転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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⚠︎最初から最後まで拷問シーンです。
できるだけオブラートには包んで書きましたがそれでもグロいです。お気をつけください。
時間軸としてはリムルがテンペストに辿り着いた辺りから始まります。


第37話...心的損傷

これは夢だろうか、いや夢でなくては困る。

 

俺よりもずっとずっと大きいリムルが俺を見下ろしている。リムルの腰あたりにある台に座った俺は本当にちっぽけでそこら辺に転がるゴミのように無意味な存在でしかなかった。あたりは異様に真っ黒で不明瞭。リムルの黄色い目だけが淡く光っている。

 

『──────ラルタ、お前に間違いは許されていない。失敗は許されていない。完璧であれ、そうでなければお前に価値はないのだから』

 

あれ?どこかで聞いたことがある。

一語一句、違わずに言える言葉。父が俺に言い聞かせ続けた言葉。この言葉を言われる時はだいたい俺が期待に添えなかった時だ。

でも、大丈夫だ。次がある...父はこの言葉の後に俺を折檻して、その後また機会をくれる。

 

俺はリムルの期待に添えなかった?何に添えなかったんだろうか。思考があやふやで何も思い出せない。どうして、こんなにリムルの視線が怖いのだろうか。

 

音もなくリムルの手が伸びてくる。知っている。この手は俺を殴る手だ...でも、それが終わったら俺を撫でてくれる手だ。価値を教えてくれる俺だけの大切な...お父様。

 

ああ、違う。これはリムルだ。リムルの手だ。

なら、次はない?もう終わり?わからない。

 

小さな俺の体をリムルの手が包み込む。その手は妙に力が篭っていて、潰されてしまいそうで。

 

『リムル...ちょっと、苦し、い』

『ラルタ、もういいよ。お前はもう要らない』

 

潰れる音が聞こえた。血が流れる、骨が砕ける、視界が白んでいく。何もかもがグチャグチャで、何も分からない。

──────でも、一つだけわかった。俺はリムルにとって無価値に成り果てた。

 

 

 

 

 

 

バシャリ。氷のように冷たい水が、俺を夢から引きずり出した。

 

「あっ...?、な...あ?」

「なぁに?せっかく起こしてあげたのに、まだ寝惚けてるのぉ?あれ!どうしてそんなにぃ壊れた玩具みたいな目をしてるのぉ?悪夢でも見ちゃったぁ?ラルタ=テンペスト」

「......あっ、クソ女」

「ほんとお口悪いんだからぁ、ムカつく。まぁいいわぁ。はじめまして、ラルタ=テンペスト。私はヒエラルテっていうの、お父様がいらっしゃるまでの間だけどぉ、よろしくね?」

 

 

ヒエラルテと名乗った魔人。不愉快に甘ったるい声に目障りな笑み。やっとクリアになった視界には俺の首を掻っ切った鎌が見て取れた。

 

 

俺とヒエラルテの声の響き方や、土の匂いから言ってここは地下牢だろうか。

そして自分自身の現状...拘束椅子とでも言うのだろうか、ご丁寧に手足や首を拘束されている。服が申し訳程度の布切れになっているところから見ても俺のこの場での待遇は囚人を彷彿とさせる。

 

少しだけ身動ぎをすれば、簡単に壊せそうに見えた木製の椅子はビクともせず、鎖が虚しく音を立てるだけだった。

 

なんだ?力が入らない。それにこの部屋は妙に寒い。壊せないならばと人化を解こうとしても何故か出来ない。

 

《告。何らかのスキルにより改変された多重結界に囚われました。空間干渉系の能力、魔法系統の能力、魔力感知が結界の圧力により使用不可。また、結界を改変しているスキルと同じものによって、主様(マスター)の耐性が無効化、固有スキル「人化」の解除ができません》

......詰んでる。逃げる手段を端から端まで潰されてるじゃねぇか。スキルってのはこの女の?

《是。個体名ヒエラルテのスキルで間違いありません》

耐性無効か。俺が首を切られた時も痛みと熱を感じた...鎌を通して入り込まれたか。

多重結界は?町にいた時よりかは酷くないけど、魂を基点に俺に干渉してる力はどうなってる?

《解。多種結界はヒエラルテの改変を受け、主様(マスター)を拘束している鎖を基点に発動されている模様。結界内では魔素が浄化されるため、近侍者を外に出すことはできません。また、現在未知の力の干渉は確認されていません。》

 

まずいな、何から何まで最悪だ。

「気にするな」なんて建前を言った以上、リムルがこんな無価値のガラクタを迎えに来る理由はない。テンペストに帰るかは置いといて、ここでこの女に殺されるなんてのは癪だ。

けどどうする?ヒエラルテのスキルはご都合主義を煮詰めたように俺に都合の悪い事しかしてこない。隙を突くしかないか?

