転生したら死食鬼だった件。   作:パイナップル人間

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第65話...初対面

「お会いできて嬉しいよ。リムル=テンペスト、魔物の国の王よ」

 

人当たりの良さそうな、黒髪黒目の三十代位の若い男。

目の前でにこやかに笑う細身の男が人格者と呼ばれる所以が何となくわかった気がした。

普通にいい人そうで...なんて言うか拍子抜けだ。

 

ディアブロがセイジ・カミシロと取り付けた会談の日程はルベリオスとのイザコザのすぐ後だった。

帰っていくヒナタ達を見送ってそのまま狼車に揺られてやってきたファルムス王国。

その上層区入口で出迎えてくれたのが現国王セイジ・カミシロ。

王冠にマントの出で立ちだったエドマリス王とは異なり白のプルオーバーシャツを黒いズボンにインしたシンプルな格好。羽織られたベージュのセーターがオーバーサイズだからか、細く儚い印象を受けてしまう。握手した手は爪までもがしっかりと手入れされていた。

はっきり言おう、めちゃくちゃイケメンだ。好青年という言葉はこいつの為にあったのかと言いたいくらいだ。

 

どうぞこちらへ、と言ってファルムス王国の中心である城へと歩き出したセイジの横を習って歩く。その物腰柔らかな話し声に、連れてきたシュナとシオンもキョトンとしている。

 

「えっと、どうかなさいましたか? それとも私の顔に何か?」

「あっいや! なんでもない。 えーと、そのそいつは誰だ?」

 

じっと見ていたのがバレた。

さすがに気まずくて、セイジが連れていた多分側近の男について尋ねた。

 

「えっ俺!? えっと俺はマラカイト...です、名前です。あっ全然覚えなくて大丈夫なんですけど...あーと、セイジ様の側近です。あはは......」

「そうか、よろしくな」

 

オーバーサイズのカラーシャツで半分隠れた手をモジモジさせて何とか側近の男は名前を名乗った。

マラカイト、確か緑色の宝石の名前だ。

名付け親が誰かは知らないが、少し変わっている。

 

「すみません、彼も異世界人でして。あまり偉い人にあったことがなかったもので緊張してしまっているんです。大目に見てやってください」

「いや全然良いんだけどさ。マラカイトって珍しい名前だな」

「私が名付けました。彼は向こうの世界では名を持っていなかったので」

「へー」

 

名付け親は目の前の男だったらしい。

変な名前だなとか言わなくてよかった、ホントに。名前が無いなんて、ラルタみたいに貧困街出身なのだろうか。貧困街でも名前を持たない子供がいる場所なんて限られてそうだが。

シュナとシオンにペコペコと頭を下げるマラカイトは褐色肌にふわふわの茶髪、そして黒目。前は暖かい国に住んでいたらしい。

 

物腰のやわかな異世界人二人、警戒心が溶けて無くなってしまいそうだがそうもいかない。

こいつはファルムス王国侵攻の真髄に関わった人物であるし、黒幕の可能性もある。力でひれ伏してくることはしないだろうが、言葉に惑わされないようにしないと...。

 

 

 

 

案内された部屋はとても煌びやかな物だった。

王城の会議室らしく置かれている家具から装飾品の全てが一級品だ。

何処かセイジとマラカイトには似合っていないように見える。

 

「どうぞおかけください。貴方様もお忙しい身でしょう。この時間で会談を終わらせてしまいましょう」

「そうしてくれるとありがたいな」

「今紅茶を入れますからのんびりなさってください」

 

シュナとシオンも座るように促され、立っているのはマラカイトだけになった。

マラカイトはいそいそと紅茶の用意を始めている。時たま食器同士がぶつかり合う音がするあたり、まだ緊張しているんだろう。

わかるよ。目の前に魔王がいるのは普通に怖いよな。俺もお前の状況になったら怖いもん。

 

「......あっどうぞ。味は大丈夫だと思うん、です...けど」

「ありがとう───うん、美味しいよ」

「ホントか! 嬉しいなぁ...」

「マラカイト、敬語」

「あっすいません...ははっ、申し訳ありません」

「大丈夫だよ、気にすんなって」

 

今から本当に会談が始まるのか疑いたくなるくらい空気が緩い。

罠......いや、それは流石にないか。

マラカイトの開会宣言と共に階段が始まったはいいが、やっぱり空気感が掴めずにいる。

 

