完全復活!枯渇していた魔力も戻った、ていうか倒れる前よりも増えた気がする。
「まぁリムル様、お加減はもうよろしいのですか?」
「あっ、あぁ。大丈...誰!?」
俺が寝ている間、俺を抱えていたであろう雌ゴブリンが明らかに姿形が変わっている。なんか、綺麗になった?
「リグルド様を呼んでまいりますね」
「あ、はい。」
「リムル様!お目覚めになられましたか!」
「おぉ、リグルド...誰!?」
「さぁ、こちらへ宴の準備が出来ております」
「おっおう」
ヨボヨボだったリグルドが影も形もなく消え去っている。素晴らしい肉体美だ。
よく見ると皆、なんかでかくなってるし...。
「我が主よ!!」
「あっ、リムル。おはよ」
足音もなく近づいて来た、異様な妖気と風格をまとった狼...まさか、ランガか!?
それに、横にいる人は一体...?
「えっと、ラッランガ。横にいる人は?」
「は?3日も寝てる間に俺の名前忘れたわけ」
「あっ、やっぱりラルタですよねー」
さすがに魂で繋がってるからわかんないってことは無いよ?ないけどさ!
なんで、お前まで姿形が変わってんだよ!
どうなってんだ、この村は!俺の寝てる3日で何があったって言うんだよ!
とまぁ、ひとしきりショックを受けた後、寝そべっているランガに埋もれながら色々考えた。
結果たどり着いた答えとして、俺の名付けで魔物の格が上がって進化したということ。
そして、ラルタの人化について。
これは普通にラルタに聞いた。どうやら、死食鬼の固有スキルらしい。
「それにしても、随分と美人に人化できるんだな」
「は?顔は変わってないよ。変わったのは髪色と身長くらいだよ。」
「は!?お前じゃあ、昔からその顔なのか?」
「何、悪い?」
どこか不機嫌そうに俺を見る顔。
明らかに美人である。これが、俺と同じ日本にいたのか。生まれ持ったポテンシャルに差がありすぎる。
まぁ、今はスライムだから顔なんて関係ない話なんだが。
めちゃくちゃ小顔だし鼻筋もスっと通ってる。
気になると言ったら目のハイライトがないこと。目が死んでる。口とか身振り手振りがあるから平気だけど、この目でボーッとされたら感情が死んだのかと錯覚しそうだ。
「見すぎ」
そう言うと、ラルタはそっぽを向いてランガを撫で始めた。
嵐牙狼族に進化したランガはもふもふでラルタに撫でられてしっぽを揺らす姿はなんとも可愛い。まぁ、強いて言えば猫派なんだが。
でもまさか、俺の名付けたランガという名が種族名になるなんて、つくづく魔物って不思議。
▽
宴を終えた翌日。リムルは広場に皆を集めた。
昨日の宴、楽しかったなぁ。リグルドとか祭り好きみたいだし、頻繁に開催してくれるかも。
そんな先のことに思いを馳せながら、俺はリムルの横にハイエナの姿で寝そべっていた。
ランガ達がめちゃめちゃ大きくなったせいで(喜ばしいことだけど)、俺のハイエナ姿の風格がさらに落ちた気がするけど、リムルが目覚めたなら風格なんて出さなくてもいいのだ。
会議の内容は、ルール決めと役割分担。
ルールは簡単に3つ。
①仲間内で争わない。
②他種族を見下さない。
③人間を襲わない。
このルールは当たり前に俺にも適用されるわけだから、実質死肉は魔物の物に限定された。
役割分担に関しても簡単に決まった。
リムルはリグルドをゴブリン・ロードに任命して大体のことをぶん投げた。
ここまでは良かったんだけど、
「建て直してこれなのか?」
「お恥ずかしい話です...」
「ちょっと、俺たちはリムルが寝てる間からコツコツ頑張ってたんですけど」
ここに来て、技術力のなさが問題に上がった。俺的にはこの家でも満足だが、リムルの審美眼にはかなわなかったらしい。
元々、リムルが寝てる間から始めたことだけど結構難航したのだ。大体物っていうのは壊すのは簡単でも直すのは難しい。
最初の方は建てても直ぐに倒れちゃってまた建て直すの繰り返しで何とか今こうして形になっている。
でも確かに、俺は満足でもリムルや皆からしたらもう少しちゃんとした家に住みたいという気持ちがあるのかも。
「こうなると技術者との繋がりが欲しいな...」
「あ!今まで何度か取引した事のあるもの達がいます。器用なものたちなので家の作り方も存じておるやも!」
「ほう?取引相手か。何ていう者達だ?」
「ドワーフ族です」
ドワーフ?
