「次で終わりにしましょう。私とあなたの戦いを...ただし先に言っておくわ、この技はとても危険なのよ。それでも私の提案を受けてくれるかしら?」
《解。坂口日向からは主様を殺す意思が感じられません。》
なるほどね、それでわざわざ警告を...ん?
ヒナタって俺を殺しに来たんじゃなかったかわ?
いや、最初から少しおかしいなとは感じていたけど...まぁ今更か。
引っ掛かりを覚えはするが、今どうこうできる訳でのない、ヒナタの申し出を受け入れて刀をしまう。
「これで恨みっこはなしだ。お前が負けたらもうこの国に手出はしないって誓えよ?」
「...?わかった、約束するわ。君が望むから一騎打ちに応じたまでで私としても今後のことを話し合いたいと思っていたし」
俺が、望んだ?
変だ...確かに伝言でそんな文言は盛り込んだが全文を聞いてもらえば、それを望んでいないのはわかるはずだ。どういうことだ?
「では、いくわよ」
ちょ......! 今更タイムは...なしだよな。
仕方がない。
「ベニマル、万が一俺が倒れたら後は任せたぞ」
「ご冗談を...リムル様の勝利を疑うとこなどおりませんよ」
十大聖人の聖騎士達とは既に決着がついているようだ。残るは俺たちだけ。
後ろに守らなきゃいけない奴らがいる、それは重荷であるはずなのに俺を安心させ勇気づけてくれる。これを耐えれば、やっと悪夢が終わる。もう冷えた死体を、愛した奴らの死体を抱き抱えることはない。
「......わかった。そこで俺の勝利を待っていろ」
ヒナタが穏やかに笑い詠唱を始める。
神への祈りを捧げたてまつる。我は望み、聖霊の御力を欲する。我が願いを聞き届け給え───万物よ尽きよ
大剣に魔法の力が宿っている。その剣が繰り出す剣撃に斬れないものはないだろう。
「覚悟はいいかな?」
「あぁ、来い」
穏やかな笑みを引っ込めてヒナタが駆け出す。
《告。防御不能。回避不能───ッ》
「
ヒナタの全力、霊子の閃光。
何者も寄せ付けない冷酷で美しい剣技。
受ければタダでは済まない...それでも───
「うそだろまさか...避けずに受けるつもりなのか!?」
《「
俺は受け止めるよ。
ジュラ・テンペスト連邦国、国王だから。
俺の後ろには沢山の大切なものがあるんだ。
「...やっぱなんでもありだな。さすがウチの大将だ」
いやぁヤバかった...相当ヤバかった。
技の相殺に魔素量の七割以上もってかれたし万能感知も切れた。
その上───“
けどこれが
「ふふふっあはははははっ! 凄いね君、あの状況でワザと受けたね?」
ワザと?...
《......。》
おいちょっと!? 意味深な沈黙やめて!?
「今のは耐えられてしまった以上、私の負けね。どうせもう戦えないもの」
「...そーだな」
すったもんだあったが、ようやく話し合える空気になったみたいだ。───あぁ疲れた。
一息ついてぐったりしていると、ヒナタが叫ぶ。
「ここまでするのか七曜!」
「え......?」
ヒナタが俺を突き飛ばした瞬間、その胸を何かが撃ち抜いた。
「ヒナタ! なんだ!? 一体誰が───」
《解。ヒナタが最初に使用していた大剣に思念鑑賞を確認。魔素が暴走し爆発しました。》
思念干渉?
いや、それより今は───!
「おい...おいしっかりしろヒナタ! すぐ回復してやる!」
「ヒナタ様!」
聖騎士が駆け寄ってくる。
「ヒナタ様には魔素を介する魔法や薬は通用しません。魔法への高い抵抗力が魔素を分解し、無効化してしまうのです!」
「なんだと? ならボサっとしてんな! 神聖魔法でもなんでも効くやつかけろ!」
「...! リティス来てくれ! 治癒魔法を!」
「はっはい!」
リティスと呼ばれた女が急いでこちらに向かってくる。それが、不自然に止まった。
「え...?」
「うわなんだこれ!?」
「はっはずれぬ...!」
「リムル様」
「あぁ...何か来る」
空間が割かれる。
ヒナタの行動は本当に俺の伝言を聞いてのものだったのだろうか。
話し合いか一騎打ちか。
俺の伝言はヒナタに届く前に歪曲されていた?
