「俺の生まれた所? なんでそんなんが聞きたいんだよ」
「いや別に大した理由はないんだけどさ、気になって」
昼時も過ぎた頃、リムルに書類を届けに行けば休憩と称して軽い雑談タイムになった。
最初はたわいもない話をしたりヴェルドラの魔素をどうやって簡単に抑えられるかの話し合いを行った。そこまではいい...そこまでは。
天井を見上げたリムルがボソッと呟いたのだ。
「お前の生まれた場所ってどんな所?」と、
いや唐突すぎてビビったし、なんならまだ驚いてるんだけどこの野郎。こいつ頭で色々考えてるくせに口から出るのはその後のせいで脈絡がないこと多いんだよなぁ......え? 答えなきゃダメ?
リムルは本当にただの興味本位なんだろう。
こちらを見つめて俺が話し出すのを待っている。見るんじゃない、部屋の隅っこでも見てろ不快だ。まぁリムルが話をする時俺を見つめるのはもう放っておくとして、ここで俺が話したくないと言えばこの話題がリムルの口から出ることはもうないだろう。別に話したくない訳じゃないが、話す義理もない...でもまぁ思い出話に花を咲かせるのもまた一興なのかもしれない。
「何もない所だったよ。南の方の貧しい国、その中でも最も治安の荒れたスラム街、法もまともに働かない忘れられたその場所が俺の育った場所。あぁ、でもそこの血が流れてるかは微妙」
「血?」
「多分ね。俺の周りはみんな褐色の肌に癖の強い茶髪だったのに対して俺は青白い肌に癖のない黒髪だったから本当にそこで生まれたのかも怪しいよ」
「仲間はずれにされたりとかなかったか?」
「あったに決まってんだろ。みんな周りと違う物は嫌いだからね。それでも俺みたいに骨と皮だけの明日生きてるかすら分からないガキは群れるしかできないかったんだよ」
「一緒に暮らしてたやつもいるのか...今も生きてるといいな」
「ぷっあはは! 無理、全員死んだよ。俺と一緒にいたやつはみーんな。あぁ、俺を殺した奴はまだ生きてるかもしれないけど。死んだやつを埋葬するのも疲れてきてね、繋がりを持つことも辞めちゃったから」
繋がりを持つのをやめた理由はそれだけじゃない、かっこよく言うなら「世界に絶望したから」
いつ頃だったか忘れたけれど、スラム街である病気が流行った。未知の病気だった。
その病原菌を抹消するために大量殺戮が行われたのだ。貧しい国ではあったが内陸国であったために自国に病気が広まるのを恐れた各国が手を取り合って“特殊清掃員”を寄越した。
あれは随分と酷いものだった、真っ白な防具に身を包んで力もない住民を次々と殺していく。
殺された者の中には布切れをかき集めただけの寝床で寝ていた病人、それを守ろうとした家族、変に煽りを入れた馬鹿な子供。死んだ数は病気を患っていなかった者の方が多かっただろう。結果病原菌の根絶が出来たのかは知らない。
けれど、目の前で友人が殺された時俺の中で何かが変わった。
昔は必死に生きていればいつかは報われるのだと思っていた。誠実でいれば手を差し伸べてもらえるのだと思っていた。
でも実際に俺に伸びてきたのは殺意を持った手だった。
そこからだ、誰かに媚びへつらう様になったのは。だってその方が上手く生きれたから。
生き残った過去の友人は俺を変わってしまったと嘆いたが、そんな奴らもそうそうに死んで行った。彼らは俺の新しい生き方を正しいと証明する踏み台に成り下がった。
気持ちを新たに色んなことをした。体を売ったり危ない薬を運んだり......人を殺したり。
多分、そういう汚れた物事を行う才能があったんだと思う。気づけば色々依頼される立場になって何とか食いつないで行けるようになって来ていた。
依頼人達はろくでもない奴らばっかりだったが、俺が上手く依頼をこなせば褒めてくれて、次をお願いしてくれた。初めて満たされた気がした。
それからどんどんと“必要とされる”ために我武者羅に頑張った。求められる様に己の姿を変えて、それでも自分を愛してくれる人を探して歩いた。そうやって生きてきて、今の俺が出来た。
きっかけは最低だったが、今思えば満足な生き方ができていたように思う。
だって、友の死体を抱え埋める、そんな面倒事もしなくて良くなった。いちいちそんな事で泣かなくて良くなった。
『自分に嘘をつき続けたって辛いだけだよ』
ふと聞こえた声...シズの声だ。
あの女にも感謝してる。父に育てられている中で薄れてきていた俺の意思を思い出させてくれた。
あぁシズ、俺は皆が大切だったよ───リムルに必要としてもらえるにはいい材料だったから。守ってやれば必要とされると思ってたから
ねぇシズ、俺はこの繋がりを大事にしてたよ───俺を満たしてくれるから。
