転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第50話...悪魔の謀略

魔王達の宴(ワルプルギス)から帰還したのは太陽が最も高く登る時刻だった。

 

鬱陶しい程の日の光が、住民達の歓声とともにリムル=テンペストの魔王就任を祝福している。全くいつ練習したのか、住民達は跪き己の主の通る道を開ける。それを恥ずかしそうに歩くリムルに一声かけて、俺は一足先に私室へと足を運んだ。

 

 

「立場が人を変える」とはよく言ったものだ。

裏切ると決めていざ行動に移してから見る街並みは、なんと憎たらしいことか。

笑い合うもの達はなんと不快なことか。

顔を歪ませながら通った出店からは店主はいないものの牛鹿の串焼きのソースの吐き気がするほど臭い匂いが漂っていた。

全てが目障りで、不快で......これを守りたいと思っていた過去の自分が信じられなかった。

それもそうだ、守りたかった理由を俺はもう思い出せないんだから。

 

きっかけはなんだったか。

リムルの周りに仲間が増えたから? 俺とリムルの強さに差ができたから?

いや、これらはきっかけではない。塵として積もってはいたかもしれないが、大したことじゃなかった。俺がもっと強くなれば増えてく仲間より一番に俺を頼ってくれると、差は縮まると思ってたから。

じゃあ何がきっかけだ?

迎えが来なかったから、死者蘇生の神秘を見たから、ミュウランを殺せなかったから...きっかけに近いものは浮かぶのにどうもしっくり来ない。

 

どれもこれも、俺の思考を埋め尽くすリムルへの憎しみを裏付けてくれない。

俺はどうして、リムルが憎い?

必要としてくれないから? 本当にそれだけ?

必要としてくれないから、裏切った。

必要としてくれないから、リムルの大切なものを壊してしまおうと思った。

なのに、それだけじゃ足りない。

八星魔王(オクタグラム)の一柱として席につくリムルを見たら、無性に“殺したくなった”。

理由も分からないまま、リムルへの敵対心が広がっていく。

 

もうテンペストを壊すだけじゃ足りない。

それだけじゃあこの憎しみは晴れない。

この綺麗な町を壊して、それから......

リムルが国交を結んだ国もぐちゃぐちゃにしよう。ヴェルドラと初めてあったあの洞窟も。

リムルの大切なもの全てをぐちゃぐちゃにするんだ。そして絶望した顔のリムルを殺すんだ。

大切なもの......あぁすっかり忘れてた。

リムルの大事な大事な配下たちも殺してあげなきゃいけない。ついでにシズの教え子も殺してしまおう。

リムル側の全てを敵に回しても、俺が俺の味方ならどうでもいい。

 

霧がかったようにぼやけていた頭が、目標を見つけて晴れる。

今すぐ実行したい欲を抑えて、私室に続く廊下をいつも通り歩く。だらしないまでに口角が上がっているのがわかった。

目標のために努力は惜しまない性分だ。リムルを殺せるくらい、強くならなきゃ。

あーなんかワクワクしてきた。

仕事の後処理が終わったらリムルに旅に出る趣を伝えなくちゃいけない。

父に会うと思うと、嫌な思い出が蘇るが、必要としてくれていると分かれば些細なものだ。

 

 

 

手足には鎖に繋がれているのに、その鎖は弛んでいて俺の行動を遮ることなく引きずられるだけ。そんな変な感覚に襲われながらも、浮き足立つ体はいつもより早く私室へと辿り着いた。

いつもと変わらない扉を開ければ、暗い部屋に似つかわしく無い──────ピエロがいた。

 

 

「部屋主の許可なく居座ってるなんて、ピエロには常識がないらしい」

「何を言いますか、私達はピエロ。常識には囚われません」

「はじめましてだねラルタ! アタイ、君に会いたくてウズウズしてたんだ!」

「人の部屋のベットで転がってる態度をウズウズって言うんだね、知らなかったや」

「お勉強になったね!」

 

 

機嫌が急降下するのが自分でもわかる。

ベット脇に立つ怒りの仮面の男フットマンと足をパタパタさせながら我が物顔でベットを占領する泣き顔の仮面のティア。

仮にも国で最も重要な場所に侵入しているくせに随分と無防備だ。

 

「おや、そんなに機嫌を落とさないでください。あなたは気持ちの移り変わりが激しいらしい」

「情緒不安定は損するよラルタ! アタイ心配」

「......余計なお世話だ。ティア、そこをどけ」

「はいはーい」

 

飛び起きたティアがフットマンの横に回転しながら移動する。

 

空いたベットに横になって、どうしてここに来たのかを聞いた。フットマンは楽しそうに笑って白い袋を差し出してきた。袋には所々に血が着いている。

 

「あなたの食事です。十八歳の女性、病気なども特にない、いわゆるご馳走です」

「へーフットマン、お前センス良いな」

「褒められると照れてしまいますね」

 

 

人間の入った袋をアカ・マナフの倉庫にしまう。それを確認したティアが不愉快なまでに楽しそうに笑って話出した。

 

「ファルムス王国は今すごーく大変なんだよ! もうぐっちゃぐっちゃ。内乱が始まるのも時間の問題だね」

「そうだろうな。どうせファルムス王国は兵士もいなけりゃ貴族の声もでかい、賠償金を支払うしか選択肢がないんだ。まぁ、属国が嫌だと叫ぶ貴族は賠償金も嫌がるから貴族と王族は敵対する」

「ほぉ...よく理解されていますね」

「リムルの狙いを汲んだあの悪魔がする事なんてだいたい予想できる。今頃リムルもこの説明を受けてる頃だろうよ」

「はいはーい! この後テンペストはどうやって動く予定なの?」

「うちにはお抱えの英雄様がいるからね。荒れているファルムス王国を救ってもらう。元々国内で人気のある英雄様だ、王として素晴らしい国を築くはずさ」

「なるほど...解説頂きありがとうございます。それでは私達はこの辺りで」

「バイバイ、ラルタ!」

 

ピエロらしいお辞儀をした二人は、煙のように消えていった。拍子に壁に貼ってあった絵が落ちたが拾う気も起きずに寝返りを打つ。

ファルムス王国はここまで来るとあとはリムルの手の平の上だろうな......予想がつかないのはヒナタか。

考えようと思えば、これからのヒナタの行動もある程度予想できるが、はっきりいってめんどくさい。放っておいてもどうせはリムルのいい方に転がるだろう。西方聖教会も興味無いし。

 

せっかくクレイマンの城の調査で疲れた体を風呂で温めて眠ろうと思ったのに、非常識な邪魔が入ってイラついてたんだ。

今日はもう寝てしまおう。どうせこのベットで寝るのもあと数える程しかないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

《告。未知なる力による洗脳を確認。解析を開始...失敗しました。解除に失敗しました。

抵抗の最適解を演算開始...成功しました。

抵抗を実行。引き続き継続します。》

 




更新にムラがあって申し訳ないです。

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