何の目的で、一体誰が?
《告。生命維持のため仮初の心臓を作成しましたが、ヒナタ・サカグチ自身の耐性により魔素が弾かれます。》
ミュウランの時のようにやっても上手くいかない。このままではヒナタが死んでしまう。
「魔王リムルよ、お初にお目にかかります。我ら七曜の老師と申す者」
“誰が”だって?
「此度は命令違反を行ったヒナタ・サカグチを始末しに参りました」
そんなのは明らかじゃないか。
俺達の和解を嫌い───ヒナタを消したいヤツらだ。
「お前らの事情は知らんが、邪魔をするな。俺達の決着はもうついた。ヒナタを死なせるつもりはないんだよ」
空間を割いて現れたのは七曜。
確かアダルマンの話ではルベリオスの最高顧問だったはずだ。
「そうはいきません。その者は大罪人、聖人という立場でありながらい神ルミナスの意思を無視した逆賊なのです」
「お待ちください! ヒナタ様には考えがあって───」
黒髪の男の声を遮ってよく通る憤怒の声が響いた。シオンと共にやってきたのは金髪を靡かせた男...
「そこまでにしてもらおう! よくも私を欺いてくれたな七曜の老師よ!」
レナードと呼ばれた男はまくし立てる。
「あなた方は最初からヒナタ様を抹殺するつもりで私に話を持ちかけたのだろう。申し開きがあるならしてみるがいい! その如何によってはたとえ古の英雄と言えど、私は決して───」
言葉を詰まらせたレナードが次に発したのは遺憾の意ではなく、血であった。
レナードの横腹、そこに赤い槍が刺さっていた。
「無礼だぞレナード、貴様こそ逆賊ヒナタと共謀し俺たちを欺いた張本人だろうが!」
「は...ギャルド!? おい、どういうことだよ!?」
《告。ギャルドと呼ばれた者の気配に大剣に干渉した思念と同様の波長を確認しました。》
つまりあいつがヒナタを撃ち抜いた犯人か...。
「シオン!ギャルドとやらの化けの皮を剥いでやれ!油断するなよ七曜の配下...案外、七曜本人かもしれないからな」
「ほぉ...さすが魔物は鼻が利く。もはや化けている意味もないな!」
男が頭に巻いた包帯を無造作に破く。
その瞬間見えた顔はギャルドと呼ばれた若い男の顔ではなく、欲に溺れた老いぼれのものだった。
白装束を翻して、使い込まれているであろう槍を軽く捨てる。
「武力行使とは穏やかではありませんな、魔王リムルよ。ルベリオスとの戦争をお望みですかな?」
やはり七曜の一人だったか。
「ここは俺の国なんでな、怪しい入国者はボディーチェックが必須なんだよ」
(リムル様、緊急でご報告が)
こんな時にか...。
(ディアブロか、こっちも取り込み中だから手短に言え)
(それは失礼しました。まずひとつエドワルド王が襲われました)
(なっ!?)
(ご安心ください。死んでおりません...ですが厄介なことにはなりそうです。そしてもうひとつ、大司教レイヒムを殺した真犯人が判明しました。“七曜の老師”という者共が裏で絵を書いていたようです。それで今、目の前に3匹ほどいるのですが生かしておくのは害悪であると)
(エドワルドのことは後で聞く。七曜共が犯人だという証拠はあるな?)
