

 

もしミュウランの話が本当だとしたら、組織はクレイマンの意図を気付かれずに汲み取り、利用している事になる。仮にも魔王に名を連ねる者を利用する。組織の強さも全貌も、予想できなくなっただけだな...。

 

「わかった十分だ。ミュウラン、お前には死んでもらう」

「待ってくれ旦那!俺にも、俺にも非はあるんだ!ラルタさんは俺にミュウランが魔人であることも教えてくれてた。その上で俺はチャンスをもらったんだ!なのに俺は...だから頼む!俺も一生かけて罪を償う!なんでもあんたの言う事を聞くから!だから...」

 

ああラルタ、お前は本当になんでも俺より先に知ってるんだな。お前はいつもそうだ。お前はどこまで調べて、どこまで先のことを考えてるんだろうな。

わかってる。お前がチャンスを与えるなんて事を普段はしないって。もし何かミュウランが事を起こした場合、チャンスを与えたお前は責任を問われる事になる。それが分からないお前じゃないだろ。なぁラルタ、お前はミュウランに何を見出していた?きっと聞いても答えてはくれないんだろうな。お前は寡黙な奴だから。

 

ヨウムの言葉に返事はしない。

俺の本気の目を見たグルーシスが獣人化して襲ってくる。しかしそれもベニマルによって防がれてしまう。実力差が歴然な事はさっきの戦いでわかっているだろう。それでも立ち向かう理由、それはミュウランを逃がしたいから。

 

 

連れ立って逃げようとするヨウムにミュウランは従わなかった。ただ、ヨウムの頬に手を添えその唇に口付けを落とす。

 

「好きだったわ、ヨウム。私が生きてきた中で初めて惚れた人。さようなら、今度は悪い女に騙されないようにね」

 

いい覚悟だ。

ヨウムを粘鋼糸で拘束し、ミュウランに歩み寄る。俺の足音がミュウランの死までの時間を刻んでいた。ヨウムの叫び声の中、女の胸元を貫いた......。

 

 

 

 

 

「───よし、成功したようだな。問題なさそうか?」

「え......あの...私、なんで生きて...」

「ああ、うん。三秒ほど死んでたんじゃない?」

 

第三の結界を町に張った時に検出された不明瞭な波長。大賢者に解析してもらった結果、その波長がミュウランの心臓から発せられていることがわかった。

ミュウランがクレイマンに施された仮初の心臓は盗聴器の役割を果たしていた。魔法通信で定期的に報告をさせていたのはそれを悟らせないためだろう。

ミュウランには仮初の心臓を参考に作った擬人心臓を移植した。もちろん盗聴機能を外して。

 

支配の心臓(マリオネットハート)はなくなった。突如として与えられた自由を理解したミュウランの目には涙が浮かんでいた。

 

 

「やったじゃねぇか、ミュウラン!もうお前を縛るもんは何もなくなったってことだ!」

 

全く呑気なものだ。

ミュウランはクレイマンから見捨てられた。どうせ心臓は戻ってこないのだし、律儀に最後の命令に従う必要なんてない。それでも従うことを選んだのは、人質をヨウムを守りたかったからだ。

 

「...大切な人を守りたかっただけよ。あなたの告白にまだ応えてなかったわね。私、せっかく自由になれたけど...人間の短い一生分くらいなら束縛されてもいいと思っているわ」

 

お互いに照れる二人。周りにはハートが飛び交っていそうだ。こんな状況じゃなけりゃ祝福してやるんだがな...。

 

グルーシスは気の毒だけど、人間の寿命が終わる百年後の巻き返しに期待だな。

 

ミュウランを救ったのは善意でって訳じゃない。救ってやることでヨウムの助力を得やすくなる打算もあった。あいつらには後々やってもらう事もある。それにミュウランの魔法の知識と技量をあてにしている。

 

あとは、「死んで生き返る」なんて話に一発事例を増やしておきたかった。それだけだ。

 

 

 

 

 

 

「心配かけた。これより会議を行う。既にリグルドから通達されていると思うが議題は今後の人間に対する振る舞いと殺された者たちの蘇生だ。

この二つの議題の前提としてお前達に伝えておくことが一点ある。俺は魔王になる。

以上だ。じゃあ始めようか」

 

本題に戻し───

まずは皆の人間に対する意見を聞いてみた。

 

今回の人間の卑怯なそのやり方に軽蔑心を抱く者、攻撃的思考を持つ人間の再来を警戒する者。当然と言ってしまえばそれまでだが、人間に対する不信感が募っている。

だが、共に過ごしてきたヨウムやその部下を報せを受けてすぐに駆けつけてくれたカバル達、助力を申し出てくれたミョルマイル達、彼らは信頼できると言う。「人間」というくくりで話すべきではない、信頼できるものもそうでないものもいるのだから。

 

...嬉しいな。こんな目にあって尚、人間との共存をまじめに考えてくれている。愛すべき俺の仲間、家族と呼べる大切な者達。人を本気で愛したことのない俺が愛を語っても胡散臭いだけだから。

 

「あのな、俺と...いや俺は元人間の転生者だ。いわゆる異世界人と呼ばれる者達と同じ世界の人間だった」

 

人間を襲わないというルールを作ったのはそれが理由だった。人間が好きだと言ったのも元人間だからだ。今更後悔しても取り消すことは出来ない。だが、そのルールのせいで大切な皆が傷つくのは本意じゃなかった。

俺は魔物に生まれ変わったけれど、心は人間のままなんだと思っていた。だから自分の思いを優先して人間の町に長居してしまった。

もっと早く帰還していれば、誰も欠けることなく今この瞬間を過ごせていたのかもしれない。

 

 

「すまなかった、全ては俺の責任だ」

 

一瞬の静寂が俺の心を締め付けた。

軽蔑される?もうこの関係を続けられない?

───それは嫌だな。

 

そんな思考を皆は断ち切った。

皆がそれぞれ己の罪を主張した。己の甘えが油断が、弱さがこの惨事を引き起こしたのだと。

俺のことも魔物だろうが、人間だろうが関係ないと言う。俺が俺であれば前世なんて関係ないと。

 

 

それと、今後の人間への対応についてだが...

友好的な者とは手を取り合い、害意がある接触を図る者には相応の報いを受けてもらう。相手に対して鏡のように接する。長い時間をかけてゆっくりと友好的な関係を築くことを目指す。

そんな甘い理想論を俺らしいと笑ってくれた。

 

「差し当って対処すべき人間は侵攻中の連合軍ですね。布陣を考えませんと...」

「ああそれなんだが、連合軍の相手は俺に任せて欲しい」

「え?」

「理由はある。殺された者達の蘇生に関わるんだが、これを成すには俺が魔王になることが絶対条件だ。そして侵略者を俺一人で殲滅することは、魔王化に必要な儀式(プロセス)だからだ。大丈夫、怒りで我を忘れてるわけじゃない」

「しかし、だとしてもお一人で出陣など危険すぎでは...」

「心配ない。油断はしないし手加減もしない。それにお前達には別に任せたいことがある。弱体化の原因である複合結界の解除とシオン達の魂の拡散を防ぐための新たな結界の用意だ。

人選は───」

「......」




次話は色んな視点でラルタについてのお話を書きます。
次々話でメギドったらラルタ回に移行します。

日間ランキングの下の方にチロっと載ったようで、UAとお気に入りが一気に増えて少しビビっています。

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