 

 

「先程お父様から連絡があったのぉ。少し所用が出来てしまったらしくて、少しだけ遊んでていいらしいの!だから、ね?少し私と楽しいことをしましょう?」

「は?何言っ...イッ...あ゛ッてめぇ本当にクソ女だな」

 

ヒエラルテがさらけ出された太ももにナイフを突き刺した。鋭い痛みの後に広がるような熱さがやってくる。ナイフが抜かれるとすぐに血が溢れて木製の椅子にシミを作った。

「楽しいこと」の意味を理解した。この女が俺にしようとしていることは意味の無い拷問。

 

 

「あれぇ、もう自分がこれから何されるかわかっちゃったの?理解が早いのも考えものねぇ。何もわからないまんま壊れちゃったほうが幸せだったろぉに」

 

視界が布で覆われる。

 

 

 

 

 

そこからヒエラルテは俺の爪を剥ぎ、指を切り落とし、体をナイフで突き刺した。やっとの思いで近侍者が俺の体を再生させても、また体からは血が流れた。気を失ってもすぐに電流が流され無理矢理覚醒させられる。

ナイフには有毒植物の毒だけを凝縮させたという液体が塗られ、嘔吐、呼吸困難、不整脈、痙攣、それらが俺を襲った。

 

気が狂うとは正にこの事だ。

終わりのない苦痛が確実に俺を弱らせていく。それでもまだ近侍者の自己再生を止めないのは、まだ生きていたいから。大概俺も馬鹿だと思う、こんな苦痛を受けてもまだ終わらせたくないほど輝かしい一生ではなかっただろうに。

 

 

肉が無理矢理引きちぎられ、爪が床に落ち、電流が流れ、鉄が擦れ、木が軋む音。

 

毒と血と鉄の混じった匂い。

 

女の狂った笑い声と、俺の歪んだ叫び声。

 

 

涙は目を覆う布に吸われ、吐瀉物が俺の喉を詰まらせた。呼吸が出来ずに苦しめば、水を注がれ吐き出される。少しずつ増えていく回数が明らかに俺の思考を鈍らせ疲労を貯めていく。

 

唯一排泄物を垂れ流されるのだけは嫌らしく、定期的にヒエラルテの浄化魔法が俺の体内を駆けずり回った。

 

 

意味のある言葉を発したのはだいぶ前のような気もすればついさっきのような気もする。

それでもまだ正気を保っていられたのは助言者が絶えず警告を鳴らし続けてくれたからだ。

 

でも、それももうダメだ。

助言者の声は耳鳴りの中に埋もれていく。生命線とも呼べた声がブツブツと切れ、聞こえなくなった。

 

その時だった、さっきまで座らせれていた椅子が消え地面に経たり落ちる。鎖は瞬時に姿を変え、手を後ろに足を地面に固定した。首輪から伸びる鎖が壁に結ばれ、完全に頭を下げることを否定する。

 

 

「ひぎっ...あ゛ッなに...イヤッ」

 

体をよじ登る数匹の何か。大きさも様々なそれはまるで指示を待つかのように、ただ俺の体の表面を行き来した。

 

───視覚を奪われ、聴覚もまともに機能していないラルタには“何か”でしかないそれの正体は蛇であった。ヒエラルテのサディスト的趣味のために持ってこられた蛇たちは酒漬けにされ錯乱し発達した嗅覚が流れる血を頼りにラルタへと襲いかかる。

 

 

「あ゛あ゛!ッ...あ゛イ゛タィっ、イヤァ!!」

 

 

二本の針が首筋に入り込む感覚。

それが最初。その後すぐに足に腕に首筋に感じたものと同じ激痛が走る。体の表面をのたうち回られ、治りかけていた切り傷を抉るようにまた激痛が襲う。少しすれば、瞬間的な痛みから焼けるような痛みに変わり、そしてそれは内側へと広がって行った。

 

先程のヒエラルテから直接与えられていた痛みとはまた違うそれに叫び声をあげることしか出来ない。俺が人間だったなら今頃とっくに死んでいる。死ねずにいるのは幸か不幸か。

 

 

どれだけたったのか、異変は起きた。

開きっぱなしであったそこに細長い、動く何かが侵入してきた。舌の上を湿った何かが滑り、食道を押し広げながら進む。それに続くように服の中に潜り込んでいた物も肛門から体内へと侵入してきた。

 

体内で暴れ回るそれは臓器に行き当たり、そしてその肉壁を突き破った。想像を絶する痛み。きっとこの世にこの痛みを表す言葉はないだろう。

 

これでもまだ死ねぬなら、やはりそれは不幸だ。

 

 

 

 

 

 

口に手を入れられ体内で動かなくなった何かが食道を逆流して取り出された。もう一匹も同じように取り出される。

 

「...蛇が死んでる?ははっ!なるほどねぇ、自分の血を猛毒にして蛇に摂取させて殺したんだぁ。死なれたら困るからぁ、弱めの毒蛇にしたけど...これならもっと強い毒を持った子でもよかったなぁ」

 

 

痛い、苦しい、熱い、寒い。

体の震えが止まらない。呼吸の仕方がわからない。視界がやけにチカチカする。

体は限界を容易に超えていた。声を発する力もなく、時たま歯と歯がぶつかり合う音がするだけであった。

体が浮いているようで、着地点も分からぬままぐるぐると回っている。目の奥が乾いて、眠くて仕方がない。

久しぶりに与えられた静寂に喜び、壁に体を預けて眠りにつこうとした。

 