(目撃承認が複数)
(...許す、駆逐しろ)
そうか、随分と七曜の老師も性急らしい。
「ベニマル、ソウエイ! シオンと共に七曜を捕らえろ。抵抗するなら実力行使も許可する!」
「待ってたぜその命令を」
「リムル様のお望みのままに」
七曜が小馬鹿にしたように笑う。
まだ自分達が優位に立てていると思っているらしい。
「良いのですかな? 本当に全面戦争になりますぞ?」
「よく言うよ。伝言を書き換え和解の芽を摘んでおきながら。大司教殺しの犯人もお前らだってな...残念ながらウチの執事に濡れ衣を着せるのは失敗だ。全てお見通しだよ...俺に喧嘩を売ったんだから、覚悟はできてるんだろう?」
七曜は息を零し、高く笑う。
あぁなんて不快な笑い声だろうか。よくこんな状況で声を上げて笑えるものだ。
きっと一生理解出来ない。
「そこまでバレているとは思わなんだ! しかし聖人は虫の息、この好機利用せぬ手はないわ!」
「よく回る口だな。聖騎士の連中も聞いてるんだぜ?」
七曜が魔法を使おうとする気配を察してベニマル達が攻撃を仕掛ける。
しかしそれらはスルリと躱されて七曜が高く飛び上がる。
「心配ご無用、聞かれて困ることなど無いのだよ」
「な...こっこれは!?」
「元より皆殺しにするつもりだったのでな!!」
俺もヒナタも、聖騎士もベニマル達も。
全てを覆う大規模魔法陣。
「死に絶えるがいい!
降り注ぐ霊子の雨。
まずい...俺や配下はともかく、ヒナタ達を守る手段が───
《告。究極能力「
ほ?
まぁ今はそれでいい!
死の雨と言ってもいい霊子を喰らう。
「馬鹿な!?」
俺もそう思う。
俺はてっきりヒナタの攻撃で「
《是。能力の複製をしてあるので問題ありませんでした。》
...バックアップ───最初に言えよ!?
《告。霊力の反応が上昇。本命の攻撃が来ます。》
「滅べ魔王よ!!
足元に魔法陣が広がる。
やばい! 今度は俺だけを狙った攻撃...。
でもさすがにこれは「
《問題ありません。究極能力「
うりえる!?
あぁ能力の統廃合してる時に
っていうかさ、「絶対防御」なんてあるならさっき「
《......。》
とりあえずYESだ。それはさておき
《?》
鎖に繋がれた魔法陣が連なり、そして弾けた。
轟音と体を震わせる強大な霊力。
なんて無慈悲な...。
「馬鹿な...そんな...そんな馬鹿なぁ───!
有り得ぬ! この世に「
まぁね、俺もこれはどうかと思う。
だって今のは神聖系最強魔法×3だろ?
君たちの敗因は俺を(というか
「さて、今度はこっちの番だな」
「くっ...我々は人類の守護者ぞ! 神ルミナスの信徒が黙っておらん!」
「その通りだ。いずれ神ルミナスの怒りが貴様たちを焼くであろう!!」
「今回は我らが退こう。たが───」
老師の負け惜しみの言葉を遮り、背後から空間を揺らして扉が現れる。
神聖な空気をまとった重厚感のある扉。
「あ...ああ貴女は、貴女様は......ッ!」
扉が開き現れたのは───
「魔王リムルよ、迷惑をかけたようじゃな」
名前が同じだとは思ってたけど、それだけで結びつけるには根拠が弱い...でもつまりは本当にそういうことだったって訳か。
「あぁ...久しぶり」
夜魔の女王、ルミナス・バレンタイン。
魔王バレンタインその人こそ、神ルミナスだったのか...。
▽
《告。個体名リムルを対象に放たれた「
...え? あれにアカ・マナフ突っ込んだの?
浄化されてない?
《一部浄化されましたが、問題ありません。》
ほんとか?
俺の体の中で、アカ・マナフがめちゃくちゃ動き回って抗議してるのを感じるけど...。
《静まりなさい、害獣。》
「ヴゥゥ...!」
《静まれと言っています。その唸り声が他の者に聞こえてしまうでしょう。》
何お前ら、仲悪いの?
俺の体の中で喧嘩しないでくれよ...。
《主様、神聖魔法の解析が完了し次第報告します。》
ただ杖に座っているだけなのに、俺の体の中で繰り広げられる死闘...喧嘩のせいで何故かどっと疲れた。
一つの体で三つの自我が存在してるってことをこいつらは理解してるのか...俺の事も少しは考えて欲しいものだ。
アカ・マナフを撫でて落ち着かせ、メーティスに感謝を伝えたりと何とか喧嘩を収束へと導いていれば、BGMにしていた老師達の声が止まった。
代わりに聞こえてきたのは古めかしい扉の開音と靴音。
老師の背後から現れたのは、何時ぞやの魔王達の宴にいた吸血鬼、魔王バレンタイン。
それが何故、聖魔の交わる戦いに乱入してきたのか。理由は明白───
「控えよ。余は法皇ルイである。そしてこちらにおわす御方こそ、我らが神ルミナス様であらせられるぞ!」
あぁ...あぁ、あぁ!
