転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第48話...ひそひそ話

新月の夜、それは記念すべき第一回情報交換会が開催された夜となる。

前触れもムードもなく始まり、けれども双方の思惑と野望が確かに混じりあっていた。

これは協力関係か?それともただ相手を利用したいだけか?ならば、利用されるのはどちらだ?

 

ワインの匂いに包まれたその取引は酷く不気味でけれども甘美である。

酔いに任せてさらけ出せばいい、隠し事はあれど、嘘は無い。目も合わせず、肌も触れ合わせず、酒も交わさずともこれは共通認識。

 

立会人は要らない。

誰にも知られず始まり、そして終わるのだ。

 

 

 

「で? お前は俺の事をお父様から聞いてる様だけど、まさか自分の事は黙りか?」

「そんなに僕の事を知りたがってくれてるなんて嬉しいなぁ」

「思ってもないくせに...」

 

 

「──────中庸道化連」

足を組み直して、少年はその名前を口にした。

カリュブディス戦以来だろうか。

フォビオを言葉巧みに操ったピエロが所属する組織だ。

 

「ピエロが所属する組織の名前だな」

「そうだよ、僕はそこのリーダーをしてる」

「クレイマンも中庸道化連に所属してるのか?」

「ああそうだよ。元々中庸道化連はカザリームという魔王が引き連れていた組織だから。クレイマンは魔王カザリームが消えた後にその座を引き継いだんだ」

「魔王カザリーム、ね...死んだの?」

「生きてるよ。僕をこの世界に召喚したのはカザリームだから。今は僕が依代を与えて、共に活動してくれてる」

「召喚されたってことは異世界人か」

「ああ、日本人だよ」

 

 

少年が語った今の中庸道化連ができるまでの流れ。

 

二百年前、傀儡国ジスターヴを支配していた“妖死族(デスマン)の魔王”呪術王(カースロード)カザリームが新参であった魔王レオンに殺された。

しかし、妖死族(デスマン)であるカザリームは星幽体(アストラル・ボディー)を離脱させることで肉体的な死から復活できるため精神体のみで己の復活の準備を進めた。

そして依代とする肉体を得るため、異世界人を召喚した。それが目の前の少年だ。

カザリームは異世界人を自身の器とするため襲いかかったが、逆に敗北した。

少年は自身に敗北したカザリームを拾い上げ、肉体を与え復活させた。

その感謝と魔王レオンへの復讐心から、少年に従っているという。

中庸道化連のメンバーは少年とカザリームが連れていた四人のピエロ達。

クレイマン、ラプラス、ティア、フットマン。

彼らもまた少年を信じ、付き従っている。

少年を頂点とするピエロ達の組織、それが今の中庸道化連の姿。

世界征服を目指す組織だ。

 

 

「よくもまぁ、魔王であった奴に召喚されてそうそうに勝てたな」

「僕そこら辺は上手いんだよ」

「ああ、そうだろうな。随分と強いスキルを持ってこの世界に来たようだし...」

「君は僕の持つスキルがどんなものだと思う?」

「さぁな、知るかそんなの。でも...強いて言えば相手の攻撃が無効化できる能力を持っているんだろうな」

「理由は?」

「異世界に急に飛ばされて、急に与えられたスキルを我が物顔で使えるもんか。無意識下でも無効化が可能なスキルでもなきゃ戦えない」

「君って頭いいんだね」

「馬鹿にしてんなら、お前の頭吹っ飛ばすぞ」

「怖いなー」

 

カラカラと笑う少年。

ちんちくりんに見えてたけれど、案外大物なのかもしれない。

 

「で? リーダー様はたった今死んでるかもしれないクレイマンを心配してあげないの?」

「クレイマンは仕方がないよ、あれは弱いから」

「はっはは、サイテー。カザリームが知ったら悲しむだろうね?まさか自分が付き従うと決めた奴がそんなクソみたいな発言をするなんて。お前、本当に世界征服なんて望んでんの?」