それを阻んだのは額に落ちた一滴の氷水。

突き刺すような冷たさが体を震わせ、緩んでいた脳を叩き起した。

 

「ラルタ=テンペスト、私は少しだけお父様と連絡をしてくるわぁ。寝ちゃダメよ?まぁ寝れないでしょうけど...じゃあまた明日ね!」

 

 

ヒエラルテの足音が遠のき、重い扉の音が響き渡りあたりは静寂に包まれた。

しかし、その間も一定の感覚で額に水滴が垂れてくる。これもあの女の趣味の一つなのか。

 

 

次々と与えられ続けた身体的苦痛が消え去り、すぐに助言者が俺の体の修復に取り掛かった。

傷を消し去り、体に残った毒を完全に解毒していく。新しく増える傷も毒もなければ案外すぐに体は拷問を受ける前と同じ正常に戻った。

痛みも消え、絶えず鳴っていた耳鳴りも止んだ。呼吸も問題なくできる。

 

体の回復が完全に完了した事を助言者が報告し、この場にはやっと安寧が訪れた。

魔法で生み出しているのか、冷たい水滴だけが絶えず俺の額に落ち軽い音を立て続けている。

 

 

先程の責め苦に比べればなんてことも無い。たかが水滴。しかし、確実にその水滴に俺はストレスを感じていた。弱った体にとってそのストレスは確かに大きなものであった。

 

相当な時間眠れていないはずなのに、一定間隔で落ちてくる水滴が睡眠を妨害した。俺の体は睡眠を必要とする。...いずれ、気絶するのを待つしかないか。

 

 

 

 

 

 

 

ずっとこちらを見てくる目がある。

淡い黄色の目が、瞬きすることなく俺を見てくる。それだけじゃない、紅の目が、蒼い目が、朱の目が、紫の目が...たくさんの目が俺を見つめている。

そして俺の耳に囁く声がするんだ...「要らない、無価値」だと。

 

 

光のない目を持つ真っ黒な影が俺を責め立てながら近づいてくる。逃げたいのに、体が鎖に繋がれて動けない。

 

一滴、一滴、真っ黒な水滴が俺の体を伝い蝕んでいく。少しずつ体が溶けて、液状化していく体が黒に混ざって消えていく。

皮膚が溶けて肉が溶けて、臓器が流れ落ちる。

 

殺されてしまう。嫌だ、まだ生きていたい。

 

それなのに体は動かない。影が俺の生きる意味を否定していく。

「誰もお前が生きている事なんて望んでない」

 

違う、俺はまだ...俺が生きる事を望んでる。

 

このままじゃ、体が全て消える。黒に飲まれて何もかも無くなる。───嫌だ。

 

《確認しました。ユニークスキル「悲嘆者」を獲得......成功しました。》

 

嫌だ、嫌だ、嫌だ。

俺の体がゆっくりゆっくり消えていく。

俺を見る目が俺を焼き殺していく。俺を縛る糸が俺を切り刻む。俺の身につける服が俺を食い殺す。

 

紫の目を持つ影が俺を覗き込でいる。

 

「お前のせいだ」

 

 

 

 

 

真っ黒な世界が切り替わる。

目の前にいるのはなんだ?影かそれ以外か?

「あれぇ、ちょっと壊れちゃったのぉ?困るんだけどなぁ...どーしよっかなぁ」

 

女の形をした影が、俺に手を伸ばしてくる。

ダメだ。この影は俺を殺す。

 

俺だけはまだ俺を守っていなくちゃ...。

なら、殺される前に...殺さなきゃ。

 

 

《告。ユニークスキル「悲嘆者」の解析が終了しました。「悲嘆者」を使用します》

 

体を拘束する糸が砕けて落ちた。

 

「.........は!?ちょっ、なんで!」

「...殺す。殺す。殺す」

 

影の首に手をかける。

声を上げて暴れる影の首に力を込めた。逃がさない、ここで殺さなきゃ俺が殺される。

絶対に俺は俺を死なせない。

 

「がッ...あ゛ッ.....................」

 

 

影が動かなくなって、人っぽく形取られた姿が崩れて水溜まりを作り出す。

 

何かの激しい開閉音がして、バタバタと何かがこちらに近寄ってくる。影だ...俺に危害を加える影が、まだいる。

 

「なっ、ヒエラルテ!...報告だ!上に報告しろ!早く!!」

 

三つか?いや上?まだ、いるのか...。

今度はバタバタと影が俺から離れていく。

 

させない、逃がしてたまるものか。

壊しきれていなかった拘束を完全に切り離して、確かに足を進める。

 

全部、殺す。

 

主様(マスター)の意思に従い結界を張ります...成功しました。「魔法不能領域(アンチマジックエリア)」設置完了》

 

《個体名ヒエラルテを近侍者によって収集。解析を開始します。》

 

 

大丈夫、無価値でもせめて俺だけは俺を...愛してあげるから。




ユニークスキル「悲嘆者」...感じた恐怖を力に変換する

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