転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第62話...その友愛、永遠であれ

──────数ヶ月前

 

「紫連中はお引き取り願おうかな」

「俺達に言わないでください、貴方がゴブタの事を完全に無視するからでしょうが。...後、紫連中ってなんですか」

「うるさいなぁ、部屋なんて綺麗でも汚くてもいいだろうが」

「物が多いのはあまりいい傾向とは言えません」

「...チッ、ソウエイは物少なそうだもんね」

「いえ暗器を多く部屋に置いてあるので少なくはないですが」

「なら俺もそういう事だよ。あれは全部暗器さ」

「馬鹿言わないでください。ソウエイの部屋は整理整頓されてますよ」

「............あー分かりましたよ。はいはいどうぞどうぞお入りください」

 

 

入った瞬間に汚いと声を上げてしまったのは許されるべきだろう。

蹴り飛ばされた腰を擦りながら眺めた部屋はゴブタの報告の何倍も汚く、あのゴブタが気を使って言ったのか、報告の後にまた物が増えたのかはよく分からない。

ただちらりと横を見たら、何の変哲もない木の枝が置いてあった時は頭を抱えた。

「ラルタ様はどうやってこの部屋を移動しているのですか?」

「移動も何も別に部屋で動くことないし」

「物を取る時は?」

「魔法で取ってる」

「なんて無駄な魔法の使い方」

「寝る時はどうしてるのですか?」

 

 

ラルタ様は俺の発言に機嫌を悪くしたのか、質問に答えることなく顔を顰めた。

数秒間そのままだったラルタ様は堪忍したのかため息を一つついて人化を解いた。そして机に飛び乗り寝具のぬいぐるみとぬいぐるみの隙間に潜り込んだ。器用で何よりだが、これは如何なものか。

 

「これで分かったろ、片付けなんて必要ないんだ。というか触るな、片すな、捨てるな。そこにそれがあるのは意味があるんだから」

「確かに生活に支障は無いようですが、なぜそうまでして捨てないのです? この枝とか絶対にいらないでしょ」

 

これは純粋な疑問だった。

捨てないから物が溜まるのだ。実際、ラルタ様の部屋は要らないものが多く汚れているだけで、物を減らせば綺麗になるだろう。

 

「......物は関係を証明する」

「はい?」

「言葉は時の流れで記憶から薄れるし、思考の変化の中で意味合いが変化する。言葉は時間を共に流れるけれど、その時の形を保てない」

「えっと、つまり?」

「物はそのままだ。その時相手に渡したいと思った意思は過去のものになっても、その物が存在する間は確かに不滅だ。誰かからの貰い物は誰かの中に自分がいるという証明だ。己の時間を割いて、たった一瞬でも思考のうちに誰かを入れ、誰かのためにその手を動かして物を手に入れ渡す。その流れは存在の証明でもあって、必要性の証明でもある。物は時の流れの中でもたったその一瞬、自分が価値のある存在だったことを証明出来るものだ。

だから手元に目の届くところに置く。石一つでも枝一本でもそれは小さな証明だ。

だから...そうだな、この部屋にある物が全てなくなった時っていうのは、俺が諦めた時だ。その存在証明をどれだけ自分に言い聞かせても、心がついてこなかった時だ。

俺が物を捨てる時は、全てを捨てる時だ──────」

 

 

.........

 

 

いつもそうだった。

普段は一言二言、手短に分かりやすく話すのに自分のことになった瞬間ダラダラと分かりずらい表現をする。

結局ラルタ様との会話の中でその意味を理解することは出来なかった。けれど、けれども今はその意味が残酷なくらいにわかってしまった。

 

ダンッと拳を壁に打ち付けた音がやけに部屋に響く。その音を出したソウエイ本人は憎らしげに部屋を眺めていた。

 

廊下の奥の小さな部屋、物が溢れて薄暗い部屋──────もう何処にもない部屋。

 

「何も...ない」

 

壁に貼られていた絵は剥がされ、床に積み上げられていた貰い物の入った箱もない。何が置けるのだと聞きたくなる机も本当に落ち着いて寝れるのかと聞きたくなる寝具もない。

埃一つすらない部屋は、自分たちの部屋よりもずっと小さい作りのはずなのにやけに広く感じた。学校に通う子供達が縫い繋いで作ったと言っていたカーテンが取り払われているせいか、この暗い気持ちを馬鹿にするほどに部屋には太陽の光が差し込んでいる。

 

『俺が物を捨てる時は、全てを捨てる時だ』

 

