転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第36話...神之怒

魔国連邦(テンペスト)首都「リムル」より西方面

神殿騎士団(テンプルナイツ)駐屯地兼四方封印魔結界(プリズンフィールド) 展開基点

 

そこで一人の人間の脳天が貫かれた。隊長と呼ばれるそれなりの地位の男が為す術なくその体を地に落とす。───それは開戦の合図。

 

 

 

 

四つの制御装置のうち、西を残す全ての装置の破壊が終了した。その場にいた人間は全て殺され、喋る者はもういない。

 

西側でも口を開き物言うのはただ一人となっていた。ショウゴ・タグチ、町を襲撃した異世界人のうちの一人である。

 

駐屯兵は物言わぬガラクタと成り果て、装置の破壊も完了した。

キョウヤ・タチバナはハクロウの手により首を転がされ今なお、思考加速によって引き伸ばされた時間の中、無駄な自問自答を繰り返しているのだろう。

 

声で人を操る能力を持つキララ・ミズタニは最もこの作戦において邪魔であり、速やかに殺す必要があった。確かにその作戦は予定通りに進んだ。異世界人の中でキララは最初に死に、他の戦闘への支援を行わせはしなかった。

しかし、一つ誤算があった。キララを殺したのはテンペスト陣営の者ではなく、ショウゴであった。

 

仲間殺しを行ったショウゴをゲルドは買いかぶっていたと言う。彼は武人ではないと。

ゲルドは失望と怒りの中、ショウゴを地獄へと落とした。「生存者(イキルモノ)」を手に入れたショウゴは果てしない暴力の中、死にゆくことも出来ぬ体をただ憎むことしか出来ずにいた。頭は恐怖にのまれ、その口から出るのは謝罪の言葉のみ。

 

引導を渡す時が来た。痛みを与えず、一瞬で。確かにゲルドは逃げ惑うショウゴの頭へと武器を振り下ろした。

 

しかし、手応えがない。

それは目に見えぬ壁に阻まれたような感覚であった。

 

「ふむ...生き残ったのはショウゴのみか。儂としたことが魔物共の力を見誤っておったようじゃな」

 

ラーゼンと呼ばれたその老人はショウゴを気遣いすぐさま離脱しようとした。しかしそれではゲルドにとって都合が悪い。ここで確実に襲撃者三名、その全てを葬っておきたかった。

 

走り出したゲルドをハクロウが止める。

当たるギリギリで激しい爆発がおき、ゲルドはその体を傾けた。よろめきながらも後退したゲルドはその老人が只者でない事に気がついた。喉が一つなる。

 

「カカカッ鋭いジジイよ。伊達に年を食うてはおらんか」

「貴様のような老いぼれに言われたくないのう。で、何をしに来た?よもや奴を助けにきたとは言うまい?」

「いいや、そのまさかよ。こう見えてこれは大切な体でな。無下にするわけにはいかぬのよ。でだ...お主らを相手取るのはちと手間だしの。ここを去るとしよう。なに、そう寂しがるな。生きておれば戦場でまた見まえることも───」

「それはない。貴様が向かう戦場には我らが主が向かうからのう。主らはやりすぎたのじゃ。決して怒らせてはならぬ御方を激怒させてしもうた。同情するぞ、楽には死ねぬじゃろう」

 

 

ラーゼンはハクロウの言葉を流してその場を立ち去る。あのラーゼンという魔法使いを逃がすのは苦渋の決断であった。

しかし、戦えばこの場にいる全員が死ぬ可能性すらあった。リグルやゴブタを巻き込むわけにはいかない。

 

 

リムルがラーゼンに遅れをとることはない。ハクロウとてそれについて心配などしてはいない。それでもリムルの姿を思い浮かべて顔を顰めてしまうのだ。

 

リムルはラルタを心の支えとしている。それがハクロウにはわかっていた。

己のしたい事を汲み取り、思考し、最善を尽くし、そしてずっと隣にいる。リムルにとってラルタという存在は完璧であり当たり前であった。それは確かな信頼であるのかもしれない。

けれど信頼を寄せようとも今この瞬間、ラルタがいないことには変わりなく現状さえもわからない。

リムルの支えが揺れてしまっている。それが魔王への進化に影響しなければ良いのだが。

 

───我らが主は困った方じゃ。その事実に本人すらも気づいていないのだから。

 

 

 

 

 

 

俺の眼下で兵士達が今から殺される事も知らずに、魔物を甚振るその瞬間を今か今かと待っている。ある者は己の抱く正義のため、ある者は己の愛する者のため、ある者は己の私欲のため。理不尽で傲慢な思想を抱く者達が神の名を借りてシオン達を殺した。

 

 

二万にも及ぶ人間達が、餌にしか見えない。

愛する者の死がこうも俺を変えるのか。

三上悟、お人好しで悪を知らぬ人間。転生して力を得ても変わらぬと思っていた心。

 

それにさよならを告げよう。

そして、はじめましてと言おうじゃないか。リムル=テンペストという心に。無慈悲で非道で横暴な理不尽な心に。魔物として、魔王としてのこれからに。

 

 

これは俺の魔王となるための前奏曲。奏でたるは無様に死にゆく人間の悲鳴。そこに外れる者があってはならない。

たかが人間風情が俺の進化の糧になれるのだ。

その命が罪の贖いになるのだ。

なんと光栄なことか。

 

空へと静かに手を掲げる。

この為に開発した新たな術式が静かに展開された。悲しみはもう…終わりだ。

 

魔法不能領域(アンチマジックエリア)、設置完了しました。敵軍は魔法の使用が不可能となりました》

 

誰一人、逃がさない。

 

「死ね。神の怒りに焼き貫かれて...“神之怒(メギド)”!」

 

 

 

その瞬間からファルムス王国軍にとって長く短い悪夢が始まった

 

それは正に天災だった

 

老兵も新兵も、悪意ある者もそうでない者も、強者も弱者も

 

等しくその命を奪っていく

 

光を視認すれば誰かが死んでいる

 

不幸にも考える余力のある者は悟った

 

 

ファルムス王国は神の怒りに触れたのだと




次回からはラルタ回

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