《解。ドワーフとは知的好奇心に富み、手先が器用な種族。主に鉱山を開発し、武具・防具・宝飾品などの生産を行っています。》
なるほど、確かに今の状況にうってつけの種族だ。どうやらドワーフの王国があるらしく、リムルが直接交渉に行くらしい。
「ラルタ、お前は...」
「俺は残るよ、ヴェルドラがいなくなって森は混乱してる。何が起こるか分からない状況で俺もリムルもいなくなるのはまずい。そう言いたいんでしょ?」
「あぁ、頼むよ」
こうしてリムル一行は、昼にはドワーフ王国に向けて出発して言った。
でも、これからリムルが外に出ることが増えるとなるとこうして俺が村の代理主をやる回数も増えると言うことだ。めんどくさいな...。
リグルドもいるし、適当にやってればいいか。
リムルが帰ってくるまで、何も無いといいけど。
「リグルド、俺は少し森の方に行く。魔力感知でこっちの方にも意識は向けておくから安心しておいて」
「はい、わかりました。ラルタ様がお出かけの間はこのリグルドにお任せ下さい」
謎のマッスルポーズを決めているリグルドに見送られながら俺は森の方に進んだ。
実はリムルがいない間に1つやっておこうと思った事がある。それは戦い方の模索だ。
牙狼族との戦闘中にも思ったけど、ハイエナの姿は戦闘には不向きだ。もしかしたら俺が上手く扱えてないだけなのかもしれないけど。
ハイエナの姿は走ったり散策に出る時は人の姿の何倍も便利だから使い分けていきたい。
それなりに歩くと川が見えた。魔力感知で使えそうな場所をピックアップしておいたうちのひとつだ。
俺は人化して、その川の前に立つ。
戦い方の模索と言っても、実は助言者と話して目星をつけていた。
「魔法」、これを身につけたい。言ってしまえば戦闘では後方支援を行いたいという事である。
助言者、魔法を身につけるとしてどうすればいいの?
《解。魔法とは何らかの効果を正じさせるイメージを、特定の法則に則って具現化するものです。》
えっと、つまり。イメージ次第で魔法の種類が変わるの?
《肯。元素魔法の習得を推奨します。》
元素魔法ってのは何。
《法則を紐解き、世界の真理を探ることで奇跡を起こす詠唱魔法です。体内魔素を着火源として用います。》
なるほど、俺は確か詠唱破棄を持ってるから詠唱は省いていいんだ。
後、もう1つ聞きたいんだけどさ。魔法を身につけようって話になった時、魔法は諂諛者と相性がいいって言ってたよね。理由は?
《解。諂諛者の血液を用いることで魔法を行使する際の魔素を最低限まで抑えることが可能です。また、血液を用いることで離れた場所でも魔法を使うことができます。他にも、諂諛者に魔素の管理の一部を任せることで諂諛者のみが独自で魔法を行使できます。》
離れた場所ってことは、もし俺が血液を村の方まで持っていって、ここで魔法を発動したら向こうでその現象が起きるってこと?
《はい。》
まぁ、それをするにも諂諛者との折り合いが必要なんですけどね。
さすがに今の俺と諂諛者の関係で遠隔操作は厳しいから、使い方としては武器っぽくして浮かせてる血液に魔法を纏わせるとかになるかな。
とりあえず!魔法って言ったら火な気がするから火からやってみよう。
俺は手を前に掲げて念じる。
火よー、出ろ!出ろ!火ーーー!
その時、血液が俺の手の先で血液が球体を作り燃えだしたのだ。
これ、成功ってこと?助言者!