ラルタ様はテンペストを捨てたのだ。

俺達はこの国に彼を繋ぎ止める事が出来なかった。貴方は何をこの国に求めていたのか、何を諦めたのか。それとも最初から貴方が求めていたものはこの国には無かったのか。

きっともう答え合わせなんてできやしない。

 

結局、俺はあの子供の手を最後まで取る事が出来なかったのだ。俺達のいる円の遥か先、手を伸ばせど届かぬところに彼はいた。

円の端からどれだけ手を伸ばそうと、テンペストの国の一員であるうちは届くはずもない。

一生届くことは無い手だった。

ラルタ様から見て、そんな馬鹿げた行動をさも真剣に行っていた俺はどう見えていたんだろうか。

 

無理矢理笑ったような顔でリグルド殿を攻撃した時、俺は確かにラルタ様に恐怖を感じた。

本当にあれはラルタ様だったのか、分かりきった答えの自問自答を何度繰り返したか。

何かの間違いで操られているのではないか?

ありえない、ラルタ様の強さは身をもって知っている。

誰かに脅されているのではないか?

ありえない、ラルタ様は賢くこの様な手を使わないと知っている。

ではなぜ、こうなった?

分からない。

 

俺には突然人が変わったようにしか見えなかった。

 

全てが演技であの残虐的な性格が本当のラルタ様だとしたら、今まで過ごした全ての時間が馬鹿らしいじゃないか。

彼に向けていた思いも誓いも全て滑稽じゃないか。

リムル様が向ける友愛が無駄だと言われているようじゃないか。せめて、我が主が友と過ごした思い出だけでも本物であればと思ってしまう。あの笑顔の全てが、偽物だったなんて、そんなのあんまりだ。

 

「その友愛──────」

 

 

 

 

 

 

悲痛の声をあげて崩れ落ちたベニマルにかける言葉も見つからずに逃げ出すようにラルタ様の部屋を後にした。

影移動で移動した先はラルタ様の庵。世間体のためにいずれは、早いうちに取り壊されるであろう建物。ここにはラルタ様との思い出が多くあった。巡回中に急に呼び出されて将棋の相手をさせられた事も、訓練に付き合ってくれと俺が頼み込んだこともあった。

 

攫われたラルタ様が自力で帰ってこられた時、とても安心したのを覚えている。

事件が起きて、ラルタ様がリムル様と同様の絶対ではなくなり細い繋がりが魔人によってたたれても、新しく繋がりを作ることができると...そう思った。甘えを二度と許さぬと決めたのに、蓋を開けてみれば俺は別の形でラルタ様に甘えていただけではないか。

 

それに気づかされたのは、血溜まりの中でリグルド殿を治療するリムル様と荒らされた部屋を目にした時だった。

疲れたような声で事件のあらましとラルタ様の追放処分を宣言した時、新しく繋ぎ直した繋がりが絶たれたように感じた。

何処かで自分と同じだと思っていた人が、その手で繋がりを全て切り立って姿を消した。

ラルタ様は影などではなく、ただ影にいることを選んでいただけであったと理解した。

 

ラルタ様はもう居ない。

ラルタ様の居場所ももう時期この国からなくなる。

それでも俺はここにいるのだ。ラルタ様の言葉で前を向くことを選んだ俺は今も必死に前へ前へと進んでいる。

俺が止まることなく進めば、この国にラルタ様が居たということを忘れずにいられるだろうか。それとも影にいたあの人は太陽の光に左右されて気づけば過去のものになって風化してしまうのだろうか。

 

“様”という敬称をつけて彼の名を呼ぶことももうなくなってしまう。

それでも、ラルタ=テンペストという存在がせめてリムル様と敵対することがなければいいと思ってしまう。

俺は彼を敵として視界に入れたくないのだ。

結局、ずっと甘えている。これから先の彼の行動がこうであればいいと無意味に思ってしまう。

 

全てが演技であれど、偽物であれど。

彼がここに居て、確かに影響を与えた存在であると残り続けてくれれば。

 

「──────永遠であれ」




ベニマルとソウエイにこのセリフを言わせたかったんです。二人ともその言葉を口にした理由は違えぞ、リムルとラルタの関係を思う言葉が同じなのってなんかいいなって思います(小並感)。
あともう2話こんな感じの話をした後、ファルムス関係をやって、あとは怒涛のラルタタイムです。
(この小説ではラミリスの押し掛けと開国祭はカットになります。チョロっと一文くらい出てくることはあるかもですけど)
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