「ルベリオスの皆様、ようこそ魔都リムルへ。我ら魔王リムル配下一同 歓迎しておりますぞ!」
背筋を伸ばし、手を揃え、角度は三十度。
なんと素晴らしいお辞儀なことか。声量も何もかもが申し分ない、テンペストがヒナタ達に示す敬意を存分に発揮した接客術。
全く、リグルドの勤勉さには頭が下がる。
ウチの可愛らしいハイエナちゃんにも爪の垢を煎じて飲ませたい...いや、
あの自由ハイエナと来たら、町に戻るとなった瞬間に先に帰っていきやがった。
まぁアイツもギャーギャーと言ってやることは完璧にやる奴だ。お咎めは無しにしてやろう。
ルベリオスとの会議にはきちんと参加してもらう予定だしな...。
今夜はせいぜい張り切ってこの国で最高のおもてなしをしてやろうじゃないか。
本当はこの国名物の大浴場でヒナタ達と裸の付き合い...うん、いや変な意味じゃないから...とにかく交流を深められる場を増やしたいんだが、その前にもうひとつ会議をしなきゃいけない。
はぁ...気が重いな。
きっと今頃ヒナタ達は極上な温泉で体の疲れをとっているんだろう。
なんてどこか会議とは場違いな事を考えたくなるくらいには空気が重かった。
「ディアブロ! それはつまりリムル様の計画が潰されたと...リムル様が失策したと言いたいのか!?」
「そのような事は言っていません。私も誠に遺憾ですし、出来ることなら今すぐにでもあの国を消し去りたいほどです」
「シオン! 少し落ち着け。この場でどれだけ叫んだって仕方がない」
「ベニマルは何故そうも落ち着いているのです! “ファルムス王国が東の属国になった”などと...」
シオンの悲痛な訴えが疲れた体を劈く。
ディアブロやベニマル達もシオン程表には出ていないが拳を固く握り体をふるわせている。
ディアブロの報告した内容はそれ程までに衝撃的だった。
時系列順に述べられた一連の出来事はこうだ。
最初、ディアブロは計画通りにエドワルド王を上手く誘導し辞任へと促そうとしていた。エドワルド王が集めた報道陣の前で高らかにディアブロが犯人であるという冤罪を着せようとしていた時、余りにも完璧なタイミングでエドワルド王が刺された。
エドワルド王は大量出血によって気絶、治療が行われている間に現れた七曜の老師が真犯人だと報道陣に説得させ、新王殺人未遂の濡れ衣を着せて殺害した。
その後、目覚めたエドワルド王は報道陣の前で部下に体を預けながら王位を別のものに移すと宣言した。
「余は王位を“セイジ・カミシロ”へと讓渡する!」
その宣言を聞いたディアブロは急いでファルムス王国に待機させていたラーゼンに報告させると、どうやらエドワルド王が襲われ政務を続けられぬ状況になった際はすぐさまセイジ・カミシロに王位を移すことになっていたらしい。ラーゼンも知らなかったことらしく、なんの詰まりもなく手続きが進む光景に驚いたという。
限定的な条件の王位継承が、余りにも完璧なタイミングで行われた。誰かの思惑通りだと考えることしか出来ないだろう。
つまり、手のひらで踊らされていたのはディアブロ...基俺であるということだ。
ファルムス王国内での手続きはセイジ・カミシロを中心に速やかに行われ、元々交流のあった東の帝国に下ることとなった。
ヨウムもディアブロもそこに付け入る隙はなかった。
「セイジ・カミシロ...日本人だな。ファルムス王国は異世界人の地位をそこまで上にしていなかったと思うが...」
「それについてですが、私がファルムス王国と和睦協定等を結んだ時も常に王の隣にいた貴族がおりました。一応調べたところ、カミシロファミリアというギルドマスターだそうです。ファルムス王国は彼の助言と共に成長して行ったそうで、国民からの信頼も得ています。実際、急遽行われた王位継承に大きな不満が出ることはなく、歓迎ムードであると報告を受けています」
「急に動いた訳じゃなくて、地道に外堀を埋められてたって訳か」
ファルムス王国は誰がなんと言おうと大国であった国だ。それを築き上げた人物となれば頭もよく回るのだろう。
実際、ディアブロが出し抜かれた訳だし。
「エドワルドを刺したのはその異世界人の使い魔か?」
「リムル...あれは使い魔なんて言っていい代物じゃないよ」
「え?」
ディアブロに投げかけた質問に返答をしたのは驚くことにラルタだった。
窓際に寄りかかってぼーっと外を眺めているラルタに聞き返せばこれまた驚きのことを言った。
「エドワルド王を刺したのは...この町を襲った奴。得体の知れない化け物?なんて称してた奴だよ。俺を攫った女の使い魔、主人が死んでる以上あれは使い魔とすら呼べないものだよ」
「それをセイジ・カミシロが操ってた?」
「そんなの知るかよ。そのカミシロってやつが一人で動いてるのかどうかも分からないのに。でも俺を攫ったのはファルムス王国の貴族だ。今回の件と繋がりがあると仮定すれば、その貴族は俺を通してこの国に何かしらの攻撃をしようとしたってこと。もしその貴族が動いたのだとしたらそのカミシロと無関係なんて訳無い」
「一番自然に考えられるのは同一人物、もし違くても同じ意思で動いてるってことか」
ラルタを攫ったのはファルムス王国と繋がっている者の犯行だと思っていたんだが、もしそれがセイジ・カミシロなのだとしたら犯人はファルムスの中、しかも奥深くに隠れていたというわけだ。
もちろん犯人だと決めつけるのは性急かもしれないが、同じ使い魔を使用した事、ラルタが殺した約一万の兵がカミシロファミリアというギルドから派遣されたものであること、そして王位継承と属国という手段。ラルタが攫われた時も上から計画が潰されたような感覚に陥ったが、今回も同じだ。
逆にセイジ・カミシロという異世界人を疑わない方が無理がある。
「手を引くしか...ないのでしょうか」
「シュナ様! そんなことはございません!まだ手は...」
「いや...それしかないだろうな」
「リムル様...!」
「これ以上ファルムス王国をつつけば東の帝国と戦争になる。未知数の異世界人、未知数の国と戦うのは危険が大きすぎる。
ディアブロ、ファルムス王国との和睦協定の改変を行おうと思う。ファルムス王国に行って会議の日付を決めてきてくれ。それが終わったら帰ってきていいよ」
「そんな...あんまりです」
「わかってくれお前達。俺も悔しい思いはあるが、これ以上は損しか出ない」
「では、とりあえずはセイジ・カミシロを危険視するという形でいいのですか?」
「あぁ、そうする。元々ラルタが旅に出る時に自分を攫った貴族について調べる予定だったんだ。今はルベリオスとの事もあるし、国としてやらなきゃいけないことも多い。当分の調査はラルタに任せようと思う。いいか?」
「はいはい、承知しましたよ」
みんながみんな暗い顔をしている。
理不尽な暴力に屈した事も魔物として罵倒されたこともあった。けれど、策を持って策に潰されたのは初めてだった。ショックは大きいだろう。
セイジ・カミシロ...一体どんなやつなのか。
嘘をつくには事実を混ぜるのが一番。
リムルがラルタに気を使わせなかったら、前世の名前を聞いていたら、きっと気づけた。