転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第6話...炎の魔人/受け継がれる想い

日が沈み、夜がやってきた。

人間の客が来たせいか、町はどうもソワソワして騒がしく、夕飯もどんちゃん騒ぎだった。

少し、静かなところに行きたくていつも魔法の練習をしている川沿いに向かうと人影があった。

 

「こんなところで何してるの。迷子?」

「あなたは...、死食鬼(グール)さん?」

「へぇ、この姿でも俺ってわかるんだ」

「何となく」

 

シズ、少しだけ変わった女だと思う。

今も何故か楽しそうにクスクスと笑っている。

町から少し離れたこの場所にいるということは、シズも1人静かな場所にいたかったのだろう。

邪魔をするのも気が引ける、それにここは俺の場所じゃないし別のところに行こう。

別のところに歩き出した俺をシズは止めた。

 

死食鬼(グール)さん、あなたも日本人なの?」

「リムルが日本人だって聞いたんだ」

「えぇ、綺麗な景色も見せてもらって...」

「俺は日本人じゃないよ。育ちは日本だけど生まれは違う」

「そう...、スライムさんとはこの世界に来てからずっと一緒なの?」

「あぁ、この世界に生まれ落ちてからずっと一緒」

「そう、死食鬼(グール)さんみたいな優しい子が一緒ならスライムさんも心強いだろうね」

「別に、優しくなんてない。さっきから何」

 

話してる間、絶やされない微笑みが妙に俺をイラつかせた。

優しく、情にあふれた声が俺の神経を逆撫でる。

 

「私たちが、怖い?」

その質問に、俺は変な声が出た。

怖い?怖くなんてない。当たり前だ。

俺は魔物で、ましてや死食鬼(グール)だ。人間を餌とする魔物だ。あの3人組だって俺なんかよりずっと弱い。このシズという人間だって、戦えば勝てる。怖いわけが無い。そんなわけないのに...

 

「怖く、なんて...ない」

 

何故か、声が震える。

 

「嘘。あなたは怖がってる。誰かとの繋がりを、誰かと一緒にいるのを」

 

その言葉が俺の何かを抉る。

この世界に来て忘れていた痛みを感じる。

外傷なんてない、ましてや俺には痛覚無効がついてる。なのに、なんで...。

 

あぁ、わかってる。心だ。心が痛い。

この女が、俺の心を痛めつけている。

 

「黙れ、俺は怖がってなんてない。誰かとのつながりも、誰かと一緒にいるのもただ、ただ...めんどくさい、だけ」

「でも、スライムさんの事も、この町の人達のことも好きなんでしょ?」

「好きなんかじゃない!俺は、アイツらのことなんて何とも...何とも」

「また、嘘をつくの?」

「嘘なんてついてない!さっきからなんだよお前!俺の事何にも知らないくせに!」

 

頬に水が伝う。

なんで、俺は泣いてる?分からない。

俺は、なんで声を荒らげてる?分からない。

 

「俺はっ、っ...」

「自分に嘘をつき続けたって辛いだけだよ」

「自分っ、に...?」

 

自分に嘘をつく?何を言ってる?

俺は自分に嘘なんてついたことない。

誰かとの繋がりなんてめんどくさいだけだ。

リムルと一緒にいるのだって、3人で友達になったあの時だって。

牙狼族と戦った時だって、今こうして町作りをしてることだって、全部...全部。

 

「だって、あなたの皆を見る目は愛情に溢れてる。私たちを見に来た時もあなたは警戒してた。大切な町のみんなが傷つけられないか」

「俺は...」

 

「皆から聞いたよ。牙狼族から守ってくれたんだって。進化の時、見守ってくれてたんだって。あなたは、優しい人なんだって」

「俺っ、は...!」

 

「スライムさんもね、自分のことよりも誰かの事を考えれる子だって、優しい子なんだって言ってた」

「俺は、俺は...」

 

俺は、優しくなんてない。

ゴブリン達を牙狼族から守ったのだって、進化を見守ったのだってただの気まぐれで。

自分のことより誰かを?そんなこと、したことない。俺は、俺だけが守られれば自分だけが、生きていれば。

 

足が震えて、立っていられなくて膝を着く。

涙が止まらなくって、嗚咽が止まらなくって。

俺は今、汚い顔をしているんだろうな。

拭っても、拭っても涙が止まらない。

 

「ねぇ、死食鬼(グール)さん。1度も誰かとの繋がりが暖かいって思った事がない?1度も皆との未来を思い描いたことがない?」

 

あぁ、あるよ。

リムルとヴェルドラと友達になった時も。町のみんなから親愛の目を向けられた時も。

心が暖かくって、手放したくないなって思った。この繋がりを失いたくないって。

何度だって、未来を見たさ。

町が発展していく未来を見ていたさ。みんなが笑ってる未来を、何度も何度も何度も。

 

でも、でも...