 

「そんなに警戒した顔をなさらないで。同郷同士緩くやりましょう? 私も堅苦しいのは苦手なのです」

「そりゃありがたい話だな。なら早速一つ、俺お前に会ったら聞きたかったんだよ。お前はファルムス王国の政治を裏から支えていたらしいな。ウチへの侵攻...なんで止めなかった?」

「その件に関しては深く後悔しております。謝罪してもしきれないでしょう。止めたのかどうかと言えば、もちろん止めました。武力で負けることは目に見えていましたから。けれどエドマリスは欲深く、欲が絡むと止まらない男でしたから。一介の貴族では止めきれなかったのです」

 

在り来りだな。

まるで例文をそのまま喋っているみたいだ。表情は罪悪感でいっぱいって顔をしているし、声色もさっきよりは確かに落ちた。

ラルタを誘拐した貴族はお前か、七曜やユウキと関わりはあるのか。聞きたいことは沢山あるが、さすがに踏み込みすぎるのは危険だ。

今回は条約の変更とセイジの人となりを見るだけに留めなくては。

 

「それで最後にとった行動が東の帝国の属国入りか」

「ディアブロ殿がファルムス王国に提示した三つの選択肢...あれを聞いた瞬間に貴方が何を狙っているのか、理解していました。内乱の後、英雄ヨウム殿がこの国の王になるのだと。エドワルドにその旨を報告したところ、冤罪をかけて貴方を出し抜くと言い出したのです。流石に私もあれが成功を掴み取る事はないと分かります。だから念の為東の帝国の属国として私が王になる道を用意していたんです」

「流れのままに身を流していても良かったはずだ」

「私はファルムス王国を愛しています。他所の英雄に手渡す国はここには無いのです」

「属国という選択肢も、手渡したのと同義だと思うが?」

「東の帝国とはそれなりに交流がございましたから。そこの国王から何度か提案を受けていたんです。もし属国になった際の条件も提示されていた、貴方の国と天秤にかけるなら東の帝国だったのですよ」

 

カップの縁をのぞってファルムス王国への愛を語るセイジからはエドマリスから感じた欲深さを感じない。本当に心から彼はこの国を愛しているらしい。

この国の街並みは確かに綺麗だった。全体的に栄えた裕福な印象があった。

もしかしたらファルムス王国の街並みもセイジが手がけたのかもしれない。この国を王と共に成長させたのなら有り得る話だ。

 

「貴族は随分と反対しただろうな」

「えぇ、属国になることは勿論反対されましたよ。けれど私は説明が得意な方なのです。説得ともいいますが、最後には頷いてくださいました。脅してなんていませんよ?」

「そんなにあの手この手で工作してまで王になりたかったのか? 例えば...エドワルドの殺害とかさ」

「ふふっまさか。ディアブロ殿の工作に比べれば私のなどおままごとの領域です。ですが、聞き捨てなりませんね、私がエドワルドを手にかけたと?」

「都合が良すぎるだろ。まるでお前が王になるためのシナリオ通りだ」

「自身を棚に上げて貴方は喋るのですね。エドワルドが殺されかけた事も殺そうとした化け物も、部下から報告を受けています。無関係ですよ、私は。それに貴方々の方が怪しいでは無いですか、だってヨウム殿を王にしたかったんでしょう?」

 

チッ...頭が回るヤツだ。シッポが掴めない。

これ以上この話題を続ければ、こちらが悪いように仕立て上げられてしまうかもしれない。

ラルタの証言からセイジが関わっているのは確かだが、生憎追放した奴の証言は使えない。

話を変えるか───。

 

 

「はぁキリがないな。まぁいいさ、お前が国民に受け入れられて王になった事実はもう変わらない。それで、お前は王として俺に何を求めるんだ?」

「やっと本題ですね。はっきりと申し上げましょう。手を引いてください」

「聞き入れられるとでも?」

「えぇ、聞き入れますよ貴方は。貴方の頭に地図はおありで? ファルムス王国の位置、東の帝国にはあまりに有利すぎるでしょう。まるで西側諸国を飲み込んでしまいそうな中心地。貴方の国と国交を結んでいる国からしたらそんな場所にいつまでもチョッカイをかけて欲しくないでしょうね」

 

