転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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1、ゴブタ
2、ソウエイ
3、ベニマル


第35話...君がいない

「ラルタの部屋に魔法の維持を補助する装置があったはずだから、持ってきてくれ」

 

そうリムル様から指示を受けてオイラは師匠と一緒にラルタ様の部屋にやって来たっす。廊下を進んだ隅の方にこじんまりとあるラルタ様の部屋。

そういえば何だかんだと入ったことはなかったっすね。リムル様から装置の特徴は聞いてるから簡単に見つけられるとは思うんすけど。

 

お邪魔しますっと言って入ってびっくりしたっす。ラルタ様の部屋、ただでさえ狭いのに物が多い!足場がない!散らかってる!

あの人キッチリしてる性格だと思ってたからなんか意外っす...て、この中から装置を探すんすか?オイラ達。

 

オイラと師匠は手分けして探すことにしたんっすけど、本当に物が多い。

ベットの上には大量のぬいぐるみ。

壁には子供達が描いてくれたであろう絵が壁紙を隠すほどに貼ってある。

本棚には大量の本が巻数も上下も揃えられずに突っ込まれてる。

窓際にはよく分からない木彫りの像が飾ってある。

床にはいくつもの箱が置いてあって、中身も統一性の無いものがガチャガチャと入っている。

 

装置を探しているはずなのに出てくるのはよく分からないものばかり。一つ分かるのはこれが全部貰い物だろうということ。ああ、本に関してはラルタ様が自分で手に入れた物かもしれないっすけど。

 

一応なんかの拘りがあっても困るってことで動かしては戻してを繰り返しながら装置を探す。

本当にあるのかちょっとイライラしてきたところで、一つの箱に目が止まったっす。

その中に入っていたのは俺やゴブイチ、ゴブチ達が渡したもの。中には適当に渡したちょっと綺麗な色をした石や、イタズラに使ったビックリ箱なんかが入っていた。

……そういえばこのビックリ箱、反応が悪かったから再チャレンジするって言ってしてなかったっすね。

それにしてもあの人って確か亜空間?に物を収納しておけるって言ってたはずっすけど、てかこんなん捨ててもいいやつじゃないっすか。

 

「おおやっと見つけたわい。では戻るとするかの、ゴブタよ」

「……師匠」

「なんじゃ」

「ラルタ様は戻ってくるっすよね。リムル様はそう信じてるみたいっすけど、ラルタ様ってなんて言うかすぐにどっか行っちゃいそうじゃないっすか」

「ほっほっほ、ゴブタよ。宿り木があるから小鳥は彷徨うのじゃ」

「何言ってるんすか、ジジィ」

「安心せい。そうじゃなぁ、ゴブタよ。ラルタ様が帰ってこられたら部屋の整理整頓を手伝ってやると良い」

「………了解っす」

 

物を捨てられない人って寂しさを軽減させたいだとか自分を守りたいって意思がある人だって聞いたことあるっすけど、まさかあの人もそうなんっすかねぇ...全然想像できないっすけど。

 

 

 

 

 

 

ラルタ様が拐われた。その報せを受けた時、ソーカ達は驚きを隠せぬ様子で何かの間違いでは無いのかと訴えてきた。

その報せをくださったリムル様の声は少し沈んではいたが、それでも凛としておられた。何度もリムル様は大丈夫だと、帰ってくるとまるで自分に言い聞かせる様に呟いていた。

 

ソーカ達を沈め、他の場所の見張りに行かせ一人になった時やっとその言葉を受け入れた。俺を支えてくださっていた柱の片方が消えたのだと。もちろんリムル様の言葉は信じている。ラルタ様は帰ってくるだろう。

だが、もう一度その柱が立つことはないのかもしれない。

 

俺はラルタ様の強さに憧れた。あの日、強くなれと失望させるなと言われた時からラルタ様の強さに少しでも追いつけるよう鍛錬を重ねてきた。

俺の中でラルタ様は絶対的な存在であった。ラルタ様より強い方はいる。ラルタ様よりリムル様の方がお力はあるだろう。

けれど、あの戦闘方法は唯一無二であった。

魔法を操るにも関わらず、肉弾戦を好み、頭を動かし続けるあの戦い方は俺を妙に引き付けた。きっと初めてラルタ様と戦ったあの日に俺は憧れを抱いた。

 

ラルタ様より強い方がいようとも負けを想像することはできなかった。その絶対が崩れた。

 

俺と同じように影にいたあの方が今はいない。

 

俺がもっと森の巡回に力を入れていれば、魔人の情報をもっときちんと持ってきていれば。

隠密として、俺は今回の件でラルタ様にとってなんのお役にも立てていない。

ラルタ様との繋がりが、己が役に立つ事を示すことで繋がっていた細い繋がりが他所の魔人に断ち切られた。

 

ラルタ様が帰ってきて、この繋がりは元通りになるか?いやきっとならないだろう。

俺はどこかで慢心していた。リムル様と俺との間に繋がりがある限り、ラルタ様との繋がりは途切れないだろうと。普段のラルタ様の俺に対する態度から切り捨てられることは無いだろうと。他者によってあやふやになる程の繋がりであると気づいていなかった。

 

ラルタ様が帰ってこられたら、一度殴って頂こう。己への甘えを二度と許さぬために。

 

 

 

 

 

あの頬を伝う涙が鮮明に思い出せる。あの震えた謝罪の声が鮮明に思い出せる。

シオンを抱えるラルタ様のお姿はやけに小さく見えた。だってあの時のラルタ様は子供でしかなかった。まるで大切にしていた物を壊された時のような、己の失態への裁きの時を待つようなの小さく弱い子供でしかなかった。

 

ああ、そうか。俺はそんな子供の手を取れなかったのか...。

ずっと円の外にいるラルタ様をこちら側に引き入れたかった。そのために出来る限りのことをしてきたつもりだった。少しずつでもその距離が縮まっているのだと思っていた。

 

それがどうだ。伸ばした手はラルタ様には届かなかった。俺の手を取ってくださらなかった。

物理的な距離じゃない、心の距離。俺はあんな小さな子供の心に寄り添っていなかった。

それなのに、何も知らずに我が物顔でこちらへ引きずり込もうとしていた。

 

不甲斐ない。なんて自分は愚かなのか。

結局、こんな大事が起きてやっと気づいたではないか。この二年間、一度だってラルタ様の心に寄り添ってこなかった。ラルタ様は俺達の心にずっと寄り添ってくださっていたのに。

 

あの笑顔の裏で貴方は何を考えていたのだろうか。毎日何を思っていたのだろうか。

今からでもその心に寄り添えるだろうか。その心に触れることが許されればこの疑問もわかるのだろか。

 

そうすれば貴方をこの円の中に引き入れることが出来るのだろうか。

いや、それすらも我儘なのかもしれない。ラルタ様はそんなこと望んでいないのかもしれない。でも俺はあの方に一人になって欲しくない。行く宛てもなく一人でどこかを彷徨わないで欲しい。

 

「気にしなくていい」なんて無理な話だ。だって貴方は大切な方だから。この二年間の俺の愚行は消えなくともこれからはまだ分からないのだから。もう一度だけ、貴方の心に触れるチャンスをくれ、貴方に手を伸ばすチャンスをくれ。貴方の涙を俺に拭わせて。




他に誰か見てみたい視点とかありますかね?
本編に少しずつ混ぜて行けたらとは思ってるんですが。

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