 

「どうせ、みんな居なくなる」

 

みんな、死んで言ってしまう。

スラムで友達がいなかったわけじゃない。

小さなパンを分け合って笑ったこともあった。

これから先の未来を語り合ったこともあった。

でも、みんな居なくなった。

何度、死体を抱きしめたか。何度、その死体を埋めたか。

数が分からなくなるその前に、繋がりを持つのをやめた。

俺を殺したあいつとも、特別な繋がりがあったわけじゃない。

 

「居なくなんてならないよ」

「みんなそう言って、いなくなった」

「ならない、だって貴方が守るみんなだもん」

 

俺の涙を拭う、シズを見る。

優しく微笑むその顔には確かな自信を感じた。

 

「魔法の練習をしてるって聞いたよ」

「それは...」

 

自分のために。そう言いたいのに。

早く立ち上がって、この場から去りたいのに。

 

違う。そう、俺の心が言うんだ。

痛くて痛くて仕方がない心が言うんだ。

皆と居たいって、これから先もずっと。

 

俺の心を傷つけたのはシズなんかじゃない。

俺だ。昔も今もずっと、俺が傷つけてきた。

 

「もう、自分に嘘をつかないで...」

「俺は!俺はっ、怖いよ。大切だよ、リムルが皆が。でもっ、でも...!

ねぇ、シズ。俺に守れる?皆が。俺は皆との繋がりを大事にしてもいい?」

「もちろん。」

 

その日、俺は声をあげて泣いた。

 

 

 

 

 

翌日、俺は見送りのために町から離れた場所にいた。

「シズ、1つ聞いていい?」

「ん?どうしたの、死食鬼(グール)さん」

「なんで、俺とあんな話をしたの?」

 

俺の質問に、シズはクスクスと笑う。

今は、その声にイライラなんてしなかった。

 

「大した理由なんてないよ。そうだな...強いて言えば、自分の為かな?」

「あんたは、優しいんだね」

 

リムルと話す、カバルたちの笑い声が俺たちを包んだでいた。それでもシズと俺の小さな笑い声はかき消されずに...

 

その時、異変が起きた。

俺の横にいたシズが膝を着いて、唸る。

仮面にヒビが入り、叫ぶ。その叫び声は、よく響いた。

 

「おい、シズ!」

《対象の魔力の増大を感知。警戒してください。》

 

一瞬の静寂。

ここ一体を包む魔力と共に、火柱がシズの周りにたちのぼる。

シズから放たれているなんて考えたくもないような殺気が、肌を突き刺した。

 

「おい、あれシズさんか?何がどうなって...」

「シズ...シズエ・イザワ?だとすれば、彼女は!爆炎の支配者、イフリートを宿す最強の精霊使役者(エレメンタラー)でやんす...!!」

 

炎に包まれながら、ゆっくりとシズの体が宙に舞う。本来のシズの瞳とは違う、赤く無感情に開かれためから涙が溢れ落ちる。

炎はその涙も蒸発させて、シズの姿を隠してしまう。

 

「ラルタ!こいつらを安全な所まで連れて行け!」

「わか「そんな訳にはいかねぇよ、あの人がなんで殺意を剥き出しにしてんのか知らねーが」

「俺たちの仲間でやんすよ」

「ほっとけないわ!」

 

シズ、いい仲間をもったんだな。

あんたが、誰かとの繋がりを大切にしたい理由の1つはきっとこれなんだろうな。

炎が周りに散る。そこに居たのはシズではなかった。大精霊イフリート、シズを巣食う呪いの正体だ。

 

「ラルタ、覚悟決めろよ」

「うん」

 

 

 

 

 

 

イフリートはリムルに任せることにした。

俺のスキルだと、シズを殺すことでしかイフリートと切り離してやることが出来ないから。

リムルに魔法をあげようと思ったけど、その前にエレンの放った魔法を横取りしてた。

あのやり方は感じが悪いと思う。

 

(水氷大魔球(ウォーターボール)!!)

イフリートの分身を魔法を使って消滅させる。

リムルのサポートにしかまわれない歯痒さを感じながら、今は自分に出来ることをする。

俺の放つ魔法と、リムルの放つ魔法で大体の分身を消滅させた。

残った分身が俺の前から移動する。

まずい、あっちは...。

 

三体の分身が、カバル達を囲む。

彼らの足元に魔法陣が展開される。

間に合え...!シズの仲間を守れ!

走る俺の横を黒い液体が通り過ぎていく。

諂諛者だ。諂諛者が3人を包み込むように守る。あぁ、お前も動いてくれるのか。

 

3人を包み込む血液に魔素を集中させる。

分身が大きな火柱を放つ、たった数秒の間に血液を通して魔法を発動させる。

(水氷大魔壁(ウォーターウォール)!!)

