転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第45話...開戦前夜

会談が終わり、リラックスする間もなく始まった対クレイマン戦に関する会議。

 

 

続く張り詰めた会議にテンペスト陣営にも疲れを顔に現れている者もいるが、ここはもうひと頑張り。俺も何も話していないというのになかなか疲れてきたし、これが終わったらやけ酒でもしたいものだ。

 

気を取り直して。

ラミリスの話によれば、魔王達の宴(ワルプルギス)というのは元はただのお茶会だったらしい。最古参であるミリム、ラミリス、ギィの近況報告の場として存在していたのだとか。

それから新しい魔王が加わり、揉め事を解決する場へと姿を変えていった。

そして千年前、人間達が魔王達の宴(ワルプルギス)と呼称し始め、今ではそれが定着した。

 

 

それにリムルが参加する。

多少揉めもしたが、クレイマンだけでなくミリムの事も直接会う事でしか対処ができない。

ラミリスが上手く交渉してくれるらしく、従者二人までというルールを聞いたシオン達がその座を取り合って騒いでいた。

 

 

リムルの向かいに座って美味いのか不味いのか分からない紅茶を流し込む。

 

「やっと、シズの仇に会えるな」

「ああ、魔王レオン・クロムウェル...どんなやつなんだろうな」

「さーね、お前は魔王達の宴(ワルプルギス)を荒らしてくればいいだけだ。気負いすぎるなよ」

「それもそうか。......ラルタ、日が暮れたら俺の庵に来てくれ。二人で話したいことがある」

「ん?わかった」

 

俯き気味のリムルの表情はいつもより固く、明るいものとは言えない。

心配事も多いし、さすがのリムルも疲れや緊張があるんだろうか...。

 

 

 

 

 

 

やせ細った月が弱々しくテンペストの町並みを照らしている。明日にでも新月の夜がやってくるだろう。

会議が終わった後も、陣営の配置や情報収集などでまともに休めていない。これに関しては皆そうだから仕方がないか......。

 

 

言われた通りリムルの庵に行けば、縁側でスライム姿のリムルが伸びきっていた。

 

「原型留めてなくない?それ」

「どんな形でも俺はカワイイスライムだよ」

「うわキッショ」

「おい!」

 

声を荒らげるために跳ね上がったリムルがポヨンといつもの丸い形に戻った。

自分のスライム姿の可愛らしさを熱く語るリムルの横に腰掛けて本題に入る。

 

「話って何?」

「......今回の対クレイマン戦、お前にはクレイマンの城に直接向かってもらう」

「クレイマンの城?なんでまたそんな」

「敵の本拠地の調査が必要だからな。それにお前を攫った貴族の情報もあるかもしれない」

「...確かにそれはそうだけど。俺一人?」

「ああ、そのつもりだ。強敵がいても魔王であることを隠して戦うより一人で暴れた方がやりやすいだろ?」

「気が利くじゃん」

 

 

父がファルムス王国と繋がっているのは確定だが...クレイマンとまで繋がっているのだろうか。仮にも一国の貴族が魔王と?それか父が勝手にクレイマンのことを利用しただけか。

確かに調べてみる価値はある。何も無くても本題である城の制圧が出来れば黒字と言ったところ。気楽にやるか。

 

「話はわかった」

「悪いな、本当は自分を狙ってる貴族にだけ集中したいだろ」

「別に、国が一番大事だから...お前が気にすることじゃないよ。明日が本番なんだ、ゆっくり休め」

「ああ、ありがと」

 

小さな手......スライムの場合あれは手と言っていいのか分からないけれど、フリフリと手を振られてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「る...留守番...だと!?」

 

今宵は新月、魔王達の宴(ワルプルギス)が開催される日。

それに向けて着々と最終準備を行っているなか、ドンガラガッシャーンと聞こえてきそうなほどの雷がヴェルドラの声とともに驚いた。

まぁ比喩表現だけど。

 

必死に自分が魔王達の宴に行くことで得られる有用性をプレゼンするヴェルドラをよそにリムルは着替えを済ませた。

 

「言ったろ? 対クレイマン戦にはテンペストの全軍が出動する。町の防衛を任せられるのは、お前しかいないんだよ。頼んだぞ、親友」

「むぅぅ............」

 

 

項垂れるヴェルドラを残し「準備に出てくる」と言ってリムルは部屋を出ていった。

何かをブツブツつぶやくヴェルドラと俺だけが部屋には残されなんとも言えない空気感だ。

 

数秒間沈黙が流れたあと、ヴェルドラが大きな音を立てて立ち上がり広間へと向かっていった。

 

そして数分もせずに大層な落胆顔で帰ってきた。町にはリムルに言われた通り、町の防衛にうってつけの強固な結界がはられている。

 

 

ため息をつきながら座るヴェルドラを横目に窓を見やれば、住民達がヴェルドラの張った結界を喜ばしそうに眺めていた。

なんだかなぁ......。

 

「ねぇヴェルドラ」

「なんだ?」

「お前はアレでいいわけ? リムルの言う事ほいほい聞いて。暴風竜の名折れだろ...」

「別にそこまでは思っていない。我が魔王達の宴(ワルプルギス)に参加することは絶対に!リムルにとっていいことではあるが! こればかりはなぁ......」

「お前ってリムルの事になるとお利口だね」

「まぁ、あやつといるのは楽しいからな」

「でもさ...最近のリムルってなんか俺やヴェルドラの事......その...」

 

 

“配下のように見ている節がないか”

薄々感じていた違和感。

なんというのか、下に見られているとは違うけど、上から物を言われている感じがする。自分の言ったことを必ず相手が聞いてくれると思っているって言うか...。

周りがリムルを賞賛するやつしかいないからそう感じるだけなのかな...。

先の会談も結局はリムルの思い通りに事が進んだだけだし。あの会談も結局やる意味なかったよな、リムルの意思を凝固にしただけだし。

 

でもヴェルドラは何も思ってなさそうだし、俺の気にしすぎか?