セイジの言っていることは最もだ。

実際、手を引くことは決めてから来ている。

だからって何もせず頷いて手を引く訳にはいかない。こちらにも面子やら立場がある。

 

けどどうしたものか。

こいつは随分と頭が回る。手を引くと言えばこれ以上工作もできない。本当に文字通り手を引かなければならない。

だから今この場で手を引く条件を突きつけるしかない。

 

西側諸国は東の帝国の侵略を警戒している。

それに裏で暗躍している東の商人も東の帝国の人間だ。今後交流を続けることも、根をはられる可能性があるから避けるしかない。

外壁がこうと埋められていると腹立たしいな。

 

「お前の言う通りだ、こちらは手を引くさ。ただ何もなし...とはいかないだろう」

「そうでしょうね、けれど不可侵条約は結べませんよ。私もこの会談の前にいくつか指示を受けているんです。あれはダメこれはダメってね。不可侵条約等はそれに該当します」

「チッ───ならやっぱりあと残るのは賠償金だよな?」

「はぁ...そういうと思いましたよ。マラカイト、あれを持ってきなさい」

「はっ、はい!」

 

マラカイトが持ってきたのは重厚感溢れる箱だった、それを五箱。───その箱は前にファルムス王国が賠償金として支払った時に使用した箱と同じものだった。

 

「賠償金の残り、星金貨八千五百枚。手を焼きました、私の持っていた個人的な星金貨と東の帝国からの分。これで全部です」

 

これを受け取ればファルムス王国との関係も終わる。星金貨八千五百枚という額は今後危険に脅えながらファルムス王国と関係を続けるよりはずっといいのは事実だ。

東の帝国の手のかかった金を返すのもめんどくさそうだ。

 

「───確かに受け取った」

「ありがとうございます。ではこちらに目を通してくださいますか? 和睦協定の破棄に関する書類です。内容がよろしければそこにサインを」

 

マラカイトから手渡された書類にはいくつかの事項が書かれていた。

これにサインをすれば一週間後には世間に知れ渡り、条約は失効される。突くところもない完璧な書類だ。セイジ・カミシロ、食えないヤツである。

 

ペンを走らせて、最近では慣れてしまったこの世界の文字で名前を記す。

これがファルムス王国との戦の終わり方。

 

「ありがとうございました。これで会談は終わりですが、観光でもされていきますか?」

「いやこちらもそれなりに忙しいんだ。このまま帰るよ」

「でしたら馬車...いえあれは狼車ですね、そこまでお見送りいたします」

 

 

上層区の入口まで俺達の間に会話はなかった。

嫌なくらいスムーズに会談が終わったものだ。あの書類にサインした瞬間、俺は自分で「貴方の策に負けました」と言わされたのだ。

歯がゆくて仕方がない。なんならもっと荒れてくれた方が隙をつけたというのに。

何処までも策略家は冷静だった。

 

「それではこれにてさようなら。魔物の国の王、リムル=テンペスト。お互い、見て見ぬふりの関係が続くといいですね」

「この国の主従国が何もしなければ叶うだろうな」

「でしたら私には予想できない未来ですね。

リムル=テンペスト──────足元にお気をつけて」

「は?」

「ここら先の道少しデコボコしていますのでね」

 

小さく手を振って見送るその姿は、俺達を迎え入れた時と変わらないものだった。

狼車が国を出て人目が無くなった時、やっと狭い部屋で声を出した。

 

「はぁ......俺ああいうタイプ苦手だわ」

「セイジ・カミシロ、侮れませんね。実際に彼が黒幕と関わっているなら警戒は怠れません」

「ですが強くはなさそうでしたよ?」

「確かにシオンの言う通り個人的な武力は持ってなさそうだったけど、異世界人って見かけによらないからなぁ......“足元に注意”、ね」

 

 

──────忠告、感謝痛み入ることだ。




演技がお上手ですね。
実はマラカイトも初登場じゃなかったりします。誰か分かりますかね?

★アンケートにご協力お願いします。結果次第で今後の展開が変わります。
(死ぬのはリムルから見て味方と敵両方です。ラルタからしたら敵とどうでもいい人両方です。)

これから先、ラルタ回において原作キャラを殺すか殺さないか考えあぐねています。言ってしまえば原作では生存するはずだったキャラが死んでもいいか良くないかを聞きたいです。

  • 原作キャラ死亡OK
  • 原作キャラ死亡NO
  • どちらでもいい
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