ヒナタ推しの人はマジで注意してください。苦情は受け付けてません。
意識がやけに遠くにある。
今、自分が何をしているのかよく分からない。
なのに何かに引っ張られるように体は動いていた。
まどろみの中、真っ黒な影の中、一人なにかに叫んでいる自分を眺めているような───
《............───
そんな停滞した空間に響き渡った声が、俺を目覚めさせた。
堰き止められていた息が口から体へと行き渡り、視界には色がついた。
最近はずっとこうだ。
ふとした瞬間、自分が何処かに消えてしまう。
その時は感覚はあるのに思うように体が動かせなくて、何かに突き動かされるその姿を眺めていた。
それはきっと本当の俺、それはきっと本能。
こうやって目覚めた今もずっと耳元で囁いている。愛してと必要としてと。
まるで俺がそれを諦めてしまわないように。
今の俺は二重人格のようになってしまっていた。いや、二重人格という表現が正しいのかも曖昧だけれど。
目覚めた本能が今まで継ぎ接いできた偽物とぶつかり合ってしまっている。
いつか、それは溶け合うはずで、今はその準備段階。ゆっくり待てばいい。
本能は、神代誠也。偽物はラルタ=テンペスト。なら、溶け合った俺はなんと名乗るのだろうか。名前なんてきっとない方が幸せだ。
「...俺、さっき何してたんだろ。宴を抜け出して、それから......あぁダメだ思い出せない。なんで俺は今...自分の庵の庭にいる訳? 意味わかんない............あ、月だ。なんか気持ち悪い」
西へと傾き出した月は、明かりのない庭を照らしていた。
まるで俺を暴こうとしているようで、胸の奥深くで何かが騒いでいるようなそんな不快感があった。まるで今この場に立っていることを責められているようで、逃げるように庵の中へと入っていった。
そこまで広くない庵の中、その中央には何故だか───ヒナタがいた。
手足を鎖で縛られ、口を塞がれた女が転がっている。どちらにも法則の書き換えられた結界が仕込まれているし、その結界は俺が作り出したものだった。
......俺なにやってんの?
《解。主様が個体名ヒナタ・サカグチに背教者を使用しました。その際、未知の力による援助を確認しています。》
背教者って、なんでまたそんなもん...
『欲しい、欲しいんだ。ずるいよ、なんであの女が持ってて俺に無い?』
なるほど、随分な欲張りさんがいるらしい。
耳元で囁くように、何度も何度も欲しいと呟いている。
俺の中でメーティス、アカ・マナフ、そして欲張りさんが混在している。渋滞もいいところだ。
それにこの欲張りさん、何を間違えたのやら。ヒナタに向けられる愛が欲しいならヒナタを捕まえても仕方がないだろうに。
まぁ、こんな堅物そうな女なかなか捕まえられないだろうし利用できるものは利用するべきか。
てか、この時間に宴抜け出してルミナス辺りに勘づかれるのも困るな...。
《主様がヒナタを連れ去る前に、魔王ルミナスの所に声掛けをしております。
魔王ルミナスの反応から、疑いは持っていないようです。》
あー何? 俺優秀ーって褒めればいい?
本能の赴くままに動くくせに俺は随分と計画的らしい。さすが俺。
意識がどっか行っている間に俺は大分暴れた様で、体には少しの疲労感と空腹感があった。
疲労感には目を瞑るとして、空腹感を無視するなんて俺が可哀想だ。
ちょうど目の前に上質な肉もあるし、ピエロ達が持ってくる肉じゃない生きたままの人間も久しぶりに食べたかったのだ。
部屋の中央で寝こけているヒナタの右腕の鎖を取り外し、血液でその腕を引きちぎる。
「───ッ!!」
「あ? 何お前痛覚無効持ってない? それとも俺が無効化しちゃったのかな。なんかごめんね」
「......あ...ん?」
転がった腕を持ち上げて口に運べば、舌に滑り落ちる血が絶妙な温かさを持っていた。
少し筋肉質ではあるけれど、美味である。
「......あぁ、“ラルタ様” どうしてここに?」
「ぷっあはは! あー最高、無様だなぁ...」
「何か、私は...おかしな事を言ったでしょうか」
「いーや、言ってない言ってない。安心しろ」
背教者によってルミナスへ向けていた信仰が侮蔑に変わって、俺にその信仰を向けてしまっている。
あれだけルミナス様ルミナス様とくっつき虫のように近くにいた癖に、こんな簡単に弄られちゃうんだ、本当に可哀想。
でもまぁ、俺だけじゃここまでできないか。
“未知なる力”...ね。もしかしたら俺はこの力の正体に気づいていて、でも俺はそれに気づけてないんのかもな。
手助けしてくれるなら、なんでもいいけど。
「ラルタ様、私の肉は美味しいのですか?」
「ん? うん美味しいよ。あんまり食べない味がして最高」
「それは良かったです」
「でもねぇ...お前から信仰は要らないんだよね。それに、ルミナスへ信仰を戻しておかないと流石にバレる」
「えっ...なっ何故ですか。私は貴方に忠誠を...あのような吸血鬼なぞ!」
「くははっ、ちょっと口調幼い? 俺に影響されたかな。 いやー最高最高。録音させてルミナスに聞かせてやりたいわ」
錯乱しそうなヒナタを宥めて、食べている腕から零れ落ちた血を舐めとる。
さて、バレないように上手く戻さないといけないけど、ヒナタのスキルとかは欲しいんだよなぁ。
《了。最適解を思案します。》