俺から見たらさっきの光景はリムルがヴェルドラに命令したようにしか見えなかったけど。

 

 

「ふっ......なんでもない。忘れて」

「?...なら構わんが。言いたいことがあったら言っていいのだぞ?」

「ないない。言おうとしたこと忘れちゃったから」

 

やめよう。これ以上リムルに違和感やら不信感を感じてると、本当に

 

──────嫌いになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

『──わかった。では許可を出すけど、くれぐれも状況を見極めるようにな、無理はするなよ』

 

ベニマルからの回線を切って一つため息をこぼす。全く...あいつらはホントに自信家だ。

ラルタに調査に行ってもらうと言ったら城の敵を先に制圧すると言い出した。その作戦にシュナまで乗っかてくる始末だし。

 

陥落させるかはともかくだ。

フレイに連れ去られたカリオンが囚われている可能性はあるし、敵の本拠地の調査は必要だ。ラルタは中を、他は外を。それならラルタが魔王であることは隠せるし、効率も上がる。

 

それに...シュナの気持ちはわかるしな。

誰だって怒りたくもなる。

 

 

 

 

迎えが来るまでの間、ヴェルドラに他の魔王について聞くことにした。敵対する可能性が捨てきれなかったからだ。

 

ヴェルドラは何人かの魔王と戦った事があるらしい。

 

「二千年近く前だったか...我が戯れに滅ぼした吸血鬼族(ヴァンパイア)の都があってだな」

「戯れって...」

「そこを統べる女吸血鬼が魔王の一柱だったと記憶している。ヤツめ、滅茶苦茶ブチ切れておってな良い遊び相手になってくれたものよ」

 

何笑ってんだ...都を滅ぼしたのははさすがにやばいだろ。しかも戯れとか言って、悪気ゼロ。

ヴェルドラとの関係を知られたら俺まで当たりがキツくなりそうだ。

 

(おい、リムル。魔王達の宴(ワルプルギス)ではヴェルドラとの関係でいざこざが生じる可能性は覚悟しとけよ)

(わかってるよ、ただなぁ...戦争なんてなると面倒だが...)

(そしたらヴェルドラを差し出せばいい。満足した頃合に回収すればいいだろ)

(ラルタお前...ヴェルドラに当たり強くない?)

(さすがに都を滅ぼしたやつを擁護できる技量は持ち合わせてないよ)

(それもそうか)

 

 

ソファーの背もたれに座っていたラルタとコソコソ思考加速をしながらヴェルドラとラミリスの会話に耳を傾ける。

ラミリスの話によると吸血鬼族(ヴァンパイア)の魔王はけっこう前に代替わりしたらしい。今はヴァレンタインという名の男が務めているんだとか。

 

二千年前と聞くと大昔に聞こえるが、長命の種族ならほんの数百年前くらいの感覚かもしれない。ホントに吸血鬼族(ヴァンパイア)の恨みが薄れていることを心から願う。

 

「遊び相手と言えば巨人族(ジャイアント)の魔王、ダグリュールだな。何度か喧嘩したが勝負はついておらぬ」

 

ヴェルドラと戦える巨人か...なるべく敵対は避けたい相手だな。まぁ正確に言えば誰だも敵対したくないが。

 

「そういえば師匠ってギィと戦ったことないの?」

「む?.........うむ。奴ははるか北方に居を構えておるしな。あーんな何も無い所に行く必要もないしな!」

 

俺をぐにぐにと伸ばしながらヴェルドラが笑う。...何か誤魔化したな、てか伸ばすな!

 

「あとリムルが知らないのはディーノちゃんかな」

「ディーノちゃん?」

 

 

ラミリスにディーノちゃんについて聞き返したところで、ランガが立ち上がった。

傍から見たら変哲もない扉に唸り声をあげるランガを、ヴェルドラの腕から抜け出して撫でてやる。

......ついにこの時が来た。

 

「ランガ、大丈夫だ」

「しかし我が主」

「魔王からの招待なんだ。このくらい無礼で丁度いい」

 

 

 

「お迎えに参りました。ラミリス様」

強い風を巻き起こして現れたのは、仰々しい転移門。

中からヒールを鳴らして現れたのは、ディアブロと同種の威圧を放つ悪魔族(デーモン)──────それも最上位の悪魔公(デーモンロード)だ。

 

ラミリスにミザリーと呼ばれた悪魔は、俺も一緒にどうぞと告げて、ラミリスとともに先に門をくぐって行った。

 

ミリムにレオン、クレイマン。

ヴェルドラと渡り合えるような奴らに、悪魔公(デーモンロード)を従える魔王......この先は文字通り魔窟だな。

 

一つ、深呼吸をする。緊張しても仕方がない。

 

 

「......リムル」

「ん?」

 

一歩踏み出そうとしたところでラルタが俺を呼び止めた。視線を俺の足元に向けて、何を考えてるのか分からない顔で、静かに言った。

 

「行ってらっしゃい」

「ああ、行ってくるよ」

 

たった一言。当たり障りのない送り出しの言葉。それだけで、俺は随分と勇気を貰える。

さぁ、門を今、くぐろう。

 




次話はラルタ視点をやるので、魔王達の宴は大幅カットが入ります。原作と何も変わらないので、お許しください。

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