水の球体が3人を包んで、火柱から彼らを守る。

初めて、諂諛者と息があった。

なんの抵抗もなく、俺の魔法が諂諛者を通して発動されたのだ。

 

(水氷大魔散弾(アイシクルショット))

自分たちの魔法を封じられた事で動きを止めた分身を消し去る。

「大丈夫?怪我は...」

「ない、ありがとう。ラルタの坊ちゃん」

「なら、いい」

 

ありがとう、諂諛者。お前に助けられたよ。

「リムルさん!!」

エレンの叫び声で意識をリムルに向ける。

 

リムルの下に大きな魔法陣がある。

「ランガ、こっちに来い!」

魔法陣の範囲内にいるランガを呼ぶ。

ランガがこっちに走ってきたのと同時に火がリムルを包み込む。

「主よ!!」

「大丈夫だ...、落ち着けランガ」

大丈夫なはずだ。俺の場合、助言者が熱変動耐性の効果から炎を無効化してくれている。リムルも同じ耐性を持ってるんだ。大賢者が炎を無効化してないはずがない。

 

炎の中から出てきた糸が、イフリートを拘束する。終わりだ。

 

リムルがゆっくりとイフリートに近づく。

逃げようと藻掻き、炎で攻撃するもそれは全て無意味に終わる。

 

「シズさんを返してもらうぜ」

リムルがイフリートを捕食する。

あたりの炎が姿を消し、シズだけがそこに残る。小さな感謝とともに彼女は目を閉じた。

 

 

 

 

あれから1週間、シズさんは目覚めない。

ラルタなんて、シズさんの横に座ったまま全く動かずに辛そうな顔をしている。

「ラルタ、少し休め」

声をかけてやってもずっと無視だ。

正直、ラルタがここまで気をやるのは想定してなかった。シズさんと何かあったのか?

 

「.........2人、とも」

シズさんのか細い声が、響く。

良かった、気が付いたようだ。

「待ってろ、今水を...」

「いいよ、必要ないから。もう、何十年も前にこっちに来て、辛いことも沢山あったけど良い人たちにも沢山出会えて、最後はこんな奇跡みたいな出会いがあった。心残りが、無いわけじゃないけど私はもう十分生きたから...」

 

シズさんの身体が老けていく。

肌にハリがなくなりシワが増えて、髪も白く染ってしまった。

「俺になにか、できることないか?心残りがあるなら言ってくれ」

「頼めないよ...君の重荷になってしまうもの」

「俺があんたの力になりたいんだ、言ってくれ」

 

少し渋った後、ポツポツとシズさんは話してくれた。

心残りというのは教え子の事のようだ。

こいつらに関しては地道に情報を集めるしかないだろう。色々聞くにはシズさんには時間が無い。

「ねぇ、名前を教えて」

「リムル...、いや三上悟だ」

「そう、素敵な名前。ねぇ、あなたは教えてくれないの?死食鬼さん」

「............ないよ。ラルタ、それだけが俺を表す名だよ。」

 

ずっと、だんまりだったラルタが口を開く。

「神代誠也」それは、ラルタの前世の名前。

でも、その名前を教える気はないらしい。

 

「居なくならないって言ったのに、シズ...お前は居なくなるんだな」

「もしかして、私も居なくならないで欲しい人に入れててくれたの?ありがとう...死食鬼(グール)さん。ねぇ、スライムさん。私をあなたの中で眠らせて...あの美しい景色と一緒に」

「あぁ...」

 

シズさんが目を閉じる。もう、きっと開く力もないんだろう。

 

《ユニークスキル「捕食者」を使用しますか?Yes/No》

 

俺の中で、安らかに眠れ。

Yes、小さく念じる。俺の中で永遠に覚めることの無い夢を見れるように。

 

 

「人を食った気分はどう?スライムさん」

「こんな時に茶化す...っ!」

 

泣いている。

いつものみたいに茶化してくるもんだから、大丈夫なんだと思っていた。そんなことないのに。

 

「居なくならないって言ったんだ。俺の大切な人は...、なのにシズは居なくなった。どっちが嘘つきだっ。」

小さな嗚咽を聞きながら、俺はシズさんの解析鑑定を大賢者に頼んだ。

 

 

 

 

 

「へぇ、シズそっくりだ。きっと、前世のリムルの要素なんて欠けらも無いんだろうな」

 

シズを捕食したことでリムルが人の姿になれるようになった。これで、少しは生活が便利になるだろう。スライムの姿は不便なことも多そうだったし。

本当に、シズにそっくりだ。

こんな形でも、シズのいた跡が残るのなら寂しくはないかもしれない。

 

「はっ、泣くなよ。リムル...念願の人化だろ?」

リムルは答えない。ただ、呆然と立ち尽くす。

それはまるで、これから先の未来への祈りのようで、シズへの感謝でもあるように見えた。

 

「リムル様、失礼しま...!?リムル様、そのお姿は...」

「えええ!?この子が...リムルの旦那!?」

シズの見舞いに来たんだろうカバルたちの悲鳴は静かだった部屋を色づける。

「はっはは!」

 

 

 

 

 

カバル、エレン、ギドが人化したリムルの前に並んで頭を下げる。

「シズさん、ありがとうございました!!」

 

さっきまで、あんなに泣きそうな顔をしてたのに今では晴れやかに笑っている。

本当に、馬鹿で能天気な連中だ。

その後、リムルから新しい服やら防具を貰って大はしゃぎ。

「じゃあ、気をつけてな。お前たち」

「はい、ありがとうございます!」

姿が見えなくなるその瞬間まで、うるさい奴らだった。

でも、また次来たら歓迎してやろうと思う。




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