転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第40話...血で育った徒花

《......起きて、主様(マスター)。》

 

どこか聞いた事のあるようで聞いた事のない、優しい低音が俺の沈んだ意思を引き上げた。

耳が風の音を聞き取って、鼻が焼け落ちた大地の匂いを嗅ぎとった。凝り固まった体を伸ばして、震わせる。

何故かいつもより高い気がする視界が、一面に広がる朝日を捉えた。......朝がやってきた。

 

 

《おはようございます主様(マスター)魔王への進化(ハーベストフェスティバル)は無事成功しました。》

 

魔王への進化(ハーベストフェスティバル)......そういえば凄い眠気が襲ってきた時に聞こえた気がするかも。

 

ていうか、なんでいきなり魔王なんてなったんだよ。魔王ってあれだろ?豚頭魔王(オーク・ディザスター)と同じやつ...

《否。主様(マスター)は魔王種を既に獲得していた為、進化の条件を満たし真なる魔王へと覚醒しました。》

...よくわかんないけど、魔王種でも真なる魔王でもなんでもいいや。進化の条件ってのは人間の魂か?俺が残りの一万を殺した瞬間に魔王への進化が始まったし。

《その通りです。》

 

 

なら、俺の視界がいつもより高いのもお前が何故か男声で流暢に喋ってるのも進化か?

 

《解。進化結果を開示します。》

 

開示された内容は一晩のうちに行われたとは思えないほどに飛躍的な変化だった。

 

まず種族が死食鬼(グール)から屍食精魔邪鬼(ディアボリックグール)に超進化。

これによってやっと!やっと俺は一般的な死食鬼(グール)と同じサイズのハイエナになった。

なんならランガと同じくらいのサイズまで進化して欲しかったがこれはもう諦めるしかない。

なんかやけに毛がモコモコだから大きくは見えるし...。

 

新しく耐性も獲得したようで、防御面は鉄壁になった。

 

それから新しく手に入れたスキル。

 

ユニークスキル「背教者」

信用操作︰信頼関係にある者同士の信用を強制的に不信用に変える。

信仰操作︰神聖なものを信仰する者の信仰を強制的に軽侮に変える。

強制敬虔︰上記二つの権能によって操作された者が持っていた信ずる心を強制的に向けさせる。

搾取︰敬虔してくる者の能力を奪い取る

 

つまりは精神操作系のスキルか。

抵抗されない限りは思うがままに相手を動かして要らなくなったら貰うものを貰って捨てればいい。なかなかに理にかなったスキルだ。

 

それから俺の持っていたユニークスキルが統合されて究極能力(アルティメットスキル)というなんか凄いスキルに進化していた。旧個体から引き継いだ能力は最適化されより強力なものになった。

 

 

究極能力(アルティメットスキル)叡智之王(メーティス)

『思考加速・解析鑑定・並列演算・詠唱破棄・森羅万象・統合分離・未来攻撃予測』

 

究極能力「悪心之王(アカ・マナフ)

『収集・倉庫・隔離・血液・悲蔵・造形・排斥』

 

究極能力「繚乱之王(サルワ)

『能力改変・法則操作・耐性無視・万能結界』

 

権能が移動したり統合されたりはしているが、大体はそこまで変わってないようだ。全てが桁違い強くなってはいるが...。

叡智之王(メーティス)」と「繚乱之王(サルワ)」は理解できた。進化前のユニークスキルと同じ使い方でいい。

 

問題は、「悪心之王(アカ・マナフ)」だな。

『悲蔵・造形・排斥』この三つがよく分からない。

 

《解。「悪心之王(アカ・マナフ)」は進化によって主様(マスター)と完全に同化しました。

「悲蔵」は主様(マスター)や他者の悲しみを魔素に書き換えて収集し倉庫に貯蓄できます。

「造形」はユニークスキル「近侍者」が行っていた血液での変化を権能化したものです。権能化により、「悪心之王(アカ・マナフ)」が特定の造形をもって活動可能です。

「排斥」は主様(マスター)より下位の存在から受ける攻撃を全て無効化します。

 

また、「悪心之王(アカ・マナフ)」が主様と同化した事により主様の体を液状化する事が可能です。》

 

液状化すると何の利点がある訳?