陰陽を最初に口にしたホラ吹きはこの状況をどう表すのだろうか。
人々を恐怖にしく魔王が、救済を囁く神だった。
なんて滑稽で不愉快なことか。
この神だと名乗る売女を信仰していた信徒には同情しかない。
わざわざ自分の人生を棒に振って、信仰を理由に現実から目を背け耳を塞いで生きてきたというのに、神の正体は絶対の悪であった魔物と同類。
可哀想すぎて笑いが込み上げてくる。
そしてルミナスだ。
その面を見るだけで不快感が募る。吐き気すらしてきた気がする。
別にルミナス自体がどうという話じゃない。
この女自体の認識は“吸血鬼の頂点”ただそれだけ。
神とは人間を超えた自然的存在。
人間に祝福と罰を与える崇拝の対象。慈悲深く冷酷な矛盾を孕む、されど平等な存在。
自然現象という今であれば説明がつく現象に神をあてがった過去の人間達。
雨は神を崇拝するもの達に平等に降り、作物を実らせ生活を潤す、されど時にその雨は川を荒れさせ全てを奪う。何もかもが平等に。
けれど、神ルミナスはそれに該当しないらしい。平等の欠けらも無い、支配。
あぁ、汚い宗教、不釣合いな神。
これだから“信”というものは嫌いだ。
下で広がる光景は、神の名にそぐわない自己的な行動。
「───ヒナタ、自重せよと申しつけたであろう。勝手な真似をしおって」
神は死にゆく使徒を見殺しにするべきだ。
神は絶対的であれど、部外者だ。
「
魔王が使う神聖魔法。
紛うことなき、神の奇跡。
実在した神が...神を否定する。
───そういえば昔、宗教がスラム街に広まった事があった。
神と呼ばれた者はただの肥えた豚だったが、救いを求めた貧困者達はありもしない金銭を捧げ、貧弱な体を動かしていた。
本当は誰もが気づいていた。その信仰に意味が無いことを。
けれど神様の光で目を潰して、明日生きていけるかも分からない辛い現実から目を逸らした。
意味もなく生きる事をやめ、神様のためにあろうとした。だってそうすれば無様な人生に意味があると言えるから。
そこからだ、本当の神について考えたのも...宗教等の“信”という感情が嫌いになったのも。
スラム街に政府が関与し、虐殺を行った後の出来事だったからか、嫌いという感情は自分に顕著に現れた。
きっと虐殺が起こる前だったら、俺は宗教にのめり込んでいたんだろう。もしかしたら、その方が幸せだったのか。もう分からない───
神は自ら人に手にかけるべきでは無い。
人は人が殺すべきなんだ。
神は人を超えた存在だから。
「七曜よ、此度の件...どのように言い訳するつもりじゃ?」
「ルッルミナス様!! これには事情があるのです」
「そうです!若輩者に身の程を教えようと...」
胡散臭い白装束と偽りの神。
それが会話している光景よりも、道端で繰り広げられる素人の漫才の方がいく分も素晴らしいだろう。
「死罪じゃ、せめて妾の手でそなた達へ死を手向けてやろう」
「おっお慈悲を! 私共はルミナス様の御為に...我らの長き忠誠に免じて何卒───」
............いや、撤回しよう。
素人の漫才よりかは見栄えはいいようだ。
「
雲を割いて光り輝く手が現れる。
それは七曜の老師を包み込み、消し去ってしまう。神に与えられる死に苦痛はあるのだろうか。
これで七曜の企みは潰れて一件落着。
残ったのは中身のない白装束と、胸につっかえた不快感だけ。
ルミナス推しの方にはこの話は不快に思われたかもしれません、申し訳ないです。
ラルタはルミナスが嫌いと言うより、宗教に関わる奴全てが嫌いで、自分の理想に反する奴も全て嫌いなんです。わがままっ子なんで...