「大元は一緒さ、ただ...カザリーム達とは行き着く先が違うだけ。僕の本当の野望を知ってるのは君のお父様だけさ。というより、誠司さんが隠すよう言ってきたんだ。皆には内緒だよ」

「はっ、つまりお前はお仲間を騙してるって訳だ。性格終わってんな」

「君に言われたくない」

 

 

少年が言うにはクレイマンの死は組織をいい方に動かすのだという。次の行動への一手もとれるとか。捨て駒にされるなんてなんて可哀想なクレイマン。他のメンバーも最後はゴミ捨て場に落ちていくのかな。

 

「クレイマンを殺した憎いスライムはリーダーとして始末しなきゃいけない。だからテンペストを裏切った子犬には色々聞きたいんだ、いいよね?」

「俺は犬じゃない」

「あっはは、でも君の死食鬼(グール)としての姿はふわふわしてて可愛いよ。人化してる時のその愛想のなさが上手く隠れてる」

「ほんっとお前と話してるとイライラするな」

 

 

少年が聞いてきた事は国としては情報漏洩を何があっても避けたいものばかりでだった。

国の組織構成、他国との国交状況、国の今後の方針、テンペスト内でのヴェルドラの立ち位置、その他諸々。

まさか自分がこんな胡散臭い奴に話す日が来るとは思っても見なかった情報達は、抵抗なく俺の口から漏れ出ていく。

 

 

「さすがテンペストの首相様、大体のことは知ってるんだね」

「“元”だけどね」

「あれ、なんで辞めたの?」

「いつかその役職が邪魔になると思って。怪しまれる前に捨てただけ」

「ふーん、まぁいいや。最後にリムルさんの能力について教えてくれ」

「リムルの能力、ごめん分からないや」

「は?」

「リムルは魔王に進化してスキルも強くなってる。究極能力なのは確実。でも、詳しくは分からない。俺が能力を隠してるせいで詳細の共有ができてないんだ」

「そこが一番重要なんだけどなぁ...当分はリムルさんの横にいるんだろ? なら情報を集めておいてくれる?」

「......はいはい、注文が多いやつだなぁ」

 

 

俺のため息を聞いてまた少年がカラカラと笑う。ワインももう尽きてしまったし、お開きの時だろう。

 

「お父様がいる場所はどこか教えろ」

「ファルムス王国の首都、そこの上層街にいる。カミシロファミリアの名前を出せばすぐに見つけられる」

「そう...お前はいつお父様と出会った?」

「前の世界でだよ、まさかこっちの世界にいるとは思ってもみなかったけど」

「そう、ありがと」

ソファーから立ち上がり、床に転がるワインボトルを回収する。

扉を開き、一度少年の方に振り返った。

 

「お前の野望、当ててやるよ」

「どうぞ?」

「“世界の破滅” お前も大概わかりやすいな。ふっ協力してやるよその野望。近々、俺は一度旅に出る。その時ファルムス王国に行くよ」

「なら、イングラシアにもおいで。そこで僕の顔を晒してあげる」

「......じゃあ、また会う日まで。美味い人間を期待してるよ」

 

 

扉が締まる。

薄暗い廊下には俺の足音と、扉越しに聞こえる少年の笑い声が響いていた。

 

やっと父の狙いがわかった。

少年の野望を俺と父だけが知ることで、結束を固めさせる。そして最後には使い捨てるつもりなんだろう。父の本当の目的が分からないから少年をどう利用したいのか分からないけれど、まぁ会えばわかる。

今はアイツと仲良くしてればいい。




次回は少しほのぼのさせたいな!私が疲れてきたよ、ラルタ!
もう察してる方もいらっしゃると思いますが、少年の野望はWeb版を採用しました。つまり、ここからWeb版と漫画版がごっちゃになって参ります。

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