 

《......コレで体を刺してください。》

 

一瞬押し黙ったメーティスが“コレ”と言ってナイフを地面に落とした。カラカラと音を立てて跳ねるナイフは明らかに鋭利で軽く刺してくださいと言うには危険すぎる。

 

だが利点を理解するのに必要だと言うならばやるしかない。

人化してナイフを手に取る。そして思いっきり腹を──────刺さらない。

 

ナイフの先は確かに体の中に入ってきているのに刺さっていない。ナイフが入った部分が液体のようになって沈んでいる。

試しに手首に突き刺してみればそのまま俺の手ごと貫通して地面に刺さった。

手首に空いた穴は瞬時に黒い液体が広がるって元通りになった。

 

なるほど、同化して液状化できる利点はコレか。全ての物理攻撃は貫通して、魔法系統は俺の体に当たれば液体の中に沈みアカ・マナフによって収集される。

 

ふと閃いて体が液体になる様を想像すれば手の方からドロドロと解けて、腕であったものが黒い液体となって地面に落ちた。

俺が右に行けと思えば右に行き、左に行けと思えば左に行く。体を全て液状化すると不思議な感覚はあるが何の不快感もなく、広がったり縮んだりして動ける。人型に戻ろうと思えば黒い液体であった自分が元の形に戻って色も戻った。

 

なんかリムルの感覚が少しだけわかった気がする。

 

 

「......アカ・マナフ、お前の思う姿でいいから造形して出てこい」

 

影の方からドロドロと血液が溢れ出し、何かの形を作り出していく。

この血液、言ってしまえば全部が俺であってアカ・マナフなんだよなぁ...なんか気持ち悪くない?そんなことないか。

 

アカ・マナフが体を作り出すのをボーッと待っていたんだが、様子がおかしい。

まず一つ、デカい。多分ヴェルドラと同じ位ある。もう一つ、なんか見た目が不気味。

 

「......ア゛、繝ゥ繝ォ繧ソ...」

「ごめん、全然何言ってるかわかんないわ」

 

ヴェルドラ位の大きさの黒い液体。それがやっと形を定めて固まった。

表面は毛のようになって、全体的に見ると...ゴリラの形のネコ。三角の耳に長いシッポ。謎に筋肉質な腕と足にはどちらも鋭い爪がついている。ボロボロの翼に光輪。それら全てが真っ黒。対の目だけが緑色に光っている。

そして右手に握られた大きな魔剣。多分倉庫にあった材料で勝手に作ったやつだろう。

これ、俺でもあるの?

 

 

「ヴゥア゛、縺九▲縺薙>縺、?」

「まっじで何言ってんのかわかんない」

 

ていうかなんでこいつ話してんの?

《解。主様と同化した事で声帯を獲得した模様です。》

翻訳してもらっても?

《......不可能です。》

 

 

「縺九▲縺薙>縺、?」

 

キラキラした目?で俺を見てくる。

これはもう、勘で答えるしかない...大丈夫、いつかは分かり合えるさ

 

「あー、えっと...かっこいいよ」

「螫峨@縺!!」

 

シッポがめちゃくちゃ揺れてる。多分、喜んでるんだろう。

 

 

「アカ・マナフ、悪いけどもう少し小さくなれない?お前の本気は分かったからさ」

「アゥ?...繧上°縺」縺!」

 

元気よく返事だと思われるものをしたアカ・マナフが縮んでいく。

翼と光輪が姿を消して、魔剣も小さくなった。

二メートル位のサイズ感。

 

「よし、じゃあ戦闘の時はそのサイズで行こう。私生活で出てくる時はもっと小さくなって貰える?」

「縺?s...!」

 

またまた縮んだアカ・マナフはとうとう俺がハイエナの時と同じくらいになった。剣をしまってふわふわ感が増したというのに二足歩行なのが何とも可愛くない。

 

で、お前の声が急に男声になった理由は?