シズが俺の内側にあった本当の意思を目覚めさせてくれて、今になって改めて自覚した。
今思えば、諂諛者が近侍者になった時に答えてくれた覚悟は全く綺麗なものでもなんでもなかった。
「ふっ、俺のスキルは随分と汚いなぁ...」
「なんだよいきなり」
「いーや、なんか昔を懐かしんじゃっただけ」
「お前急に笑うか「───リムル様!」
リムルの話を遮って声をあげたのは影から現れたソウカだった。
「ナンソウからの報告ではルベリオスの聖都から出る者は確認できないとのこと。そして───ヒナタ・サカグチがイングラシア王国より出立しました。引き連れる者はなく、単騎ですが...方角から魔都リムルを目指しているものと思われます!」
あー面倒くさい情報持ってきたなこのトカゲ。
「───拝謁の僥倖賜りましたこと誠にありがたく」
「長い!!」
ヒナタがこの町を目指して出立したと報告を受けた後、それを追うように四名の聖騎士が出立したという報せを受けた。完全武装のマジっぽいらしい。
話し合い...では無いだろう。魔王討つべしという結論にヒナタ達はなったのか。
西方聖教会の情報を得るためかつてルミナス教の高層だった、クソ長挨拶をしていたアダルマンに話を聞くことになった。
神聖法皇国ルベリオス、神ルミナスを頂点と定める宗教国家である。
かつてアダルマンが枢機卿だった頃西方聖教会は武力を持たず今ほどの権勢を持ってはいなかった。ルミナス教の布教に従事するという役目は“七曜”という存在が行った立て直しによって変わったそうだ。
七曜というのは偉大なる英雄ルベリオスの最高顧問とされるジジイらしい。今も生きているんだとか。
この七曜の老師がルベリオスの方針に絡んでる、実力の程は不明だがヒナタでも七曜の命令は無視できない。
七曜も要注意だが、アダルマンの話でルベリオスの持つ部隊についても鮮明に見えてきた。
傘下の国々に駐屯している
神と法皇にのみ忠誠を誓う
そして、西方聖教会所属の
メーティスによれば、仙人は魔王種、聖人は覚醒魔王に値するという。
人間が過酷な修練の果てに存在進化するんだとか...。
思考の沈黙が部屋を埋める中、ディアブロが現れた。
“レイヒムが殺された”
犯人は不明だが、ラーゼンによれば「悪魔の謀略によって大司教が殺害された」という伝言が魔法通信によって拡散されているという。それに呼応して周辺各国の
「英雄様の後ろ盾になっている悪魔が大司教殺しをした」...そう周知された以上、他国やファルムスの有力貴族からの英雄様への援軍など期待できない。逆に新王エドワルドにとっては
とりあえず、レイヒムを殺した真犯人の捜索はディアブロに任せるという。つまりは失敗したディアブロにチャンスをあげたということ。
お優しいスライム様だ。
ヒナタ含む五名の聖騎士たちはどうするかという話だが、武装している以上戦闘は避けられない。ヴェルドラが名乗りを上げたがリムルに言いくるめられていた。チョロい
「リムル様、緊急事態です」
「どうした? ソウエイ」
「
「そいつらはヒナタと合流するつもりなのか?」
「わかりません、ですが行動速度からこの町への到着は似た時期になるかと」
あーどんどん面倒くさくなっていく...。
困惑を隠せないリムルがベニマル達に指示を出す。最優先は仲間の命だとか───
(もしもーし)
張り詰めた空気をぶち壊す声が頭に響く。
ピエロの頂点様だ。
(何? 今取り込み中なんだけど)
(あぁ、そっちも大変そうだな。西方聖教会との対面なんて......まぁそれはどうでもいいんだ。どうせ上手くまとまるから)
(どうせ“七曜”が今回の件をぐちゃぐちゃにしてるんだろ)
(あれ? せっかく教えてやろうと思ったのに気づいてたの?)
(ヒナタの動きが不審すぎる。自分の意思だけで動いてるとは思えない。ヒナタに命令できるのなんて限られすぎてるだろ)
(頭が良い奴は好きだぜ)
(お前に好かれても嬉しくない。で、要件は?手短にしろ。俺の特殊な術式の連絡回路だからバレないだけで長時間話してるとバレる)
(はいはい、誠也にお願い。テンペストと騎士達が衝突する時、君にはある騎士を支配して欲しい。別に殺さなくていいから。情報は後でまた送る。その騎士の上の者にそいつを利用して会っておいて...じゃよろしく!)
一方的に切りやがった......まじでなんでコイツこんなウザイんだ? まぁ、前回持ってきた人間の肉が随分と美味かったから聞いてやるか。
「ラルタ! 作戦を考える!」
「了解しましたよ...はぁ」
ファンタジーなので現実にあるかどうかは考えないでください。
ちなみにシズとのお話は第6話にあります。この話を読んで第6話を読むと初見とは違って見えるかも?(全然読まなくて大丈夫です)