ヒナタはどこかうっとりした目で俺を見つめている。一体ルミナスにどんな感情を持っていたのやら。信仰はあれど、こりゃ依存だな。
“管理された平和”だったか、依存したくもなるのかもしれない。
《告。ヒナタ・サカグチのスキルを搾取し、そのスキル情報から背教者を進化させます。進化した権能を利用し、ヒナタ・サカグチに能力の返却、信仰の修正を行います。》
......それもいいな。
リムルと互角に戦えるスキルだ。持ってて損は無い。上手く行けば背教者を進化させるだけじゃなくて、新しく何か作れるかもしれないし。
で、
ヒナタに戻すなら
《解。ヒナタ・サカグチの持つ魔王ルミナスへの信仰心はユニークスキルを獲得するに足りています。究極能力「
へールミナスへの思いを背教者の
しかもサポートがなきゃ習得も出来ないなんて、滑稽。
よしならそれでいこう、頼んだよメーティス。
《了。》
二十秒ほど肉を食べながらぼーっとしていれば、俺達二人にだけ聞こえる世界の声が告げた。
それは名誉あることで、これからを考えればヒナタにとっては悲劇で俺にとっては喜劇な内容。
《確認しました。ヒナタ・サカグチがユニークスキル「
「......え? これは、一体」
「俺がサポートしてお前にあげたんだよ」
「供犠者、私の信仰心が世界の言葉に認められたのですね」
「そーだね」
供犠者を覚えさせるなんて、世界の言葉とやらもセンスがある。
供犠とは神に生贄を捧げる儀式の事だ。それ自体が背教者の統合になるなんて、醜悪すぎて愛おしい。
《告。ユニークスキル「背教者」を使用。
ヒナタ・サカグチから能力を搾取します。───成功しました。
ユニークスキル「簒奪者」、ユニークスキル「数学者」及びユニークスキル「供犠者」を獲得。
ヒナタ・サカグチから能力の消失を確認しました。》
《続けて、ユニークスキル「背教者」の進化を開始。ユニークスキル「供犠者」を統合に実行。───成功しました。
ユニークスキル「背教者」が究極能力「
また、究極能力「
ユニークスキル「
ポンポンとよくやるもんだ。
こいつが俺の味方じゃなかったらと思うと背筋も凍る。
ヒナタはと言えば体から消えたスキル達に戸惑っているようだ。視線があちらこちらしている。幼いように見えていたけど、これはただ錯乱してるだけだな。
《獲得したスキルの権能を開示します。
究極能力「
信愛操作︰信頼関係、情人関係にある者同士の信愛を強制的に不信用に変える。
信仰操作︰神聖なものを信仰する者の信仰を強制的に軽侮に変える。
強制敬虔︰上記二つの権能によって操作された者が持っていた信ずる心を強制的に向けさせる。
搾取︰敬虔してくる者の能力を奪い取る
回路反転︰強制敬虔によって生じた繋がりを回路として生成、保存し予備動作なしで操作、搾取が可能。信愛や信仰、又搾取したスキルを返還することも可能。
ユニークスキル「虚言者」
隠蔽︰ある一定の事象を隠蔽する。
工作︰上記の権能を行う際、存在しない事象を作り出す。
虚言︰使用者の嘘が漏洩しない、ただし使用者よりも対象が格上の場合、効果が半減する。
活眼︰対象の嘘を見破る。ただし使用者よりも対象が格上の場合、効果が半減する。
以上です。
また、スキルの進化、獲得に使用しなかった情報は叡智之王と悪心之王に適材適所で統合します。統合が完了し次第報告します。》
なんか俺が手に入れるスキルってどれも悪人感強いんだよなぁ、別にいいけどさ。
悪用するような人が覚えちゃったら大変そう。俺は良いことにしか利用しないからいいんだけどね。
大分夜も更けてきた。
そろそろルミナス辺りも部屋に戻る頃合いだろう。ヒナタが居ないことがバレるわけにもいかない。
口に着いた血を拭いながら立ち上がる。それを追うように顔をあげたヒナタに少しだけ微笑んでやる。ヒナタはどこか安心した顔をしていた。
「もう寝な、ヒナタ。何もかも忘れて」
「......? ラルタ様、どうい───」
バタリと倒れたヒナタに目もくれず手を翳す。
とりあえず用済みになった簒奪者と数学者を戻し、俺に向けていた信仰をルミナスに戻し、侮蔑を消し去った。
腕も再生させなければいけないから、サルワを使用してヒナタの持つ魔素への耐性を無視した状態で回復薬を使用した。
それから適当に持ってきたヒナタが着ていた物と同じ浴衣を着せて、寝室へと運ぶ。
どうやら部屋にルミナスはいないようで一安心だ。
布団にヒナタを寝かせ、同室の聖騎士達にヒナタは大分前から眠りについていたという嘘の記憶を植え付ける。
これでバレる心配もないだろう。
何もかもが完璧だ。
俺も客室を出で私室へと足を運ぶ。
今回の件を知っているのはやはり月だけ。いつも月だけは俺を見つめている。
でも今回は満足な結果だった。思いもよらないところでスキルを手に入れられた。
本能の俺をどうするか考えあぐねていたが、もう少し放し飼いにしていてもいいかもしれない。
『足りない、足りない。俺はまだ満たされてない』
欲張りさんもまだまだやる気のようだし...ね。
ステータス
名前:ラルタ=テンペスト
種族:屍食精魔邪鬼
加護:暴風の紋章
称号:魔王
魔法:元素魔法、精霊魔法、内撃魔法
究極能力︰叡智之王、悪心之王、繚乱之王、背教之王
ユニークスキル:虚言者
耐性:物理攻撃耐性、痛覚無効、自然影響無効、状態異常無効、精神攻撃耐性、聖魔攻撃耐性、魔素耐性