《...差別化です。》

誰とのだよ...

《ライバルです。》

 

 

 

 

 

 

スキルの確認も終わって島全体の探索を行った。大量の牢屋と看守用の部屋、それから監視塔。そこまで広くない島は予想通り監獄島のようだ。荒廃した様子を見るに使われてはいないんだろう。高い高い壁には一つの出口しかない。

 

残されていた書類は古いものだったが、ファルムス王国が所有する監獄島の一つだったことがわかった。技術の向上に伴って新しく作り直した際に放棄したらしい。

 

俺以外に捕まっているものいなかった。

この島はファルムス王国の港からは離れていて移動は酷く不便だ。それに何故か一隻も船がなかった。

......不自然に感じる。この島に俺が捕まっていたタイミングで一万三千もの人間がいることに。

俺の監視にそれだけの人数は不必要だし、ヒエラルテがいれば事足りたはずだ。

それにヒエラルテ自体も不自然だ。俺が捕まっていた約一週間、“お父様”という存在は姿を表さなかった。俺に用があると言っていたのに一週間もやってこないのはおかしいのではないだろうか。

 

それに、俺がこうして三つの究極能力を手に入れたのはヒエラルテから奪ったスキルと拷問によって獲得したスキルからだ。

そして魔王への進化に必要な一万の人間は都合よく小さな島の中に逃げる手段も持たずにいた。

 

まるで俺が真なる魔王へと進化して究極能力(アルティメットスキル)を得るために用意されたようだ。

 

気の所為だと言えればどれだけ良かったが、そう言えない理由があった。

 

人間達が所持していた書類によって分かったことだが、一万三千の人間たちはファルムス軍と神殿騎士団、そして──────セイジ・カミシロという貴族が王国に提供した冒険者達で構成されていた。

 

神代誠司、俺の父の名だ。偶然とは言えないだろう。

しかも一万人がセイジ・カミシロから提供された冒険者だった。進化の条件と同じ数。

 

──────父がこの世界にいる?

 

ヒエラルテが言っていたお父様が俺の父と同一人物の可能性がある。

 

セイジ・カミシロはファルムス王国の貴族だ。

カミシロファミリアという独自のギルドを組織し、国の軍隊の次の強さを誇る集団を作り出した。

 

もし、俺の進化を父が企てていたとしたら。理由は分からない...でも、父がこの世界にいるのかは確かめないといけないかもしれない。

 

父が狙っているのは俺だけだろうか。

リムルの事も狙っていたら?

でも、俺だけを狙っているのなら一人でカタをつけたい。俺の事にリムル達を巻き込めない。

 

どちらにしても、警戒するようには伝えないといけない。

...テンペストに帰ろう。皆は俺がノコノコ帰ってくることを許してくれるだろうか。もしかしたら、もう俺の居場所はないのかもしれない。

結局迎えに来てくれなかったし、俺は無価値だから。

居場所がなかったら伝えることだけ伝えて、国を出よう。

 

 

「...繝ゥ繝ォ繧ソ、ア゛ァ゛」

「ん?...っ、それ」

 

アカ・マナフが長い爪に指輪を引っ掛けて俺に差し出してくる。

俺のお守り。俺の価値を表してくれるもの。

 

受け取った指輪は所々欠けていて、罅が目立っていた。

 

《一度「悪心之王(アカ・マナフ)」に収集させることで修復が可能です。》

 

いや、いいよ...このままで。

 

右手の小指にボロボロの指輪をはめる。不格好で無様でよく俺に似合っていると思う。

 

 

 

杖に座って空へと飛び立つ。

杖の先で座るアカ・マナフの毛が風に靡いていた。

 

島を覆うように魔法陣が広がる。

壊してしまおう、ここは俺にはいらないから。ファルムス王国も破棄した島が無くなるなんてきっと泣いて喜ぶことだ。

 

魔王が生まれたちっぽけな島。

海に沈んで、長い年月をかけて消えていけばいい。

 




文字化けは意図的です。

ちなみに37話から40話までの話の副題は「初めての国外での思い出」です。

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