《火属性魔法の獲得に成功しました。》
おぉ!この調子で他の属性も獲得しよう。
俺はこの瞬間、この世界に生まれ落ちてから今まで1番テンションが上がっていたと言っても過言では無いだろう。
何日かかけて全ての属性を網羅した。
次はどうしようか、やっぱり動かせるようにしなくちゃ始まらないよな。よし、今日からは生み出した魔法を動かせるようにして、戦い方を増やしていこう。
最近では通い詰めになりつつある川沿いに向かおうと立ち上がった時だった。
「ラルタ様、お出かけになるところ申し訳ありません」
リグルドから話しかけられた。
どうやら来客が来ているらしい。ゴブリンの族長たちらしく、この村の守護者となったリムルに面会を申し込んできたようだ。
だけど、リムルが不在だから代わりに俺が出なくちゃ行けなくなったわけだ。
今日の魔法練習は中止だな...。
最近上がりっぱなしだったテンションが落ちるのを感じた。
「この村の守護者である、リムル=テンペストは不在だ。助手である俺が代わりにお前たちの話を聞いてやる。言ってみろ」
リグルドが案内した部屋には4人のゴブリンがいた。
「急な訪問、申し訳ありません。リグルド殿の集落の守護者となった貴方様方の勇姿を聞き及び、どうか配下に加えて頂きたくこちらに参りました」
正直言ってめんどくさいと思った。
なんで、こんな時にリムルはいないのか。なんで俺はリグルドに任せず自分で出向いたのか。
話を聞くと言った手前、理由などについてもきちんと聞いた。
まとめるとこうだ。
ヴェルドラの消失により森で覇権争いが起きた。自分たちには抵抗するすべも無くとほうにくれていたところに別の村に守護者が誕生した。残された道が、その守護者への服従しかなかった。
「話はわかった。最終的な決定を出すのは俺ではないが...」
俺は足を組んで、天井を見遣り考える。
これから先縄張り争いが起こる可能性をリムルは示唆していた。それならば今ここで取り入れてしまった方がいいのかもしれない。
この村の人手も十分とは言えたものじゃない。
「リムルの判断が下るまでこの村に滞在することを許してやる。1度戻って村のヤツらを連れてこい」
「あっ、ありがとうございます!!」
「くれぐれも、内乱など起こさないように」
俺はそう言い放つと部屋を出た。
リムルならこうするだろうと思って滞在を許可したけれど、リムルが帰ってきてから怒られないといいな。
外に待機していたリグルドに各村か来るゴブリンの対処を任せて自室に戻ることにした。
リムルの代わりに主を務めるということは一時的な決め事を俺がやらなきゃ行けない。
助手だから問題ないと思っていたけれどこう何度も何度も決め事が続くなら、この役目も降りてしまおうか。
まだ日が暮れるには時間があっけど、魔法の練習をする気にもなれなくて人化を解いて眠りについた。
翌朝には村長達が連れてきたゴブリン達が大勢いた。思ったより多いな...。
「リグルド、人数が多くなって困ることも出るだろ。何かあったら俺に言って」
「はっ、ありがとうございます。ラルタ様」
俺は集まったゴブリン達を一掃する。
まだ、疑心暗鬼の者もいるらしくまとまりが取れていなかった。
「この村の守護者リムル=テンペストの代理である、ラルタ=テンペストだ。くれぐれも内乱だけは起こさないように。もしそんなことがあれば、全員殺す。俺の餌になりたくないならリムルが帰ってくるまで大人しくしていろ」
動揺の声や、小さな悲鳴が聞こえる。
俺はそれを無視することにした。
「リグルド、俺はまた森に行く」
「いってらしゃいませ」
元素魔法もだいぶ板について来た。これでもしなにかに襲われても戦えるだろう。
だけど、諂諛者とはまだまだ連携が取れないせいで理想的な戦い方ができるという訳では無い。
ゴブリン達がこの村に来て、また数日がたった。最初の脅しが聞いたのか内乱などは特に起きていない。俺が死食鬼だと知った時にはだいぶ騒いでいたが。
死食鬼だと言う度にこうも怯えられると気が滅入るのだが、どうやら
それならまぁ、怖がられても仕方がないのかもしれない。
「ラルタ様ー!リムル様が帰ってきましたよ!」
あぁ、やっとリムルが帰ってきたらしい。これでひとまずはお役御免である。
ステータス
名前:ラルタ=テンペスト
種族:死食鬼
加護:暴風の紋章
称号:なし
魔法:元素魔法
ユニークスキル:諂諛者、助言者
エクストラスキル:魔力感知
獲得スキル:熱源感知、毒霧吐息、身体装甲
耐性:物理攻撃耐性、痛覚無効、熱変動耐性ex
この話はだいぶ難産でした。
最初はラルタにもドワーフ王国に行ってもらう予定だったんですけど今のラルタが行っても話がタラタラ長くなるだけだなと思って留守番してもらうことにしました。
これから先、ラルタも精神的に成長させていく予定なので今より成長したらドワーフ王国に行かせてやろうと思います。
それから、この段階で元素魔法が使えるのは早いかなとも思ったんですがこの後の展開でリムルが一気に色んなスキルを獲得するのでそれに合わせると、今ラルタに元素魔法を覚えてもらわないとリムルとの強さ格差が広がりまくってしまう!ということで根気で覚えてもらいました。まぁ、17歳なんでスラムで生まれようと厳しい家で育てられようと魔法関連は興奮しますよね。